Resuscitation―僵尸―?
「随分と古めかしい場所に呼ばれたものだね」
金髪の青年が少年へと顔を向け、微笑んだままゆったりと言葉を紡ぐ。
少年は混乱した頭が治まらないまま、青年を見つめていた。
青年の顔は少年にとって見慣れたものではあるのだが、その表情はいままでついぞ見たことのないものであった。
自分を見て、笑っている。
それだけなのに、ひどく違和感を感じる。
少年は、これまでこんな穏やかな笑みをこの青年から向けられたためしがなかった。
まるで別人である。
「…!」
そう、別人。別の人間。
否、しかしそこで人間なのか疑問に思えた。
なにせこの青年はつい先刻、胸に短剣を突き立てられ、それは深々と突き刺さっていた。間違いなく絶命したはず。生きているわけがないのだ。
絶叫をあげた後、うごかなくなった青年。
黒装束の集団がその屍体の周りを取り囲んで、聞いたことのない言葉でぶつぶつとつぶやいていた。
その最中、それまで動かなかった屍体が、むくりと起き上がり(そもそも動くわけないのに)、何事もなかったかのように胸に刺さった短剣をあっさりと引き抜いて放り出した。
それを目にして黒装束の集団は、「おお…!」と一様に歓声をあげて口々に何かを言い出した。
立ち上がった青年に対して何かを冀う、そんな内容の言葉だった気がする。全員が一度にバラバラと言うので上手く聞き取れなかった。
喚く集団に取り囲まれて、青年はおもむろに右手をゆっくりと挙げた。
途端に何故か黒装束の集団が全員、苦しそうに呻き出し、身を捩りはじめた。
青年が今度は左手を胸の高さで横に一振りすると、突然ばたばたと倒れた。床に倒れた全員、そこで息絶えていた。
そして青年は先刻の台詞を少年に投げかけたのだ。
そして今に至る。
「それで、こいつらは何ですか?随分と図々しいことばかり口うるさく言ってくるものだから、思わず殺してしまいましたが」
「…え…」
青年が周囲の死体を足で蹴り除けながら少年のもとに歩いてくる。
「私を呼んだのはあなたでしょう?しかし小さな人間に呼ばれましたね、私も」
「…?」
「おや、もしかしてよく解っていらっしゃらない?」
その通り、何を言っているのか皆目見当がつかない。『呼んだ』とは何のことなのか。
「私はあなたに呼ばれたのに、こいつらはあなたを差し置いて図々しくも私に『願いを叶えろ』と命令してきたのですよ。気に入らないので殺しました」
「……」
どんな方法でかは知らないが、とりあえずこの青年が黒装束たちが死んだ原因であるらしい。
本人がそう言っているし、他に理由が見当たらない。
なぜ殺したのかも今聞いた。あまりにも軽いので衝撃を通り越して呆れた。
今の状況を整理しようと少年が頭を働かせていると、青年が目の前で跪いた。
「!!?」
行動の意味が解らなかった。この青年は少年に対してこんなことをする人間ではなかったからだ。少年に対して膝を折るなど無かったからだ。
先刻からの表情といい今の行動といい、やはり別の人間、否別の何かに変わったよう。
「あんた…誰だ…!?」
かろうじてそれだけ口に出すと、青年はふむ、と口元に手をやる。
「その前にまず、あなたの名前を教えてもらわないと、契約が完了しないのですが」
「?」
「お聞かせ願えますか、我が君」
そう言って青年はにっこりと妖艶に微笑み、恭しく頭を下げた。
これは、名を訊ねられているということか。
「…しらない」
「は?…御冗談を」
「だから、知らない。呼ばれたことがない」
少年にとってはこれが当たり前の回答。自己の名など呼ばれたことがない。
「…生まれたときにお父上かお母上から与えられるはずのものですが」
「父さんも母さんも覚えていないし、知らない。それに、奴隷に人間の名前は必要ない、と言われた」
「……誰にですか」
問われて、青年を見る。
何も言わずに自分に目を向けたことがどういうことなのか察したらしく、青年は「ああ」と得心いったように声をあげた。
「こいつですか。やれやれ…生きている時は随分、贅沢な暮らしをしていたんだな…」
唐突に口調が変わった。取り繕ったような敬語から、若干軽く。
敬語である必要がなくなったように。
そして今度は左手で顔を覆う。
「…」
「…」
「……」
「……」
何も言わなくなった青年に、自分も何かを言えばいいのか判らなくて、少年は向けられたつむじを見ていた。
暫くの沈黙の後、青年が顔を上げた。
少年をじろじろと舐め回すように見て、口を開く。
「取り敢えず…」
「……」
「その傷の手当をしようか。説明とか、話を聞くのはその後にしよう」
そう言って少年の右の二の腕を優しく掴む。
刃物で貫かれた、痛々しい傷がそこにあった。
次話は様子をみてUPします。




