1.夢
霞む視界に目をこすり、閉じようとする瞼に必死で抵抗する。目の前にはまるでジグソーパズルのように敷き詰められた、隙間のない桃色の空が広がっていた。
倒れている上半身を起こせば、少し先のミステリーサークルからは本物の空がひょっこりと顔を出す。
そんな桜のトンネルから降ってくる暖かい光の照らす場所。
一軒だけポツン、と、童話から飛び出してきたかのように建っている大きな家。
僕はいつもそこで誰かと遊んでいる。
誰だろう……
顔はぼやけていて、なんて呼ばれているのかすらわからない。
「ねぇ……くん、起きてよ。もっとお外で遊ぼ! ねぇ遊ぼうよ……」
ゆっくりと再び目を開く。またあの夢だ。
高校に入ってから時々見る夢。
ここ最近になって頻繁に見る同じ夢。
高校以前も見ていたのだろうか……
夢なのかそれとも自分の過去なのか……
頭をフル回転させるが思い出せやしない。
体内時計のリセットのために、薄緑色の遮光カーテンを開けると、あまりの眩しさに反射的に目を背ける。
視線の先のデジタル時計は、四月八日六時四十五分を知らせている。
ゆっくりと階段を足音が上ってくる。
その音は徐々に大きくなり、ドアの前でピタリと止む。
ガチャッ
「あら、公星起きてたの。朝ご飯出来たわよ、下りてらっしゃい」
母は言い終えると、今度は鼻歌を混じえて階段を下りていった。
僕はすぐに制服に着替え、鞄を持ってリビングへと向かう。
「おはよう、公星。お前も今日から高二か。一年の時みたいに毎回学年トップを目指すんだろ? 医者になるために勉強は必要だけど友達と遊ぶことも大事だぞ」
ちょうど朝食を食べ終えた父が椅子にドカッとすわり、新聞を片手にコーヒーを啜りながら言った。
僕は、
「わかってるよ」
一言返事をして時計を指差した。
「あっ、やばいもうこんな時間か。行ってきます」
父は玄関を勢いよく開いて出て行く。
「ごめん、公星。お母さん今日久しぶりにお友達と約束があるから帰りは遅くなるの。先に出るから戸締まりよろしくね」
母は僕の返事を待たずに出て行ってしまった。
食器を洗い身支度を整え、言いつけ通り戸締まりをしてゆっくりとドアを開ける。
菫高校と書かれた校門を入ってすぐの掲示板の前、クラス一覧と書かれた張り紙の下にはたくさんの人で溢れていた。
騒ぐ人の合間を縫うように歩き、自分のクラスを確認する。
寄り道することなく、静かに一人教室へと向かった。
「よっ、公星」
教室の前で後ろから声をかけてきたのは、サッカー部の空閑 蓮とテニス部の朝比奈 姫華。
「おはよう公星。私達は一緒の五組だけど公星は?」
「僕はここ」
二年一組の教室を指差した。
「じゃあ今年も蓮希とだけは同じじゃない? さっき誰かが一組って話してたわ。ねぇ蓮」
「え、そうだったかな。じゃあ今年公星はクラスに蓮希以外に友達いねーのか? 俺らクラス遠いし心配だな。いい加減他にも友達作れよ。医者になりてぇなら人とのコミュニケーションは大事だぜ」
「一年の冬に五組に大阪から引っ越してきた転校生いたでしょ? その子も確か一組って男子達が話してたわ。もしかして顔見知りだったりするんじゃない?」
「あー、忙しい時期で学年での紹介はなかったけど可愛いって噂の子か。友達にでもなって俺らに紹介してくれよ。なんなら彼女としての紹介でもいいぜ。確か名前は……」
僕は嵐のような蓮と姫華の言葉を遮るように、
「頑張るよ」
と笑いかけ二人に自分たちの教室に向かうよう促した。
またねと手を振る二人を見送りながらボソッと呟いた。
「無理だよ……友達なんて……」
初めまして。
一話を読んで頂きありがとうございます。
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*注意
この物語に出てくる名前や地名などは適当に思い付いたのを書いているだけです。なので現実にないかもしれませんし、あったとしても全く関係ないです。




