婚約破棄された令嬢は前世妖狐でモフラーでした。獣人領主に嫁がられて、「お前を愛する事はない」って言われたけど、せめてモフッちゃダメですか?
「リリエラ・フォクシー子爵令嬢、君との婚約を破棄する!」
栗色の艶やかな髪をバサッと掻き上げ、ジェームス・ワドル伯爵令息が声高々に宣言する。腕には私の義妹であるミシェル・フォクシーをぶら下げて。ミシェル、お胸を殿方の腕に擦り付けるのは良くないと、何度も注意し出したのに。ほら、周りが呆れた目を向けていてよ。
婚約者であるジェームス様、いえ、婚約破棄されたのならワドル伯爵令息でしょうか。まだ、正式には婚約破棄が成立していないなら、お名前呼びでも大丈夫かしら。まあ、どちらでも良いですけど、ほとんど交流がなかったですし。
「婚約者同士のお茶会」には、ほとんどミシェルが同席していましたわ。最初のうちは物珍しいからかと、軽く考えていたのですが、だんだんと、ミシェルがジェームス様とわたくし以上に近づきになりたいのだろうと思えてきました。ジェームス様も、ミシェルに甘えられて満更では無さそうでした。父も義母も止めません。むしろ、ジェームス様がミシェルと懇意になることを望んでいるかの様でしたわ。
だから、婚約破棄を宣言されても、驚きませんでした。
「君は、ミシェルに嫉妬して暴言を繰り返していたそうだな。
そんな君をミシェルの側には置いておけない。それに、婚約者がいないのも、困るだろう? だから、君の婚約相手を見つけてきたぞ」
「は?」
婚約破棄は予想していましたが、他の婚約相手を当てがわれるなど、想定外です! もし婚約が解消されるような事になったら、家を出ようと密かに貯蓄をしていましたのに。
ジェームス様とミシェルは、私が驚いた様子を見て満足したのでしょうか。ニヤニヤ口元を緩めて笑っています。
笑っていられるのも今のうちです。わたくしが家をでたら、フォクシー子爵家は、やっていけるのでしょうか。実家の仕事の大半はわたくしが担っておりましたのに。……そう言えば、ジェームス様の学園の課題を片付けているのもわたくしでした。
ミシェルのレポートなども書かされました。私は、単位を取れるうちに可能な限り取得するようにしていて、いつでも卒業出来る状態だったから何とかなりました。他の方には課題を押し付けるような行動はしないでいただきたいですわね。
「相手はあの悪名高い【狼辺境伯】ルドルフ・イェーガー辺境伯だ!」
「狼」と聞いてピクッとわたくしの隠れ耳が反応しそうになりました。同時に、かつて見た狼の記憶が次々に浮かび上がってきました。「狼辺境伯様」は、モフモフした毛皮をお持ちかしら。いけない、尻尾が揺れてしまいそう。……尻尾?
尻尾……、一尾時代……。頑張って三尾になって……。でも、あと一歩で九尾に届かなくって……。
一体いつの話?っていうくらい古い光景が浮かんでくる。そうだ、私は妖狐だった。三尾の狐。今はリリエラ・フォクシーという名前の人間なのは確かだから、私、生まれ変わったのね。生まれ変わる前が妖狐だったの。
人間になりたいなって思った事もある。でも、妖狐に生まれたからには九尾を目指そうと頑張ってましたわ。
三尾まで行って、後ちょっとって思ったんですけどねぇ。
ほんのり苦い気持ちになる。今更どうしようもないけど。
それより、さっき聞いた話よ。
「狼辺境伯様」って、狼の獣人かしら。
この国は数年前に、獣人の国を併合した。獣人達は、北の辺境の地に集められていると聞いたわ。その地の一部の領主様って事ですわね。
あまり詳しくないのは、噂でしか聞いた事がないからですの。授業でも、併合した時の闘いの英雄や、勝利をもたらした聖女様の事くらいしか習わないわ。それも、さらっとね。
狼獣人だったら、お耳はモフモフかしら。尻尾も絶対モフモフよね。
ダメだわ。ニヤける場面じゃなかったわね。私、妖狐の頃からモフラーなの。
猫さんとかに、モフらせてってせがんで嫌われちゃったこともあったわね。 自分の尻尾をモフれ? それはそれ、あれはあれ、でしょ。勿論、私の尻尾の手触りは最高よ。しかも三尾もあるんですのよ。
でも、気になってしまうの。モフモフ。
「聞いているのか! リリエラ!」
ジェームス様の怒鳴り声でモフモフ妄想が掻き消されてしまいましたわ。もう、うるさい人ね。ちょっと黙って!
つい、前世のクセが出て、ジェームス様の喉を見つめながら手をヒラヒラさせました。
「リリ……。……ゴホ! ゴホゴホ!」
途端にジェームス様が咳き込んで押し黙りました。あれ? 妖術効いてる? やっばー! なしなし! 今のなし!
