ネメシスの森2
これからは精神になった主人公たちの括弧を{}に変えました。
少しは読みやすくなると思います。
暗い森でも零れる朝日ってあるもんなんだと達也は考えながら起き上がる。
「あれ?体が戻ってる」
起き上がり、自分の体の状況を確認する。
しっかりと男の体に自分の精神らしい。
草のベットから立ち上がりあたりを見渡す。
相変わらずの森。
さして変わったところはない。
道の先は昨日と一緒で真っ暗だ。
だが、少し明るい黒といった色になっている。
気のせいなのか、それともなにかしらの変化があったのか。
あったと言えば恋が現れたということだけなのだが。
「っといえば恋はどうなったんだ?まさか夢だったとか・・・」
{うぅるせえぞ。まだ寝てぇんだから静かにしろ}
「すいません」
どうやら夢ではないらしい。達也と交代しただけのようだ。
「交代のきっかけはなんなんだ?」
そういうことならキャットが知ってるだろう。そう思いキャットが寝ている方を見る。
「・・・埋まっている」
てっきり普通に横になって寝ていると思っていたが、地面に埋まっているのは予想外。
キャットは垂直に地面に埋まっていた。ちょうど猫の中指?が見えるだけで、後は全て地面の下。
達也は近づいて中指をつついてみる。するとぴくぴくと反応する。どうやら死んではいないらしい。
「いよいよこいつがなんなのかわからなくなってきたな」
話をしたいが埋まっているのではどうしようもない。何かの儀式だとしても埒があかないのでとりあえず引っこ抜くことにする。
中指を持ち強引に引っ張る。
「よいしょぉい」
「ドゥバ!」
土だらけのキャットは良い目覚めを迎えたらしい。
「おはようキャット」
「・・・おう」
おや、何か言いたげみたいだがとりあえず下ろす。
「朝早くからで申し訳ないんだが聞きたいことがある」
キャットはハァっと息を吐き、
「少しは自分の頭で考えたらどうだ?なんでもかんでも俺に聞きやがって。脳みそあるなら使え」
「お前が埋まっていたのを見た時点で、俺ではどうしようもないと悟ったさ」
「諦めが早いやつだ」
話を戻す。
「朝起きたら俺の体は元に戻ってたんだが、何がきっかけで戻ったんだ?」
「さぁな。知らん」
「ぞんざいだな」
「なんでも知ってるわけないだろう。こちとらおまえ・・・もといお前らを案内するのが仕事だ。お前らに起きた変化を全て知るわけないだろう」
「それは無責任じゃないか。こんなところに連れてきて、一日ずっと歩かされて、さらに女の体に乗っ取られる。少しのアフターケアがあってもいいだろ」
「そんなサービスは昨日で終わりだ。自分からついてくることを選んだなら、ガタガタ言ってないで黙ってついてこい」
「大体、おまえ妖精だろ?なんでも知ってるって言ってたじゃないか」
「つい勢いってやつさ」
これ以上話しても無駄らしい。
とりあえずは体が元に戻っているので良しとするしかない。
これ以上騒ぐと恋になにを言われるか。
食べ物も水もないので支度して歩く。
・
・
・
・
歩き続けること約半日。
かろうじて見える太陽らしきものは天辺まで登った頃、キャットが突然止まる。
「お、どうした?」
後ろを歩いていた達也も止まる。
「・・・先が大分明るくなってきた。ゴールはもうすぐだぜ達也」
「やっとかよ。長かったな」
先の見える話を聞き、達也は脱力する。
もうすぐこんな陰険な森から出れると思うと気分も幾分か晴れる。
{それなら早いとこ行こうぜ。もう木や草は見飽きたぜ}
いつの間にか起きていた恋が言う。
連は達也の記憶も共有しているからか、昨日の移動も恋の記憶としてあるらしい。
(連に受け継がれている記憶って一体いつからのが入ってるんだろうか?)
