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「黒狼くん、リルファを助けてくれて、ありがとう」
銀嶺にお礼を言われて、黒狼は首を振りかけ・・・止めた。
りーくんが頭の上に居るのだった。
「ろーくん、ありがとぉ」
リルファも足をぱたぱたしながら、お礼を言う。
「いえ、オレはなんにも・・・」
黒狼は首の代わりに手を振りながら、あわてて返事をした。
それでも黒狼はほんのちょっぴりでも、役に立ったんやろか?とうれしくなっていた。
部屋の中に残っているのは、魔道具の調整をしている緑樹と魔術師長、そして銀嶺、リルファ、黒狼だけになっていた。
薔薇と副官、貴婦人方は退出する際に銀嶺に挨拶をして、黒狼と頭の上のリルファににっこりと笑いかけた。
黒狼は礼をしそうになったが、止められて固まる。
『りーくんが頭の上に居るのすぐ忘れてしまう』
どないしよう、と思っていると頭上から小さな声が聞こえてきた。
「ばいばぁ~い」
リルファが代わりに挨拶してくれたようだ。
すると皆、満面の笑みで手を振り返す。
人見知りなリルファが、直接お話しをしてくれないのは仕方ないと諦めていたようで、別れの挨拶をしてくれたのがとても嬉しかったようだ。
銀嶺と黒狼は机をはさんで椅子に座り、リルファは机の上で子狼と並んで立っている。
黒狼は銀嶺に話がしたいと言われたのだ。
銀嶺は緊張している黒狼を見ると、優しく微笑んでくれた。
美しいその姿がますますきらきらっときらめいて、黒狼はまぶしさに目を細めた。
机の上のリルファは銀嶺を見上げて
「ほわぁ~~」
と奇声をあげると、くるりんと黒狼の方を向いた。
そして、にっかーと黒狼に本人とびっきりの笑みをくれる。
たぶん、銀嶺さまの真似・・・・・・。
かわいいリルファに、黒狼も自然な笑顔を返すことが出来たのだった。
ただ、それを見たリルファが
「はわぁ~~」
と変な声をあげたのがわからなかった。
「黒狼くんにお願いがあるのだけど」
「あるのよぉ~♪」
銀嶺とリルファはにこにこしている。
話の内容はわからないが、きっと黒狼が断るなんて少しも思ってないのだろう。
「黒狼くん、リルファの世話をお願いできないだろうか」
「おねがぃっ」
「世話?」
「そう、私がリルファの後見に決まっているのだけど、私は時々山に帰らなくてはならなくて・・・」
「そぉなのぉ」
「はぁ」
「そこへはリルファは連れていけないし、リルファは私と黒狼くんしかダメだというんだ」
困った子だね、と言いつつ優しくリルファを撫でる。
「水簾に話をしたら、黒狼くんがいいと言えばと」
だめ押しにリルファが両手の手のひらを組んで、お願いのポーズだ。
「ぼく、じぃじぃとろーくんじゃないといやなの。ろーくん、だめ?」
うるうるしょんぼりへんにゃり
黒狼には何かの音が聞こえてくるような気がする。
「オレは・・・自信ないですが・・・」
がーん!!!
「りーくんがオレで良いと言ってくれるなら」
ぱあああっぴっかーん
「頑張ります」
ぱんぱかぱ~ん~♪
「ほんとぉ?ろーくん、ほんとにぃ?」
黒狼が頷くと、リルファは飛び上がって喜びはじめた。
「やったぁーばんざぁーい、やったぁー、ろーくんありがとぉ」
くるくるくるりん
「じぃじぃ、ろーくんいいって!わーいわーい」
その場できゃっきゃ笑いながらはしゃぐリルファを見て、それまで大人しくしていた子狼達もはしゃぎ出す。
わーいわーいくるくるわぅわぅ
小さいのが机の上でわちゃわちゃ騒いでいるのを見ていたら、黒狼は断らなくて本当に良かったと思ったのだ。
「黒狼くん、ありがとう。君だったら安心して任せられるよ」
そうして黒狼はリルファの子守り役となったのだ。
『いつまでなんだろう』
黒狼は心の片隅でちょっぴりそう思った。




