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登場人物の名前は好きなように読んで下さい
「どうした、疲れてるみたいだけど」
机に突っ伏して、ぐったりしている同僚に声をかけるのは、銀色の耳と尾を持つ銀狐の青年。
突っ伏していた方は、黒色の耳と尾を持つ黒狼だ。
彼らは今、新しい仕事の事でこの部屋に呼ばれた。
部屋の前方に、姿見の大きさの鏡の魔道具が設置され、白い布が掛けられている。
調整はほとんど終わったらしく、担当の技術者が魔道師長と呼ばれるフードの人物と細かな打ち合わせを行っているようだ。
銀狐と黒狼は魔道具使用後の担当なので、今はこうして待つしかない。
彼らがいるところは、部屋の後ろの机を並べた島のひとつで、隅の方なのであまり目立たない。
偉い人達も、まだこの部屋には居ないからついつい、気がゆるんでしまう。
それに、彼らの仕事はあまり重要なものでないので、二人とも気楽にしていた。
偉い人達が現れたらキチンとすればいい。
そうすれば黒狼が思い出すのは、自分が疲れているという事で、疲れの原因だったりする。
「夢見が悪うて」
黒狼が答えると、銀狐は2つ持ったカップのひとつを黒狼に渡した。
室内に用意されている飲み物を入れてくれたようだ。
礼を言って黒狼は受けとると、一口すする。
銀狐も黒狼のすぐそばに座ると、声をひそめて問う。
「仕事関係なのか?」
二人とも特殊な能力を活かして、仕事をしている。
特に、黒狼は変わったことを見つけるのが得意だ。
本人にすればほとんど役に立たない上に、邪魔な事が多いので迷惑しているということだか。
「いや、関係ない思う。オレかて当事者やなかったら面白いはずや」
時々、仕事に関係ある夢を見ることがあるので、黒狼は普段から夢を思い出すことにしている。
そうしているうちに、ほとんど覚えていられるようになった。
まあ、今朝の夢は忘れようと思っても無理だ。
変な夢すぎて、忘れられない。
小さくてかわいい天使が黒狼に無茶ぶりする夢。
天使なんて絵本にしか実在しないが、小さい羽をぱたぱたさせたかわいいのは、我々精霊族というよりは天使に近いように思えた。
大きさは妖精族に近いが妖精族とはちょっと系統が違う。
妖精は能力が決まっていて、自分の属性の能力しか使えない。
それに、精霊族の黒狼を翻弄することは無理なのだ。
妖精族は精霊族の下位の存在だ。
夢とはいえ、ありえない。
あんな種類見たことないし。
同僚の銀狐に説明すべく、天使の容姿を思い出す。
大きさは大人の片手に乗るくらい。
やわらかな色合いの金色の髪、白い肌。金のばっさばさな睫毛と青と緑の左右色の違う瞳。
見事な幼児体型、頭が大きくて手足が短い。
そして、背中でぱたぱたしている羽、これが天使を連想させる原因だ。
肩甲骨のところにちょこんと付いていて、小さすぎて前からは見えない大きさだ。
実際アレで飛ぶのは難しいはずだ。
魔力で飛ぶなら飾りか?
「今朝の夢で、天使が出てきてん。歌いながら......」
黒狼は銀狐に天使の容貌と夢の内容を話した。