ネメシスの森
恋登場回です。
「おい、起きろ」
カッと目を開ける。
最初に感じたのは土の香り。
次に顔に感じるジャリっとした地面の感触。
地面にうつ伏せで寝ていたことに気づいた達也はムクっと起き上がる。
ボーッとした頭を掻きながら声のヌシを探す。
するとちょうど頭の上に例の肉球がいた。
「・・・あー、そうだ。まだ夢の中にいたのか」
とりあえずの状況把握を終え、立ち上がり周囲を見渡す。
どうやらここは森の中らしい。
木々は生い茂り、太陽の光があまりとどかない。
先は暗くて見えない。
そんな所でふよふよと浮いている肉球。
まるで幽霊みたいだ。
「やっと起きたか。さっさといくぞ」
達也が起きたことを確認すると、行動催促をする。
地面を見ると、達也が寝ていたのは唯一草が生えていない道の上。
どうやらこの道にそって移動するらしい。
だが、その前に聞かなければならないことがある。
「ここがガルガントか」
なにやら暗い雰囲気が漂う場所。あまり明るい世界ではないのか。
「いいや。ここはガルガントじゃない」
「は?」
疑問に答えてくれたが、予想とは違う答え。
達也は肉球もとい、キャットに疑問をなげかける。
「俺はガルガントにワープしてきたんじゃないのか?」
キャットは縦に揺れながら答える。
「ここはそのガルガントに行くための道。ネメシスの森だ」
「ネメシス・・・ていうとあの女神か?人間が神に働く無礼に対する、神の憤りと罰の擬人化の?」
「ほうよく知っているじゃないか」
にやりと笑うキャット。
「ここはおまえが本当にガルガントを救う英雄なのか。その試練の森なのさ」
ふーんっと達也。
そのリアクションの薄さにキャットは困惑の表情を浮かべる。
「ふーんっておまえさっきからなんか変だな。考えてみりゃ、俺の正体についてなんの疑問も持たないし、これからの大変さにも無関心。もっと質問攻めになると思ったんだがなぁ」
「だって夢だからな」
「またそれか」
呆れるキャット。
「まぁいいさ。そのうちわかるだろう。さ、こんな所で止まってないで、先を急ぐぞ」
言うやいなや、キャットは道に沿って進んでいく。
「そうだな」
能天気に達也も後をついていく。
気づけば服装もいつもの黒いジーパンに黒のTシャツ。足にも履きなれた運動シューズを履いている。
さすが夢だと感動しながらどんどん進んでいく。
が、進めど進めど景色は変わらず、同じような木々に雑草。太陽の光は生い茂った葉の間から申し訳程度しか注がない。
そんな道をキャットを頼りに歩くこと十分ほど。
ある疑問が浮かぶ。
「さっきから何か変だと思っていたが、なるほど。生き物を見ていないな」
普通木々や草花が多いところでは鳥や虫がいるはず。
しかし、鳥どころか蚊さえも見かけない。
風も吹いていないので恐ろしく静かな中、達也の足音だけが響く。
キャットが前を向いたまま答える。
「ああ。ここには生き物はいない。ひとつだけ除いてな」
「?ひとつ・・・なんだそれは」
「じきにわかる」
その会話を最後に黙々と進んでいく。
基本的に引きこもりだった達也は体力が尽きかけていた。
気温は木々が太陽の光を遮っているため、さほど暑くないが、慣れない道と景色に精神からやられ、疲労は溜まっていた。
ついには道にヘタリ込む。
「ちょ・・・ちょっと休憩しようぜ。つかれたぁ」
先を行くキャットに提案する達也。
「ちっ。しゃあねぇなぁ。ここで野宿にするか」
そういうことで一泊が決定した。
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木漏れ日を与えてくれた太陽もいつの間にか沈み、夜が来た。
テントや火をおこす道具などなく。達也はそこいらの木々から葉っぱを集め、簡易的なベッドを作る。
一様は、枝で火を起こそうとしたが、三分でギブアップ。
真面目にアウトドアの授業をやっていればよかったと今更ながらの後悔。
暗闇に目が慣れ、少しの月の光で地面に降りているキャットが見えるようになってきた。
「なぁ。あとどのくらいだ?」
先の見えない不安から尋ねる。
「さぁな」
とぞんざいな返しをするキャット。
「さぁなって・・・お前は案内人だろ。わからないとでも言うつもりなのか」
「言っただろ。ここは試練の森だと。お前は試され、それに合格すればここから出ることができるのさ」
「試練ってどんな?」
「それこそ知るか。とりあえず、事が起こるまでは道なりに進むしかないのさ」
「とんだ案内人だな」
「けっ」
会話が途切れた瞬間、グーっとお腹がなる。
「夢でも腹が減るんだな」
不思議な感覚だと思いながら、辺を見渡す。
暗くてよく見えないが、食べられそうなものはない。
「このままだと飢え死にだ。早くここからでないと」
「だが、もう夜だ。この暗さじゃ道も満足にみえねぇ。この道を外れたら二度と戻ってくることはできないぜ」
「・・・なんか前より口が悪くなった気がするんだが」
「そこな慣れってことだ。お前だって初対面の相手には自分をだせないだろ?」
そんなもんか。
時計がないので何時かわからない。だが、歩き続けた披露で眠気はある。
早めに寝てしまおうと横になる達也。
「また起こしてくれ」
「自分で起きろよ」
優しくない言葉をかけられ、達也は眠りについた。
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「!!!」
ガバッと起き上がる達也。
おかしい。体が熱い!
