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お花をあなたに

 まだ陽が昇る前だった。暗いけど、私は気付いた。あれは……おばあちゃん? 何故こんな時間に? うん。どうみてもあのおばあちゃん。ずっと先のコンビニの前の通りで立ち止まってる。何してるのかな? まだ暗いし危ないよ。じっと目を凝らす。

「うっ」

私は思わず声を出してしまった。おばあちゃんは――こっちを見てる!

 何で? 何で? あんな所で立ち止まって、真っ直ぐこっちを、真っ暗なここを向いてる! 身体が! 無いけど身体が強張る! 顔が動かない。目が逸らせない。はっきりと見えるほど近くじゃないけど、おばあちゃんは私を――確実に見てる。

 お、落ち着くのよ、この距離でお年寄りに見える訳が……いや、まって。老眼って遠ければ遠いほど見えるんだっけ? 何言ってるの違うでしょ! 望遠鏡じゃないんだから!

「ひっ!」

また私は声を出して仰け反ってしまった。おばあちゃんが、歩き出した!

(こ、来ないで、来ないで!)

私は目をぎゅっと閉じて念じる。来ないで、来ないで――! あ、やっぱりダメよ! 目を開いた時直前に迫ってたらどうするの!? 逃げなきゃ! そう思って私は勢い良く目を開けた。

 おばあちゃんは、居た。通りにある角を曲がって、私のいるこの場所とは反対の方向へ、ゆっくりと杖をついて去っていく所だった。

 肩があったなら、そこで息をしたに違いない。胸があったなら――私の人生はもっと、じゃなくて――早鐘を打っていただろう。おばあちゃんは完全に見えなくなった。なんとか落ち着きを取り戻した私は、何だか嫌な気分になってしまった。あの優しそうなおばあちゃんに私は何て……。私の方が得体の知れない存在の癖に。おばあちゃんは何か用があってこんな早くに家を出て来て、毎日通るこっちをふと眺めただけよ。きっと。それ以外何がある訳? どうかしてた、私。あ……。

 私は忙しく考えを出したり引っ込めたりしてる。私は夜は人から見える。だから人が来なくなった。あの、よっしーもそう言った。今は……。また振り返る。公園の時計は――午前四時四十分。普通に考えて、まだ夜じゃないの? じゃあおばあちゃんに私は見えてた? 見えてたとしたら、どう思ったんだろう? 普通、怖いよね。私が居る事の方が怖いよね。おばあちゃんと私じゃあ……。明け方前の四時台にお年寄りが散歩するのも、うん、ちょっと怖いけど。

 おばあちゃん、今日も来るかな? もし来なかったら……私の方がびっくりさせちゃったんだろうな……。そんな様子は無かったけど……。

 

 朝からずっとただ一点だけを見つめて過ごした。いつもあのおばあちゃんが姿を現す通りの角。大勢の人がそこから出て来たけど、おばあちゃんは……来ない。もうお昼前。……来ないのかな? もう、二度と? 

 凄く、凄く寂しくなった。悲しいよ……。あの優しそうな、ううん違うよ。花をずっとここに持って来てくれる優しいおばあちゃん。そんなおばあちゃんにすら声も掛けられない。ただ怖がらせるだけの私。

 

 嫌がられるだけの私――。

 

 それが嫌だったのに! 

 それから逃げる為にここに来たのに!

 どうして迎えに来ないのよ!

 いつまで待たせるの!

 私はここに居たくないのっ!

 早く私をっ!

 

 私を消しなさい!!

