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365分の1

車通りはそれなりにある、しかし人通りはそんなにない。そんな街中を月夜・リミーナ・楓の三人は歩いていた。茜とランスの二人を残して買い物に出てきた三人は、歩いて駅前のデパートを目指していた。


「どうして私までお買い物につき合わされなきゃいけないの?」

家を出てから不満そうな顔をしながらも、黙ったまま月夜について来ていたリミーナが数分程してからようやくその不満を口にもらした。

「たまにはいいだろ?お前だって、家で何かするわけでもないだろうし」

茜とランスを二人っきりにするため、という理由がばれないように、そんなにリミーナに月夜はいつもの調子で答える。

「冬休みぐらい家でゆっくりしてたっていいじゃない」

「お前なぁ・・・ただでさえ外見が不健康そうなんだから、少しは外出て肌でも焼かないと身体に悪いぞ?」

口をとがらせているリミーナの肌を見ながら、月夜は溜め息をつく。リミーナの真っ白い肌は、出会った時から全く変わらない。それでも悪い病的なイメージではなく、美しく儚い雪のようなイメージを見るものに感じさせるのは、美少女なリミーナだからこそだった。

「確かに肌が黒いのは健康的に見えるけど・・・日焼けは皮膚がんの危険性があるじゃない。それに私は、焼けにくい体質だからしょうがないの」

「それもそうだけど、程々ならいいだろ。ま、冬の弱い日差しじゃあんまり肌が焼けるわけないんだけどさ」

「大体から、お兄ちゃんに健康のことなんて言われたくないよ。貧弱で、私より不健康そうに見えるもん」

「うっせー、貧弱だっていいんだよ、その辺はもう諦めた」

「布団にすら潰される癖に・・・きゃー」

リミーナの皮肉を含んだ物言いに、月夜はリミーナの両頬を引っ張る。

「この口か、そんなこと言いやがるのは、もっかい言ってみろ!」

「いひゃいいひゃいー!」

大人気ない月夜と、両頬が伸ばされて面白い顔になっているリミーナを、楓は楽しそうに見ている。

「ん?どうかしたか、楓」

楓の視線に気づいた月夜は、リミーナの両頬から手を離さずに聞いた。

「相変わらず、仲の良い兄妹だと思って」

「仲良く見えるか・・・?」

「ひゃなしてー!」

ジタバタと暴れているリミーナを軽く無視して、楓は言葉を続ける。

「仲良く見えるよ、羨ましいなぁって思う・・・けど」

そこで楓は一度言葉を区切った。

「けど?」

「私もリミーナちゃんのお姉ちゃんだもんね」

そう言って微笑む楓は、前みたいにランスと月夜の兄弟間やリミーナと月夜の兄妹間の妙な親しさに対する切なさや寂しさを感じさせなかった。

「そうだな・・・どちらかと言えば、楓はお姉ちゃんというよりお母さんっていう感じだけど」

最近の楓から感じた印象を率直に月夜は述べたが、当の楓は怒ったように言う。

「私はそんなに老けてませんよー、だ」

と言いつつも、最近の楓はこの八ヶ月の間にかなりの成長をしていた。本人にそこまで自覚はないので、否定するのも仕方のないことではあるが。

「いい加減ひゃなしてーー!」

「ああ、悪い悪い」

悪びれた様子もなく、月夜はリミーナから手を離した。白かった両頬は、少し赤みを帯びている。

「頬が伸びちゃったらどうするのよ!」

両頬を押さえながらかみつくように月夜に怒るリミーナ。

「ハムスターみたいで可愛いんじゃないか?」

「それいいね、更に小動物っぽくなっちゃう」

からかうように言う二人に、リミーナは怒りを通り越して呆れを感じ、大きな溜め息をついた。

「はぁ、全く・・・私から見たら、二人の方がよっぽど仲良く見えるよ」

その言葉に切なさや寂しさは含まれてはいなかったが、どうしてそれで進展しないの?という軽い苛立ちのようなものが含まれていた。元より鈍感な月夜と、恋愛に関して鈍感な楓は、もちろんそんなことに気づくはずもない。

「そりゃ付き合いがお互い長いからな」

「そうだね、もう十年以上かな?」

「十年以上も・・・?」

十年以上もこの二人は何やってるんだろ・・・、とちょっとだけ心配になったリミーナだった。自分が口を出すことじゃないのはこの前ので分かったし、天然二人相手にツッコミをいれる気力も起きなかったので、リミーナはそれ以上追求するのは止めることにした。

それからはてきとうに当たり障りのない世間話をしながら、三人は駅前へと歩いていった。


駅に近づくにつれ、人通りは増していった。冬休みというだけあって、学生や子連れの夫婦などが平日より数倍の数でごった返している。デパートや駅の内部にある店などは、もう正月シーズンの売り物を並べ、正月バーゲンなども行われていた。そんな光景を見ながら、月夜はしばし思いふけった。

(もう正月か・・・一年って早いもんだよなぁ。そういえば、今年はクリスマスパーティとか忙しくてやれなかったな)

