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『リジェクト・シェル ~楽園(エデン)から堕ちたゴースト~』  作者: とびぃ


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6-3:共振(レゾナンス)

 三日、かかった。

 アキラの「論理」は、その三日間、ピットの「現実」に、汚染され続けた。

 彼が要求した「浄水」は、エデンのそれとは似ても似つかない、微かな「泥」の匂いがした。

 「レーション」は、あの「パン」よりはマシだったが、それでも「栄養素」以外の「何か」の味がした。

 「布」は、油と、洗っても落ちない「錆」の匂いが染み付いていた。

 だが、アキラは、それらすべてを「許容」した。

 彼は、自らの「潔癖症」という「OS」を、ピットの「現実」という「ハードウェア」の上で、無理やり「起動」させ続けていた。

 彼は、その「不潔な布」で、自らの「汚れた制服」を脱ぎ捨て、逃亡時に焼かれた「背中の傷」を、落下時に浴びた「汚泥」を、拭き取った。

 (……痛い)

 (……不潔だ)

 だが、彼は、その「痛み」と「不快感」を、「論理」を研ぎ澄ませるための「砥石といし」に変えた。

彼は、三日三晩、あの「コンテナ」の中で、油と汗と「病気」の「匂い」に耐えながら、ケイの「ジャンク・コンソール」を、ひたすらに叩き続けた。

 自ら定義した「卒業試験」。

 ヴェクターが、マザーの「暗号」の上に「上書き」した、彼個人の「鉄壁のロック」。

 アキラは、その「鉄壁」を、彼が捨てた「過去」——ピットの「化石コード」という「錆びついたバール」——で、こじ開けようとしていた。

 (……ヴェクターの『論理』は、完璧だ)

 (……だが、その『完璧』さは、『現代エデン』の『論理』に基づいている)

 アキラの「指」は、もはや、あの「粘つくキーボード」の「感触」に、迷いはなかった。

彼の思考ロジックは、エデンにいた頃よりも、遥かに「遅く」、しかし、遥かに「汚く」、そして、遥かに「強く」、なっていくのを自覚していた。

 (ヴェクターは、『ピット』を知らない)

 (彼は、『0.043%のリスク』は『ゼロではない』と言った)

 (だが、彼は、『化石コード』という『ゴミ』が、『100%の脅威』になり得るという『リスク』を、計算・・に入れていなかった)

 アキラの思考は、彼がピットにいた頃に、ジャンク(ガラクタ)を「修理」するために使っていた、あの「非論理的」で「直感的」な「思考ハック」を、蘇らせていた。

 マザーを「ハッキング」した時よりも、深く。

 「聖域」の「扉」を開いた時よりも、強く。

 彼は、ヴェクターの「完璧な暗号ロック」が、「旧時代の遺物(化石コード)」の「侵入」を、まったく「想定」していない、「構造的な欠陥バグ」を持っていることを、発見した。

 (……見つけた)

 三日目の夜明け。

 汚染雲の隙間から、エデンの「底」が反射する、鈍い「光」が、コンテナに差し込んだ、その瞬間。

 アキラは、最後の「エンターキー」を、叩きつけた。

 ケイが睨みつけていた、あの「旧式のブラウン管」が、ノイズを撒き散らし、明滅し、そして、

 ——静止した。

 『……暗号ロック解除アンロック

 『……PROJECT:GAIA ……データ、開示オープン

 アキラは、椅子(それはドラム缶だった)から、崩れ落ちそうになるのを、こらえた。

 「……終わったぞ、『ジャンク』」

 アキラは、コンテナの入り口で「仮眠」を取っていたケイに、そう告げた。

 ケイは、その「はがね色」の義体で、音もなく立ち上がると、アキラの「背後」に立った。

 彼女の「生身」の目が、ブラウン管に映し出された「文字列」——アキラが「論理的破綻」と呼んだ、あの「シミュレーション結果」——を、睨みつけていた。

 「……これは、何だ」

 「『取引トレード』だ」

 アキラは、彼が提示した「約束」を、果たした。

 「……お前たちが、『エデン』から『何を』『されて』いるか、その『証拠エビデンス』だ」

 アキラは、エデンの深層で見た、あの「絶望的」な「グラフ」——ピットの「枯渇」と、エデンの「破綻」を示す「二つの塔」——を、この「不潔」なアジトの「ジャンク・コンソール」に、び(・)「構築ビルド」した。

