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キミのくれたモノ  作者: 山路空太
17/53

17.一般祭


「ねぇ……くん、起きてよ。もっとお話聞かせて。お願い」


 ハッと目を覚ます。

久し振りに見たからだろうか、夢にはいつもと違う違和感があった。


「公星! 遅刻するわよ!」


 母の声がする。

しかし起きる気には到底なれなかった。


 地面が揺れんばかりの足音がどんどんと近付いてくる。

バーンッ。

部屋の扉が飛んでいきそうな勢いで開く。

ビクッと僕は思わず布団と仰け反る。


「こうくーん、今日は私と出店まわるんでしょー。早く起きなさーい」


 珍しく早起きのなっちゃんに無理矢理布団を剥がされる。

ため息をつきながらも部屋から追い出し五分で身支度を整える。

二年は自分の劇以外は暇なのだ。

本当は休みたい体に鞭を入れて無理矢理動かす。




 午前中は色々な出店をなっちゃんと二人きりで回る。

多くの男子の痛い視線をひしひしと感じながら……

そんな視線に誘導されるかの様にふと隣を見る。

確かに昨日のミスコンに選ばれるだけあって、今まで考えた事もなかったが、改めて見るととても可愛い顔をしている。


 わたがしを食べるなっちゃんを見てそんなことを思っていた。

視線に気付いたのか目が合ってしまう。


「どうしたのこうくん」


 小さな瞳が僕の目を真っ直ぐに見つめている。

改めて可愛い蓮希に見つめられ照れて視線をずらす。なっちゃんの横顔の奥に夏澄が見えた。


「あ、あれ夏澄じゃないか?」


 遠くでなっちゃんと同じようにわたがしを食べている。


「あ、ほんとだ。こうくんよく見つけたね。こんなに大勢の人いるのに」


確かに周りはどこもかしこも行列ばかりだった。

 数分間人の波をぬって僕たち二人は夏澄のところに辿り着いた。


「あ、公星と蓮希ちゃん。私も一緒に回っていいかな?」


「いいよいいよ。いこいこー」


 返事をする蓮希の隣で僕は昨日の事が夢だったかのようないつも通りの夏澄を見ていた。

両手に華とはまさにこのことだろう。

すれ違う人達は皆一度振り返る。

 先程よりも一層強くなった視線を受けながらも三人で色々な出店を回る。

道中に僕は何度男達に睨まれたことか……


一通り出店を回ると時刻は劇本番一時間半前。


「そろそろ行こっか」


 蓮希は僕と夏澄の手を取って走り始める。

「急げ急げー」

 そう言って走るなっちゃん。僕には一瞬、何故か小さい頃の光景と重なっているように見えた。

見覚えのない女の子に手を引かれている僕ともう一人の知らない女の子。

何か思い出しそうになるが激しい頭痛に吹き飛ばされる。

 苦痛をこらえながらもなっちゃんにつれて行かれる。


 劇本番五分前。

やっと到着した教室。

先程までの頭痛はすぅーっと消えていく。

 今日は昨日の体調不良が嘘のように完全復活した小山くんがジュリエット役をする。

僕じゃなくて本当に良かった。




 迎えた本番。

昨日より増えた観客の前でも二人共素晴らしい演技である。

演技は終盤に差し掛かりあとはロミオがジュリエットに解毒薬を飲ませ崩れ落ちるシーン。

夏澄は演技とは思えないほど勢いよく膝から崩れ落ちた。

 しかし、昨日とは違って小山くんの上に完全に倒れ込んでいる。

小山くんはゆっくり起き上がり抱き抱えるようにハグをする。

 様子がおかしいと必死でアイコンタクトする小山くんを見てクラスの皆であたかもそこで演技終了のように幕を下ろす。


ナレーションでは、

『その後、この光景を目にした両家は仲良くなり、二人は無事に結婚することができました』

と付け加え誤魔化した。


 舞台裏で僕となっちゃんは何度も彼女に呼び掛ける。

呼吸はしているが様子がおかしい。

その後駆けつけた救急隊により病院へ搬送されていった。

僕もクラスの皆も黙って見送るしかできなかった。

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