今は戦争が起きてないとはいえ、それでも日本はアメリカと敵対している関係にあるが、年中行事などは別だった。クリスマスやバレンタインなどといった外国の行事などは、日本でも行われている。実際は名前をまねしているだけであって、内容は国毎によって違う物ではあるが。

(一年に一度の日、か。そういえば・・・)

「どうしたの?」

立ち止まり物思いにふけっていた月夜に、前を歩いていた楓が振り返って不思議そうな顔で声をかけた。

「ああ、いや、なんでもないよ」

「変な月夜、ぼーっとしてないで早く行こうよ」

楓に促され、月夜は止めていた足を動かし前の二人に追いつこうとする。

(忙しかったから、しょうがない、か)

その表情は冬の空のようにどんよりとしていて、どことなく寂しそうだった。


デパートの中も人混みで賑わっていた。月夜は、

「リミーナ、迷子になるなよ」

と注意を促す。

「迷子になんてなるわけないでしょ、子どもじゃないんだから」

見た目は年齢より幼く、中身は大人びてはいるが子ども、そして実質十歳のリミーナは怒ったように言い返した。

「子どもじゃなくたってこれだけ人がいたらはぐれるっつうの、大体からお前はまだ子どもだろ?少なくとも今は普通の人間なんだし、変な人についていくなよな」

「私はお兄ちゃん程ぼーっとしてないから大丈夫だもん」

「はいはい、いつまでもお喋りしてないで。早く買い物しちゃおうよ」

放っておけばいつまでも言い合いを続けてる二人を、楓が止める。この二ヶ月間で、楓が学んだことだった。

「そうだな、さくさく終わらせるか」

そして三人は歩き出した。


「・・・どうしたもんかなぁ」

一時間後、月夜は二人とはぐれていた。正確に言えば、月夜がトイレに行っている間に二人が忽然と姿を消していたのだった。

「この場合は俺が迷子・・・なのか?」

納得がいかない、と言った感じで月夜は独りごちる。なんだかなぁ、と思いながら、月夜は二人を捜すようにきょろきょろと首を動かす。右を見ても人、左を見ても人、もちろん前を見ても人がいる。しかしどれも見知らぬ顔ばかりで、二人の姿はなかった。

「これだけ人いたんじゃ、捜すだけ無駄か・・・」

早々に諦めた月夜は、買い物袋を持って歩き出す。

「まぁ、買い物ももう終わってるし、入り口で待ってればいいか」

月夜はこの時理解していなかった。月夜がトイレに行く時、どうして二人が荷物を持つのを拒んだ理由を。


歩いて数分で月夜は目的の場所にたどり着いた。荷物を横に置いて、ベンチに腰掛ける。寒空の下、相変わらず薄着な月夜は、行きかう人々を見ながらぼーっとしていた。

「みんな楽しそうだなぁ・・・」

羨ましそうに呟かれた自分の言葉に、月夜の気持ちは落ち込む。

(確かに俺も今の生活に不満があるわけじゃないけど・・・どうしてこんなに問題ごとばっかり積もってるんだろうな)

行きかう人々はみな、楽しそうに笑い合っている。友達同士、家族連れ、手をつないでいるカップルなどが月夜の目に映る。

(ん・・・?もしかしてあれって)

視線の先にいる手をつないでいるカップル、月夜はその二人に見覚えがあった。同じ学校で同じクラスの友達、見間違えるはずもない。利樹と紫の二人だった。

「なんだよ・・・随分学校とは違うじゃねーか」

見慣れた二人を見て、月夜がそうもらすのも当たり前のことだった。学校では多少親密そうになったものの、煮え切らないような二人が、今は誰が見ても恋人同士にしか見えないからだ。お互いに照れくささはなく、その表情は幸せに満ちた笑顔をしている。利樹はいつもの一.五倍かっこよく見え、紫はいつもの二倍可愛く見えた。そんな二人を見て、月夜はなんとなく胸に切なさを覚えた。

「・・・ちぇっ、幸せそうだよな」

二人は月夜には気づいていない。月夜もまた、二人の邪魔をするわけにもいかないな、と声をかけないことにした。すぐに二人は月夜の視界から消え、人混みの中に姿を消した。

「あーあ・・・」

行きかう人々の大半は、幸せそうな、悩みのなさそうな笑顔を浮かべている。実際は悩みのない人間なんていないことを月夜は理解していたが、それでもそんな人々を見る気にならず、昼間なのに灰色の空を見上げる。朝方は晴れていたはずの空は、今はどんよりとした雲に覆われている。まるで今の俺の状態みたいだな・・・、などと詩的なことをついつい考えてしまう。

「空は必ず晴れるのにな・・・問題事多すぎて、俺の心は晴れてくれそうにない」

次から次へと積み重なっていく問題事、忙しかったとはいえ忘れ去られてしまった一年に一度の大切な日の事、失ってしまった体の一部のようなものだった力の事・・・いくつもの要素が、月夜を詩人にしていた。周りには人だらけなのに、誰もいない世界に迷い込んでしまったような寂しさが月夜に襲い掛かる。実際に月夜は迷子で、顔も知らないような他人なんていてもいなくても変わらないものではあるのだが。