 

 この感覚。涙だ。凄く、リアルな感覚。不思議だな。今の私は本当に、物質的な肉体が無いというだけで、感覚は全てあるんだよね……。今までと全く同じ様に。変われて無いんだ、私は。多分もう机の角に足の小指をぶつけて悶絶する事は無いだろうけど、ほんと、そんなちっぽけな違いが生まれただけ。逃げ出す事も……出来て無いんだ。

 涙が頬を濡らしてる。鼻水、拭く必要無いね。忙しそうに前を通り過ぎていく人達を無視して私は、ぽろぽろと、だらだらと、泣いた。

 

 また夜が来て、まだここに居て。私は何すればいいんだろう? ここに来たら何もかもが終わると信じて、来てみたら違った。じゃあ、次は? 何か手が残ってる? 無いよ。最後の最後、大事に仕舞っていた奥の手で、『どうだぁっ!』とやってみたら、スカだったって事。物凄い重大な決心だったのに。人生で一番勇気を出したのに。それに見合う結果がこれっぽっちも無いなんて理不尽よ。神様の怠慢だわ……。はぁ。……よっしー来ないかな?

 普通、人には毎日色んな出来事があって、その中には楽しい事も幾つかはある訳だけど、私には出来事と呼べる事が殆ど無い。自分から動く事が無いし。だから今はおばあちゃんが来る事と、昨日不意に現れた杉田君、よっしーに会う事、この二つが、たった二つが私の日常に起こる出来事。おばあちゃんが来てくれたら、嬉しい。間違いなく。よっしーは……まだ会ったばかりだけど、多分この先貴重な知り合いになると思う。良く分かんない子だけどね。この二つってどっちも楽しみ。だから、つまり今の私の生活は幸福度100%な訳。強引というより無茶苦茶だけど、そういう事になるのかなぁ? って。……このままおばあちゃん来なくなったら、私の幸福度がいきなり半減。急落? 暴落っていうのか。

(あ……、あれ?)

ぼんやりとコンビニの明かりに目を向けたら、人影。あそこに居るの、おばあちゃん? おばあちゃんだ! おばあちゃんが来てくれた! 間違いない! 昨日の、じゃなくて今朝のあの場所におばあちゃんが居る! 

(おばあちゃん!)

私は心の中で思いっきり呼び掛ける。全然、驚いたりなんかしない。あの時は私がどうかしてたんだもん。きっといつにも増して馬鹿だったんだ。

 そんな事考えながら、時間が過ぎていく。おばあちゃんはこっちを見てる。私を見てる。けど、ここへ来てくれる筈も無い。それに……夜。私は、恐怖の対象になる。でも、また来てくれたって事は、……会いに、いや、見に来てくれた? おばあちゃんは、驚いてるとかそんな感じじゃない。手を胸の辺りに持っていって、ただ、こっちを……。

(あ……)

おばあちゃんが歩き出す。また、今朝と同じ様に、角を曲がって……。

 

 おばあちゃんの姿が見えなくなって、一気に私の動悸は鎮まった。おばあちゃん、また会いたいよ……。話してみたい。

「こんばんわ」

「わぁっ!」

「あれもしかして見えてませんでした? あの通りからこっちに入ってきて佐藤さんに向かって真正面を歩いてたのに」

思い切り脅かしといて笑う男、よっしー。

「あらためまして、こんばんわ」

「……どうも」

ぶっきらぼうに返してみる。この子、また来るとは言ってたけど、まさか次の日来るとは。いいんだけどね。別に。

「今日は、どうでした?」

「は?」

「何か、面白いものでも見ましたか?」

「……全然」

この子はこんな会話を友達ともするのかな? 変だぞ、君。

「あなた、こんな時間に出てきて親とかは――」

「ああ、全く平気です。えっと、僕の事は『よっしー』と呼んで――」

「昨日聞いた」

「じゃあ、よろしく」

よっしーはニヤッと笑う。おまけにメガネもキラッと光る。分かりましたよ。

「さっき、佐藤さんを見てる人が居ましたよね? 驚きです」

「え? 見てたの?」

「ええまあ。佐藤さんあの人、知ってます?」

「……知らない。あ、でも知ってる。ここにね、花を……持ってきてくれるの」

「なるほど……。気になるなぁ」

「何が?」

「あのお婆さん」

……君は何でも気になるのかね? 昨日は『私を』気になると言った様な。

「お婆さん、見えてますね。完全に。でも怖がってなかった」

「そんな事、分からないでしょ」

「いえ、怖がってません」

よっしーはキッパリと言い切った。

「不安、ちょっと違うかな? 佐藤さんを見て思い詰めてるというか……」

「そんな事……何でかな?」

「さぁ? あのお婆さん、佐藤さんの事は知らないのに花を供えてくれるなんて、優しい人ですよね」

「……うん」

「まぁ、佐藤さんが知らないからって向こうも知らないとは限りませんけど」

「……」

「お婆さん、きっと佐藤さんに会ってみたいんじゃないかなぁ……」

「え?」

 よっしーの言葉に驚いた。私に会いたい……って、何で?