夢に入る前からの記憶も入っているのだろうか。試しに聞いてみる。
{夢の前の記憶?なんじゃそりゃ。そんなもんは知らねぇぞ}
どうやらここに来てからの記憶だけ繋がっているらしい。
「・・・おい。楽しいピクニックはここまでらしいぜ」
「?」
キャットが会話を遮る。
そしてキャットが向いている茂みから音が聞こえる。
音はどんどん大きくなっている。どうやら近づいてきているらしい。
達也は少し後ずさる。
「おいキャット。ここには生き物はいないんじゃなかったか?」
フッと笑うキャット。
「言ったはずだぜ。ただひとつを除いてってな」
{なにか出てくるぞ!}
恋が叫んだ瞬間、茂みから音の主が飛び出してきた。
体は白。いや、白濁と言ったほうがただしい。それが体の中で胎動している。
姿は人間に近いのだが、首や頭がなく、直接体に顔がある。どこかの特撮ヒーローモノでこんなやつを見た気がする。
体長は約三メートル程。でかい。
ギョロッとした目をしており、カメレオンの目のように忙しなく動いている。
口には牙があり、噛まれたらただじゃすまなさそうだ。
「おい・・・なんだあれは」
震える声で問う達也。
「あれはエレメントだな。俗に言う雑魚キャラだ」
答えるキャット。
「あれが最後の試練だ。あいつを倒せないものに世界は救えない。達也。お前があいつを倒すんだ」
はぁ!?と達也。
「マジかよ!?何も持ってない素手であのバケモノをヤれって言うのか!?無茶だ!」
叫ぶ達也。しかし相手は待ってくれない。
エレメントと呼ばれた化け物は達也に襲いかかる。
距離は約五メートル。手が届く距離までは二、三歩で事足りる。
それは時間にして一秒あるかないか。
そこでの判断の遅れは致命的だ。
達也は突然起こった戦闘に戸惑い、体を動かすことができない。
そこを付くエレメント。
一瞬にして達也に近づき、右手で顔を張り飛ばした。
肉を叩く音が響く。かろうじて顏を守った達也だが、相手の力は凄まじく、吹き飛ばされた。
「が・・・は!」
ノーバウンドで近くの木に背中からぶつかる。
肺の中の空気は一瞬で空にされた。
呼吸が出来ない達也に追い打ちを駆けるエレメント。
左手で達也の顏を掴み、右手で腹を殴る。
「ぶっ!」
酸素が脳まで廻らない。
頭の中が真っ白になる。
吐き気がするが昨日から何も食べてないので吐くものがない。
喉がキリキリと絞まり、今まで感じたことのない死の気配を感じる達也。
「ちっ」
見かねたキャットが横からエレメントにぶつかり、達也から引き離す。
「ぐっはぁ!」
ようやく息を吸う達也。
エレメントはいきなりの横あいの攻撃に戸惑っているのか少し離れ、様子を見ている。
その隙にキャットは達也に近づく。
「おい!大丈夫か!」
「・・・おい」
達也の様子がおかしい。
「なんだ!どうした!」
キャットが聞くと
「なんで痛いんだ!!」
枯れた声で叫ぶ達也。
「おかしいだろ!ここは夢の中のはずだ!なのに痛くて苦しい。こんな夢は見たことない!なぁおい。これは夢なんだよな?そうだよな!?」
すがるように叫ぶ達也。
「いい加減にしろ!!」
激昂するキャット。
「今感じた痛みや苦しさを知ってまだ寝ぼけたこと言ってんのかお前は!これは夢じゃねぇ現実だ!お前が今まで夢だと思っていたこと全て、本当のことなんだよ!」
「なっ!」
驚愕する達也。
「お前は今現在、本当に命の危機なんだよ!説明なら後でいくらでもしてやるから!今は!エレメントを倒すことだけ考えろ!じゃねぇと本気で死ぬぞ!」
崩れ落ちる達也。
今まで夢だと思っていたからこそ耐えられたのだ。
その根底が覆され、ショックのあまり、足から力が抜けている。
達也が弱いように見えるがこれは当然だ。
例えば、今まで人の為になっていると思ってやってきたことが実は人を貶める為だったと知ったようなもの。
緊急時とはいえ、そのショックは計り知れない。
見かねた恋も激を飛ばす。
{おい立て!前を見ろ!敵は待っちゃくれねぇんだぞ!このままてめぇなんかと心中なんて御免だからな!!}
叫ぶが達也には届かない。
