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『銀嶺さま鏡破壊未遂事件』のおかげで?なんだかいろいろ変わった。
銀嶺に対する認識やら、部屋の空気やら。
その美しい外見の印象を鵜呑みにすると大変な目にあう。
「もっとクールなタイプだと、思っていたんだけど・・・」
大変な目にあった一人、薔薇は銀嶺の数少ない友人である。
銀嶺は自分の所に籠っていて何年、何十年も出てこない精霊なので知人もなかなか出来ないが、お近づきになりたいものはたくさんいる。
薔薇も銀嶺も仲の良い精霊は少しだけでいいと思ってるのだが。
とにかく薔薇は銀嶺があんな行動に出るとは、想像すらしていなかった。
でも、皆あたふたしてるのに、一人だけ涼しい顔をしてるのはいつもの銀嶺だ。
先程の事を思い出すと、なんだか可笑しくなって笑ってしまって、薔薇は副官に怒られたのだ。
「私達も、大変だったんですよ」
薔薇の副官達は、大活躍だった。
とっさの判断で、銀嶺も鏡も傷つけないように行動するのは、本当に大変だったのだ。
自分の上官の言動をフォローできたのは良かったが、のほほんと笑ってるのを見てると文句のひとつも言いたくなる。
皆に謝ったのは本心だろうが、反省してるのかどうか疑ってしまう。
「ありがとう、さすが私の副官達だわ」
その名にふさわしい、華やかな邪気のない薔薇の笑顔に、うやむやにされてしまうのもいつもの事なのだが。
癒しの精霊を呼ぶ作業は中断している。
魔道具研究室の緑樹は銀嶺の気が変わり、また鏡を壊したくなられては困るので、鏡が正しく使えない原因を早く見つけようとしているが、進展はないようだった。
銀嶺は先程の自分の行動を反省してはいない。
しかしいろんな人の手を借りているのは確かで、勝手をしたのは自分のわがままだとわかっている。
でも、未だに解決していないし、策は浮かばない。
そんな時、対策室の水簾が部屋の後ろから前に進み出た。
「銀嶺、もしかすると、癒しの精霊と繋がるかも知れないのだが。もう一度ためしてもらえないだろうか?」
銀嶺は迷うことなく頷いた。
水簾は信用出来る人物だし、とにかく何かしないでいられなかったのだ。
黒狼は天使を「りーくん」と呼び、天使は黒狼を「ろーくん」と呼ぶことになった。
「あのねー、みんなでおそろのなまえがいいのよぉー」
天使にねだられて、断れるやつはいるのだろうか?
もちろん、ろーくんは断らない。
黒狼はここが夢の世界ではないと、今ではわかっていた。
そして、天使の名を聞いたことにより、自分が出来ることも。
「りーくん、ほら誰かりーくんを呼んでるみたいやで」
天使は黒狼に言われて、その声に初めて気づいたようだった。
しかし、友達になったろーくんが気になるのだろう、答えるのをためらっている。
黒狼は天使と子狼を順番になでて、にっこり笑いかけた。
「大丈夫や、ろーくんも向こうに行くで。また、向こうで会おう」
「うん、ろーくん、うん!」
ばいばぁ~い~、まったねぇ~
うぉん!うぉん!
机に伏せて寝ていた黒狼が、起きて動き出すのと同時に鏡の方にも動きが見えた。
鏡の中でぼんやりとしていた精霊が不意に、くっきりと映しだされたのだ。
「だあれ?」
答えた声の主、癒しの精霊は小さなかわいい天使だった。
「リルファ、覚えている?」
銀嶺が呼び掛けると頭をこてんとかしげて、じーーーっとこちらを見る。
そして、左右色違いの大きな目を見開くと、返事をした。
「じぃじぃ!」
小さな天使が伸ばした手は鏡を突き抜け、癒しの精霊は無事にこちらの世界に来られたのだった。
もちろん、子狼達も続いて現れた。
「じぃじぃ?誰が?」
思わず呟いたのは薔薇で、これは部屋にいる皆の心の声だった。