19.集中と夢中
土曜日の朝、いつもより遅く起きた僕は支度をして隣の呼び鈴を鳴らす。
蓮希の母に招き入れられると二人はすでに勉強を開始していた。
軽く挨拶だけした僕も二人の前に座り勉強を開始する。
二時間程は無言でそれぞれ勉強していた三人だが徐々に集中が切れはじめる。
それを見計らっていたかのようなタイミングで蓮希の母が、
「ご飯にしましょう」
とドアを開ける。
昼食はサンドウィッチだった。
あらゆる色とりどりの具材が目の前にあり、自分の好きなものを入れて食べる。
絶妙な焼き加減のパンに採れたてのようなシャキシャキレタス、黄金色に輝く玉子にマヨネーズたっぷりのツナ。
どれも美味しくて皆ついつい食べ過ぎてしまった。
午後からは蓮や姫華も合流する。
午前とは一転して、蓮希の勉強を夏澄と二人で見たり、みんなで問題を出し合ったりと勉強とは思えないほどの騒がしさだった。
夏澄はおそらくかなり頭が良い方だろう。
教え方もかなり上手で出された問題も難なく答える。
陽も少し傾いてきて勉強は終了。
そこからはみんなで様々なゲームをする。
はじめに取り出したのは人生ゲームだった。
蓮は大きな数字ばかりで一着でゴール。
蓮希は子供が四人の大家族に。
姫華は宝クジが当たったりカジノで大当たりなどで大金持ちに。
その一方で僕は学校でいじめられて不登校、交通事故で病院へなどで一回休みばかり。
夏澄は途中まで蓮に負けず劣らずの順調さだったが、森の中で道に迷う、森林ルートへ。
というマスからが進まなかった。
森で優しい異性の子に出会い恋に落ちる、熊に襲われかけるなどで一回休みが多かった。
結局順位は姫華、蓮、蓮希、夏澄、僕の順だった。
その後もUNO、ジェンガなどもした。
次に取り出したのはトランプ。
大富豪に神経衰弱。
やることは変われども毎回負けるのは決まって蓮希だった。
「もぉーやめやめ!ババ抜きしよババ抜き」
七並べで最下位が決まった時、トランプを投げ捨てながら蓮希は言った。
「ババ抜きか、普通にやるのも飽きてきたしじゃあ負けたら罰ゲームでもするか?」
蓮はそんなことを提案する。
そんなのするわけ……。
「面白そうね。そうしましょ」
脳内のツッコミを遮り提案に乗ったのは意外にも夏澄だった。
「いいね、夏澄ちゃん。じゃあ罰ゲームは蓮希が決めていいぜ。何でもいいけど自分が出来ることにしとけよ? やっぱりなしとかそれこそなしだぜ?」
ここまで煽られると蓮希が乗らないはずがない。
「はっはーん。いいわよ!じゃあ負けた人は好きな人の名前を言うで決まりね」
蓮希はそう言うとトランプを配り始める。
それにしても困った。
好きな人なんて記憶を辿る限りいたことがないはずだ。
まぁ勝てばいいか。ポーカーフェイスには自信がある。
というか蓮と姫華が負けたらそんなのわかってるようなもんじゃないか?
もうちょい考えろよなっちゃんの馬鹿。
配られたカードを見ながらそんなことを思っていた。
カードから視線を上げると、先程までとは比べ物にならないほど周りは真剣な顔つきをしていた。
勉強中よりも静かという妙な静けさと緊張感が辺りに広がっている中、着々とみんなの枚数が減っていく。
「やったーあがりー」
最初に沈黙を破ったのはまさかのなっちゃんだった。
みんな少し動揺や驚きが見られたがすぐさま集中し直す。
それから一周した後、
「あ、揃った。ラスト一枚公星が引く番よね、はい。私あがり」
姫華が残りの一枚を僕に渡してあがる。
僕も姫華からの一枚で偶然にもあがる。
残るは夏澄と蓮の一騎打ち。
周りには今日一番の緊張が走る。
夏澄が蓮の一枚を掴んだ瞬間だった。




