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第三章「閑話休題」

 話し声が聞こえた。

 音程の高い、二つの声。言い争っている感じの声。

「もう、彼も巻き込まれたんだ!だったら知るべきだろう」

「あなたの軽率な行動で彼は、巻き込まれたの、もうこれ以上は関わらせるべきじゃない」

「何を言っている!彼にも素養は備わっている」

「素養? 馬鹿言ってるんじゃない!彼は、まだ戻れるの、ここにいる私たちとは、違うでしょ」

「だったら、彼が目覚めたら本人にでも直接聞いてみろ!」

 そう怒鳴りつけると足音の一つは、遠ざかっていった。

 額にひんやりとした感触が触った。それに驚いて思わず目を開いてしまった。そしてその光景に再びの驚愕。二つの話し声から一つは、リーダーの物だと判った、もう一方は、話の内容からしてもっと違う大人の感じの声だと思っていた。けれど実際目を開いてみると目の前に居たのは、身長は恐らく百三十センチ程でツインテールの明るめの茶髪。メガネをかけていてその口には、その姿からは、想像できない不相応なキセルを咥えていた。

「おお、すまぬ起こしてしまったか」

 その少女は、口から勢いよく煙を吐き出すと俺の衣服に手をかける、ボタンを一つ一つ外していく。俺は、それに動揺して

「何するんだ!」

 と勢いよくシーツを引っ張って被ろうとするが、それにひっかかって少女も一緒に引き寄せられる。

「うわわぁ~」

 少女は、俺の胸に収まる形となる。そして運悪くそこに

「センセー……お腹痛いんだけど薬頂戴~」

 とリーゼが入って来た。

「…………」

「…………」

「……何、してんの~!」

 と勢いよく俺からその白衣の少女を引き剥がすとついでとばかりに俺は、ベッドから勢いよく落下させられた。落ちた衝撃で呻いた俺の姿を見てリーゼが軽く叫んだ。

「トーヤ!その怪我どうしたのよ!」

 と自分で落下させておいて急いで駆け寄ってくる。

 引き剥がされた衝撃で頭を打ったのか頭を押えて涙目になっていたセンセーが俺に変わって答える。

「頭蓋骨にヒビと肋骨が二本骨折」

 起き上がると居住まいを糺し続ける。

「リーゼが引きこもっているあいだに無茶したようじゃな、ついでに出血多量で発見が遅ければ恐らく死んでいるよ」

 と付け足した。

 その言葉に俺は、倉庫郡での光景を思い出していた。振り下ろされる金属バッド、羽交い絞めにする肉だんご、暴れる六車――。

「そうだ!六車!、六車は?」

「えっ」

 状況が判らないリーゼは、突然六車の名前が出たことに困惑していた。

 それを見てセンセーは、大きく肩をすくめた。

「馬鹿者が、リーゼの前だから黙っていたものをもっと気を利かせろ」

 と子供にしか見えない白衣の少女に説教をされてしまった。

「すまない……」

「ふーっ」

 とまた煙を一気に吐き出すと。

「連れ去られたよ、現在調査中だ、目が覚めたらお前から色々聞くつもりだった、話してくれるな?」

 拒む理由なんてない、元よりあれは、俺の責任だ。あそこに何故六車が居たのか恐らく俺の後を追いかけてきたのだろう、そして前しか見ていなかった俺は、それにすら気がつかなかった。自己嫌悪だ。


 俺は、全てを話した、定食屋で再会し喧嘩してコンビニで再開してそして警察官を見つけてそれを追いかけたという事。そしてそこで襲われ、俺は気を失った。


「ということだってよ」

 とセンセーは、話を聞き終わると突然声を上げた。俺とリーゼは、センセーの見た方向に釣られるようにして目をやると部屋の入口で顔の半分だけを出してリーダーの男が覗いていた。俺たちの視線に気がつくと覗くのをやめて堂々と入ってくると、わざとらしい咳払いをした。

「そうか……」

 リーダーの男は、俺に視線を投げかける。

「南谷冬弥、五日前君は、曼珠沙華の勧誘を断ったね」

 次いで視線をリーゼにずらす。

「リーゼ、君は、南谷冬弥に曼珠沙華に入って欲しいと思っている、それは、拒まれた今でも変わらないか?」

 俺も、リーゼも俯いてしまった。出すべき言葉が思いつかなかった。それでもリーダーの男は、続けた。

「もしも君たち二人の気持ちが変わっていないのならば」

 そこで再び視線を俺に戻す。

「南谷冬弥、六車を救出するまでの間、曼珠沙華に体験的に入っては見ないか?」

 俺に、犯罪の片棒を担げとそう言いたいのか!とそう言おうとして言葉には、出来なかった。脳裏に浮かんだのは、またしても倉庫群での景色。羽交い絞めにされた六車陽花。

「内側からしか見えない景色もあると思うよ、南谷冬弥」

 反駁する意思も牙もその言葉で折られてしまった。俺は、未だに背中を丸めて俯いているリーゼの方を見る。先日勝手に逃げ出したことの謝罪の念を込めて手を握った。驚いたようにこちらを見るリーゼだったが、二人には見えないように手を隠すと強く握り返してきた。そして俺は、告げた。