そんな変な気持ちのまま月夜が空をぼーっと見つめ続けていると、

「つーきーや」

と聞きなれた声が月夜に聞こえた。

「ああ、どこ行ってたんだ?」

何かを隠しているような、なおかつ嬉しそうな顔をした楓が振り返った先にいた。その隣には、どことなく悩んでいるような顔のリミーナがいる。

「ちょっと買い忘れてた物があったの。ごめんね、急にいなくなっちゃって」

「いや別にいいよ」

どうして自分の声が空々しく聞こえるのか、月夜には分からなかった。

「もしかして・・・怒ってる?」

月夜の様子がおかしいのを感じ取った楓が、問いかける。

「別に怒ってないよ、買い物はもう終わったんだろ?帰ろうぜ」

月夜は投げやりな感じで言ってから、荷物を持って立ち上がる。そこでふと気になった月夜は、楓とリミーナに聞いた。

「そういや何買ったんだ?荷物あるなら俺が持つよ」

「え、えーと・・・軽い物だから大丈夫だよ、ね?リミーナちゃん」

「う、うん」

変な動揺の色を見せている二人に、月夜は仲間はずれにされているような感覚を感じて更に落ち込んだ。自分を置いてどこか行ったのも、仲間はずれにするためか?などとありえないようなネガティブなことまで考えてしまう。忘れ物と称してどこかへ行っていた二人は、手に荷物を持っていなかった。それが更に月夜の不審と疑惑を高めることになったわけなのだが・・・実際は、二人が買ったものは二人の服のポケットに入っている。しかし今の余裕のない月夜は、それに気づくことが出来なかった。

「そっか・・・帰るか、雨降り出しそうな天気だし」

憂鬱な気分を拭えないまま、月夜は歩き出した。立ち直りが早い月夜だが、一度落ち込み出すとどこまでも止まらない悪い癖がある。大抵はそれをフォローするのが楓の役目だが、今の楓には何かを隠しているようなよそよそしさがあった。だから特に何かを言うわけでもなく、楓とリミーナは小走りで前を歩く月夜の横に並んだ。・・・突然、地面が揺れだした。

「っと・・・地震か?」

月夜は荷物を持っていたため、いきなりの地震に足元がふらついた。倒れるほどではなかったが、とっさにリミーナと楓が月夜を支える。

「大丈夫?」

「ああ、ありがと」

「いきなりだったからびっくりしちゃった、弱くて良かったね」

「だな、すぐに収まったみたいだし・・・もういいよ」

月夜は二人から体を離し、また歩き始める。二人もそれにならってすぐに歩き始めたが、いきなりリミーナがしゃがみこんだ。

「どうした?・・・!?」

地震は収まっていたはずなのに、月夜はまた足元がふらつくのを感じた。

「どうしたの!?二人とも」

月夜は倒れないようにふんばろうとしたが、ふらついて尻餅をつく。そして、異常なまでの悪寒を感じた。

「な、な・・・なんだよ、これ」

全身の毛が逆立っている。今まで感じたことのない悪寒に、月夜は体を震わせた。先程しゃがみこんでいたリミーナも、何かに怯えるように自分の体を抱き締めながら震えている。尋常じゃない様子の二人を見ながら楓は、どうすればいいか、と右往左往している。

「きゅ、救急車呼ぶ?」

「だ、大丈夫・・・」

「う、うん・・・だ、大丈夫だよ、お姉ちゃん」

二人の声は震えていた。楓がそうであるように、二人にも何が起きているのか分かっていなかった。

「でも・・・」

「大丈夫だって、心配するなよ」

心配する楓に、平静を装いながら月夜は声をかける。それでもまだ、体は震えていた。月夜とリミーナが感じているのは、絶対的な恐怖。死という概念が薄い二人だが、今の二人が感じているものは人間にとって死の直前に感じ取るような、そんな恐怖だった。駅前にいる多くの人々は、しゃがみこんでいる月夜たちのことが目に見えていないかのように、歩き、過ぎ去っていく。そんな世間の冷たさを感じながら、楓はおろおろとしている。