慌てて更に手をヒラヒラさせて、妖術を取り消します。
「ゴホッ……。ん、んんん! ああ!」
「ジェームス様大丈夫ですか?」
「あ、ああ、心配してくれてありがとう。ミシェルは優しいな。
リリエラのせいで、つい声を荒げてしまって、喉に負担がかかったようだ」
「まあ! ……酷いですわ! お義姉様!」
キッと、私の事を睨むミシェル。
はあ? この文脈で、私が酷いというわけかしら?
まあ、私がやりましたけど?
呆れていると、ジェームス様が放った紙が私の足元にスルーっと飛んできました。
「婚約証明書」
私とイェーガー辺境伯との婚約を証明する書類。父のサインまで記入してあります。
そういうこと?
いつの間にか、ジェームス様との婚約はとっくに解消されていて、私は北の「狼辺境伯」様と、正式に婚約を結んでいるということ。
父のサインがあるという事は、家族ぐるみで仕組んだのね。
既に婚約解消しているにも、関わらず、見せしめみたいに、学園の卒業パーティーで他の貴族が、見ている前で宣言するとは……。
少し目を細め、周囲を何気ない素振りで見回します。ニヤニヤして見ている人達、覚えましたわよ!
私は、指一本分だけヒョイと動かしました。
「ゴホ!」
「ゴホン!」
あちこちで咳が聞こえます。しばらく咳が続く妖術、かけておきました。
ジェームス様も、暫く咳とお友達になってくださいませね。ミシェルは、違うのがよいかしら。えい!
「ヒィック! ??」
よし、成功ですわ! 暫くシャックリが続く妖術ですわよ! 今まで義母と一緒になって私をいびってきたのだから、この位、良ろしいんじゃなくて?
「ゴホッ、と、とにかく……、もう決まった、ゴホッ、事だ……」
「ヒィック」
咳が酷くなって、ジェームス様が段々トーンダウンしていきます。このタイミングで退散しちゃいましょう!
ボソリと「承りました」と小さく呟いて、カーテシーをしてから、くるりと踵を返して会場を後にしました。
背後で何か呼び止めるような声がしたけど、咳ばかりで聞き取れませんでしたわ。
卒業証明書はもう手にしているから、これ以上学園に残る必要はないのです。後は実家だけど、王都のタウンハウスに私の私物はほぼない。制服と少し筆記用具があるくらいかしら。
亡くなったお母様のドレスの大半、宝石類の一部は、義母と義妹に取り上げられてしまいました。今日のドレスだって古い物を自分で手直ししたのです。
ドレスの下にドレス二枚着込んでいます。ドレスに隠しポケットを幾つか作っていて、宝石類とお金を隠しています。何となく予感がして、このまま逃げ出そうと準備してたのよね。
前世の記憶が蘇る前だったのに、偉いんじゃないかしら? 私。
お金の大半は商業ギルドの通称名の口座に入れてあります。
手元に残しているのは、当面の食事代や宿泊費など。
学園の門を出ました。門の中の広場は、生徒達の迎えの馬車が一杯。入りきらなくて、門の外にも行列が出来ています。
行列にもルールがあって、迎えの馬車の列は道路の片側だけ。反対側には辻馬車が数台並んでいます。
私のように家から馬車を出してもらえない人向けでしょうか
辻馬車に行き先を告げます。
「……市場にお願い」
このまま、ささっと辻馬車に乗り込んで、狼辺境伯領に向かえばスマートなさ感じもするけど、辻馬車は長距離用じゃないから行けても、王都の北門まで。しかも、辺境伯領までは何日もかかるはず。それと恐らく寒いでしょう。
まずは防寒具と当面の食べ物の確保ですわね。それと、長期間馬車の運行予定の確認をしましょう。
辻馬車に揺られながら、次にやるべき事を考えます。
もし、婚約解消とかされたら、実家に縛られずに暮らせる場所に逃げようと思っていました。でも、私は、勝手に決められた婚約相手「狼辺境伯」に会いに行こうとしています。
だって、モフモフなのか、気になるじゃないですか?