「それでいいよ、六車を救出する、それで全て決めるよ」

 今でも曼珠沙華は、怪しい団体だと思っている、それでも警察官の事も同じように信じる事が出来ないでいるそれもまた事実だ、だから俺は、どちらも信じない事にした、どちらも信じないで俺は、リーゼを信じる事にした。ついこの前までは、初対面だったハズなのに不思議な感覚だった、リーゼの事は、何故だろう心の底から信じられるそんな感覚だった。

 これで方向性は、見えた、というのに一人だけ浮かない顔をしていた。白衣の少女だ。その視線に気がついたようで、眼鏡の位置を整える、キセルから息を吸い込むと薄く煙を吐き出す。

「私の名前は、有須杏姫よ、こう見えて二十四歳だから子供扱いしないように、ここ重要だからね」

 そう指を突き出すと、忘れていたと言うと付け足した。

「曼珠沙華では、医療関係は、全て私が担当しているから怪我でも病気でもお任せなさい」

「自己紹介も終わったところで――」

 俺は、それを遮る形で割り込んだ。

「いや、まだあんたの名前を聞いていない」

 そういうと。

「私も知らないよ」

「そういや知らないね」

 と異口同音に賛同の意を唱えた。

 そしてリーゼは、付け加える

「陽花は、知ってたみたいだけどね、聞いても教えてくれないのよ」

 リーダーの男は、笑みを湛えて顎に手をやると

「私のことは、リーダーでいい、皆そう呼ぶ」

「呼ばせているだけだけどね」

 とこれは、またしてもリーゼの弁。

 無言の俺を見て納得したと勘違いしたようでリーダーは、

「陽花の情報がわかれば伝えるそれまで自由行動だが一度五時になったら部屋に来てくれ」

 そういうと急ぎ足で部屋を出て行った。


 そしてなんだかリーゼの様子が変だ。しきりにセンセー……じゃなかった杏姫の方を見て俺の様子を見ると再び大人しく俯いていた。でふと閃いた部屋に入っている時に言っていたことだ。

「そういえばリーゼ」

「なっ何?」

 まだ何も言っていないのに動揺したような仕草を見せる。

「部屋に入ってくる時何か言ってたろ? 薬がどうとか」

「そうだっけ……」

 リーゼの手は、軽く下腹部に乗せられている。

「腹でも――」

 話し終える前に俺の横っ腹に衝撃がっ――というかアバラを目下骨折中の俺には、大ダメージ。

 得心がいったように杏姫が手の平を合わせる。

「そうかリーゼお前、せい――」

 リーゼは、物凄い反射神経で杏姫の口を塞ぐというか最早アイアンクローだ。蒼い顔を通り過ぎて蒼白の顔色で

「センセー何か言いました?」

「ふがふがふが」

 と杏姫は必死に何かを訴えている。見事なアイアンクローだ、口を塞ぐとともに鼻まで塞がれてあれでは、息も出来ない。

「そろそろ離さないと杏姫が窒息するぞ」

 そう嗜めるとハッとした表情でアイアンクローから開放する。リーゼを怒らせるのは、やめておこう。杏姫から手を離すと立ちくらみを起こしたようにふらっと倒れ込みそうになる。咄嗟に身体を支える。

「おっと、危ないリーゼお前貧血か?」

 視線を宙に彷徨わせ、観念したように

「うん……そんなとこ」

 そう言うと辛そうに身体を傾けてくる。僅かに触れた部分が熱かった、リーゼは、発熱もしているようだった、俺はリーゼを抱きかかえるとそのままさっきまで俺が寝ていたベッドに寝かせた。行くあてもなかったので俺は、そのまま居座るつもりだったのだけど、杏姫に

「男子は、とっとと出てけ!」

 と言われた。

「え?」

 と戸惑っていると、からかう様に杏姫は、続けて

「リーゼの裸を観賞したいなら止めないけどねー」

 と言ってくるので俺は、意味がわからないままそ医務室から逃げ出した。


 現在地を確認すると俺は、旧学校の西洋風建造物の一階、リーゼが燭台を持って俺を脅かしたその一番奥に居たらしい。呼吸をする度に、胸が僅かに痛む、そこで自分も怪我人だという事を思い出す。締め出された医務室を振り返る、

「まあ、突然脱がれてもそれは、それで困るけど」

 そう誰に言うでもなく呟くと俺は、学校を出た。


 やはりというかなんというか行くあては無く、気がつけば俺は、街の中心であるコンビニまで戻ってきていた。

 俺は、そこから街の西へ向かって歩き出す、東側と違う意味で敬遠されているのが西側だ。ここ万里市は、切り立った山を削ったような造りになっている端的に言えば、坂が多いそして急なのだ、つまり西側は上り坂なのだ。坂の脇に申し訳程度に配置されている標識を見てぞっとするそこには、12%とそう書かれていた。暫らく上ると大きな建造物が目に付いた。コの字型の建造物で左右はスロープになっていて、片方は、車用の搬入口でもう一方には、自転車・歩行者専用と書かれていた。どうやらこの建物は、ショッピングモールらしかった。俺は、登ってきた坂道を振り返る、壮観だったソリがあれば勢いよく滑り降りれるような気さえした。ショッピングモールへ入ると、Rと書かれていた、歩行者用の入口は、屋上らしかった、丁度来たエレベータに飛び乗って一階まで下降する。