「だって、どうすれば・・・」

様子のおかしい二人を前に、今にも泣き出してしまいそうな顔をしている。

「大丈夫、だって」

月夜は震える体を抑え、なんとか立ち上がる。荷物を地面に置いて、不安そうな顔の楓の頭をなでる。

「楓が取り乱してどうするんだよ」

強がりを言いながら、月夜は笑ってみせた。頭をなでられ、楓も少しだけ落ち着きを取り戻した。

「だって、普通心配するでしょ・・・」

「楓は優しいもんな」

月夜もまた、自分にとって愛しい相手が落ち着いたことによってどうにか落ち着きを取り戻した。

「・・・むー、私は蚊帳の外?」

どうにか震えを抑え、立ち上がったリミーナは口をとがらせた。

「あ、あはは、ごめんね。でも、リミーナちゃんのことも、心配だよ?」

楓はしゃがんでリミーナのことを抱き締める。自然と、リミーナも震えが収まった。

「しっかし・・・なんだったんだろうな、今の」

落ち着き、震えが収まった月夜は悩んだように声を出す。

「私にも分からない・・・なんか、怖い」

リミーナの瞳には、恐怖の色が浮かんでいる。

「地震と関係があるのかな・・・?」

「どうだろ、もし俺とリミーナだけが感じたものなら・・・」

月夜は最後まで言わなかった。しかし、それだけでもそこにいる全員が納得するには十分だった。

「とにかく、考えてても仕方ない、帰るか」

「そうだね・・・きゃっ」

突然降ってきた雨に、楓が小さな悲鳴をあげる。

「ちっ、やっぱり降ってきたか、どうする?」

舌打ちをしてから、月夜は二人に聞いた。

「少し、雨宿りしていこ。お昼ご飯食べてるうちに止むかもしれないし」

「私も賛成かな」

話してる短い間にも、雨は少しずつ強さを増しているのが見て取れる。月夜は荷物を持ち直し頷いた。

「そうするか」

そして三人はすぐに走りだし、近場の喫茶店へと避難した。


喫茶店の中は薄暗く、人が殆どいなかった。駅に数多くの人がいたせいか、喫茶店の中はまるで別世界のように感じられる。三人は店員に案内され、店の入り口近くのテーブル席に座った。窓から見える外の世界は、一段と強くなった雨が視界を遮っている。

「ふう、雨宿りにして正解だったな。そのまま帰ってたら、間違いなく風邪ひいてるな」

冬の冷たい雨に晒されたら、五分ともたず風邪をひいてしまう。今の強い雨なら、尚更のことだろう。月夜の対面側には、並んで楓とリミーナが座っている。最近リミーナは、月夜より楓になついているようだった。

「この時期にこんなに雨が降るなんて、結構珍しいよね」

楓は物憂い顔で窓の外を見つめながら、そうこぼす。実際はそんなに珍しいものではないが、月夜とリミーナの異変の後なだけあって、楓は特にそう感じられた。

「ちょっと濡れただけでも寒いね、ほんとに風邪ひいちゃう」

くしゅん、と小さなくしゃみをリミーナはする。心なしか、唇が青ざめている。月夜はおもむろに着ていた上着を脱ぎ、テーブルの上からそれを投げつける。

「着とけ」

相変わらず長袖の上着の下は半袖の月夜だが、喫茶店内はそれなりに暖房が効いているため寒くはなさそうだった。

「いいの?」

「前も言っただろ?俺は寒い方が好きなんだ」

「ん・・・ありがと」

はにかんだ笑顔を浮かべながら、リミーナはその上着に袖を通す。ぶかぶかで手も出ないが、本人は全く気にしていなかった。

「とりあえず飯食おうぜ、飯」

月夜の言葉に従い各々メニューを開く。そしてその数分後に料理の注文をした。


「雨、止まないな」

運ばれてきた料理を食べながら、月夜は窓の外を見て呟く。

「通り雨じゃないっぽいし、当分止まないんじゃない?」

同じく料理を食べながら、当然のように楓が言う。リミーナはそんな会話を聞きながらも、夢中でぱくぱくと食べている。

「雨宿りの意味ないな、せめて弱くなってくれればいいんだけど」

「だめそうなら、傘買って帰ればいいよ」

「まぁ、それもそうか」

月夜はそれでも窓から視線を外さずに、何かを考えているような顔をしている。何かを話しかけようとした楓だったが、話しかけづらい雰囲気を醸し出している月夜を見て、それ以上は何も言わなかった。



「はぁ・・・」

とある部屋の一室で、その溜め息はもらされた。

「はぁ・・・・・・」

幾度となく吐き出されたその溜め息からは、苦悩の色がありありと見て取れる。三十代程の白髪の青年は、眉間にしわをよせて椅子に背を預け座っている。

「絶好の機会だというのに・・・」

ぽつりぽつりと呟かれる言葉には、苛立ちと苦々しさが含まれている。かつてアダムとイブという生物兵器を使役し、月夜を襲った張本人・・・それが彼だった。

「兵力が足らん、金が足らん・・・」

物々と独り言をもらす彼は、今大きな悩みを抱えていた。

二ヶ月ほど前のリミーナの事件で、アメリカの大統領が暗殺された。未だ混乱の抜け切れていないアメリカを攻めるには今が絶好の機会だったのだが、現在の日本にはそこまで力が残っていなかった。一騎当千の生物兵器がいるのならばまだしも、財力も兵力も豊かではない日本にとって、今のアメリカですら強敵だった。