ホント、それだけなのですけどね。
……ただ、前世で身につけた妖術が使えなかったら、もっと慎重になってたかしら。妖術を使えば逃げたりするのも容易になりますからね。でも油断はしないようにしないと、いけませんね。
ジャリッ
隠しポケットの宝石がぶつかって小さく音を立てました。結構重いのです。
「そうだわ。『隠し袋』」
三尾になってから得た妖術の一つ、異空間に物をしまっておく能力を使うことにしました。
「隠し袋」に宝石類全部と一部を除くお金を閉まってしまいます。
袋が閉じる直前に、目録がチラリと見えました。ギョッとして、もう一度「隠し袋」を開いて中身を確認します。
「リンゴ58023個、梨34670個って……。……まだ食べられるのかしら……」
「隠し袋」は、どうやら前世で入れたものがそのまま入っているみたいです。リンゴと梨……、入れたのは私ですわね? 何しろ三百年位、生きてたから、少しずつ蓄えた結果ですわね。
他に今でも使えそうなものがありました。
提灯とか、竹の水筒とか。懐中電灯とかもありましたけど、電化製品は、安易には人前にだせません。
電気がなかった時代のものなら、「異国の品」って事で使えそうですが。でも目立たないようにしたほうが良いでしょう。
市場まで行って、外套と何枚かの着替えを購入。試着させてもらって、そのまま着替えて旅装姿になります。重ね着してたドレスは、1番上に着ていたもの以外は、「隠し袋」の中です。
髪を後ろに束ね、帽子を被り、遠くから見たら男性に見えそうな感じにします。近くで見たら女性なのはバレバレですけれど、遠目から狙われにくくしておく作戦です。
旅装が整ったら食糧調達です。夕方の市は結構投げ売りが多く色々なものがお安く買えました。
「馬はいらんかね」
「……」
聞き違いかと思って振り返りました。まさか馬肉として? って思ったら、普通に馬二頭並んでいました。
旅装姿の若い男女が並んで立っていて、女性の方が馬の値段が書かれたボードを手にしていました。
馬が不要になったのかと、聞いてみたところ、彼らは恋人同士で、それぞれ手持ちの馬車で王都にやってきて合流したそうです。明日王都を立つ予定なので、資金作りに、女性側の馬車と馬を売ろうとしていたとうわけのようです。
「商業ギルドに行ったら、急ぎだって事で足元見られたらのか、買い値の半分くらいの安い金額を提示されて……。ここで売ってみて、ダメなら明日商業ギルドで買い取ってもらう予定です」
「買います!馬車も売ってるならそれも」
即決してしまいました。逃亡を考えた時馬車の購入は検討したから、男女が提示している金額は破格だとわかります。これより、ずっと安い金額を提示する商業ギルドはどうなのか、とも、少し考えますが、もし馬が病気だった場合など、短時間で検証出来ないリスクを考えると仕方なかったかもしれませんね。
長距離用馬車に乗るつもりでしたけど、気が変わって、自前の馬車で旅立つ事にしました。胸が高まりますわ!
大急ぎで野営グッズを買い漁り、日暮れより前に王都を出ました。
妖術で馬車ごと気配を分かりづらくして、気配察知しながら慎重に進みます。
開けた野営用らしき広場を見つけて、馬車を停めました。水が流れる音が聞こえるから水場があるのでしょう。
一旦、「隠し袋」に馬車を仕舞って馬を連れて水場に向かいました。
山から流れてくる川の支流でしょうか、飛び越えられそうな小さな川を見つけました。桶で水を汲んで馬達に飲ませます。
馬車を含め、所持品は「隠し袋」の中ですし、野営広場に戻る必要もないか、と、川の近くで火を起こしてお湯を沸かしました。
夕食は市場で買ったシチューとパン。シチューはまだ、熱々。パンもホカホカ。沸かした湯でお茶を入れたらなかなかの満足感ですね。
デザートにりんごも食べて落ち着いてから、試したかった事をやってみました。
「変化……、わあ……」
川な水面に映る私の姿は小さい狐にらなっていました。妖狐の時は変化すると、人になっていたけれど逆らしいです。それに尻尾が一本しかない?
「私の尻尾!」
口に出して見たら「呼んだ?」とばかりに尻尾が現れて三尾になりました。どうやら尻尾は気分で増減可能みたいです。三尾より多くは無理ですけど。
更に妖術を試します。変化で手のひらに乗るくらいの小さな狐になることも出来ました。
「あら? この姿で馬に乗ったら、馬の負担がかなり軽減されるんじゃないかしら」
馬車は「隠し袋」に仕舞って、小さい狐の姿で馬の背に乗ります。側から見たら、馬が二頭だけで走っていて、「はぐれ馬」だと思われてしまう可能性がありますの。幻術で、傍目には馬車で移動しているように見せます。
馬車の意味あるのかという感じですけど、途中の街や村ではちゃんと馬車を出しています。馬ちゃん達も、なんだか楽しそうです。
途中、何と盗賊に狙われたらしい事がありました。街道の先で待ち伏せしている人々の気配を感じたのです。かなり手前から察知していたので、馬車の幻影だけ違う方向に進ませて、追いかけさせました。
うっかり、橋が壊れた場所だったのに、幻影はそのまま進ませてしまったわ。後を追ってきた盗賊の人達、無事かしらね。
馬車を引かない分、馬が走る速度が速いです。北の「狼辺境伯領」、イェーガー辺境伯領には思ったより早く着いたんじゃないかと思います。1週間くらいかしら。旅は楽しかったからもう少し長くても良かったと思うほどでした。
流石に、ちゃんと馬車で領門を通過しないと不法かなと思いましたので、領門が見えた頃、馬車出しました。て馬のエマちゃんとユマちゃん(名前をつけたのです)を馬車に繋いで、門に向かいました。
「……む……、商人が?」
「はい。商売もしてますよ」
領門の門番は、身分証はチラッとだけ見て、御者席の私をジロジロ見ました。
感じ悪い。でも虎系の獣人なのか、髪からチラッと丸いお耳が見えています。人相に合わないような可愛らしいお耳でちょっと面白いです。ただボサボサ薄汚れていて、モフリたい感じはしないですけど。
「ここは北の果て、獣人の領地だ。興味本意に来たのなら、さっさと帰った方が良い。寒いし、食べ物も合わんだろうよ!」
「そうですか。でも、せっかくここまで来たので……」
はい、興味本意です!とは言いにくいので、ちょっと見て満足したら帰りますねって感じにしておきます。
「……ここ、領門街エントラは、他領から商人が来る。しかし、その先は、他領の人間は少ない…気をつける事だ」
門番さんは渋い顔をしたまま言いました。あら? もしかして、心配して忠告してくれているのかしら? 耳がボサボサとか言ってごめんなさい、おじさん! ボサボサがちょっと艶やかになるようにしてあげますね!