 来てから少し後悔する、今こんな事していていいのかな……。その思考とは裏腹に足は、漫然と食料品売り場を目指す。

「なんでもいいか」

 そう呟くと俺は、手当たり次第に食料を籠に詰め込んだ。保存が利きそうなレトルト・冷凍品を手当たり次第、あとはすぐ使うであろう野菜類・肉類を適量後は、いつでも食べる事のできるお菓子類を詰め込むと会計を済ます。全て袋に詰め込んだところで時計を見る、時計の針は、短針は三を長針は六を指し示していた。帰りの移動時間を鑑みても一時間もあれば十分だろう。もっと時間かかると思っていた。

 なんとはなしにショッピングモールの見取り図を見るとアクセサリーショップが目に付いた。

 ついでだからリーゼに何か買っていこうと思う。

 ついで……ついでだ。と心の中で誰かに言い訳をする。アクセサリーショップは、二階だったのでまたエレベーターに乗る。外の景色が見える仕様のエレベーターから外を見ると白銀の世界が広がっていた、高所から見る景色はそれだけで壮観で幻想的だった。程なくしてチンという音とともに扉が開く、名残惜しくはあったがアクセサリーショップを目指す。

 エレベーターから出るとすぐ目のつく所にアクセサリーショップがあっただが誤算があった、まず一つは四・五人ぐらいの女子高生の団体の先客が居たということ、そしてもう一つは、アクセサリーショップは、ランジェリーショップっと併設されているということだった。

 どうしよう、人の目が気になる……。帰ろうかな。

 再び、時計を見る、そんな時間が一気に進むはずもなく当然ながら時間というものは、一秒は一分の六十分の一のスピードで一時間の三六〇分の一のスピードに進むのが常なのである。思い立ったら吉日なんて言葉を作ったやつ誰だと胸の中で恨み辛みを呟きながら意を決してアクセサリーショップという名のランジェリーショップへと足を踏み出した。


 店内は、男の俺にとってはまさしく異空間。花柄の髪飾りやかんざしが所狭しと陳列されていた。左は見るな、左は見るな。そう唱えながら必死にアクセサリー選ぶ。

 店内を二周・三周としていると後ろから肩をとんとんと叩かれた、流石に男子が女性向けの店内でそれも片側は、ファンシーなアクセサリを売っていてもう反対側には、女性向け下着類が売っている店に居れば怪しまれるかと思って必死に取り繕ったような笑顔を心がけて振り向くとそこには何故かリーダーが居た。

「あれっ? あんたこんなところでなにやってるんだ?」

「お前こんなところで探し物か?」

 前者は俺で後者は、リーダーの台詞だ。隠しても仕方ないので素直に言う。

「えと、リーゼに何か……」

「そうか私は、六車にな……」

 そう言うとポケットから何かを取り出すと手のひらに乗せて見えやすいように見せてくれる、それは髪留めのようだったワンポイントで取り付けられらた物は花びらのようだったが花びらの一つが折れてしまっていた。

 リーダーは、何も言わないがこのタイミングで髪留めを買いに来ていた事で察することが出来た、先日の争いの最中髪留めは折れて現場に残されていたのだろう。

「でお前は、何故リーゼにプレゼントなんだ? 惚れたか?」

 なんてことを言う叫びだしそうな衝動を店内だという事を思い出して抑えると言う

「そんなんじゃねえよ、先日のお詫びだよ」

 意図せず僅かに俯いてしまう

「俺が突然帰って泣いていたらしいしそれから引き籠もりもしていたらしいから……六車から聞いた」

 リーダーは、何事もないように顎に手を当てる、どうやらそれはリーダーの考えるときの癖らしかった。

「それは、あれだろう別にお前のせいじゃないだろう、おそらく、せ――っ」

 突然リーダーの背中が跳ねた。

「いやっやめておこう何だか寒気がした……」

「お前も風邪か? リーゼも貧血らしいし流行ってるんじゃないか?」

「そうか、貧血か……気をつけておこう」

 そう引きつった笑顔で言う。それから真剣な表情になると

「陽花の件だがな、囚われた場所はわからないが、それを知っている人物が居る事はわかった」

 辺りに目配せをして慎重に言葉を選んでいるようだった。

「それは、警察の関係者だ、それについて後で話す、五時、時間厳守な」

 そう言うとリーダは、既に選んでいたであろうアクセサリを持ってレジに向かって行ってしまった。

 ふと何気なしにランジェリーコーナーの一角に目をやると髪留めのコーナーがあるのが目に入った。ランジェリーコーナーの、下着類を跨いで奥の丁度店内の角にそれは置いてあった。ついでにそこに向かうまでに女子高生団体という障害物まで設置されている。

俺は、腹に力を入れて思い切るとランジェリーコーナーへと進み出た。

 

