10.二人の過去
時は少し遡り公星が蓮を待っていた頃、姫華の自宅ではーーー
「それじゃあよろしくね夏澄ちゃん」
「私こそロミオ役だしよろしくね。あ、これ一応秘密にしといた方が楽しめるだろうから、周りには内緒にしといてね」
と姫華と夏澄は練習を再開していた。
お互いにお互いを褒め合いながら、時には本音で注意点を話し合い着実に上達していった。
夕方には練習を終え姫華の提案でクッキーを二人で焼くことにした。
クッキー作りの際には公星達四人の昔の話で盛り上がった。
「蓮はね、小学校の運動会のかけっこやリレーではずっと一番だったのよ。蓮希と私は一位か二位だった。公星はあまり運動得意じゃないからずっと最下位だったけど」
「楽しそうでいいな、羨ましい」
つい夏澄がそう口に出す。
少ししょんぼりしながら言う夏澄に姫華は慌てる。
「ごめんね夏澄ちゃん、つい昔の話を……」
「いいの、もっと聞かせて」
「あ、うん。そうそう蓮ってばすっごく音痴なんだよ。公星は意外にもめちゃくちゃ上手くて、私と蓮希は多分普通かな。あとあと、蓮はねーーー」
そこでクスクス、と夏澄は笑い、すぐにごめんねと謝る。
「姫華ちゃんはよっぽど蓮くんの事好きなのね。さっきから蓮くんの話ばっかりだし、何でも蓮くんが最初に出て来てる」
「え、そそ、そんなこと……え、えーと」
長い沈黙の後、自分の髪を口元でいじりながら姫華は小声で言った。
「実は小学生の頃から……内緒ね……」
顔を林檎のように真っ赤にしていた。
「あ、夏澄ちゃんの初恋ってどんな感じだったの?」 不意に姫華が切り返す。
少し黙っていた夏澄だったが、私だけ秘密にしておくのは悪いもんねと話し始めた。
「私実は生まれつき身体が弱くって、小さい頃は森の中の診療所でずっといたの。小学生になっても殆ど学校には行けなかった。その森の診療所である男の子に会ったの。毎日毎日どんぐりや桜の花びらを持ってきてくれて、学校のお話を聞かせてくれる優しい子だったの。今思えばそれが私の初恋。みんなには内緒ね」
そう言ってにっこりと笑う。
「そうなのね。その子の名前とか特徴は? その後どうなったの?」
珍しく姫華が食い気味に聞く。
「よ……よく覚えてないんだよねこれが、あはは」
少しうろたえ、頬を軽く染めながら夏澄は言った。
時刻は十八時半。
明日頑張ろう、と二人は別れる。
時を同じくして、決意を固める少女が一人。
「ミスすみ高になれたら後夜祭でのダンスの相手指名権。絶対手にしてやる」
皆が沢山の想いを抱えたまま、本番はもう明日にまで迫っていた。




