16.後夜祭
時間が押しているということもありすぐに後夜祭のダンスの準備が始まった。
運動場では眩しいくらいの灯りがたくさん灯っていた。
後夜祭は自由参加だ。
僕は会場をそっと出て教室に向かう。
帰る準備をしようと教室のドアを開けたところで近付いてくる足音が一つ。
「あ、こうくーん一緒におど……」
「蓮希ちゃーん」
蓮希の声は背後から来た数人の蓮希ファンの声に掻き消される。
僕も巻き込まれて逃げる羽目になった。
階段を降りて二階の廊下を駆け抜ける。
蓮希の方が足が速く少し離された。
相変わらず後ろからは追っ手が来ている。
何故僕がこんな目に……
そんなことを考えて逃げる途中いきなり手が出て来て僕は真っ暗な一つの教室へと吸い込まれた。
蓮希は後ろで消えた公星など知る由もなく、ファンに追われるままその先の女子トイレへと避難していった。
真っ暗で何も見えない。
位置から考えると職員室あたりだろうか。
パッ!
不意についた携帯の光が目に入り思わず僕は目を光から守る。
「もう大丈夫かな」
顔はまだ見えていなかったが声で判別できた。
「え、夏澄?」
「そうだよ、ちょっと移動しよっか」
懐かしく感じる女の子の手に握られたまま階段を上って行く。
昔は蓮希ともよく手を繋いでたなぁ……
そんな想いを搔き消すように自分の心臓の音が聞こえた。
先程降りていた階段を上っていく。
自分の教室の階も通り過ぎて上る。
屋上への扉は南京錠が掛かっている。
夏澄は振り返り悪戯っぽくニッコリ笑うとポケットから鍵を取り出して前に出す。
驚いた僕を置き去りに再びドアに向き合うとそのまま開け始める。
屋上に出ると綺麗な月が頭の上にあった。
手を伸ばせば届きそうだ。
「あ、ダンスの音鳴ってるね」
そう確認するように言った夏澄は手を伸ばしてきた。
僕は差し出された手の意味が理解出来なかった。
「もう、きみくんのバカ。拒否権ないんだからねっ」
そう言って笑う夏澄に僕は、
「なっちゃん……」
無意識にそう呼んで手を取っていた。
何故急になっちゃんの名前が口に出たのか僕には訳がわからなかった。
昔もしかしたら蓮希と踊ったことあったかな?
夏澄の小さな手を握り音に合わせて踊る。
もちろん踊りなどほとんど覚えていなかったが……。
音が鳴り止むと夏澄とは手を繋いだまま屋上を後にした。
教室には疲れ果てた様子の蓮希がいた。
教室に入るなり夏澄は握っていた手をパッと離し、なっちゃんの元へと駆けて行った。
「かすみん顔赤くない?大丈夫?」
「え、そう?今日ちょっと暑かったからそのせいかな?」
二人はそんな会話をしながら帰る準備をする。
僕も帰る準備をしながらスマホで時間を確認する。
手が当たってしまい思わぬ形で内カメが開く。
不意に写った自分の顔を確認すると少し赤くなっていた。
三人でゆっくりと校内祭を振り返りながら帰る。
劇のことやミスコンのことなどを話しながら。
結局その日は家に帰って勉強しようとするも、チラチラと夏澄の顔が浮かび手につかず、ゆっくりと寝る事にした。