「先の大戦で負けて以来、日本国民は堕落した。死を恐れ、負けを恐れ・・・」

かつての日本国民は死を恐れることなく、己の護るべきもののために勇敢に死んでいった。国のため、家族のため、愛しい人のため・・・しかし、現在は決してそのようなことはない。

「平和を貪り、負け犬として他の国々に見下され、のほほんと生きている・・・そんなことが許されてたまるものか!」

怒りを露に、呟かれていた言葉はいつの間にか叫びへと変わっていた。彼にとって、国民は国を護る道具であり、自国に脅威となっている国と戦わない者はすべからく堕落した人間だと思っている。彼の父親もかつて軍の総司令部であり、第三次世界大戦を起こした張本人だった。血は水より濃い、その父親の血は、しっかりとその子どもに受け継がれていた。

「だがしかし・・・どうすればいいものか」

どうにか落ち着きを取り戻し、ゆっくりと思考をかけめぐらせる。どんなに怒りを叫んだところで、今の現状が打破出来ないことなどすでに彼は理解していた。

「無理やり徴兵し、突撃させるか・・・いや、人がいたところで装備が足りん・・・かつての連合国をそそのかしてその機に乗じる方のが得策か・・・」

「やめておけ、結果は見えている」

男の思考を遮るように、抑揚のない声が部屋に響いた。

「だ、誰だ!?」

突然の声に驚いた青年は、部屋の中を見回す。そして、壁に背を預けもたれかかっている人物を目に留めた。黒く腰ほどまでの髪にはウェーブがかかっており、瞳は赤く、鷲のように鋭い。多少伸びている髭には威厳を感じさせられる。そして何よりも一番目を引くのは、中世ヨーロッパの貴族のような服装だった。赤を基調としたその服は一言で言うのなら派手、しかし尊厳のようなものが強く感じられた。派手な服装に合わない漆黒のマントは、怪しさを彷彿させる。

「私が何者なのか、そんなことはどうでも良い。今は時機ではない」

「き、貴様は一体何を言っているんだ!?」

青年は立ち上がり、腰に下げている拳銃で即座にその男に狙いを定める。

「無駄なことだ、愚かな人間が作り出した物ではこの私に傷一つつけられない」

背筋に感じるじっとりとした嫌な汗を抑え、青年は発砲した。次の瞬間、青年は片手で頭をつかまれ持ち上げられていた。その男の身長は、青年の身長をゆうに上回っている。

「事を急ぐな、君にはまだ君の役割がある」

「がっ・・・は、はなせ!」

青年は恐怖を感じ、必死で相手の腕をにぎる。しかし、効果は全くなかった。淡々と男は続ける。

「近いうちに、攻め入る時機がくるだろう。それまで、力を温存しておくがいい」

「やめ・・・ろ!」

徐々に力が込められていくその手は、みしみしという音を奏でる。

「残念なことに忌々しい呪いにより、私は手を下すことが出来ない。君の働きに期待している」

「あ、がっ・・・」

頭を離された青年は力なく床に倒れる。どうやら意識を失ったようだ。男は青年を顧みることなく、漆黒のマントを翻し空気に溶けていった。



「雨、止まないな」

月夜自身何度目か覚えていない言葉を、重々しく吐き出した。昼食を食べ終えた三人は、テーブル席から外の様子を見て溜め息をついている。雨は大分弱くなり、小雨程度にはなっていたが、それでもこの時期雨の中を帰りたいとは誰も思わない。そう、ここにいる、一人を除いては。

「たまには、いいんじゃない?雨の中歩いて帰るのも・・・風邪ひいちゃうかもしれないけど」

楓のその言葉は、諦め半分、楽しさ半分といった感じで紡ぎ出された。

「二十分も雨の中歩く気か?下手したら肺炎起こすぞ」

呆れたような月夜の言葉に、楓は気にした様子もなく言う。

「たまにはいいんじゃない?子どもの頃は、どんなに雨降ってたって遊び回ってたじゃない」

楓のその言葉に、月夜はふと過去のことを思い出す。そういえば、あの頃は悩みなんて全くなかったな、と。雨が降っていても、雪が降っていても、あの頃はみんなで面白おかしく外で遊びまわっていたなぁ・・・と懐かしく感じる。

「・・・そうだな、たまにはいいかもしれない」

「二人で勝手に進めているのはいいんだけど・・・私は嫌よ?」

二人の会話を黙って見ていたリミーナが口を挟む。雪のように肌が白い癖に、リミーナは寒さに強くなかった。更に陽の光もあまり好きじゃないというわがまま娘だった。

「俺の上着貸しといてやるから、今日ぐらいは付き合えよ」

半袖の月夜は笑いながら言う。なんというか、その格好は見ているだけで寒さを感じさせる。

「じゃあいこっか」

支払いを済ませ、三人は外に出る。喫茶店内と外の温度差に、長袖を着ているリミーナですら少し震えた。

「こうすれば、少しはましかも?」

楓はリミーナの手を握った。冷たいリミーナの手を、楓の温かい手が包み込む。

「それじゃ俺はこっち」

場の雰囲気の乗り、月夜は楓のもう片方の手を握る。寒い冬、その上雨まで降っているという状況なのに、月夜と楓の二人の間の温度が上昇したように感じられる。お互い、仄かに頬を赤く染め、照れた表情を浮かべている。