「花を持ってくるのは、昼ですよね?」

「うん。昨日までは毎日ここを歩いてたの。運動の為、みたいな。その途中にここの花を見て行くんだけど、時々新しい花に変えてくれる」

「今日は?」

「今日は……ここには来てない」

「で、夜に来たと」

「あのね、おばあちゃん、昨日、じゃなくて今朝のまだ暗い時間にも来たの。さっきと同じようにして帰って行ったんだけど」

「暗い時に、二度ですか……。この近所ではもう佐藤さんの事は知れ渡ってます。その……、『夜に居る』って」

は……、だから昼も居るんだって。

「お婆さんはやっぱり、佐藤さんに会いたいんですよ」

 

 次の日、いや、よっしーが帰って行ってからずっと考えてた。おばあちゃん、どうして私に会いたいんだろう? 知らない私に。一ヶ月もさまよって――全然さまよってないし、もう定住しちゃってるんだけど――未だここに居る私を心配してくれてるのかな? ここに居るだけで悪い事しちゃってるのかな……?

 っと――。よっしーだ。まだ昼間で明るいけど、何だろ?

「佐藤さん、ちょっとこっちへ」

「え?」

よっしーは私の真横まで来て少しだけ立ち止まって小声で言う。

「ど、どこに……私は……」

「いや、すぐそこですよ。あの公園の近くくらいならいいでしょ?」

公園。私が延々と立ち続けているこの場所から数十メートル。……行った事無い。たったあれだけの距離なんだけど、私は行った事が無い。何故かと言うと、上手く言えないけどほら、私みたいな状態の人、って、ん? 人かな? とにかくちょっとその辺をぶらぶらみたいな事はしないものでしょ。多分。だから、行ってない。すぐそこの公園。

「すぐ済みますから。僕、今から独り言を喋る訳ですから、ここは人に見られやすいし変でしょ?」

そうだ。他人にはよっしーは見えるけど私は見えない。ここで会話するとよっしーは変な子、いや、基本がそうみたいだからもっと変な子に見られてしまう。

「うん……分かった」

 よっしーが足を止めたのは公園の周りに植えてある大きな木、何の木かは分からないけど、その近くだった。ここならいいの? いつもみたいにメガネを光らせてニヤついたら即、不審人物だけど……。

「佐藤さん。たぶんあのお婆さん、また夜に来ると思います」

「……どうかな?」

「まぁ、絶対ではありませんけど。でもその可能性が高い。それでですね。佐藤さんは、あのお婆さんに会ってもいいと思いますか?」

「え? えーと……あのおばあちゃんは毎日来てくれてたし、話が出来たらうれしいかなぁ、とか……」

「来るなら多分、今夜もでしょう。諦めてないなら」

「そんなの分からないよ。体調とか、他の、都合が」

「そうですね。まぁとにかく。おばあさんがまたあのコンビニまできて佐藤さんを見ている様なら、僕が連れてきます。どうでしょう?」

「どっ、どうでしょうって、何でそんな事を? それに一昨日は早朝で昨日は、えーと、宵の口って言うんだっけ? おばあちゃん何時に来るかも分からないのに一晩中見てる訳にいかないでしょ」

「いや、その辺は上手くやりますから」

……『上手く』って、何?