「ありがとうございます!」
領門を通り抜けながら、小さい妖術を発動させます。毛並みがふわふわモフモフ艶やかになる妖術を門番のおじさんにかけるのです。
この妖術はモフラー妖狐の私オリジナルなんですよ! えっへん!
領門の街エントラは、ちょっと奇妙な雰囲気がありました。他の領地から商人が物を売り来て賑わっているようで何だか殺伐としています。
「あら? 値段違いませんか?」
この地の果物はどうでしょうと、りんごを一個買ってみようとしました。私の前には猫獣人のおばあさをや。モフリ甲斐がありそうな立派な尻尾をしていました。尻尾に注目していましたけど、おばあさんが買った時の様子は覚えています。
『おや、りんごがあるならジャムでも煮ようかね。四つおくれ』
『はいよ! りんご四つで40ギル。銅貨4枚だ。』
そう確かに言っていました。
でも私がリンゴを一つ買おうとしたら50ギル、銅貨5枚って言われましたの。
販売していたおじさんは私の言葉を聞いてギロリと私を睨みました。
「嫌なら、帰っとくれ!」
「わかったわ」
感じ悪そうなので、これ以上揉める前に退散します。なんと言ってもアウェイな場所ですからね。
あのおじさんにはズボンのサスペンダーが片方だけ、暫く落ち続ける妖術をかけちゃいましょう!
手のひらをヒラヒラさせて立ち去ろうとしたら、ジッとこちらを見ている視線を感じました。
野菜売りの人のようです。木箱に野菜が詰めてあります。目が切長。あら、よく見たら狐の獣人さんじゃないですか!
やだ、何だか、親戚に会った感じですわ!
狐の獣人さんの前に置かれた木箱には、人参もありました。エマちゃんとユマちゃんにと思って、人参はあるだけ買います。
「え? 人参全部? 悪いな。不恰好なら人参ばかりだ」
「形は気にしないわよ。馬にあげるの」
言われてみれば、先が曲がったり、二股に分かれたりとか、ちょっと変な形ではありました。料理するとき扱いにくいかもしれないけど、馬に食べさせるなら、問題ありませんわ。
「そうか……、ありがとうよ」
狐獣人のおじさんは、計りで人参の重さを測って値段を告げた後、人参の山の上に小さめのリンゴを2つ乗せました。
「オマケだ」
「え? 良いのですか?」
「不恰好な人参の在庫が消えて助かったからな」
「まあ、ありがとうございます」
吊り目の目を細めて言う狐獣人のおじさん。こそりと、囁きました
「ここは、獣人以外に対して態度が悪い者もいる。さっきみたいに関わらないのが正解だよ」
「え? 獣人じゃないから差別されたのですか? お得意さんとの違いかと思いました」
「ああ、この街は他の街に比べれば外部の人間を受け入れてる方だが、念の為帽子何かを被ってる方が無難だよ」
「わかりました! ありがとうございます!」
馬車で街に入ることに気を取られていて帽子被るの忘れていました! いけませんね!
慌てて帽子を被ります。狐獣人のおじさんにもモフモフツヤツヤの術をかけてあげましょう。
商売の邪魔にならないように、他にもいくつか野菜を買い足しながら、この先の街の外の様子を聞きます。
イェーガー辺境伯領内の他の街は、やはり獣人以外に対する差別というか反感が強いようです。他領との交流を全て断つわけには行かないから、エントラの街では、「妥協」するようにと民に言い聞かせ、他領の人間を許容するようにしているらしいです。鎖国時代の出島みたいですわね。
だから、エントラを出て領内の他の街には一人で行かない方が良いって言われてしまいました。特に若い女性一人なんて危険なんですって。
ええー? どうしましょう!
そのような危険な場所に嫁入りさせられるということですか?
とりあえず、朝イチに一番大きいローブで頭からすっぽり隠して、馬車で街を出ました。
早朝は、街から出て移動する人が多い時間帯です。移動しても目立ちません。でも、気配察知からすると、誰かつけてきてるようです。
街を出て暫くは一本道の街道。少し上り坂になってきたところで妖術で雨を降らします。
空が明るいのに小雨が降りはじめます。ザ「狐の嫁入り」ですわよ! そのまんまでしょ!
