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はじまりはじまり
目の前の光景が信じられなかった。
金髪・長身の、眼前に悠然と立つ青年は、今しがた黒い怪しげな装束の人間たちに胸を貫かれ、絶命した筈だ。
それが、立ち上がって、口元には緩く笑みを浮かべている。胸には見たことのない紋様のような痣が浮き出て、傷は塞がっている。
青年の麗しい見目のおかげで、こんな場所と状況で無ければ見惚れてしまいそう。他に人がいたら一人残らず目を奪われていただろう。
しかし、今そんな人間はいない。
部屋の灯が、風もないのに揺らぐ。
金髪の青年と、部屋の床に膝をついた黒髪の少年と、床に倒れた黒装束の人間達。
黒装束の人間達は、一人残らず息をしていない。
その部屋で生きているのは、青年と少年の二人だけ。
床に描かれた怪しげな方陣、おどろおどろしい装飾品の取り付けられた壁、気味の悪い怪物を模した燭台。
何処かの暗い森、その深くにある城の地下室で、何かが始まっていた。