「むー」

とリミーナが小さくうなっていたが、二人はそんなことを気にしなかった。

「さて、帰るとするか」

「そうだね・・・」

三人は歩き出した。ぽつぽつと雨が降る空を見上げ、月夜は小さく呟く。

「あの頃みたいに・・・雨が全てを流して、あの頃に戻れたらな・・・」

その声には現在の月夜の状況に対する、哀しみや辛さが混じっていた。あの頃は、遊んでいる間ずっと雨が降り止まない空のように、ずっとあの頃の状態が続くと月夜は信じていた。しかしそれは、奇跡に過ぎなかった。空も、人も、日常も・・・全てが目まぐるしく変わっていくのだから。

「何か言った?」

「いや、なんでもねーよ」

だからこそ、少なくとも今の幸せを大事にしようと思いながら、月夜は冷たい雨の下、歩いていった。



三人が家に帰ると、温かい笑顔を浮かべた茜が迎えてくれた。

「おかえりー、ってどうしたのみんなずぶ濡れになって!?」

「いや・・・まさか途中でまた強くなるとは・・・な?」

「うん・・・予想外でした。どうしてそれぐらいのこと分かってなかったんだろ私・・・」

「上着たくさん羽織ってても、全部濡れたら意味ないよね・・・くしゅん」

一番ひどいのは月夜だった。荷物を持っていた手はかじかみ、顔色も両腕も青白くなっている。楓も同様に、衣服が肌に張り付き唇は青くなっている。リミーナに至っては、月夜のを含め上着を二枚重ねて着ているので、正に濡れ鼠だった。

「ごめんね・・・私のせいで」

「いいから、先風呂行って来いよ。ほれ、リミーナも一緒に」

謝る楓の背中を軽く叩き、リミーナも同様に促す。

「ちょっと待ってて、すぐタオル持ってくるから!」

駆け足でタオルを取りに行った茜は、言葉通りすぐに戻ってきた。そして持ってきたタオルを三人に手渡す。

「軽く拭いて、楓とリミーナちゃんはすぐにお風呂に、月夜はそこで服脱いじゃいなさい」

「はいはい、男はこういう時便利だな、っと」

服を脱ごうとする月夜は、自分に集まった視線に気づいた。月夜を除いた全員が、なぜかそれを見ている。

「・・・何見てんだよ!さっさと風呂行け風呂!」

ぺちぺちと楓とリミーナを叩いて促す。はっ、と我に返った二人は、家が濡れない程度に体をタオルで拭き、お風呂場へと歩いていった。月夜は二人を見送ってから、溜め息混じりに言葉を吐き出す。

「大体から、俺の裸見てなんになるっつうんだよ・・・姉さんもいつまでも見てんじゃねぇ!」

「月夜の成長記録でもつけようと思ったのに・・・あの頃と比べて、今の月夜はどれだけ成長したのかな?」

からかう様に言う茜に、月夜はわなわなと震えて叫んだ。

「いいから!さっさとあっちへ行けーー!!!」

「月夜ってばつれないー」

あはは、と笑いながら茜はリビングへと姿を消した。ぜぇぜぇと肩で息をしながら、ようやく静かになった玄関で月夜は服を脱ぎ始める。さすがにパンツだけは脱がなかった。

「濡れてただけあって、服着てないほうが暖かいな・・・」

家が濡れないようにタオルで体をよく拭いてから、茜にまたちょっかいを出される前に月夜は早々と自分の部屋に戻っていった。


月夜が着替えてリビングに行くと、楽しそうにお喋りをしているランスと茜がいた。

「お、ちゃんと着替えてきたんだね、偉い偉い」

入って来た月夜に気づいた茜は、子どもを褒めるように言う。

「子どもじゃないんだから、当たり前だろ?」

月夜は口を尖らせて、いじけるように言う。

「おかえりなさい、大変だったそうだね」

「あー、うん、ただいま・・・」

月夜はこそっとランスに顔を寄せて耳打ちをする。

「それで、少しは進展したの?」

「それなりに、かな?実は緊張しててよく覚えていないんだ」

苦笑いしながらランスも月夜に耳打ちを返す。だらしないなぁ、と人のことを言えない月夜はぼやいた。

「二人して何こそこそやってるの?」

「いや、なんでもないよ」

「怪しいー」

じとーとした目で茜に見られ、月夜はなんとか誤魔化す。

「男同士の内緒話ってやつだよ」

実際はあんまり誤魔化せてなかったが、

「ふーん」

と茜は興味をなくしたかのように素っ気無く返す。昨日と比べ、随分明るくなっている茜を見て、月夜は少しほっとしていた。

「案外意外な組み合わせがありだった、のかもな」

一人呟きながら、月夜は絨毯の上に寝転んだ。お風呂が空くまで、そこでだらだらする気のようだ。ふと何かを思い出した月夜は、寝そべったままランスと茜に聞いた。

「そういえば、さっき地震あったよね?」

「あったねー、すぐ収まったけど」

「地震なんてあったかい?」

ん・・・?と月夜は疑問の色を浮かべる。同じ場所にいたはずなのに、どうして両者の意見が異なるのか不思議に思った。まぁ、緊張してて覚えてないなら、小さな地震のことなんて気にも留めないか。と自分なりに納得し、月夜はそれ以上何も言わなかった。

