14 りーくんとじぃじぃ
銀嶺とリルファは『りーくん』『じぃじぃ』と呼び合う仲だ。
もちろん、血は繋がっていない。
もっとも二人は全然気にしていないが。
「では、銀嶺さま。大切に預からせていただきます」
緑樹は、銀嶺の『探し物の鏡』を魔道具研究室に持っていくことになった。
「もう、返さなくてもよいよ」
銀嶺は事も無げに言うが、とても貴重なものなのだ。
しかし、銀嶺は鏡を無造作に壊そうとした精霊である。
確かに研究室で預かっていた方が安全かも、緑樹は無理に返すのは止めようと考えた。
「私はもっと簡単に使える物の方がよい。りーくんとお話しできる鏡とか」
はわぁ~
「ぼく、じぃじぃとおはなししたいのぉ」
リルファは小さな羽をぱたぱたさせながら、銀嶺におねだりする。
「よし、さっそく作らせることにしようか」
「ほんとに?わ~い、わ~い」
はしゃいで飛びまわるリルファ、楽しそうに見ている銀嶺、孫と祖父?そのものである。
「それなら、ちょうど良いものがありますよ」
緑樹の言葉に、銀嶺とリルファは瞳をきらきらと輝かせた。
『探し物の鏡』と交換で手に入れた(注:銀嶺さまが勝手に思ってるだけです)鏡はとても良いものだった。
対になっている鏡で、離れていても話が出来るし操作が簡単だ。
誰かが鏡の前に来ると反応するので、不都合があれば布でもかけておけば良い。
大きさはリルファを縦に三人並べた位で、あの鏡に比べて持ち運びも楽に出来る。
さっそく、二人で背を向け部屋の反対側にわかれて鏡を使ってみる。
「じぃじぃ~」
銀嶺の前の鏡にリルファが映る。
鏡に張りついているらしく、額とぷくぷくな頬っぺたがつぶれてくっついている。
「りーくん」
お互いを呼び合うと後はただ、にこにこにこにこしているだけなのだか、これで満足なようだった。
つるりとなめらかな岩肌と水晶で囲われた部屋。
ここは、銀嶺の山の中、銀嶺の部屋とも言うべき場所だ。
水晶に腰掛ける銀嶺に、ちょうど良い位置にある鏡以外に何もない。
岩肌のくぼみに置かれている鏡は、ふちが飴色の木目が美しいもので、この部屋では唯一温もりを感じさせるものだった。
銀嶺はリルファと話が出来る鏡を手に入れたので、少し安心して一人で山に帰ったのだ。
もうすでに何回かリルファと話をしている。
今、鏡は布に覆われて鏡の向こうは見えなくなっていた。
銀嶺にしたらずっと鏡をながめていたかったのだが、布でもかけてこちらが見えないようにしないと、リルファは夜になっても寝ようとしないので仕方がなかった。
銀嶺が一人山に籠っているとき、リルファは黒狼が預かっている。
離れている二人が鏡を使って寝る前に挨拶するのは、もはや二人の恒例行事だ。
「ではね、リルファ」
「あいっ!」
にこにこにこにこにこにこ
「はい、おやすみなさい」
「あいっ。じぃじぃ、おやすみ~」
にこにこにこにこにこにこ
銀嶺はゆっくりと布をかけた。
にこにこしているリルファにとっても酷いことをしたような気がして、銀嶺はちょっともやもやしてしまった。
しばらく動けないような気がして、銀嶺はじっとしていた。
うふふ、うふふふふ
鏡の向こうから、小さくリルファの笑い声が聞こえてくる。
銀嶺は気になってしまって、鏡の右下の布をそっとめくった。
「!」
リルファが鏡に顔を押し付けるようにして、のぞきこんでいる。
銀嶺の顔を見ると、きゃっきゃきゃっきゃ笑い声をあげ、
「じぃじぃ~みぃつけたぁ~」
と嬉しそうにするのだ。
銀嶺はたまらない気持ちになって、そのつもりじゃなかったのに
「あぁ、見つかってしまった」
と調子をあわせて大袈裟に嘆いてみせた。
すると、リルファはますます笑うので銀嶺もつられて笑ってしまった。
そうして鏡の四隅のどこにいるのか当てる遊びを、何回も何回も飽きずに二人でした。
「じぃじぃ、おもしろいねぇ~」
「えぇ、ほんとにねぇ」
リルファの頬は紅潮し、瞳はきらきらと輝いている。
銀嶺は私もきっと、こんな顔をしているに違いないと思った。
じぃじぃらしいことが出来るのか少し心配だったが、こんなふうにリルファと遊ぶことから始めたらよいのかも、と考えることが出来た。
ふと、リルファの居る部屋の中を見ると、黒狼が待ちくたびれてソファーで寝ていた。
彼は楽しそうな二人を邪魔せず、待っていてくれたのだろう。
「リルファ、今度こそおやすみだよ。また明日、遊ぼう」
そう、これからは遊ぼうと思えばいつでも遊べる。
「あいっ!じぃじぃ!」
リルファはあんなに遊んだのに元気一杯だ。
黒狼には気の毒だが、リルファに黒狼をおこしてから寝るように言うと、手を振りながら鏡に布をかぶせた。
「じぃじぃ~」
やっぱり鏡の向こうからリルファが呼ぶが、銀嶺は我慢した。
少ししてやっと、リルファは諦めたのかゴソゴソしはじめたようだった。
「じぃじぃ、いないし~、ぼくもねよおっと」
そう言うと羽のぱたぱたする音が聞こえた。
「あ、ろーくんおこさないと~、ろーくん!おはよお~」
「えっ!朝?りーくん・・・・・・ああ!まだ夜やん。銀嶺さまとお話終わったん?」
「うん!いっぱい~あそんだぁ~」
「そうか、良かったなぁ。そろそろ寝んとあかんし。りーくんおいで」
「あいっ!ぼくねぇ、ろーくんとねるよぉ~」
「いいけど、顔に乗らんといてなぁ」
一度、黒狼とリルファは部屋を出たあと、また戻ってきた。
「さ、りーくん、寝る前に銀嶺さまにもう一度おやすみなさい言おか」
「じぃじぃ~おやすみぃなあさい~」
「よし、りーくんおやすみ~」
「ろーくん、おやすみぃ~~」
ゴソゴソゴソゴソ
小さい子は興奮するとなかなか寝られないのだ。
「りーくん、どっちが早よ寝るか競争やで」
「ぼく、もうねたぁ」
銀嶺は誰もいない部屋で一人、今日の出来事を思い返してとても幸せな気分だった。
子狼達はとっくに寝てます




