好きな子の匂いは酒の味
「よいしょ、ふーっ」
優斗は絵瑠と共に保健室へ担ぎ込まれる。木下さんが、倒れた優斗もろとも絵瑠を運んできてくれた。華奢な見た目と裏腹に意外と怪力らしい。
「あ、ごめ、木下さん」
意識を取り戻した優斗は申し訳なさそうに言う。ずっと憧れていた人に額を触られたのだ、失神するのも無理は無い。
(このまま時が止まってしまえば良いのに、、、)
木下さんとこんな近距離で、しかも2人きり、絵瑠は寝ている。優斗は完全に酔っていた。木下さんの甘い香りでくらくらとしてくる。しかし、木下さん本人はそんな事微塵も気にしておらず、それどころか優斗と絵瑠を交互に見やり、言った。
「もしかして、、、カノジョ?」
あまりに唐突だった。木下さんは平気な顔ですごいことを言ってくる。おそらく、先ほどの耳打ちを見ていたのだろう。ベッドの中の絵瑠もビクゥ!と反応し、悶えている。普通ならば、
「いやいや、彼女は僕の従姉妹で、、、」
と言えるのだが、今の優斗は冷静さを欠いていた。つい、これまでのこと、、、絵瑠の正体、アイノミコト、自らが神主だと言うこと。洗いざらい喋ってしまった。とにかく、木下さんに絵瑠と付き合っていないことを弁明するのに必死だった。最後にみんなには従姉妹だと言う事に、と言えたのは僅かな平常心の端くれだった。
「ふーん、、、で?好きな人ってだれなの?」
木下さんは何故か、絵瑠が天使だと言うことを疑っていない様子。それどころか興味津々で恋バナを仕掛けてくる。もしかしたら全く信じていないのかもしれない。ところが、優斗はと言えば、、、
チャンス!優斗は謎の思考に至っていた。
(今、木下さんに絵瑠と付き合っていないと伝えたばかり。このまま全て木下さんのためだと伝えれば、、、ムードは最高!)
優斗は木下さん成分に酔っており、故に冷静な判断が出来なくなっていたのだ。
「今なら言える!僕の好きな人は好きな人は、、、」
木下さん、と言おうとした所で、
メキッ
脇腹に鋭い痛みを覚える。見ると絵瑠の蹴りが脇腹にめり込んでいた。
「かはっ!」
そのままベッドに倒れ伏す優斗。ゴホゴホとむせ返ってから、
「何すんだてめぇ!」
もはや天使に対する敬意など無くなっていた。目の前にいるのは悪魔、とすらも思った。
「お前せっかく俺が、きn...」
木下さんに告白するところだったのに、そう言いかけた所でふと我に帰る。
「あれ、起きたの?じゃあ安心だね。邪魔者はバイバイしよーっと」
この言い方から察するに、まだ優斗と絵瑠の関係を疑っているらしい。そして言葉通り保健室から出ていった。
「あれ?木下さんは?」
きょろきょろと周りを見渡し、不思議そうな顔をする優斗に
「逆に何故あれで成功するんだ?」
あぁん?とガン飛ばしてくる絵瑠。顔が整っている故に迫力がある。
ふと、冷静に自分がしようとしていた事を思い出す優斗。数秒後、顔がじわじわと赤く染まっていく。
「あああぁぁ俺はなんて事をしようと、、、」
そして木下さんに絵瑠が天使だと言う事を話してしまった事も思い出す。
さあぁぁ今度は顔が青く染まる。
「大丈夫、あんな事誰も信じないよ」
絵瑠は自分の事を心配してくれていると思っているのか、ぶっきらぼうだが優しげに語りかける。しかし、本当に大事なのはそこでは無いのだ。
「木下さんに中二病だって思われてるかもぉ」
優斗は弱々しく呟く。そこでようやく、優斗は自分ではなく木下さんからの印象を心配しているのだと気づいた絵瑠。じんわりと温まっていた心もさっと冷える。
「大丈夫、、、お前の戯言なんて信じるわけないだろ」
相変わらずぶっきらぼうだが今度は優しさ皆無だ。
「おい優斗、教室行くぞ。」
ガキ大将の様な台詞を口にした絵瑠は、そのまま優斗の首根っこをぐわしと掴み、教室へ連行する。
だが、この後絵瑠の意外な弱点が露呈しようとは二人とも夢にも思わなかった。




