そして
ああ、なんで俺は三つも赤点取ったんだろう。なんでもっとちゃんと勉強しなかったんだろう。章輔といる時間が減るとわかっていたら、絶対死ぬ気で赤点回避したのに。
なんで先生はもっと事前に補習のことを言わなかったんだろう。先生だって、補習なんて面倒臭いだろうに。テスト当日にそんなこと言われても手遅れだ。
補習期間は二週間。時間は昼の1時から。なんだってそんな暑さもそろそろピークを迎えようって時間に学校に行かなくちゃならないんだ。
駄目元で章輔に言ってみた。
「毎日送り迎えして(ハァト)」
「無理」
「お願い(ハァト)」
「キモい死ね」
死ねってひどい。
…わかってたけど、即答か…。
5時。
疲れた。やっと帰れる。章輔のいない学校はつまらない。章輔に会いたい。今から会いたいって言って、会ってくれるかな?
歩きながらメールしよ…。
下駄箱で靴を履き替える。
誰かがやってきた。廊下からでなく、玄関の外から。…今から学校に用事か?ご苦労だな。
その誰かは俺の近くに来た。この辺の下駄箱ってことは同じ学年か。
「栄嗣」
名前を呼ばれて、驚いて顔を上げた。まさか知り合いだと思わなかった。
顔を上げて、もっと驚いた。まさかその知り合いが、
「…章輔」
その知り合いが、章輔だったなんて!
「…どうしたの?何か、用事?」
嬉しさに、声が少し震えてしまった。章輔に会えるなんて!もちろんこの後「会いたい」ってメールして、会うつもりだったけど。こんなに早く会えるなんて。学校で会えるなんて思ってなかった。章輔は何の用事か知らないけれど、凄い偶然。凄いタイミングだ。
もし邪魔じゃなければ、その用事が終わるまで待って、一緒に帰りたい。
「…迎えに来たんだけど」
…えっ?
「何だよ。迎えに来いって言ったのはお前だろ。冗談だったのかよ?」
「う、ううん。冗談じゃない」
冗談じゃないけど、まさか、本当に迎えに来てもらえるなんて微塵も思ってなかった。どうしよう。嬉しい。心臓が、ドキドキする。
章輔が、俺のために、迎えに来てくれた。
「じゃあ、帰るぞ。」
「…うん。」
靴を履き終えて、立ち上がった。
「章輔」
「ん?」
「ギュッてしていい?」
「よくない」
「じゃあチューは」
「死ね」
死ねってひどい。
「…何ならさせてくれるの」
「何もさせない。これ以上アホなこと言うなら置いて帰る」
「すいませんでしたっ!」
くるりと、俺に背を向けて歩き出す章輔に、走って追いつく。
そっと袖の端を摘んでみた。振りほどかれるかと思ったけど、章輔は俺を一瞥しただけで何も言わず、何もしなかった。袖くらいは許してくれたみたいだ。
どうしよう。凄く幸せだ。
二人並んで歩く。ずっとこうして一緒にいたい。章輔の横顔を見ながらそう思った。
歩きながら。
「章輔」
「何だ」
「章輔ん家行っていい?」
「ああ」
「一緒に宿題しよ」
「ああ」
「…へへへ」
…幸せ過ぎて、死にそう。
「キモい」
「章輔…」
「おい。触るな。離せ」
「無理」
「死ね」
死ねってひどい。
「チューしてくれたら死ぬ」
「意味がわからん」
…ああ、俺マジで、章輔が好きだ。
繋いだ手の感触に、ドキドキが収まらない。もっと触ってたい。もっと…ずっと一緒にいたい。
夏休み、やっぱり凄く楽しみだ。




