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「だから面白い言うたやろ」
今度は銀狐が机に突っ伏している。
彼の場合は笑いをこらえてのことだか。
黒狼も話をしているうちに、実は面白くなってしまったのだ。
夢の中では天使に翻弄されて、天使の次々繰り出すワザになすすべもなく、うろたえるばかりだった。
なんだろうなぁ、あの天使ワールドに巻き込まれる感は。
さらりとスルーすればよいのに出来なかった。
黒狼がチラリと同僚を見ると、銀狐はまだ突っ伏していた。
銀色の耳も尾もピクピクしている。
『あかん、とうぶん止まらんやつや』
同僚が黒狼のやらかしてしまう出来事を楽しんでいるのを知っていた。
こうして仲良しでいられるのも、面白がる性質のせいだと。
でも、黒狼がいつも迷惑をかけていて、嫌がられても仕方ないのに許してくれるのはとても有難い。
だから、笑われたとしても全然気にならなかった。
気にするとしたら、彼のイメージだ。
こんなにイケメンなのに、笑い上戸なんてがっかりされないんだろうか?
イケメンは全て許されるのか?
そうかもしれない、そう考える黒狼だった。
「それでは、今回の関係者を説明する。まずは進行は私、議会の魔術師長」
関係者全員が集まり、紹介から始まった。
魔術師長は上位精霊であるので紹介に特に気を使うこともなく、さらりと話していく。
ながながと話を聞かされないのは幸いだった。
ちなみに名ではなく、普段から魔術師長と呼ばれている。
「魔道具操作は魔道具提供者の銀嶺殿。調整担当は魔道具研究室の緑樹殿。
今回の見届け、承認者として緑の貴婦人、青の貴婦人、軍所属の薔薇殿、部下で副官2名。
問題解決の担当は対策室の水簾殿、部下2名」
ほとんどが知られている名だ。
部下の名は後で自分で確認してくれという事だろう。
対策室の水簾、上司の後に紹介された部下の黒狼と銀狐は礼をし、うながされて座る。
「さて、ようやく魔道具の調整が済んで、事が進むようになった。内容説明は銀嶺殿にお願いしよう」
銀嶺と呼ばれる精霊は上位精霊の中でも特別な存在だ。
古くから存在する精霊で長らく姿を現していなかった事と、その容姿ゆえに。
万年雪を頂く霊峰の精霊。
美しいが、まるで氷の彫像のようで表情はほとんどなかった。
彼が椅子から立ち上がると、銀色の長い髪がするすると衣服の上を流れ、額のサークレット、銀の睫毛に縁取られた紫の瞳がきらめいた。
長い衣の裾を優雅にさばき、魔道具のところに移動する。
「皆様ご存じのとおり、鏡の魔道具でとある精霊を探すのが、今回の目的です」
銀嶺が白い布を引くと、古めかしい姿見が現れた。
「少々年代物で皆様をお待たせすることになりました。しかし、この鏡ほど今回の目的に適したものはありません。特に居場所が特定できない時は」
「ちょっと待って、居場所がわからないのにどうやってその存在を知ったの?」
女性言葉だが、薔薇殿と呼ばれた軍所属の男性である。
彼の家は長らく女性しか存在していなかった。
もっとも、その名のとおりの華やかな容貌を見ればあまり違和感はない。
銀嶺も初対面であるが、特に驚く事はなかった。
「不思議に思われるのも無理はありません。夢のような空間で出会ったのです」