「佐藤さんは、僕とお婆さんが来たら、ごく普通に、今みたいに普通に話しかけて下さい。笑顔なんかあったらいいかな? それだけしてもらえれば、大丈夫ですよ」

「……声、聞こえるのかな?」

「姿が見えるという事は、今の僕と同じです。ちゃんと聞こえます。それに、佐藤さんに『話したい』という想いがあるんだから、心配要りません。届きますよ」

本当に十五歳か? よっしー……。

「じゃ、そういうことで。勿論、今夜じゃない可能性もありますからそのつもりで」

そのつもりも何も、私には他に手の離せない用事がある訳でもないし、じっといつものようにしてるだけ。

 よっしーは少し早足でさっき来た道を戻っていった。今からどこへ行くんだろう? 今日、平日。学校は? ん? まさか登校拒否とか? 違うか。普通そういうのって出歩かないよね? じゃあ、不良!? これも違うっぽいなぁ。……不思議な子。はっ!? もしかしてオカルト研究会とか入ってたりして! あのメガネの光り具合とかそれっぽい! 

 ……さてと。夜になったらまた来てくれるかな? おばあちゃん。もし来てくれたら、何て言おう? 花のお礼言っとかないとね。う……今から緊張する。

 

 コンビニ。辺りが暗くなってその明かりが目立ち始めた。あそこの人、嫌だろうなぁ、ここの近くで。最近は物騒だからコンビニ強盗とかにもビクビクしなきゃいけない上に、『出る』と噂のこの私。いつか挨拶にでも行っておけば、『ああ、いつもの人か』ってならないかな? はは……。

 時間は夜の……八時過ぎ。私達には早い時間だけど、あのおばあちゃんにはやっぱり……家の人もさすがに三日連続夜の外出は見咎めるんじゃ――、あ、

(おばあちゃん……)

やっぱり今日も――来てくれたんだ。おばあちゃんがコンビニの明かりの中に、来てくれた。

(おばあちゃん、私、会いたいよ。話したい)

おばあちゃんもそう思ってくれてるのかな? だとしたら、すごく嬉しい。まだ聞いてもいないのにちょっと笑みを浮かべてしまった私。……そうだ。よっしー、本当に居るのかな? って、うわっ! 本当に出た! よっしー!

 よっしーが今、おばあちゃんに話し掛けた。一体、何て言って声を掛けたんだろう? よっしー、上手くやってよ? ……おばあちゃんの腰が引けてる。確かにあれは、引くよね。よっしーがまだあどけない愛らしい少年だったらもうちょっと違ったろうけど、残念ながら……。あ、どうかな? 今、二人揃ってこっち見た。……手とか振るべき? いやいや、止めとこう。それはちょっと、変だ。大人しく待ってよう。

 ちょっと長く話してたみたいだったけど、ようやくよっしーはおばあちゃんを説得、じゃなくて、んー、多分、おばあちゃんの不安を取り除いてくれたのかな? 何を言ったらそんな事出来るのか分からないけど、二人寄り添うようにしてこっちに向かってゆっくり歩き出した。

 あー、緊張する! 私にとって二人目の人。言葉を交わす、二人目の。ちゃんと、話せますように――。

 

 心臓があった辺りがバクバクと音を立てて、ちょっと足が震えちゃってるかも。普通この状態なら私とおばあちゃん、逆だよね。おばあちゃん、心臓大丈夫かな? よっしーがおばあちゃんを半ば抱きかかえる様に支えて、私から少し離れてる場所で一度止まった。よっしーがずっと何かをおばあちゃんに言ってる。おばあちゃんを勇気づけてくれてるのかな? おばあちゃんは、そんなに怯えてる訳でも無いみたい。私と、初めて目が合った。

「あ、あの」

え、笑顔、笑顔で……。

「こんばんわ。お、おばあちゃん」

おばあちゃんは私の言葉を聞くと、一瞬びっくりしたみたいだったけど、その顔に、ゆっくり、ゆっくりと、優しい微笑みが広がっていった。

「こんばんわ。やっと、会えましたね」

「おばあちゃん……」

涙が溢れ出る。嬉しい、嬉しいよ! おばあちゃん!