でも、私の後方には、雨多めに降らします。
暫く雨の中、馬車を走らせました。地面に水溜りが出来始めたところで、勝負をかけます。
少し馬車の速度を早めます。妖術で背後の地面の泥濘みをマシマシにします。
「わ、なんだ?」
「あー、ぬかるみか」
すぐ後方の馬車が速度を落としました。後をつけて来ているのはこの馬車ではないようです。私の馬車が速度を上げても反応しなかったですし。すぐ後方の馬車の後ろから別の馬車が抜きにかかってきた。この馬車でしょうか。
追い抜きのために馬車が並んだところでグラっと馬車が傾き、隣の馬車と接触しました。
「何だ!」
「……」
「待て! まさかぶつけてこのまま逃げる気か?」
あら、ぶつかってしまいました。ぬかるみでちょっと足止めになればと思っただけなのですけれど。すぐ後方の馬車の人はとばっちりでしたわね。よく見ると犬獣人さんでしょうか? モフモフツヤツヤの妖術かけつおきますね!
速度を上げた私の馬車は前の馬車を追い抜きました。前をゆく馬車が無くなったところで、今度は霧。霧が満ちて、視界が悪くなっていきます。私の前方の道以外は。
後方が濃密な霧で満たされたところで馬車を止めました。馬車を「隠し袋」にしまいます。エマちゃんとユマちゃんは、すでにワクワクした様子です。
狐獣人さんにもらったリンゴを一つずつ、エマちゃんとユマちゃんに上げてから私は小さい狐に姿を変えて、ユマちゃんの背中に飛び乗りました。
それが合図となって二頭同時に駆け出します。飛ぶような勢いです。
危険、と言われる場所であれば少しでも早く通ってしまった方が良いでしょう。領都まで一気に進みます。食べ物のストックは「隠し袋」にあるから、途中の街にも寄らずに駆け抜けてしまっと大丈夫。ただ、エマちゃんとユマちゃんのオヤツのリンゴのストックがあまりなくて、試しに前世の頃から保管されていたリンゴを彼らに上げてみました。
結果大好評!
食事として好評なだけじゃなくて、何だか走る速度が、明らかにパワーアップしたようにも思えます。もしかして、何か、強力アイテムに変化しちゃったのでしょうか……。
エマちゃんとユマちゃんがスピードアップしたおかげで、あっという間に領都に着きました。
領都についたらいよいよ、噂の「狼辺境伯様」を確認する時だわ。どうしましょう? 遠くから眺めてモフモフじゃなかったら退散しましょうか?
……でも、簡単に退散というわけにもいかないでしょう。
何故なら、渡された婚約証明書が本物だとしたら、「狼辺境伯様」は、私が黙って消えたら、当面結婚出来なくなってしまうということなのです。
確か行方不明の届出を出して何年か経てば死亡に準じる扱いで婚約は白紙にされると思うけど……。
そもそも辺境伯様は私が行方不明になったとして、届け出をだすかしら?
「狼辺境伯様」が、会ったことも恐らく家名も聞いた事がないであろう、子爵令嬢と、自ら好んで婚約するとは思えないのですよね。
そうなると、婚約は上からの命令ということになるかしら。
私は経緯など教えてもらえなかったけど、辺境伯様が知っていたら教えていただきたいですわ。
お互い婚約を望んでないなら、当人たちで解約出来ないものなのかも、話し合いたいのです。
もし、全然お話しにならなければ……、その時は「とんずら」すれば良いかしら。「とんずら」って何だか面白い響きですわね。
まずは、辺境伯領の領都の街の様子を見て回るのも良いかもしれないですね。
領都なら他の街より栄えてそうなイメージよね。
旅の外套のフードをすっぽり被り、市場まで来ました。
市場は、まあまあ人が出ているけど、そんなに活気が溢れてはいない印象です。曇りで空がどんよりしているのですけど、街もなんだかどんよりしている感じがしました。
串焼き屋の屋台が出ていたので早速一本買って食べながら散策します。今更ですけれど、前世の妖狐だった記憶を思い出さなかったら、歩きながら食べるなんて、想像も付かなかったでしょう。
串焼きの肉はちょっと硬いけど、味は結構美味しいです。
リンゴはあるかしら、と果物屋の屋台の方に足を向けました。
果物屋の屋台の店主とお客さんの話し声が、聞こえてきました。
「聞いたかい? 領主様が婚約したんだって」
「なんだと? それはめでたい! どこの別嬪さんかい?」
「……それが……、違うんだよ……。王命で、勝手に決まったらしい。領主様はお相手に会ったこともないようだよ」
「はああ? また、あの王家か! 強引に併合した上に、婚約者を勝手に決めただと? ……ま、まさかと思うが、お相手は」
「ああ、人族、だろうよ」
「はあああああ! そんなの許せるのかあ? 獣人の血を薄める気か?」
「そういう事なんだろうねぇ」
聞き耳を立てていた耳がピクピクしてしまいそうです。
聞いた感じ、婚約は歓迎されていなさそうです。
「あの、王家が寄こすんだ。どうせ、地味で冴えない、チンチクリンなんだろう」
うっ。何故ご存じなのかしら?
地味だし、冴えないし、背はあまり高くないし胸板も厚くありません。でも、尻尾は負けませんよ!
