35.クマのくーちゃん
「ねぇ蓮、これ終わったらパレード観に行かない?もうすぐ始まるはずだから」
ジェットコースターの最前列で時計を見た姫華にそう言われる。
「ああ、十五時からってポスターに書いてたっけ?あと五分くらいで始まるのか、よし、じゃあこれ終わったら行くか」
「うん!」
楽しい時間はあっという間に過ぎる。
一時間も待ったというのに自分の番は何ともあっけない。
それでなくても姫華と居ると時間が早送りされていくのに……。
はぁ〜………。
「こら〜、ため息なんてついたらダーメ。幸せが逃げて行っちゃうでしょ?」
すこし膨れた姫華に注意されてしまう。
そんな顔でも可愛らしくて、隣で笑ってくれるだけで幸せなのだと改めて思う。
(姫華といるだけで幸せだから別に他の幸せならいいけどな……)
「え?急にそんなの反則だよ……バカ……」
顔を赤く染めた姫華に軽くパンチをもらう。
「え?俺何も言ってないよな?」
「言ったよ……わ、私がいれば……その……幸せ……って恥ずかしいから言わせないでよ!」
顔が沸騰したように熱くなるのが分かる。
どうやら心の中で思ったことをつい言葉に出していたようだ……。
恥ずかしい……、穴があったら入りたい気分だ。
「あっ、向こうから大きな音がするよ。きっとパレードだよ、よし、行こう」
無理矢理恥ずかしさを押し込め、話を変える。そのままの勢いで姫華の手を引き、大きな音と群がる人々の方へと歩みを進める。
近付いて見ると思ったよりも人が多い。
やはりパレードは人気のようだ。
先程並んでいた列なんかとは比べ物にならない。
一番人気のクマのくーちゃんが登場した時には鼓膜が破れる程の大歓声だった。
隣の姫華なんかは手を握ったままぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
気付けば時刻は十七時。
合流は遊園地の出口のゲート前にあるくーちゃん像の前に二十時丁度。
「時間ってあっという間に過ぎちゃうね」
「そうだな。俺一個だけ行きたい所あるんだけど、まだ時間あるからもう一つ姫華が行きたい所行こう」
「え、どこ?」
「内緒。あとでわかるからさっ」
「えー、まぁいいけど……」
少しムスッとした顔をしている。
「私まだ行きたい所二つあるからなぁ……。んー、おばけ屋敷!おばけ屋敷行こうよ」
「怖いの大丈夫か?手握っててやろうか?」
「わかんないけど蓮がいるから。言われなくても握っとくもん」
「そ、そうか……」
勢いで言ったものの予想外の返答に照れてしまった。




