37.おばけ屋敷
おばけ屋敷「廃病院の亡霊」に着くと、長蛇の列が出来ていた。
「結構並んでるなぁ……」
「そだね……」
時計を確認する。
「まぁ多分時間的にも大丈夫だろ。よし、並ぶかっ」
姫華は笑顔で頷くと、列の尻尾に並ぶ。
「そういえば行きたい所もう一個あるって言ってなかったっけ?」
「もう一個あるんだけど、蓮が行きたい所あるならそっちがいいの。それより蓮の行きたい所ってどこなの?」
「だからそれは内緒だってば。そっちこそどこなんだよ」
「じゃあヒント頂戴よ」
「じゃあ大サービスね。ヒントは高ーい所!姫華のは?」
「全部高い所ばっかりでしょー。私だってそんなの高い所よ」
「そりゃそーだな」
二人で顔を見合わせて笑う。
その間にも列はどんどんと入り口に吸い込まれていく。
「ここのおばけ屋敷って怖いのかな?」
姫華の握る手が少し力を帯びる。
「どうだろうな。でも怖がってる叫び声とかは聞こえてこないよな」
「そうだね。びっくりするくらい静かよね」
気付けば入り口まであと半分のところまで来ていた。
「思ってたよりも進むの早いな……」
「そ、そうだね……」
あまりの静かさに少し緊張してくる。
それは姫華も同じように感じた。
「そーいえば、公星たち今頃何してんだろうな」
「んーどうだろうね。私達公星が乗れないの知ってたから誘ったことなかったもんね」
「俺ずっと思ってたんだけど、今回何で急に行くことにしたんだ?」
「あー、私は夏澄ちゃんから聞いたよ」
「え、まじか。どんな理由だったんだ?」
「えーとね……、あ……、ふふっ」
急に顔を赤くして笑った姫華に首を傾げ視線でハテナマークを送る。
「蓮の告白嬉しかったなぁーって思い出してつい」
「おいおい、今それ関係ねーだろっ」
顔が熱くなったのがわかる。
違うよという代わりに姫華は首を横に振る。
「あの時のミスコンのグランプリは?」
「姫華と夏澄ちゃんだろ?」
パチパチパチッ。
「正解!その時の景品は何でしょう?」
「確か、ダンスの相手指名する権利だっけ?拒否権なしとかいうあれ?」
「そう!で、夏澄ちゃんは指名できなかったから生徒会の人から指名権って紙切れ貰ってたの。公星にその紙見せて上手く丸め込んだらしいよ。あと、数学のテストで勝ったからだって」
「なるほど。まぁでも公星も本気で嫌なら断っただろうしいいんじゃないか?」
「そうだね…ってもう次入り口じゃない?心の準備が……」
「え、まだ俺も出来てねーぞ」
そんな言葉を一蹴し、無慈悲な言葉が飛んでくる。
ニコッ。
「中へどうぞ」
ゴクリッ。
ドアを開け勇気を出して足を踏み入れる。
思っていたよりも全然明るい。
少し歩くとひらけた空間に出る。
そこにはまだ先程前にいた人達がいる。
「はい、皆さん!廃病院の亡霊へようこそ!皆さんはこれから順番に一組ずつ入ってもらいます。入る際にはここにある懐中電灯を二人で一本持って行って下さい。では、自分たちの番が来るまではこれをご覧になって下さい」
元気なお兄さんの声に続き、お姉さんが一組に一つパンフレットのようなものが手渡ししている。
『ここはかつては病院として機能していた。ただし、ただの病院ではなく、犯罪者たちのみを対象とした病院であった。その中にはもちろん死刑囚もいた。ここで命を投げ出す者もいれば、治療で助からない命も少なくはなかった。そういった犯罪者の亡霊たちが、夜な夜な動き出しているとかいないとか……。最も問題なのは、悪名高きサイコキラー、《霧崎刃》が病室から消えたことである。外には決して出ることは出来ない。どこかで野垂れ死んでいるのか、潜んでいるのか……興味本位で近付くこと勿かれ……』
「これがこのおばけ屋敷の設定みたいだな」
「そうだね……」
俺も姫華も握る手が一層力を増す。
「どうぞお楽しみください。それではいってらっしゃい、お気をつけて」
係員の満面の笑みを横目に、地獄へと足を踏み入れた。




