23.二人きりの勉強
翌朝午前十時、僕は夏澄の部屋にいた。
携帯には二通のメール。
一件は
「熱が出たから今日は中止で」
という蓮希から。
もう一件は
「私の家で勉強見てくれない?」
という夏澄からだった。
快く了承したので今いるのだが、いつもよりも薄着でラフな格好の夏澄にドキドキしている。
それにしても蓮希はまだしも、女の子はこんなにホイホイと男の人を部屋に入れるものなのだろうか?
ピンクを基調とした女の子らしい部屋でそんな考えが浮かぶ。
ふと目の前を見ると、問題集とにらめっこする夏澄。
そんな夏澄に見とれていると、髪の毛をかきあげた夏澄と目が合う。
「どうかしたの、公星?」
笑って聞く夏澄に見とれていたと返す訳もなく、
「いや、別に何も。集中してるなって」
とぶっきらぼうに返すだけで精一杯だった。
微妙な空気が流れたところに救世主がやってくる。
「ご飯にしましょうか」
僕には優しい口調の夏澄の母に後光が見えた。
夏澄の母に助けられ昼食へと向かう。
昼食時には夏澄の母による質問の嵐だった。
学校での夏澄はどうか、友達はいるのか、クラスで浮いていないかなど……
本人に聞いてもわからないからとのことらしいが。
夏澄の母の質問に全て答え、昼食のカレーライスを食べ終える。
優しく包んでくれるような甘口のカレーライスは、まるで食べたことがあるかのようなどこか懐かしい味がした。
午後からは夏澄の勉強を見ることになっている。
しかし本当に夏澄は物覚えが良い。
僕が一度教えると何でもすぐに覚える。
結局陽が落ちるまで勉強ばかりしていた。
帰り支度をしていると夏澄がいきなり口を開く。
「ねぇ、公星、私と勝負しない?」
勝負の内容は今日僕が教えた数学の点数で勝負。負けた方は何でも一つ言うことを聞く、だった。
正直負ける気はしないので質問を答えてもらう丁度良い機会だと思い勝負を受けることにした。
「いいよ。負けないけどね」
試験の日は午前で学校が終わるからか、あっという間に試験は終わってゆく。
気が付けば試験最終日の金曜日。
勝負の数学の日だ。
「それでははじめ」
カリカリ、ピラッ。
一斉に始まる鉛筆と紙をめくる音。
それだけが響く九十分が過ぎ、ついに静寂を切り裂く一言。
「やめ。鉛筆を置きなさい」
手応え的にはかなり出来ていた。
今回は比較的簡単だったし九割は超えているだろう。
これなら負けることもない。
周りを見渡す。
頭を抱える蓮希に余裕ある表情の夏澄。
それでも負ける気はしない。
一つ聞いてもらう願い事についてはもちろん文化祭と公園での〈キミくん〉についてと決まっていた。
思い返してみると君でもなく何故かキミくんだった。
土日は試験から解放された僕は勉強もあまりせずに久しぶりに好きな読書に没頭した。