「が・・・は!」
明らかな異常。
体をくの字に折る。
腹の当たりから熱があがる。
まるで沸騰したお湯が上ってくるような熱さ。
なにか変なモノを食べたのかと思ったが、ここには食べ物などない。
なら、何かの病気か?
いや、ここは夢の中だ。そんなことはない・・・だろう。
「ぐ・・・く!」
とりあえず、状況を知るため、唯一の情報源のキャットを起こそうと思ったが・・・いない。
確か横で転がっていたはずなのだが・・・
「おう。ついに何かしらの変化がきたか」
声は上から聞こえる。
意識が薄くなる中、かろうじて口を動かす。
「な・・・にが」
「ああ。これも試練のひとつだろう。お前の体に何かが起きている。それは俺でもわからねぇ。ただひとつ言えることは、それに打ち勝たねぇとお前はここまでだ」
「く・・・そが・・・」
よくはわからなかったが、負けるのは嫌だ。
こんなよくわからない場所で死んでたまるか。
夢の中だということはもう頭にはない。それほどの苦痛が達也を攻める。
「も・・・意識が・・・」
目は霞み、体も動かない。
(くうぅぅ。もう・・・だめだ)
絶望を感じる暇も無く達也の意識は掻き消えた。
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(うーん)
(あれ、生きてる。痛みも熱さもない・・・どうやら助かったみたいだ)
(・・・てあれ?動けない。なんだ、どうなったんだ)
「うーるせぇなぁ。誰ださっきから頭に響く声でぎゃーぎゃー喚いてんのは」
(????)
「ん?なんだ、急に静かになったな・・・て、ここはどこだ。なんで俺はこんなところで寝てんだ?」
(????????あのー、もしもし?)
「また声が聞こえるな。おい!どこにいる!」
(あんたは誰だ?)
「そりゃこっちのセリフだ!てめぇこそ誰だ!姿を見せろ!」
「あー多分無理だぞそれ」
「うわ!なんだこのキモイ生き物は!」
「キモイ言うな!俺だって好き好んでこんな姿になったんじゃねぇ!」
(!キャットか!おい説明しろよ!一体俺はどうなったんだ!)
「待て待て落ち着けよ。状況を説明してやっから」
「説明!?どういうことだ。てかおまえなんなんだ!妖怪か!?猫に踏まれた地縛霊か!?」
「おい女!さっきからボロクソいってんじゃねぇよ!てかキャラかぶってんぞ!」
(女!?おまえ目が見えなくなったのか!?俺は男だぞ!まさか・・・そんな趣味が!?)
「違うわ!だとしてもこんなところでカミングアウトするか!!ちょっと黙れ二人とも!!」
「こんのキモ妖怪が!!ヤラれる前にヤってやる!!」
「上等だ!!やれるもんならやってみろ!!返り討ちにしてやる!俺の真の姿でな!!」
(おい待て二人とも!ちょっと落ち着け。とりあえず話を聞こうぜ、な?)