エレメントは達也が崩れ落ちたのを見てチャンスと思い、近づいてきている。
{おい!エレメントが来てるぞ!立て!立ちやがれ!!本当に死ぬぞ!!!}
それでも動かない達也を恋は腹立たしく思いながらも冷静になり、諭すように達也に声をかける。
{なぁ。お前はここで死ぬのか?それだけの男なのか?なんの因果か知らねぇが俺はお前と生死を共にすることになっちまった。だがな、俺はここで死にたくねぇ。死ぬわけにはいかねぇんだ。俺は俺が生まれた意味を知ること、そしていつかちゃんとした俺の体を手に入れるという目的がある。お前はなんの目的でここへ来んだ?それを考える為にも、今はこの状況をなんとかして、ゆっくり考えようじゃねぇか。俺でよければ力になるからさ」
「・・・あ」
反応が返ってくる。
{さぁ立て。あいつはもう目の前だ。おまえがタダでやられるような奴じゃないことを見せてやれ!夢から覚めたお前の力を見せてやれよ!」
「・・・ああ!」
あと一歩で達也の頭をつかめるところまで来ていたエレメント。
いきなり立ち上がる達也に面くらい、少し足が乱れる。
達也はそのスキを見逃さず、自分から勢いよく突っ込んできたエレメントの顔の真ん中を殴り飛ばした。
グシャっと潰れた音と共にエレメントは殴られた方向に倒れる。
「ふーっ」
息を吐く達也。
達也は今までの人生で命の危機こそなかったがケンカなら嫌というほど経験している。
それは生まれ持った不幸なのか間が悪いのか。よく不良に絡まれていた。
逃げれるものなら逃げていたが、どうしようもなく拳を振るう時が数多くあった。
言うなれば達也は、戦闘はド素人だがケンカは慣れている。
二人相手にかろうじて勝てる程の腕前しかないが、目の前の相手だけならそこそこの結果を出している。
パニックになっていた頭をキャットや恋の激で冷静さを取り戻した。
後はこいつの倒し方だ。
「すまんな二人とも。おかげで目が冷めたよ」
礼を言う達也。
{礼なんていいぜ。さっさとやっちまいな}
少しテレたように聞こえる恋の声。
キャットは
「ふん。ようやくお目覚めか眠り姫様よ。そうなればあいつを倒すのは簡単だ」
自信満々のようだ。
達也は訝しがる。
「いや、未だにあいつに勝てる気はしないぞ。体力ももう限界だし・・・」
一日飲まず食わず、先程のダメージで達也は立っているのがやっと。
足はガクガクと震え、殴った拳からはエレメントの牙で傷つき、血が流れている。もうあまり力は残っていない。
「ちゃんと秘策はあるのさ」
そう言ってキャットは達也のジーパンのポケットに近づく。
「達也。おまえの真の力を試す時がきたぜ」
「?何かあるなら早くしろよ!もうあいつ立ってんぞ!」
エレメントは顔をさすりながら立ち上がっていた。
達也は距離を離すため、少しずつ後ずさり、距離をとる。
キャットはニヤニヤしながら、
「達也。右のポケットを探ってみな」
と催促する。
「?なんだ?」
言われるままに手を入れるとなにやら丸いモノがあった。
おかしい。今までそんなものは入っていなかったはず。
そう思いながらポケットから取り出し、見てみる。
{それは・・・ビー玉か?}
それはビー玉のような白色の球体。
少し光っているように感じる。
「それは宝石だ」
キャットが言う。
「その宝石は持ち主の力にあわせて能力を発動させる。使い方は簡単だ。ただ握り締め、使おうと思えばいい」
「使うって言っても何をどうするかわかんぞ!」
キャットはやれやれといったふうに言う。
「とりあえず握って念じろ。力になれってな。最初はそれでいい」
エレメントはこちらが後ずさっているのに気づき、走ってきた。
距離はおよそ十五メートル。時間がない。
「ええい、ままよ!」
達也は宝石を強く握り、エレメントを倒す力になるよう念じた。
すると宝石は徐々に光を強くし、そして握った右手を光の玉で覆った。
そして左手にも光の玉が被さり、両手が光に包まれた。
「ほう」
光を見て感心するキャット。
{おい。どうなったんだ?}
問う恋。
「どうやら達也の力が決まったぜ」
{?なんだ?}
「達也の力は盾だ」
感想待ってます。