第一関門、ティーンズ向け下着コーナー

 正直なところ女性の下着なんて今までの人生で見た経験なんて殆ど無かった、目に入る情報源が全て毒な気さえしていた。キョロキョロしていては、かえって怪しまれると俺は、前だけを見てティーンズコーナーを切り抜ける。

 第二関門、女子高生グループ

 ティーンズコーナー出口付近で団子状になっている女子高生が俺の前に立ち塞がっていた。どうも女子校生たちは、談話に華を咲かせているようで俺の存在に気がついていない。話が終わって移動するのを待とうかとも思ったが盗み聞きされていると思われるのも癪なので思い切って声をかける

「すいませ~ん」

 女子校生に動きなし、依然として談話は続いている。無視しているのか本当に聞こえていないのか判断できなかったが、全く動く気配はなかった。前方の虎、後方の獅子という風情。

 俺は、腹に力を込めて再び

「す・い・ま・せ・ん!」

 と一言一言強調して話しかける、もしかしたら殆ど叫んでいたかもしれない。すると女子校生たちそれでようやく話を止めてこちらに気がついた

「何この人?」

 とギャル風と言っても、もう少し都会の出身の俺から見ると少し古びた印象を受けるがそのギャルが呟くとそれで他の数人もこっちに興味が湧いたらしく

「ここ下着ショップっしょ~何下着が欲しいんですか超きもいんですけど」

 揶揄するようにそんな事を言う。

 あー田舎にもいるんだこういううざいの……。めんどくさいのに引っかかった。

 俺は、努めて笑顔で

「すいません、そこ通りたいんですけど」

 そういうともうひとりのトンボみたいなサングラスをしたギャルが

「は? 回り道すれば?」

 なんて事を笑顔で言ってのける。今のには流石に腹が立った。その短い遣り取りだけで理解した、この女子校生と話をしていると俺の沸点は、下がる一方だ、素直にここは回り道をしよう。挨拶もなしに俺は、無言で回り道をする。

「何? 無視っすか?」なんて言葉が後ろから聞こえてきたするがそれには応えない、無駄な回り道をしたせいで関門が一つ増えてしまった。

 第三関門、レディース向け下着コーナー

 ティーンズ向けと比べかなり風通しが良くなっている、ヒョウ柄やらTバックやらマニアックな物まで置いてある、布地が手のひらに収まりそうなこれ本当に下着なのか? と思う物まで陳列されてあった。今度は、同年代の若い女性からかなりディープなおばさんまで色々な人がいる、女子校生程ではないがその発言が気にかかる。

 女子高生とは違って、悪気はないんだろうが突き刺さるような視線を向けながら、一緒に買い物をしているのはママ友だろうか

「男の人なのに珍しいわね、彼女にプレゼントかしら」

「ほんと最近の男の子は、気が利いていいわよね私たちの時なんて――」

 なんて事を話している、その隣でそれを聞いていたであろう兄妹は、

「いいなー彼女にプレゼントなんて羨ましい、お兄ちゃん買って」

「は? なんでだよ自分で買えよ」

「いいよ別にもう恋愛相談のってあげないから」

 そういうとわざとらしくプイっと顔を向ける

「わかったよ」

 そういうとその言葉を待ってましたとばかりに、妹は満面の笑み

「ありがとうお兄ちゃん」

 すまないお兄ちゃんよ俺のせいだ……。少しばかりの罪悪感。

 そんなこんなでどうにかこうにかアクセサリーのコーナーにたどり着いた、俺は、彼女が出来てもランジェリーショップにはもう二度と足を踏み込まないと思う、それもこれもあの女子高生のせいだとは思うが……。

 丁度正面の壁に時計が掛けられていた。時間を見ると丁度四時を回ったところらしかった。

不味い……今ならまだ間に合うが急いで帰らないと間に合わなくなる。食料を持って行くわけにもいかないから一時帰宅時間も計算すると、かなりやばい。

 そのアクセサリーコーナーには、シュシュやかんざしや簡素な髪留めピンなどが並べてあった、先ほどの反対側のアクセサリショップと比べると大人っぽいデザインの物が多かった。

 こういうのはインスピレーションが大事なんだ。と自分に言い聞かせると素早く雪の結晶のデザインのかんざしとシュシュを手に取るとレジに向かった。

 急いでるって素晴らしい、全く商品が気にならないでレジまで迎えた。


 会計を済ませてショッピングモールを出ると時間は、四時半を超えていた。

「やばっこりゃ本当に間に合わないかも」

 俺は、バス停やタクシーを探して辺りを見渡すがどこにもそれらしい姿は、見当たらなかった。俺の自宅は、街の北側に少し進んだところ全力で走っても四〇分はかかる、そして現在時刻は、四時十分だ、自宅へ戻ってからそこから学校へと向かうとなると一時間ぐらいかかるだろう、どう考えてもタイムオーバーだった。

「くそっ」

 俺は、全力で走った。


 どうにか学校へ到着した。学校の時計を見上げる時刻は、五時二〇分を指していた。完全に遅刻だ。リーダーの時間厳守という言葉が脳裏に過ぎった。

「やれやれ、どんな罰ゲームが待っているんだろうか」

 自業自得ながら暗澹たる気持ちでリーダーの部屋へ向かおうとしていると校門を抜けたあたりで一つの人影に気がついた、遠目からでもわかる外側に広がったロングスカート。誰かなんていわずもがな気がついてしまった。リーゼだ。

