20.帰り道
ガチャッ。
「もう夜遅いから帰った方が良いんじゃないかしら?特に夏澄ちゃんや姫華ちゃんは」
なっちゃんの母だった。
「そうですね。遅くまですみません。ほら早く帰る準備するぞ」
そそくさと蓮は帰宅準備をする。
座ったままの夏澄の手にはハートとダイヤのクイーンが揃っていた。
「あれ〜?レンレン〜?負けたよね〜?罰ゲームは〜?」
ここぞとばかりになっちゃんは蓮を追い詰める。
「いやーまだ完全に取ってなかったからセーフじゃね?」
そんな言い訳をして誤魔化す。
「レンレン〜別に言ってもいいでしょー減るもんじゃないし。ねぇ、好きな人は?ひ?ひ?」
「もういいだろ!解散な解散」
階段を下りる蓮を皆で追いかける。
「「「「お邪魔しました〜」」」」
結局罰ゲームは行われず、なっちゃんを残して玄関のドアを出る。
「さぁ、公星。俺は姫華送ってくから夏澄ちゃん送ってやれよ。じゃーなまた学校で。テスト頑張ろうぜ」
「バイバイ公星、夏澄ちゃん。頑張ろうね」
手を振る二人を見送り夏澄と歩き出す。
「夏澄は頭良いよね。学年で何番くらいなの?」
帰る道中突然僕は質問を投げかけた。
「全然良くないよ、公星の方が良いし。私は転校してきたばっかだし一回しか試験受けてないけど八番目くらいだったかな?」
「科目によっては多分負けてるよ。夏澄は勉強は好きなの?」
「ぜーんぜん。むしろ嫌い。公星は好きなの?」
「僕も好きではないよ。医者になるための道具みたいなものだよ」
「そっか。私も勉強は好きな人に出会うための道具だったのかも……なーんてね。」
チクリと胸に痛みが走る。
そこで夏澄の家に着く。
距離は思っていたよりも近かった。
「じゃ、送ってくれてありがと。また明日ね」
と手を振る夏澄を見送る。
玄関のドアの前で振り返った夏澄は手をこちらに振り続けている。
これは僕が来た道を引き返し始めるのを待っているのかな?
そう思った僕は踵を返し、ゆっくりと家まで歩き始める。
さっきの胸の痛みは何だろうか?
何か病気なのかな?
病気と言えば夏澄の病気って……
パシッ。
歩き始めて数分後、突然手を掴まれる。
ビクッ。
驚きながらもおそるおそる振り返る。
「やっぱりもう少しだけ話さない?」
掴んだ主は夏澄だった。
走ってきたのか少し息が上がっていた。
不審者かと恐れていた僕のドキドキという心臓の音は夏澄と確認出来ても落ち着くことはなかった。