通りすがりに貶されたれた気がして、胸に刺さるけども、何となく、今回の経緯が読めた気がしました。
王家は併合した獣人の国の貴族の血を薄めたいのでしょう。あの屋台のおじさんの読み通りに。
それで、「獣人貴族の血を薄める作戦」略して「薄血』の計画を立て、誰か適当な貴族の娘を探していた。貴族の娘なら、一応の体裁は保てますからね。
貴族当主に募集でもかけていたのかもしれません。
それに父だか義母が乗っかったのでしょう。
ジェームス様はいかにも自分が決めてやった、みたいな態度だったけど、どう考えても、ジェームス様に私の婚約相手を決める権限はないですから、「辺境の花嫁募集」のニュースでも聞きつけて、父に進言か何かしたのではないでしょうか。
……そうなると……。
「全然歓迎されないでしょうね……」
ただでさえ、王家ゴリ押しの婚約に加えて、獣人族からすれば、人族への抵抗感があるでしょう。まあ、私は妖狐ですけれど。
こちらも歓迎されることは期待してないですけどね。……あ! あっちの屋台、栗かしら?
焼栗の屋台かと思ったら芋でした。所謂焼き芋じゃなくて、じゃがいもをスライスして鉄板で焼いてた。ホクホクして美味しいです。
お腹を満たして満足したので、辺境伯邸に向かいました。
「……君がリリエラ・フォクシー子爵令嬢か。私はルドルフ・イェーガー。辺境伯だ」
応接室に通されてから10分程して、辺境伯様が姿を現した。見た目は凄い! ピンッて尖った艶やかでフカフカの大きなお耳を持ってらっしゃる。
尻尾もフッカフカ。
一瞬モフラー目線で見てしまい、慌てて膝を曲げて挨拶をしました。
獣人の居住するエリアを今までずっと見てきたけど、領主は最高位ってことでしょうか。
モフ度が違います。
モフオブモフ
キングオブモフ
まあ、私の尻尾はクイーンオブモフですけれど。
もしかして、獣人の爵位ってモフ度で決まるのでしょうか? 圧倒的モフ度。 絶対手触り良さそうです。
「……イェーガー領まで遥々来たという事は、婚約の件が理由という認識で合っているだろうか」
「あ、はい」
私は、持参してきた婚約証明書を相手が見えるように広げて見せました。
辺境伯様は、チラリと目線を婚約証明書に移してから、表情が読めない瞳で私を見つめます。
「……先に言っておくが……」
よく響く渋い声です。話すと同時にフカフカ尻尾がゆっくりと揺れます。
「……君を愛する事はない。
この婚約は、イェーガー家の意向ではなく、私の意思でもない。ラブストライク王家が勝手に決めたものだ」
「え!?」
「私が望んだものと思ったのか。だが違う!」
「いえ……」
今、改めて聞いて驚いたのは、この国の名前でした。勿論知らなかったわけではありません。でも、ハッキリ口に出すのを聞いて、もしかしてゲームの世界?って思ったのです。
私は「ゲーム」というものをする機会はありませんでした。でも、私に羊羹とかお饅頭を出してくれてた人のお孫ちゃんがおばあちゃんに良くゲームの話をしてたのです。
『ラブストライク貴族学園って名前、ビミョー! でも国の名前がラブストライク王国だからなあ!あ、国の名前が微妙なのかぁ』
『主人公たちは、好感度上がってくると、北の獣人居住区で一斉蜂起が起きたのを止めに行ったりするんだよ。その時使うアイテムが、獣魔晶石で……』
『隠しキャラが狼獣人辺境伯で……』
名前が似てるだけでしょうか? 辺境伯様が隠しキャラ?
「……強制的とはいえ、婚約は成立して、しまった。
君がこの屋敷に滞在したいというなら、許可しよう。だが、勘違いするな。
伴侶として受け入れる気持ちはないのだ」
国の名前に驚いて、ちょっと思考がそれてしまったけど、私、拒絶されたのかしら。
まあ、思った通り、辺境伯様の意向とは関係なく決められた婚約って事ですわね。
国の意向だと、当人同士でも解消できないのかしら。
それなら、私が逃亡しようが、素直にお飾りの妻になろうが、辺境伯様が他の人と婚約出来ない状況は変わらないわね。
それなら、逃亡しちゃおうかしら。
でも、その前に……。
「あの……、一つ、質問しても?」
「何だ? 屋敷での生活については後で家令か侍女長に聞いてくれ」
「いえ、あの……。モフリはなしでしょうか」
「……は?」
「愛する事はない、とおっしゃったので。そのご立派な、お耳や尻尾をモフったりすることも許可しないという事でしょうか」
「な、何を言うのだ……!」
それまで無表情だった辺境伯様が困惑したような表情を見せました。
ちょっと大胆な事を言ってしまいました。でも、重要なことなのです。モフリがなしなら、早々に退散しようと思っているのですから。
場合によってはハラスメントになりそうですが、婚約者に今後の、関係を訊ねることは必要な事だと思います。
邪魔に思われながら生活したくないですからね。それじゃ、今までと変わらないじゃないですか。
ノーモフリ、ノーライフ
困惑気味の辺境伯様のお耳がピクピクと揺れました。おお!
