13 小さなはな
その世界にあるのは、枝を大きく広げた大樹。
瑞々しい葉が繁り、鮮やかな緑が優しくきらめいている。
空は不思議なあわい虹色。
雲はなく光はどこからともなく降りそそぎ、辺りを照らしている。
地は水が湛えられ、澄んだ水面は大樹の緑や空の虹色を写し、不可思議な色を醸し出している。
大樹の他には何もない。
ずっと時の止まったようなこの静けさが続くのかと思われた頃にやっと、水面に変化が訪れた。
ポコリと小さな音をたてて現れたのは、小さな花の蕾。
ぷっくりと膨らんだ蕾を包むのはやわらかな花びら。
だが、今はぎゅっと固まっている。
中にあるものを守っているように。
ポコリ、ポコリと時おり音がするたびに蕾が増えていく。
広い水面に小さな蕾は目立たず、しかしゆっくりと数を増やしていった。
大樹はただそこにあるだけ。
突如、風が吹き抜けた。
そして、静けさ。
次の瞬間、ゴオッと大きな音をたてて何かが通りすぎていった。
水面のさざめきが収まると、そこにあったはずの小さな蕾は全て無くなっていた。
大樹の葉がざわざわと枝をふるわす。
それは小さな蕾を無くしたことを悲しんでいるようだった。
いくつもの小さな蕾は突然の変異に巻き込まれ、あるものは界の狭間に、あるものは異界に。
ただ流され、たゆたう。
行き着く先も選べず、流されるだけ。
その小さな蕾は異界に流された。
静かで暗い場所。
いや、そこかしこで何かがうごめいている。
蕾は本能的にきゅっと縮こまった。
前より、もっともっと小さく。
誰の何の目にもふれないように、小さくなれば見つからないとでもいうように。
だが、何かが蕾を見つけた。
大きな影はずっとひとり、永いあいだ自分ひとりだった。
自分を脅かすものは何もなく、このまま朽ちていくのを待つだけの身。
そこに小さな異物が現れた。
それは小さく小さくなって、それでもそこにあった。
蕾にとっては幸いだったのか、影が強いため周りに影以外何も存在していなかった。
それは、ほんの気まぐれ。
影が身動ぎし、蕾に触れた。
蕾はそこから消えて無くなった。
そこは少しだけ、じめじめしていた。
周りに自分よりも大きな植物が、そこかしこに繁っていた。
ただ、すき間から少しだけ日が当たる。
精一杯葉を伸ばし日に当たろう。
ちょっぴりだけど、小さな花は成長していることを実感していた。
その歌は、ある時から毎日聞こえるようになった。
こどものかわいい歌だ。
小さな花は歌を楽しみにしている。
ランランランランランララ~ン~♪
歌が聞こえたら一緒に歌う。
ランランランランランララ~ン~♪
おいしいぃごっは~ん~、たっのしいごっはぁ~ん~♪
たのしいごはんてなにかしら?




