28.絶叫系
「最初は日本で五本の指に入る高低差がある目玉のジェットコースターでしょ!」
「そーだよなー、わかってるじゃん夏澄ちゃん」
「さあ行くよー」
蓮は少し照れながらも姫華の手をとる。
夏澄は蓮よりもあっさりと僕の手をとりグイグイと引っ張って行く。
目的地に着いた途端に全力ダッシュ。
途中で止まりたくなるが手を握られている為止まることは許されない。
遊園地に到着してわずか五分、全力で走った為か、もう順番が次にまで迫ってきている。
「公星って乗り物乗れるようになったんだね。前は乗れないって言ってたから心配してたんだよ」
優しく語り掛けてくれる姫華。
「あ、あはは……心配してくれてありがと」
最近は酔った記憶もない。
「大丈夫だ公星」
そう自分に言い聞かせる。
「ラッキー一番前と二番目だぜ!」
喜ぶ蓮と夏澄の後ろで血の気が引いていくのがわかる。嫌な予感がする……
「「じゃんけん、ぽん!」」
「やったー!私と公星前ね!」
蓮と夏澄の勝手な位置取りじゃんけんが終わる。僕の顔色はダークブルーだ。
「公星、どーしたの?あ、さては一番前が怖くてビビってるんでしょ?乗ったら大丈夫だよ」
またもや手を引かれて仄かに自分の顔が赤く色づく。
だからと言って急に乗り物に強くなる……なんて事はなかった。
最近酔っていないのは、単に乗り物に乗っていないからな理由だし。
ベンチに座り込み俯いている。
その顔はこの世の終わりがきたかのようで……
周りにはまるで負のオーラが見えるような……
とにかく近くにいるだけで周りの人達までも巻き込みそうな程ドス黒い空気が漂っていた。
「あぁ……気持ち悪い……うぷっ……」
「大丈夫か?ほれ、水」
ゆっくりと水を飲む。
さっきまで喉元に来ていたものを胃まで流し込む。
「蓮君と姫華はデートしておいでよ。公星は私が見とくから」
そう言って二人を押し出す。
「じゃあお言葉に甘えて」
そう言って先に手を取ったのは意外にも姫華の方だった。
「ごめんね、僕に気を遣わず楽しんできてよ」
二人を今できる精一杯の笑顔で送り出す。
間違いなく今までの人生の中で最悪の笑顔だっただろう。
いや、もはやそれは笑顔と呼べるような代物ではなかったかもしれない。
「ごめん公星。まさか乗り物苦手だったなんて、もうちょっと早く言ってくれれば良かったのに」
「こっちこそごめん。ちょっと無理しちゃった」
笑いながら答える。
少しの沈黙の後、声を掛ける。
「落ち着いたよ。どこか行こうか。乗り物はもうこりごりだけど夏澄も楽しみたいよね?合流しようか?」
「合流はやめときましょう。二人での方が楽しいだろうし。姫華にももうメール送っちゃった」
「じゃあ夏澄一人で乗らなきゃなんないじゃん」
「まぁでも公星ついてきてはくれるんでしょ?」
「まぁそうだけど……」
それだけ聞くと夏澄は立ち上がり僕の手を引く。どこに向かっているのだろうか……