その人影も俺を認めて全力でこちらに駆けてくるがその途中俺の少し前で氷となった雪で足を滑らせて転びそうになる、つんのめったリーゼを思わず俺は、手を引いて抱きとめてしまった。思わず俺は、彼女を軽く突き返す。

「きゃっ」

 結局リーゼは、地面に尻餅をついてしまった。

「あっ……ごめん」

「アメとムチ? にしても酷いんじゃない?」

 そう尻餅をついたまま悪態をつく

「ごめん……」

「まっ許してあげよう」

 そう言って気がついたことがある、リーゼの性格が初対面の頃の闊達で悪戯っ子ぽい少々小悪魔の入ったそんな少女に戻っていた。

 リーゼは、手のひらをこちらに差し向けてくる、俺は、それをよいしょっと引っ張りあげるとリーゼの勢いよく胸の中に飛び込んできた。

「えへへ~」

 と闊達な笑顔を向ける、俺は耐え切れなくなって話題を変える

「リーダーも待っていることだしそろそろ行こうか」

 そう言うとリーゼは、少しむっとした表情で損傷したアバラを人差し指でつんつんとつつく。当然俺は、激痛で飛び上がる。

「いたっいきなり何すんの」

 そう非難の声を上げるとリーゼは、胸の中から脱出するとしばらく進んだところで身体だけ前を向いた状態で振り向く。

「見て見てよ、誰かさんのせいでおしりがびしゃびしゃ、下着まで濡れちゃったよ、着替えないと」

「あっ」

 地面には、雪が積もっているそこに尻餅をつけば当然びしょ濡れになる。

「ごめん」

「今日のトーヤどうしたの? 何だかさっきから謝ってばっかり、男の子なんだからしゃんとしなさい、女の子にむやみやたらと頭なんて下げるもんじゃないよ」

 あまりにもみっともなかったのかそうリーゼに説教された。

「ごめん……」

 また謝ってしまった……。

「次謝ったらトーヤの分のご飯も私が貰うから」

「太るよ……」

 しまった失言だ、案の定目を三角にしてリーゼが睨んでいる、でも謝ったらご飯抜きにされてしまうからな……どっちが正解なんだ……よし無言だ。

「……」

「……」

「今のは、謝りなさい!」

「どっちだよ!」


 結局俺とリーゼがリーダーの部屋に到着したのは、それから十分後の事だった。

「重役出勤だな」

 リーダーからは、そんな事を言われる。

「若くていいじゃないの」

 杏姫からは、意味のわからない事を言われる。

 今日も今日とてパソコンにかじりつくように向かうリーダーは、

「まあ遅れると思ったがな、大量の食料品を持っていたしな、自宅に帰ってからこっちへ来たんだろう?」

「ああ……」

 そういうとリーゼが耳打ちをしてきた

「(トーヤ料理なんてできたの?)」

 俺は、無言で首を左右に振る


 リーダーがパタンとパソコンを閉じる。

「会議を始める、その前にトーヤそこで寝ている杏姫を起こしてくれるか」

 いつの間に、やっぱ子供みたいな人だな。杏姫気がつけば、ピアノ用の椅子をベットにしてぐーすかと眠りこけていた。俺は、まず杏姫の口を塞いでみた。

「んっ……」

 一瞬やや苦しそうに呻いたものの特に変化なく眠っていた。

「起きないな……」

 リーゼに脇をつつかれた

「普通に起こしてあげなよ」

 まぁまぁと俺は、続ける。次に俺は、杏姫の鼻を摘んでみた。人間、鼻と口を塞がれたら当然息ができなくなる、これで起きるだろう、というか起きないと窒息死するし。

「んっ~んっ~」

 もがもがと陸に上がった魚のように酸素を求めてじたばたとしている。

「そろそろやめた方が」

 とリーゼは、またしても止めようとする。

「!……」

 杏姫が目を覚ました、自身が息ができない状況を見て取ると足を縮めると俺はそれを苦しくてもがいているものだと思い手を離そうとした。次の瞬間杏姫は、俺のみぞうち目掛けて一気に足を蹴り上げた。

「がっ……」

 咄嗟のことで腹に力を入れる暇もなかった、おまけに痛めた肋骨まで響いてその場でうずくまるハメになる。

「ああ、そうそう、杏姫は寝起き悪いから変に悪戯しないほうがいいぞ」

 と胡乱な瞳を向けながら言ってくる、言うの遅いわ。

「私止めたからね……」

 止めるなら次からもっと強引に頼む。

「注射するとき、空気入れてやる……」

 センセー、本気で怖いからやめてください。


「六車陽花の所在だが、その場所を知っている奴を突き止めた」

「明日そいつから六車陽花の所在を聞き出す」

 そうリーダーは、前置きをし、ややたっぷりと溜めると

「それでは、やや遅れたが、説明を開始する」


 俺は、現在喫茶店に居る。店内は、焦げ茶色で統一されていて、曲は、隅っこに置かれた直方体の古いジュークボックスから流す仕様らしい、が今日は流れていない。もう一つ特徴的なのは店員が全員メイド服を着用しているということ。律儀にカチューシャまで頭に乗せている。店内を観察しているとやせ細ったやや挙動不審な男が店内に入店してきた。


