30.白銀の迷路
俺は手を握られたまま先ほどのシーンを思い返していた。
「蓮君と姫華はデートしておいでよ。公星は私が見とくから」
「じゃあお言葉に甘えて」
姫華ならてっきり「そんなの悪いよ」と断りそうだと思っていたのに。しかも今俺の手を握って前を歩いている。
どこに向かっているのだろう?
こっちは確か……え、あっ。
手の感覚がなくなると共に看板を発見する。
「鏡の迷宮 ミラーラビリンス」
「あれ一回行ってみたかったのよね。見た目も綺麗だし。蓮迷路とか好きでしょ?」
振り返ってピカッと笑った姫華を見て思わず抱きしめる。迷路が好きなの覚えててくれたんだ……
「ちょ、れ、蓮?う、嬉しいけど、みんな見てるから……」
だんだんと消え入るような声に我に帰る。周りを見回すと数人がこちらをまじまじと見ていた。
「ひゅーひゅー」
「いやー青春だねー」
色々言われて恥ずかしくて顔が真っ赤になる。
「も、もう行こっか!」
再び手を引かれ、入り口へと向かう。
入ってみると周りは本当に鏡ばかりだった。迷いそうだと思った俺は姫華の手をしっかりと掴む。
「迷いそうだし離すなよ」
返事をする代わりにギュッと握り返される。
ところどころには現在地とゴールまでの地図がある。分かれ道が沢山あるがこの地図と現在地がなければ確かにゴールまでたどり着けそうにない。
〜十五分後〜
「あれ?さっきから思ってたけど現在地が行きたい方と逆に進んでね?」
そう思うが口には出さないでいた。
「ねぇ……蓮……さっきから思ってるんだけどこれ道合ってる?」
「俺も思ってた……あはは」
「あ、見て、これ。地図反対になってるんじゃない?鏡に写して見るんじゃ……」
そう言われて鏡に写る地図を見る。
「ほんとだ。よく見たら隅に小さく地図って反対に書いてるじゃん。気付かなかった……」
「でもこのままでも遠回りでも着くよ」
「そだな。気を取り直して行くか」
先程よりも力強く足を踏み出す。手にも自然と力が入る。
「見て!出口!」
はしゃぐ姫華に手を引っ張られる。初めて見る姫華だがやはり可愛いな……
「やったー到着!いえーい」
姫華とハイタッチをする。この時間がいつまでも続けばいいな。ふとそんなことを考える。
「なんか達成したら腹減ってきたしとりあえず戻るか」
「そうだね、私行きたいところあるの!いい?」
「いいよ」
やったーとまたもやはしゃぐ姫華。
ところで行きたいところってどんなところだろう?
二人は目的地に向け歩き出す。




