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キミのくれたモノ  作者: 山路空太
21/53

21.夜の公園

「あ、ごめん」

 握ったままだった手を夏澄がパッと離す。

腕には生温かい夏澄の手の余韻がまだ残っていた。


「立ったままっていうのも変だし、そこに公園があるからベンチで話そうか」


 そう言って近くにある栗の木公園へと移動する。

夏が近付いて来ているとはいえ、まだ夜は少し肌をさす。

 僕は新発売とこれ見よがしに推してある温かいミルクティーを買う。


「夏澄は何飲む?」

自販機にお金を投入して尋ねる。


「今暑いから冷たいお茶にしようかな。って自分で買うからいいよ!」

 最後まで聞かずにお茶を買い、手渡す。


少し膨れた顔をしたものの、すぐになおし、


「ありがとう」

とお礼を言う。


「どういたしまして」

そう返事をして二人でベンチに座る。


「いきなりで悪いんだけど、あのさ……病気のことなんだけど……」

 僕は少し遠慮気味に切り出す。



 夏澄は黙ったままだった。


「腎臓って二つの内一つあれば大丈夫だよね?二つともダメなの?」

夏澄は黙って頷く。


「家族なら移植は出来るの。でももういいの」

さっきとは一転して笑顔で夏澄は答える。

それ以上は何も聞けなかった。


「見てよ、公星」


 そう言われて夏澄を見る。

上を見上げる夏澄の横顔は目が離せなくなる程綺麗で可愛く、つい見とれてしまう。


視線に気付いた夏澄は、


「私じゃなくて空、空!」

 少し顔を赤らめた夏澄に無理矢理顔を上げさせられる。


どこまでも広がる暗い闇を照らす沢山の星々。


「綺麗だなぁ……」

思わず口から溢れる。


 くちゅんっ。

手で口を覆う夏澄は、よく見ると少し薄着で寒そうだった。

慌てて僕は自分のパーカーを被せる。


「ありがと。このパーカー公星の匂いがする」


 嘘?臭いかな?

そう思った僕は自分の服を嗅ぐ。

特に何も臭わない。

ハテナマーク丸出しの顔の僕に夏澄は言う。


「あはは、別に変な匂いじゃないよ。むしろ好きな匂いかも?それになんかこれ着てると公星に包まれてるみたい」

と微笑んでいる。


 その言葉に僕は少し顔が赤くなる。

発言した本人は多分何の気なしに言ったのだろうが。


「あ、それちょっと頂戴」

 僕の飲みかけのミルクティーを手に取り一口で飲み干す。


 先ほどよりも少し赤くなった僕の顔に気付いた夏澄は悪戯っぽく、


「間接キス……だね」

と追い討ちをかける。


 今度は自分の顔が熱くなるのが分かるほど顔が真っ赤になる。


「赤くなって照れてんのー?可愛いねーキミくんは」

そう言ってすぐに口を抑える夏澄。


「後夜祭の時もだけどキミくんってなんなの?僕のこと?」

沈黙が続く。

 しかし長くは続かなかった。



「まだ秘密でーす。あ、あんまり遅いとお母さん心配しちゃうから帰ろっか」


 そう言ってゴミ箱に二連続で缶とペットボトルを投げ入れるとドヤ顔で歩きながらこちらを向く。

すごいすごいと拍手をしながら夏澄に追いつく。




 夏澄を無事送り届けると今度も玄関で振り返り手を振っている。

手を振り返して再び家へと向かって歩き始める。

たまにはこういうのも良いな。

今日一日を振り返ってそんなことを考えながら帰る。

 夕食後にはもう少しだけ勉強し、日付の変わる前に就寝した。

夢を見ないほど爆睡だった。

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