惹かれる思い
「またオナラした」
「ごめーん」
「もう」
同棲して4年。
もう、なんにもトキメカない。
このままズルズルいくのかなぁ。
恋がしたいよ。
仕事から帰って、晋也のご飯作って、休みの日は掃除に洗濯。
晋也はパチスロばっか。
食事にいこうとか。
旅行いこうとか。
結婚しようとか。ないの?
あーあ、毎日つまんない。
「あ、また出た」
もう。昔は格好よかったのに。
たくさんの競争相手から勝ち取って、友達みんなに祝福されて。
一緒の大学目指して、一年目で同棲。
今じゃァ、髪もボサボサ。ヒゲもボーボー。
何のイベントもない毎日。
でも、そんな私でも楽しみがある。
会社に行けば。
「おはようございます! 杉沢係長!」
「や! おはよ!」
杉沢係長。あたしの上司。
かっこいい、イケメン。
優しくてたくましい肉体の大人の人。
こういう人と恋したいなぁ。
「あ、わかりました! スイマセン。では失礼します」
あ、課長の電話終わったみたい。なんかトラブルかな?
「ちょっと! 佐々木クン!」
え? あたし?
「はい」
「キミ、小島製作所さんの納品数間違ってるよ! 1000じゃなくて1万だってさ!」
「ええ! スイマセン! すぐ確認します!」
「間に合わないよ~もう。杉沢クン、大阪の工場にあるか、調べて!」
「ハイ!」
あーん。泣きそう。なんて単純ミス。
係長にも迷惑かけちゃって。
「課長。なんとかなりそうです」
「あ、よかった。じゃぁ、すぐ小島さんに謝りに行って!」
「了解です。じゃ、ホラ佐々木クンいくよ!」
「ハイ」
営業車の中。あー係長と二人っきり!
でも、失敗したことで頭いっぱい。
嬉しいやら、哀しいやら。
「佐々木クン、そんな心配しなくても大丈夫だよ。なんとかなったんだから」
「でも、先方に謝罪しなくちゃならないんですよね。あーあたし、泣いちゃうかも」
「大丈夫。大丈夫。部下の失敗は上司の責任ですから! 佐々木クンは、一緒に頭下げてればいいよ」
「ハイ、スイマセン」
先方の小島製作所さんに到着。
事務所に入るなり、係長は大きく頭を下げた。
「社長! この度の納品間違い、大変申し訳ありませんでした!」
「申し訳ありませんでした……」
私も係長に続いて謝罪したけど、声は消え入りそう。
「お! 杉沢クンが出て来たのか~。で? どうすんの?」
「あの、本日中に3000納品できます。で、申し訳ないんですが週末残り、6000分納させて頂いて構いませんかねぇ?」
「うーん。……大丈夫」
「やった!」
「カズちゃんに頼まれちゃぁなぁ」
先方の社長さんは、苦笑していたが嫌な感触じゃなかった。
すかさず係長は社長に近づいて小声でささやいていた。
「おじさん、どうもありがとう」
「小島だって」
「だって、もう面倒くさい」
「まァな」
やり取りが終わると、私のほうに戻って背中を押して前に出した。
「これからも佐々木をよろしくお願いいたします」
「あー。よくやってくれてるよ。千慮の一失というやつでしょ?」
「いやー。すいません。ではまた、行きましょう」
言いながら口元で杯を傾ける仕草をした。
「そーいって、最近誘ってくれないからなぁ~」
「いやぁ、社長が誘ってくださいよ~」
「ハハハハハハ」
すごい。もう笑ってる。
でも良かった。ホッとした。
帰り道の車中。もう、心が楽になった私はようやく係長と話すことができた。
「係長、本当にありがとうございました!」
「いやぁ。昔からの知り合いなんでね。飲み友だち」
「へー。そうなんですか?」
「そ。飲み屋で知り合って。そっから友だち。そして、この会社入ったら取引先だった」
「すごーい。あんな年齢離れた人とも友だちになれちゃうんですね」
「そう? 飲んだらみんな土俵は一緒だよ。ふふ」
すごいなぁ。係長は。
さて、会社に戻って、始末書を提出し残っていた仕事を終わらせて本日の業務終了。
係長は、いつも残業してる。
他の課の手伝いもやってるし。すごいなぁ。
でも、あんなんじゃ、彼女作るヒマもないだろうなぁ。
指輪もしてないみたいだし。
独身? そーゆーの聞けないしなぁ。はぁ。