 そう俺が作戦会議でリーダーに言われたのは、この男、六車が連れ去られる前に鞄を大事そうに抱きかかえて倉庫街に向かっていた警察官と取引をすることらしかった。警察官の顔を見ていたのは、俺だけなので取引には俺がする事となった。とはいえだ全くの素人である俺をそんな六車の安否に関わるような事をさせていいのか? もしこれで俺が失敗したら六車の居場所が判明しないまま下手をすれば――。

 頭の中で最悪の想像を思い浮かべそれをすぐさま頭の外に追いやる。

 やせ細った不健康そうな男が、俺の前までおずおずとやってくると

「君がそうなのか?」

 開口一番そう言った。怯えたような表情と猜疑心を湛えた瞳で。

 まるで判らない、リーダーはこいつをどういう口上で呼び出したんだ? 俺が何だって言うんだ。話を合わせるにしたって情報が少なすぎる……。

 無言の俺をどう読み取ったのか

「まあいい」

 そう言うと店員を呼んだ。

「はいっお呼びでしょうか?」

 そういってにこやかな笑顔でやってきたのは、メイド姿のリーゼだった。思わず叫びそうになった、気持ちを落ち着けようと辺りに視線をやるともうひとりの店員に目が合った。なんとリーダーが女装姿でテーブルを拭きながらこちらに視線を送ってくる、終いには投げキッスまでお見舞いしてくる。いらん……。

 オーダーを執り終えたらしく

「ブラックコーヒー一つ!」

 そう叫ぶとカウンターの方に視線を送る、カウンター丁度男の背中ごしの奥に当たる、わざわざ振り向いて見ようと思わなければ見れない。そこには、杏姫が、自家焙煎の店内でありながら、缶コーヒーをどぼどぼと陶器のカップに移していた、そして移し終えたかと思うと、ポケットから緑陽色のいかにもな怪しい液体をカップに注入しはじめた。

「しかしメイドさんのウェイトレスなんて珍しいね、メイド喫茶でもあるまいし」

 そういって振り返ろうとしたので俺は、咄嗟に話を振る。今振り返られると不味い。

「ところでなんと呼べばいいですか?」

 もっと何かあるだろうが、俺の阿呆。だがそんなどうでもいい質問に人あたりの良さそうな笑顔で応えてくれた。

「ああ、すまない自己紹介していなかったね」

 そう一旦区切ると後ろを向きかけた身体を正面に向きなおす、後ろでは三人が三者三様にグッドサインを送ってくる。

「私は、警察の森薗勇輝と言う」

 そう言うと慣れた手つきで名刺を突き出してくる、それを受け取りながら本名を名乗ろうかどうか一旦の逡巡

「俺は……」

 そこで一旦口ごもる、役職をどうするか悩んでいると前もって準備していたかのように後ろでリーゼが真っ赤な彼岸花を振っている、そのメッセージを受け取ると俺は、

「曼珠沙華の秋月冬弥です」

 と念のため名前を偽った。

 申し合わせたかのように自己紹介が終わるとリーゼがコーヒーを運んでくる。如才なくそれを森薗の前に置くと軽く一礼をすると俺にだけわかるようにウィンクをするとその場を辞去しようとして

「きゃっ」

 と小さな悲鳴と共に跳ねた、殺意がこもった眼差しで森薗の方を一瞥すると森薗からは見えない所まで行くとベーっと子供のように舌を出した。

 森薗が、コーヒーを僅かに含むと苦い表情をする。

「個性的な味だな」

 その時だった、リーダーがやってくる、頼んでもいないカプチーノを俺の目の前に持ってくると

「頑張って淹れたんです全部飲んでくださいね?」

 と色々な意味で悪魔の囁きをして去っていった。

「ははっ」

 と乾いた笑い浮かべ固く目を瞑ったまままだ熱いのだろう湯気の昇るカップを一気に口の中に注ぎ込んだ。

 全てのコーヒーを飲み干すと森薗は、陶器のカップを地面に落下させるパリンと明るい音と共に陶器のカップは、粉々に砕け散る。そして森薗もまた頭を机に打ち付けるようにして気を失った。

 その瞬間を待っていたかのように十名程の女性たちが店内に押し寄せてくる森薗に群がると一気に身ぐるみ一式を剥がしてしまった。隠すべき場所も隠していない哀れな姿だった。

 裸になった森薗を女性たちは一心不乱に油性ペンで落書きをしていた、えもいわれない罵詈雑言を書きなぐっていく。そのすぐ隣で男のパソコンを開くと意識のない森薗の指をパソコンに這わせると指紋認証を突破する。後はパソコンに向かってカタカタといつものようにかじりつくようにして操作を始める。