「さっきから喋ってるやつも出てこい!ボコボコにしてやるからよ!」
「俺のことを忘れてねぇか嬢ちゃん?まずは俺からだぜ」
(キャットもこんな展開でなんか意味深な変身するんじゃねぇ!!)
ギャーギャー言い合い、なんとか落ち着いたところで説明タイム。
「あー、説明するぞ」
幾分か落ち着いたキャットがふよふよしながら話す。
「まず最初に達也。おまえは今、意識だけの存在になっている。そしてお前の意識はそこの女の精神の中だ」
「???は?」
(???は?)
首を傾げる女。
「つまりな、達也の体が変化を起こし、女の体になっちまったんだ。で、女の体の意識が前に出てきたってことだ。そして男の体が引っ込んだことで達也の意識も後ろに下がっちまったってこだ」
(・・・なんでそんなことに)
がっくりと膝から崩れ落ちたイメージの達也。
「おい待て。なんの話だ。達也って誰だ?」
どんどん混乱する女。
「おう。今からお前の説明だな。事態はさっき言った通りだ。まぁ順序よくいこう。女、名は?」
「なんでてめぇに言わねぇといけねぇんだよ」
(頼むから今は言うこと聞いてくれ)
「うっせえよ。わーったよ恋。祷 恋だ」
仕方なくといった感じで自己紹介する恋。
「よし、恋。単刀直入に言うがお前は達也と体を共有している。お前の人格が出ているときは体も女になる。そして達也の人格が出てきた時、体も男になる。そういうもんだと理解しろ」
はぁ?と恋
「なんだよそれ。どういうことだ。どうしてそういうことになっちまってんだ?」
じゃあ、とキャット。
「聞くがな。お前、どこで生まれた?どんな生活をしていた?両親の名は?」
「・・・」
「記憶にないだろう?お前は今、この瞬間に生まれたんだ。達也も聞け。おまいらは一つの体に二つの人間が入っている。訳わかんねぇと思ってるだろうがあまり考えるな。頭が弾けるぞ」
(・・・まぁ夢の中だしな)
しかし、と達也は思う。
さっきの激しい熱と痛み。普通なら目が覚めるものだ。というか夢の中では痛みなど感じないはず。
そんなことを考えている頃、恋は
「・・・確かに、てめぇの言うとおりだ。俺にはなんの記憶もない。だがな、証拠もないのにバカ正直にわかったとはいえねぇ」
ふんとキャット。
「だろうな。なら俺たちと一緒にくればいい。そうすればおのずとわかる。自分がどういう状況なのかをな」
「いいだろう。わかるまではついて行ってやる」
(ところでさ)
と達也。
(恋ってどういう人間なんだ?容姿は?)
「よし。教えてやろう」
とキャット。
「まず顔は目が鋭いな。だが人間で言うところの美人ってやつじゃないか。あと真っ赤っかの長い髪。体は・・・ほう、巨乳だな。Dか。いやもしやそれ以上・・・ぎょ」
「どこ見てやがんだエロ妖怪!」
地面に叩き伏せられるキャット。
「いてて。クソ女が・・・」
(続きは続きは!?)
「まぁ出るとこ出てて、引っ込むところは引っ込んでるっていうことだ」
「まだ言うかこのやろう・・・」
若干顔が赤くなる恋。
(・・・くそ。そんな美女なのに見れない触れないなんて・・・)
「俺もてめぇを殴れないのが悔しいぜ」
あれ?と達也。
(そういえばキャットが見えるな。どうやら視界は精神だけでも共有してるみたいだな)
「多分見聞きは出来るんだろう。便利でいいだろ」
キャットが恋の手の届かないところから答える。
「何はともあれ、なぜ変身したのか。そのきっかけはなんなのか。それがわからねぇ今はこのままで行くしかねぇだろう。さぁ寝ようぜ。もう夜も遅いからな」
「けっ。胸糞悪いが確かに今現在の状況じゃあなにもわからねぇな。そこだけは同意だぜ」
と横になる恋。
(最後に一つだけ聞きたいんだけど)
と達也はキャットに質問する。
(どうしてキャットはそこまで俺たちの状況がわかるんだ?)
「確かに。やっぱてめぇ何かしってんじゃねぇのか」
聞かれたキャットはフッとすました顔で答える。
「そりゃあ俺は妖精だからな」
少しは話が進んだと思います。
もう少し世界観が出せるように努力します。