6-4:絆(バグ)
ケイが「モニター」を「破壊」したことで、アジトの「均衡」は、崩れた。
「……俺の、兄貴も……」
「……エデンの『義手』を、自慢してた……」
「……あいつも、『接続部』が『腐って』、死んだ……!」
「……『搾取』……? 俺たちは、『家畜』だったってのか……!」
「ピット・ラッツ」の「ジャンク」たちが、アキラが堕ちてきた時に襲ってきた連中とは、比べ物にならない「憎悪」と「絶望」の「声」を、上げ始めた。
アジトの隅で「腐った腕」にうめいていた男が、アキラに掴みかかろうとした。
「……てめえ……『エデン』の『白』野郎……!」
「……お前が、その『ポンプ』を……!」
だが、その「手」は、アキラに届く前に、ケイの「鋼色」の「義手」によって、掴み止められた。
「……待て」
ケイは、自らの「怒り」を、かつてアキラが尊敬したヴェクターが「感情」を「制御」した時よりも、遥かに「強靭」な「意志」で、押さえつけていた。
「……こいつは、言った」
ケイは、アキラを、睨みつけた。
「……こいつは、その『エデン』を、『裏切って』、ここに『堕ちて』きた、ってな」
彼女は、アキラが三日三晩、格闘し続けた「ジャンク・コンソール」と、彼が「清潔」を「要求」した「布」と「水」を、指さした。
「……こいつは、あたしたちと『取引』した。……そして、その『取引』は、果たされた」
ケイの「論理」は、アキラの「論理」とは、違っていた。
彼女の「論理」は、「仲間」と「敵」を、明確に「区分」する、「生存」のための「論理」だった。
「……こいつは、俺たちを襲った『ジャンク』どもとは、違う」
「……こいつは、『エデン』の『敵』だ。……つまり、あたしたちの『仲間』になる『可能性』がある、『ガラクタ(・・・・)』だ」
(……仲間?)
アキラは、その「非論理的」な「単語」に、エデンで同僚に感じた時とは、まったく異なる「動揺」を、覚えていた。
(……俺が? この『不潔』な『ジャンク』どもと?)
(……俺の『論理』は、『開示』した。『取引』は、終わった)
(……俺は、こいつらを『利用』しただけだ。こいつらも、俺の『技術』を『利用』した。……それだけだ)
アキラは、高熱にうなされていた「少年」が、アジトの隅から、彼を、じっと「見つめて」いることに、気づいた。
その「目」は、彼を襲った「ジャンク」のような「欲望」でも、「腐った腕」の男の「憎悪」でもなかった。
それは、アキラが、エデンでヴェクターに「高揚」した、あの「目」——「尊敬」と「感謝」——に、酷似していた。
(……なぜだ)
(……俺は、何も、していない)
ケイが、アジトの「仲間」たちに、宣言した。
「……あたしたちは、『エデン』に『復讐』する」
「……だが、『感情』だけじゃ、勝てねえ」
彼女は、アキラを、再び、指さした。
「……こいつの『論理』が、必要だ」
彼女は、アキラに、向き直った。
「『取引』は、まだ、終わってねえ」
「……何が望みだ」
アキラは、ケイが少年の脚に「ナイフ」を「突き立てた」時の、あの「絶望的」な「論理(10% > 0%)」を、思い出していた。
「……お前の『論理』は、その『狂った神様』の『ポンプ』を、作った」
「……」
「……だったら」
ケイは、アキラに、あの「パン」よりも、重く、そして「不潔」な「現実」を、突きつけた。
「……お前の『論理』で、その『ポンプ』を、『逆流』させる『方法』を、考えな」
(……逆流?)
_ アキラの「論理」が、ケイの「非論理的」な「言葉」を、エデンで「ノイズ」を発見した時以上の「速度」で、解析し始めた。
(……プロジェクト・ガイアを、逆流させる……)
(……ピットから『エネルギー』を『吸い上げる』のではなく……)
(……ピットから『何か』を『送り込む』……)
(……そうだ)
アキラの脳裏に、あの「5年での破綻」の「グラフ」が、浮かび上がった。
(……俺は、マザーとヴェクターに『修正』を『拒絶』された)
(……俺は、彼らの『完璧な論理』から『汚染源』として『パージ』された)
(……俺は、この『不潔なピット』に『堕とされた』)
アキラは、「切断」され、アジトの隅に「廃棄」されていた、あの「壊死した義足」を、見つめた。
(……俺は、あれ(・・)と同じだ)
(……エデンから『廃棄』された、『ガラクタ(ジャンク)』だ)
彼の「潔癖症」が、彼の「プライド」が、彼が「ピット出身」であるという「過去」が、彼が「エデン」に「裏切られた」という「現在」が、
そして、彼が「自らの『論理』」によって、この「ピット」の「仲間」を「殺しかけた」という「罪悪感」が。
——すべて、真実の「共振」によって、一つの「答え」に、収束した。
(……『修正』じゃない)
(……『浄化』でもない)
(……エデンで、俺は『破壊』を、決めた)
(……だが、『ピット』の『論理』は、違う)
(……ケイは、俺を『リサイクル』すると言った)
(……ケイは、『非論理的』な『医療』で、『10%の生存確率』を選んだ)
(……『破壊』ではない)
(……『リサイクル(再生)』だ)
アキラは、ケイが彼を「ガラクタ」と呼んだ、その「意味」を、今、肯定した。
「……ああ、そうだな」
アキラは、ケイの「目」を、初めて「対等」な「取引相手」として、見つめ返した。
「……俺は『ジャンク(ガラクタ)』だ」
「……俺の『論理』も、『エデン』が『捨てた』、『ガラクタ』だ」
「……だったら、その『ガラクタ』を、お前たち『ピット・ラッツ』の『流儀』で、『リサイクル』してやる」
アキラは、あの「汚れた」キーボードを、今や、自らの「武器」として、叩き始めた。
「……『プラン』を、構築する」
「……『プロジェクト・ガイア』の『パイプ』を『逆流』させ、エデン(マザー)の『中枢』に、俺たちの『論理』を、直接叩き込む」
「……『逆ダイブ作戦』だ」