 リーゼもまた落書きをしようとマジックに手をかけるが俺はその手首を掴んで制止する

「やめとけ……」

 そういうと不満層に頬を膨らませる

「えーだってお尻さわられたし」

 そういうと不承不承ペンを収めるとカカトの尖ったヒールで森薗を一発足蹴にする。もしかしたら落書きの方がまだよかったのかもしれない。

 そんな事を考えていると近くで強烈な破壊音が耳を劈く。リーダーが森薗のノートパソコンを地面に叩きつけていた、それだけではなく尖ったヒール部分でげしげしと破壊工作を続ける。

 それで満足すると割れたカップと一緒に回収すると身近にいた女性にそれを渡す。それを合図に森薗を後ろ手に縛り上げるとそのまま女性たちと共にどこかへ行ってしまった。

「廃棄処分」

 そう杏姫が呟いた。


 リーダーが、成果を見せびらかせるようにしてフラッシュメモリーを掲げると

「さて本物の店主が来る前にとんずらするぞ、女子トイレの窓が裏通りと繋がってる」

 そういうとさっさと女子トイレの方へ向かってしまった。

 俺もそれについていく、リーダー、リーゼとリーダに手伝われながら杏姫も脱出、リーゼも軽い身のこなしで脱出すると最後の俺が窓に足をかけると店内からカランという心地いい誰かが入店する音が聞こえてきた。どうやら本物の店主が来たらしい。俺は、森薗に貰った名刺を女子トイレに投げ捨てると急いで窓を閉めるとそこから飛び降りた。


 学校へ戻るとリーダーは、自室に篭ってしまった。俺は、手持ち無沙汰になりどこへ向かおうか悩んでいると二回から外を眺めていた俺の背中に話しかける声があった。

「トーヤ、ここは男子禁制だって前に言ったよね?」

 そう俺をトーヤと呼ぶのはリーゼしかいない。

「ああすまない」

 そう気のない返事をする。リーゼは、メイド服から着替えたらしく全身は濃紺のワンピースで頭には、メイドカチューシャの代わりに片側にリボンのついた黒いカチューシャが乗せられていた。少し離れた場所にいるというのに花の香りが鼻孔をくすぐる。

「シャワー浴びてきた」

 言葉の意味がよくわからなくて

「そうか」

 とだけ答える。リーゼも俺の隣で外を眺めると不意にこちらを見て鼻をすんすん言わせる。

「……」

 考え込むようにして前髪を撫でる。

「今なら大丈夫だよね」

 そう、この距離じゃないと聞こえないような声で独白すると俺の手を掴むとリーゼの部屋である図書室がある方ではない通路まで連れて行くと小さな扉の前で止まった。扉の脇に置かれていた使用中の立札を扉に掛けると俺をその中に押し込んだ。

「ここシャワー室になってるんだよ、元々が修道女の学校だったみたいで教員含めて男子はいなかったみたいだからここにしかないんだ」

 そういうと俺の前にどこから持ってきたのか籠を差し出す。

「ここに着替え入れてね、後で洗っておくから」

 『洗うのは、私じゃないんだけどね』そう付け足すと外に出ようととする。慌ててそれを呼び止める。

「まってくれ、俺着替えなんて持ってないぞ」

「あ」

 失念していたかのようにリーゼがお淑やかに三本指を口にあてがう。

「とりあえずシャワー入ってて、その間になんとかするから」

 そういうと慌てて部屋を出て行ってしまった。仕方がないので籠の中に衣服を脱ぎ捨てるとシャワーを浴びることとする。

 正直な話、シャワーを浴びたかった、コンテナ埠頭で襲われて気を失って、目が覚めると医務室にいてそれから警察官の男と出会ってとシャワーを浴びる暇がなかったのだ。

 俺は、久々のシャワーを時間も忘れて堪能していたようでリーゼが、入ってくるのも気がつかなかった。

「着替えここにおいておくね」

 そう声をかけられてびくっとしてしまった。

「リーゼか?」

 そう声をかけ脱衣所と隔てられた目隠しのカーテンに手をかける、俺としては少し顔を出すだけの気持ちだったのだけど、それを勘違いしたらしくリーゼは、大慌てで

「ひゃっまだ出てきちゃだめっ私いるんだからね、ばかっ」

 そういうと一目散に部屋を出て行ってしまった。いちいち慌ただしい奴だそう思いながら俺は、カーテンを開く。


 部屋を出るとそこにリーゼが、居た。

「あっよかったサイズ合ったみたい」

 そういうと少し視線を下げて複雑そうな表情をする。

「風、当たりにいこう」

 そういうとまたまた俺の手を引くと一階に降りると学校の本校部分じゃない孤立した時計台の屋上へと連れて行く。

 屋上へ到着すると言うか言わないか悩むように口を開きかけ、それから一文字に塞ぐという行為を二度三度繰り返すと、小さく息を吐くと

「その服ね、私のなの」

 と照れくさそうにそう告げた、そしてこれが一番大事というように

「えっと、その下着もね……」

 完全に俯くと

「私、寝るとき、男物の下着つけて寝るから……」

 そこまでは、聞いちゃいないんだけどな、泣きそうなリーゼの表情を見るとそんな事も言えなくなってしまった。俺もまた小さく溜息を吐くとこっそりと衣服から取り出しておいたショッピングモールで買ったかんざしを取り出すとなおもうつむいて全く前を見ないリーゼの頭のカチューシャを取り外すと代わりにかかんざしを刺そうとしたが、髪の隙間からかんざしが抜け落ちてしまい俺はそれをかろうじで受け止める。