「君達、人族にとっては、我々の耳や尻尾など穢らわしいものであろう」
「はあ!?
耳や尻尾が穢らわしいなど……」
私は思わず声を荒げてしまいました。そして三本の尾を見せたました。
ファサーッ
「どう言うことです? 尻尾が穢らわしいと?
まさか私のこの尻尾が穢らわしいとでも仰りたいの?」
返答次第では、この領潰す。
キリキリしながら妖力を集めます。
辺境伯様が驚いた様子で目を見張りました。
「いや、ちょ、ちょっと待て! 尻尾? 君、獣人だったのか?」
「いいえ。妖狐です!
母方の血筋は妖精族ですから、先祖返りですわ」
妖精族なのは本当です。
これは、妖狐だと、明かした時の説明を考えていた時、そもそも、私の母方の先祖は妖精族だった事を思い出したのです。
だから、前世の力が使えるのは母方の祖先の血が強く出たからではないかと、思います。
「妖精族……。百年程前、滅んだと……」
「併合されたのですわ。この国に……」
ふと、領民達が噂をしていた「獣人の血を薄める」って話を思い出しました。妖精族の血も薄められていっているのでしょう。
「そ、……それではその見事な尻尾は……、狐の妖精という事か?」
「はい! 妖狐です!」
見事な尻尾って言われちゃいました! ふふふ。ワサワサ尻尾が揺れちゃいます。
「……不用意な発言であったな。
人族は、尻尾を持たないゆえに、尻尾に対して嫌悪感を持っていると思っていた。しかし、君は全くの人族と言うわけでもないと言うことか」
「はい。妖狐です」
わっさわっさと三尾の尻尾が揺れ動く。辺境伯様の視線が私の尻尾を追っています。
「……なるほど……。私の尻尾に触れたい、というなら、条件がある」
「何ですか?」
「君の尻尾に触れても良いだろうか?」
辺境伯様もモフラーだったのでしょうか。
今は二人で互いの尻尾をモフリながら、寄り添っています。
想像した通り、ルドルフ様の尻尾の触り心地は最高。あ、名前呼びの許可はいただきましたのよ。えへ。
ルドルフ様ってば「君を愛する事はない」とか言ってたくせに、私の尻尾に触れたら、イチコロでしたわね。
屋敷の人達も、領民も、三尾の私の姿を見たら、受け入れてくれたようです。
「尻尾があるから」というより、獣人国と同じように、この国に併合された妖精族の末裔と知ったから、というのが大きいみたいです。
「……10年前、まだ獣人の国、ヴォルフビースト王国があった頃だ。ラブストライク王国が第四王女とヴォルフビースト王国の第三王子との縁談話を持ちかけてきた。 当時、両国はあまり交流がなかったから、国の友好関係強化の為だと言って……」
一緒にお茶を飲んでいる時、ルドルフ様がおもむろに話し始めました。
バサッと、ルドルフ様の尻尾が苛立ちを表すように揺れます。
「……獣人国側も、第三王子ならという事で、了承した。第一王子には既に男児が二人いたし、第三王子の継承権は低くなっていたが、念の為に王位継承権を放棄した上で、ラブストライク王国の姫君を受け入れたんだ。だが……」
「だが?」
「……この国の狙いは、姫君の子を獣人国の王にしようなどというものではなかった。
狙いは、獣魔晶石だった」
獣魔晶石、聞いた事あります!