「なかなか、勇気が出なくてね……」

「おばあちゃん、ありがとう! 来てくれて……私、凄く嬉しい……嬉しいよぉ……」

嗚咽が邪魔するおかげで言葉の最後の方は完全に声がひっくり返ってる。おばあちゃんも目に涙を浮かべてる。そうだよね。凄く怖い筈だもん。いくら私が普通にしてたって、怖くて近寄れないよね。ありがとう、おばあちゃん。

 無意識の内に私はおばあちゃんの肩に手を伸ばした。伸ばしたんだけど、私の手はおばあちゃんの肩を素通りしちゃって、びっくりしたけどおばあちゃんに気付かれない様に直ぐに手を戻した。

「花……いつもありがとう、おばあちゃん」

「やっぱり見てくれてたのね……今度、また新しいのを持ってくるから……」

「……うん」

ほんとは花って高いだろうし結構頻繁に入れ替えれてくれてるから結構な出費になってる筈だとは思うんだけど、『もういい』とは言えなかった。ごめんね。

「私はもう……日課にしちゃったもんだから。毎日、ここへ来て、あなたと花を見るのが。ちょっとさぼっちゃったけれどね」

「え? ……私と?」

「だって、あなたがここに居るっていう噂は、ひと月前のあの日からすぐ、すぐに広まったでしょう? ここに来れば、あなたは居る。姿は見えなかったけれど、きっとすぐ傍にいるんだろうって、思ってたわ」

「おばあちゃん……」

「花を、あなたにあげようって思ったの。供えるって言ったら、何だか遠い所に行ってしまった人に向けて弔意の証を立てて見せるって感じが私はするの。でも、ここに居るのなら――」

おばあちゃんはちょっと俯いて、でもすぐにパッと顔を上げて。笑って。

「心が休まったり、楽しんだり、ちょっと微笑んだり出来るように、綺麗な花を『差し上げよう』って思ったのよ。綺麗な花を、あなたにね」

「おばあちゃん、私、毎日おばあちゃんが来てくれて、それが、それだけが楽しみだったの。きっとこれからも、だよ」

「ありがとう。私も嬉しいわ。そう言って貰えて。ただ……、あなたがずっとここに居る事があなたにとって良い事なのかどうか、私には分からないけれど……」

「その辺はまぁ、気にしなくていいんじゃないですか?」

突然よっしー、この柔らかーな空気をメガネの鋭い光で切り裂いて乱入。ちょっとそれはひどいか。よっしーが居なかったらおばあちゃんとこうして話せなかったもんね。

「佐藤さんはここに縛られてる訳では無くて、自分の意思で居るんです。何故かは僕にも理解出来ませんが。お婆さんも好きな時にここへ来れば佐藤さんが居る。きっともう、昼間でも見ようと思えば見えるんじゃないかな?」

「佐藤さん、素敵なお友達ね」

おばあちゃんが不意にそんな事を言う。素敵? 『理解出来ない』と言い放つこの子が?

「はは……」

「あなたにも、ありがとう」

おばあちゃんは、よっしーの方を向いて丁寧に頭を下げた。

「あなたの言ったとおり、佐藤さんはとても素敵な可愛らしい女性ね」

うわ! 何言ってくれちゃってんのよ! よっしー! なんて……小っ恥ずかしい……事を。

「あなた達に会えて本当に良かった……ありがとう」

「おばあちゃん……」

「じゃあ、そろそろ……もう遅いですし、また今度にでも」

よっしーがおばあちゃんに言う。え、もう? まぁ遅いけど。うん、またいつでも、おばあちゃんが元気な日には会えるよね。

「そうね。じゃあ、今日はこの辺で……。佐藤さん、またね」

「おばあちゃん、気を付けてね。また……」

おばあちゃんはにっこりと微笑んでゆっくり振り返る。あらためて、上品なおばあちゃんだなぁって思う。私も、もしここに来なかったら……なんてね。

「じゃっ」

よっしーが軽く手を上げて私を見た。わたしは軽く頷いて見せる。

(ありがとう。よっしー)


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