 流石にリーゼも気がついたようにそれを凝視する。

「それは?」

 と聞かれてしまった。

「えっとかんざし……プレゼント」

 と間の抜けた受け答えをしてしまう。

「ふふっ」

 そう初めて会った時のようなお嬢様のような含み笑いをすると俺の手からかんざしだけを受け取ると、慣れた手つきで後ろ髪の大きく一周ぐるっと攪拌するようにねじるとそこにかんざしを突き刺した。仕上げとばかりに後ろ髪を引っ張るように散らす。

「ありがと」

 そう微笑むと『いい機会だから』とそう前置きをすると

「私ねリーゼ・レイン・フォルテって自己紹介したけどね、本当は、天川小葵って言うの」

 それだけ言うとこれ以上は何も言えないと言うように黙りこくってしまった。しばらくだまり続けると靴を脱ぎ捨てると足を放り出すように時計台の淵に座り自分のすぐ隣の地面をとんとんと二度叩く。俺は、促されるままにそこに座った。


「似合ってるね」

 話を変えようとしているとわかったので俺もそれに付き合う。大きめのブラウスの胸元を摘むようにひらひらっと仰ぎながら

「そうだな、悪くない」

 と思ってもないこと言うとジーンズにも目を向ける。ブラウスは、まあいいカッターシャツだと思えばいい、中に着ているシャツもリーゼのものだということで胸元に結構余裕があって着心地もよかった、だがジーンズというのはどうも窮屈だった。リーゼは、あまり肉付きがよくないほっそりとした長い脚を素足で放り出している。外からみてもかなり細いということがわかった。

「リーゼ、そろそろ冷えてきた、戻ろうか」

 そう言うと一瞬寂寞の表情を浮かべると

「うん……」

 とそう呟いた。

 学校棟に戻る途中に手に持っていたカチューシャを面白半分で頭に装着される。そのまま校舎に戻ると校舎の入口にリーダーがぼろぼろの本を片手につったっていた。ツインテールで依然としてメイド服のままだった。そして俺の威姿を一通り眺めると

「男、やめたのか?」

 と自分の姿を棚に上げて引きつった顔でそう言われた。隣のリーゼはというと、他人ごとのように腹を抱えて笑い転げていた。


  三人でリーダーの部屋へ向かう。そこには、既に杏姫や喫茶店で森薗にやりたい放題していた女メイド集団が居た。

「おそってか……南谷ちゃんその格好どうしたんだ」

 ここに来るあいだに散々リーダーにからかわれたからもう慣れた。俺は言う。

「着替えがなかったからリーゼのを借りたんだよ」

 透けるように白いブラウスを見せびらかすように両手を広げてやる。からかうつもりだったららしい杏姫が、堂々としている俺を見て口を一文字に閉じてしまった。開き直っただけだけどな。隣でリーゼがくすくすと笑っている。

「どうだ」

 とどや顔をすると自棄になっている俺の顔を見るなり

「本当に似合っているのにな」

 と嬉しくない本音を漏らす。


 俺たちのやり取りを待っていたリーダーは、机をこんこんと二度ほどノックして注視を促す。

「突然だが、明日六車陽花の救出に向かう」

 本当に突然だ。メイドたちもそう思ったらしくどよどよと騒ぎがやがやと不満を漏らす。杏姫はそれを見て加えていたキセルで椅子の足を叩いた。カーンという小気味良い音がよく響いた、周りは水を打ったように静まり返る。それで杏姫は、満足したように何事もなかったように再びキセルを咥える。

「作戦は、二手に別れてもらう」

 リーダーは、全体を見渡すと荘厳に告げた

「一つは、陽動だ、とにかく暴れてもらう」

 リーダーの視線が俺に留まる

「そしてもう一つは、少人数での侵入と救出」

 そう言うと窓際の真っ黒なカーテンを一気に引いて締切るとそこに光を当てた、どうやら映像らしい。そこに写っていたのは、一言で言えば巨大なリゾートホテルのような建造物。白く清潔感のある建物に周りは、街路樹と高い塀に囲まれていた。そしてリーダーは、少し頼りない発言をする。

「ここのどこかに六車陽花は囚えられている」

 思わず口に出た。

「どこかってそんな……」

 リーダーは、不敵に笑う

「それを見つけるのが、南谷冬弥、そしてリーゼ・レイン・フォルテ君たちの役目だよ、あとは全員陽動だ」

 そして付け加えるようにして言う

「所在地は、端末に送っておいた」

 そういうとリーダーは、一つの手のひらサイズの機械を俺に向かって投げてよこした、咄嗟にそれを受け取る。それは、必要最小限のボタンの付いた小さな端末だった、画面には赤い点が無数に集結していた。

「これは?」

「端末だ、地図と発信機そして爆弾としての機能が備わっている、端末のストラップを引き抜くと時限装置が作動する仕組みになっている」

「作戦開始時間は、明日の早朝四時、じゃ解散!」

 と最小限の説明を終えると手の甲を翻し解散の合図とした。


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