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君は天使かヒロインか  作者: 快速海月
3/5

同人作家・天使先輩

優斗は絵瑠の待っている教室へ向かった。足取りは心なしかフラフラとしており頭を抑えている様子はまるで熱にうなされているかのようだ。無理はない。この数日で2人の天使と出会い、その1人は自分の担任教師だというのだから。あまりにリアリティが無さすぎる。優斗はこの世界が自分の夢だと言われたら、なんの疑いもなく信じただろう。しかしこれは現実である。頬をつねれば痛いし、叩かれたお尻もまだ赤く腫れている。そんなことを考えていると不意に、

「おはよう優斗君」

後ろから話しかけられる。恐らく優斗が学校で最も聞いたであろう生徒の声、この理知的で感情の読み取れないニヒルな声は、

「天使先輩、、、」

天使先輩、本名宇多瑞稀。優斗の属する文芸部の部長である。と言っても僕と先輩だけ。

天使先輩、というのはペンネーム。つまり、

「優斗君、ボクの新しい同人誌を見てくれ。」

優斗に突き出されたのは、幼児アニメ「きゅるきゅるポン」の同人誌。そう、先輩は同人作家なのだ。勿論内容は大人向け、渾身のR18である。

「いや、先輩、、、よくこんな対象年齢3歳のアニメを、つるぺたに見立てれますね。」

優斗は、尊敬と呆れの籠った眼差しを向ける。どうしてこの人は同人誌を描くのだろう。そう思ったこともある。

そう思われても仕方のないほど、先輩は美しい。今はおかっぱにメガネという破滅的センスだが、刺さる人には刺さっており、隠れファンも多い。それほどの美貌を持っているのだから、少しオシャレに気を遣えばたちまち木下さんレベルにはいけるはずだ。だが何故かそうしないのと、R18同人誌を描いているのとで、裏の人気者で収まっている。(本当に勿体無い人だ。)そう考えながら同人誌に目を落とす。飛び込んできたのは、悪の組織に一方的に蹂躙される主人公たち。絵柄も原作と寸分違わぬクオリティである。優斗は思わず感想を口に出してしまう。

「えっっろ!これは凄いです!これなら完売も夢じゃありません。」

そうは言ってもこの先輩の描く同人誌は、本当にえろい。だから優斗はなんだかんだでこの先輩を尊敬してしまっているのだ。

「今日も文芸部来るよね?待ってるから。」

中学で木下さんばかりを追いかけ、友達のいない優斗は、いつしかこの文芸部が唯一の居場所となっていた。

グラウンドから聞こえる青春の音を横目に、先輩と過ごす時間は何故か木下さんのことを忘れさせてくれるのだ。

まあ、過ごすと言っても優斗は先輩のアシスタントの様なもので、今ではもうプロと遜色の無い仕事っぷりを発揮していた。

「すみません今日は行けないいんです、ちょっと家の事で。」

いや、今日どころかもう来れなくなるかも知れない。ラブリエルと帰って作戦会議をしなくては。

「え、どうして?」

その瞬間、先輩は心底意外そうな顔で聞いてくる。

「実は僕の家に従姉妹が来てて、世話してやらないと行けないんです。うちに転校してるはずですけど。」

先輩の眉がピクッと上がった。先輩はなにかを堪えるかの様に数回息をした後、こう言った。

「ちょっと放課後ソイツを連れて来い。すぐにだ。お前も来いよ。」

いつもの先輩とは圧倒的に違う、相変わらずニヒルな声だが口調がおかしい通常装備のポーカーフェイスも心なしか怒っており、ヤクザかのような目付きへと変わっている。

「いいよ、授業行ってきな引き止めて悪かったね。」

いつのまにかいつもの様子へと戻った先輩に急かされるように、

「あぁはい。行って来ます」

優斗は教室へと再度向かう。何だったのだろう、あれはいつもの先輩ではなかった。1人でモヤモヤしながら教室へ入ると、

「お願いです絵瑠さん、僕とご飯に」

「いや、俺とゲームセンターに」

「いやいや、僕の家で勉強でも」

男たちの野太い声がクラス中に響いていた。ふと声の方角を見る。ラブリエルを取り囲むように頭を下げるクラスメイト。先ほどの大声はこの男達らしい、様子から察するに絵瑠を口説いている模様。無理もない。何せラブリエルこと愛莉絵瑠は銀髪の美少女なのだ。木下さんに出会っていなかったなら、優斗でも惚れていたかもしれない。これまで可愛い女子が木下さんくらいだったこの教室に突如として現れた転校生は、野郎共からするとまさに天使であろう。優斗は絵瑠に見つからないよう席へ急ぐ。見つかりでもしたら面倒くさい事になりそうだ。しかし天使の慧眼は全てを見透かす。

「あぁ見つけた。優斗これはどういう事」

耳を掴まれる。声の主はもちろん絵瑠。肩を掴んだのも絵瑠だ。そのまま優斗は耳をぐいと引っ張られ。

「何かドッキリでもしてるの。面んないからやめろ」

(こいつは自覚が無いのか。やれやれ)

優斗はこっそり耳打ちしてやる。

「お前が美人だから誘われてるの。モテてるんだよ。」

「へ?」

絵瑠は一瞬、理解できないという風に固まった。しかしすぐに理解すると。

「あわわわわわ」

顔を真っ赤にしてのたうち回る。しまった、絵瑠に自身の色恋沙汰はNGだった。

「だ、誰か保健委員」

優斗が叫ぶと、

「まっかせて!」

木下さんが来てくれる。

(マズイ!僕は木下さんを目の前にすると緊張して、、、)

「え、えとその、、、一緒に運んで下さい。」

優斗は緊張してどもりながらも頼む。

「はい任せて、せーの!」

絵瑠の肩を、木下さんと片方ずつ担ぐ。木下さんの横顔が近くに来た優斗。緊張で今にも倒れそうだ。

「優斗君フラフラしているけど大丈夫?熱あるのかな?」

優斗の額に木下さんのひんやりとした手が添えられる。

「〜〜〜〜ッッッッッ!!!!」

限界だ。優斗は絵瑠の下敷きになり倒れた。

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