「それにしても・・・なんだったんだろうな、あの感覚」

先ほどの地震の後に感じた悪寒。嫌なことが起きる前に大抵月夜はその類のものを感じるが、今回は別格だった。しかし、月夜があの時感じていたのは嫌なものだけではなかった。思い出してしまっていた、母に優しくされていたあの時の感覚・・・それと似通った懐かしさのようなものを、月夜は確かに感じていた。

(いいや・・・今の俺じゃ、考えるだけ無駄だし)

いや、いつでも無駄か。と苦笑しながら付け足し、月夜は疲れた体を絨毯に任せ、眠りへとついた。



相も変わらず、俺は夢を見ているようだ。夢ばっかり見て・・・どれだけ俺の睡眠は浅いのか?と嘆きたくなる程だ。まぁそんなことはどうでもいい。今回の夢は、今までと何かが違っていた。今までの夢は、自分が忘れていたことを思い出す為の夢に過ぎなかった。自分が体験してきたことが、不鮮明ながらも夢で思い返される、そんなものばかりだった。しかし今回はおかしい。俺はこんな光景を見たことがないし、現実世界ではありえないことだろう・・・。

夢の中では、人間と悪魔と天使がいた。実物は見たことがないので、あくまで俺の予測ではあるけど。とにかくその三種類の生物は、戦争をしていた。見て取れる限りじゃ、人間・天使の軍対悪魔の軍といったところだった。大多数の人間、少ないながらも人外の力を持っている天使・・・悪魔は、数でも力でも押されていた。場面は早送りがされているかのようにコマが飛び、気づけば、悪魔と思われる軍は大将っぽい大きな悪魔を除き、全て倒されていた。どちら側の軍にも、多くの死体がある。俺はそれを、虚ろな瞳でただ見ていた。

最後の悪魔は抵抗したが、夢の中では数十秒・・・おそらく現実なら数十分の長い戦いを経て、戦争は終わった。言うまでもなく、悪魔の軍は負けていた。わけが分からないまま、その光景は俺から遠ざかり・・・そして俺は夢の中で、気を失った。



ざわざわとリビングから聞こえる喧騒に、月夜は目を覚ました。

(夢を見ていたってことは、寝ちまったのか・・・今、何時だ?)

目をこすりながら、月夜は辺りをきょろきょろと見回す。外の暗さから、もう時刻は夜なのだと判断した。リビングの方が何か騒がしい、それに気づいた月夜は、立ち上がってリビングを覗き込んだ。

「何やってんの?」

寝ぼけ眼で、ぼーっとしながら月夜はリビングにいる全員に聞いた。テーブルの上にはケーキがあった、豪華な料理もあった。

「あ、もう起きちゃったんだ・・・」

そう呟いてから、はっ、となって楓は口を閉じる。

「ん?よく聞こえなかったんだけど・・・」

「な、なんでもないよ。夕飯の準備中だから、お風呂はいってきなよ!」

月夜はハテナマークを浮かべながら、よく分からないまま楓に背中を押されてリビングから追い出された。一人残された月夜は、未だによく状況がつかめていない。

「・・・遅めのクリスマスパーティか何かか?もしくは・・・まぁ、そっちは期待するだけ無駄か」

はぁ、と溜め息をついて、月夜はお風呂場に向かった。鈍感な月夜は、いつだって鈍感だった。


月夜がお風呂から出てくると、それを待ちわびていたように全員が各々の椅子に座っていた。

「で、何やってんの?」

用意されたケーキに、先ほども見た豪華な料理。多少の期待を持ちながら、月夜はその場にいる全員に聞いた。

「何って・・・それよりほら、早く椅子に座りなよ」

楓に促されて、月夜は椅子に座った。そこで月夜はようやく気がついた、ケーキにはろうそくが十六本たてられていることに。

「・・・これってさ、もしかしなくても」

忘れられていたと思ってた月夜は、嬉しさよりも驚きで聞いた。実際のところ、忘れ去られていたわけなんだが。月夜が軽い混乱から覚めないうちに、ろうそくに火が灯され、そしてリビングの電気が消された。