「……詳しく言えないが獣魔晶石は、獣人国にとって非常に貴重なものなんだ。それを、人族の姫は王宮から盗み出した。姫を送り届けて帰国する一団に自分も紛れ込み、式もあげぬうちに姿を消したのだ」
「え……」
「愚かであるよな。歓迎の意を表す為に人族の姫を王宮奥深くまで、招いてしまった。……今となっては王女に扮した間者であったのだろう」
「……確かに、手際が良すぎますね……」
「王女が本物であったかは今となってはどうでも良い。だが、重要なのは、獣魔晶石が奪われた事だ。
その後すぐ、ラブストライク王国が攻め入ってきた。そして、抗うなら獣魔晶石を破壊する、と脅したのだ。我々は降伏せざるを得なかった……」
ギリリと、ルドルフ様の牙が剥き出しになります。尻尾がユラユラ揺れました。
なるほどと、腑に落ちるものがあります。獣人は身体能力が人族より高いのです。
それなのに、獣人国を併合したというニュースが沸き起こった時、戦死者や戦傷者の話を聞きませんでした。そもそも、フォクシー家に、従軍要請が来なかったのですよ。貴族なのに。
「併合?いつの間に?」って感じでした。父に聞いても答えてくれませんでした。貴族当主はなにか通達とかで、知っていたかもしれないですけれど。
『北の獣人居住区で一斉蜂起が起きたのを止めに行ったりするんだよ。その時使うアイテムが、獣魔晶石で……。ヒロインと王子が獣魔晶石を掲げながら、平和を心から訴えかけると、獣魔晶石の作用も手伝って、獣人達が大人しくなっていくの』
……お菓子くれてたおばちゃんの孫ちゃん。獣人が大人しくなったのは、ヒロイン達が心から訴えてかけたからじゃないと思いますわよ。
獣魔晶石を掲げられてたら、「地面に叩きつけるぞ」って脅してるようなものじゃないですか。
もしも、ゲームの世界なのだとしたら獣人の一斉蜂起っていうのが、今後発生するのでしょうか。
まあ、卑怯な形で併合されてたら、恨んでいても当然ですわね。
「……獣魔晶石、取り戻せないかしら?」
「……は?」
ふと、思いつきましたの。私の妖術を使えば可能なんじゃないかって。
ファサッ。三尾の尻尾の中央の尻尾の先の毛をひょいひょいと抜き取ります。
ふぅっと息を吹きかけると親指位の小さな狐に姿を変えました。
「行ってらっしゃい。お願いね。獣魔晶石よ」
『わかった!』
『どんなの?』
『行ってみよー』
3匹の小さい狐が窓から飛び出して行きました。
「隠し袋」から、水晶プレートを取り出します。
水晶プレートに3匹狐が映し出されました。ピューンって飛んでとあっという間に、王城までたどり着きました。思ったより早いですね。
『こっちかな?』
『あっちが怪しい』
『行ってみよー』
三匹狐が分散して王城を駆け巡ります。気配に気づくものもいるようでしたが、動きが俊敏な為、振り向いた先にはもういないのです。やがて、三匹狐は王城の地下の宝物庫らしき扉の前で合流しましたた。
『ここだと思う』
『入れないよ』
『行ってみよー』
ぴょん、と元気よく飛び出した一匹は、扉に近づいて、パッとと後ろに飛び退きました。
『魔術だ』
『魔術の鍵だ』
『破ってみよー』
三匹狐が身を寄せ合うようにしてパサッと同時に尻尾を振りました。小さい狐が尾を振る姿は可愛いですね。
キラキラした光の粒が宝物庫の扉の下部に注がれる。少しの間をおいて、ぴょんと飛び退いた三匹狐が扉の下部の隙間から中に吸い込まれて行きました。
『入れたー』
『入れたよ』
『行ってみよー』
水晶プレートに映し出された闇の中にポツポツと狐火が灯されます。狐火で照らされた宝物庫内を三匹狐が飛び回ります。
『これかな?』
『これじゃない?』
『持ってってみよー』
いくつかそれらしい石を見つけて、小さい『隠し袋』にしまっていきます。
『これでよいかな』
『よいと思う』
『帰ろー』
一仕事終えた三匹狐は、宝物庫を飛び出しました。
ずっと水晶プレートを一緒に眺めていたルドルフ様は唸り声をあげました。
「……これでは、何処へでも忍び込めてしまうではないか」
「ふふふ」
「笑い事ではないぞ」
「出来ても普通はしないのよ。今回は特別……」
ニコっと笑って見せたら、ルドルフ様がちょっと口元を緩めました。
そんな会話をしているうちに、三匹狐達が帰ってきました。
「これは……、獣魔晶石が……、本当に……」
派手な装飾の箱の蓋を開けたルドルフ様は中の石を一目見て目を見開き、ジワリと目を潤ませます。
良かった。喜んでいただけたようです。
「リリエラ、感謝する。ありがとう」
「ふふ。三匹狐にもお礼を言ってあげて」
「……君達もありがとう……」
『おっけーだよ』
『大した事ないよ』
『も一度行くー?』
ルドルフ様が三匹狐にお礼を言うと三匹狐はわちゃわちゃしながら、私の尻尾の中に消えていった。
三匹狐が持ち帰った獣魔晶石は本物でした。獣魔晶石を取り戻した獣人達は、主権の回復に向けて動き出しました。
長年燻っていた恨みもあったのでしょう。その勢いは凄まじいものがありました。
一方で、私は、三匹狐が持ち帰った別の宝石を母方の家系の本家の当主に送り届けてしまいました。
妖精結晶と呼ばれる、妖精の力を集めたもので、妖精王が封印されていたらしいのです。
妖精王が復活し、妖精族の末裔達も、封印されていた力を取り戻しました。獣人族と同じタイミングで、中央に攻め入ったそうです。
獣人の国と妖精の国は独立の回復を果たしました。逆にラブストライク王国は、獣人族の国に属国となったようです。実家の子爵家については、どうなったか知りません。
ルドルフ様は、元々は、獣人族の国、ヴォルフビースト王国の第二王子だったそうです。主権を回復した今は、王弟となりました。
元第一王子のガルフ様は、一度国を奪われてしまった責任から、王位はルドルフ様に、と仰ったのですけど、第一王子が悪いわけではなかったですからね。
それに王位を注ぐとなると、伴侶も獣人をという声も強くなります。
王弟という立場の方が、私と一緒にいることが容易いのだそうです。
強制的に婚約させられましたけれど、今日もモフれて幸せです。