「それじゃー月夜、ぱーっといってみよー」

なぜかテンションの高い茜。

「早くしないと、私が消しちゃうよ?」

そしてやっぱりテンションの高いリミーナ。

「がんばって、月夜君」

何をどうがんばればいいのか分からない応援をしているランス。

「・・・」

無言で月夜を見つめている楓。それぞれ反応は違ったが、月夜はそんな彼・彼女等の気持ちを嬉しく感じた。

「そんじゃ、やっときますか」

月夜は軽く息を溜めてから、吹いてろうそくの火を消す。そして消した瞬間。

「誕生日おめでとー」

と、みんなから祝いの言葉をもらった。すぐに電気がつけられ、各々が拍手をする。

「・・・ばっか、そんな派手にやる必要なんてないだろ・・・?ありがとう」

月夜は皮肉っぽく言いながらも、素直に感謝の言葉を口にする。今日楓が買い物に行ったのも、実は月夜の誕生日のためだった。しかし・・・月夜は一つだけ納得の出来ない点があった。

「ま、俺の誕生日とっくのとうに過ぎてるんだけどね・・・忙しかったからしょうがないとは思うけど」

「十一月十五日だよね?ちゃんと覚えてるよ」

「うちもちゃーんと覚えてるよ」

「私は知らなかったし・・・」

「右に同じく・・・」

忘れられていたわけではなかった、その気持ちが月夜を嬉しくさせる。特に、楓が覚えていてくれたことが、月夜には何より嬉しかった。

「ほんと、色々あって遅くなっちゃったけど・・・おめでとう、月夜。はい、これ」

「私からも、はい、お兄ちゃん」

楓とリミーナは月夜にプレゼントを渡す。もちろんそれは、月夜がトイレに行っている間に密に買っていたものだった。あの時あんなことを考えていた自分が、月夜は恥ずかしくなった。

「ありがとう・・・開けて良い?」

二人は頷く。月夜はどきどきしながら、小さなリボンがついた小さな袋を開ける。楓がくれた袋には、薄い黄色の円いペンダントが入っていた。

「もしかしてこれ、満月?」

最初にそれを見て思ったことを、月夜は口にした。黄色くて円いものは色々あるが、月夜はなんとなくそれを満月だと思った。

「うん、月夜がくれた物ほど立派じゃないけど・・・」

月夜が以前楓の誕生日にあげたのは星型のペンダントだった。星と月のペアルック、それを意図して楓はそのペンダントを月夜に贈った。もちろん、月夜の名前と重なるものもあるからだ。

「いや、すっごく嬉しい・・・ありがとな」

大切なのは値段ではなく気持ちだと、月夜はよく理解していた。楓に感謝の言葉を述べた後、リミーナがくれた袋も開けてみる。

「リミーナの方は何かな・・・っておい」

月夜は中の物を見て間髪いれずにつっこんだ。それも当たり前のことだ、リミーナがくれた袋の中身は、以前リミーナが月夜の力を消すために着けた、銀色のブレスレットによく似ていたからだ。

「ちょっとしたお茶目心だよ。安心して、普通のブレスレットだから」

リミーナが言うように、確かに前みたいな禍々しさはそのブレスレットにはない。普通の人が作り出した、単なる装飾品に過ぎなかった。

「それでも・・・なんかなぁ」

トラウマ、という程でもないが、思い出が思い出なだけに、嫌な感覚を月夜は感じる。

「ま・・・ほんとに、ありがとう」

照れ笑いを浮かべながら、月夜はペンダントとブレスレットを身につける。ペンダントはもちろん首に、そしてブレスレットは以前着けられた箇所の逆の手首、左の手首に着けた。

「似合う?」

月夜の言葉に、各々が似合うよ、と言ってくれた。楓もこっそりとペンダントを身に着け、

「おそろいー」

と言って微笑んだ。月夜もそれにつられて、微笑む。

「星と月、夜空に輝き地上を照らす淡い光・・・幻想的で、お二人にはお似合いですね」

ランスの言葉に、二人は照れくさそうに頭をかく。

「羨ましいなぁ・・・少し妬けちゃう」

そう言いながら、茜はランスをちらりと見る。それに気づいたランスは微笑み、茜もまた、微笑み返した。

「そういう姉さんだって、まんざらでもなさそうじゃん?」

「こら月夜、からかわないでよ!」

月夜の言葉に対して怒る茜に、あはは、と笑いが起きる。そんな平和な光景を見ながら月夜は、一生これが続けばいいな、と儚い想いを胸に抱いていた。義理の兄弟で形作られた一般的ではない家族だが、今、そこには確かに平和があった。



「一生続くものなどありはしない、動物も植物もこの地球ですらも・・・」

静かに、そして厳かに、暗闇の中声は響く。

「なおのこと、人間ごときがいつまでもこの世界に居続けるなどあってはならない」

落ち着いている声は、内側に強い怒り、そして憎しみを含んでいた。

「永遠にあり続けるのは、死のみ・・・私は、死を届ける運命の担い手となろう」

大昔の誰かに話しかけているように、男は静かに呟く。

「仇は必ず・・・」

そして男は、闇に溶けていった・・・。

のほほんのほほんと・・・そういえば第三次世界大戦ネタはどこに行ってしまったんだろう(ぉぃ

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