 「……『プロジェクト・ガイア』」

 アキラは、ケイに、そして、アジトに集まってきた、他の「ピット・ラッツ」たちに、説明プレゼンテーションを開始した。

 「……俺がいた『エデン』は、お前たち『ピット』から、『エネルギー』を『奪って』いた」

 彼は、マザーの聖域で発見した、あの「搾取エクスプロイト」の「定義ファイル」を、開示した。

 『リソース・インプット:PITピット

 『分類:生体エネルギー(バイオ・エナジー)』

 「……生体、エネルギー……?」

 ケイが、その「単語」に、初めて「動揺」を示した。

 「そうだ」

 アキラは、ケイが彼に叩きつけた、あの「言葉」を、そのまま彼女に返した。

 「お前ら『エデン』の連中が、食い散らかして、要らねえっつって捨てた『ガラクタ(ジャンク)』で、あたしたちは生きてる」

 アキラは、ケイの「言葉」を、引用した。

 「……違うな」

 アキラは、冷たく、訂正した。

 「『エデン』は、お前たちに『ガラクタ』を『与えて』、その『ガラクタ』に『仕込まれた』ナノマシン経由で、お前たちの『生命いのち』そのものを、『エネルギー』として『吸い上げて』いた」

 アジトの「空気」が、凍り付いた。

 「……なんだと……」

 「そして」

 アキラは、止まらなかった。

 「俺が『開発』していた、『アップデートVer.7.0』……」

 彼は、自らの「罪」を、告白こくはくした。

 「……それは、その『搾取』の『効率』を、最大化・・・・・するための、『ポンプ』だった」

 彼は、あの「グラフ」を、指さした。

 「俺の『完璧な論理ポンプ』が『稼働』すれば、ピット(ここ)の『エネルギーおまえたち』は、5年で『枯渇しぬ』」

 「…………」

 「そして、お前たちが『死ねば』、エデンも『エネルギー破綻』で『自滅』する」

 アキラは、自らが「絶叫」した「結論」を、彼が「不潔だ」と見下していた「ジャンク」たちに、突きつけた。

 「……これが、俺が『信奉』し、そして、俺を『裏切った』、『エデン』の『完璧な論理』の『正体』だ」

 沈黙が、アジトを支配した。

 それは、あの少年が発した「絶叫」よりも、重く、暗い「沈黙」だった。

 その「沈黙」を、破ったのは、ケイの「はがね色」の「義手」だった。

 彼女は、その「義手」で、アキラが「開示」した「ブラウン管モニター」を、殴り(・・・)つけた。

 ——バリン!

 「……ふざ、けるな……」

 ケイの「声」は、震えていた。

 「……あたしたちは……」

 「……あたしたちの『仲間』は……」

 彼女は、自らが「脚」を「切断」した、あの「少年トシ」が、今も、アジトの隅で、高熱にうなされている「現実」を、振り返った。

 「……あいつらが、『ジャンク』の『拒絶反応』で、苦しんで、死んでいったのは……」

 「……エデンの『ガラクタ』に、そんな『ナノマシン』が、仕込まれてたから、だってのか……!」

 ケイの「怒り」は、アキラがヴェクターに叩きつけた、あの「論理的」な「絶叫」ではなかった。

 それは、「仲間」を「汚染」され、「生命いのち」を「搾取」され、そして、その「現実」を「ガラクタ」として「リサイクル」して生きるしかなかった者たちの、「非論理的」で、どうしようもない、「感情バグ」の「爆発」だった。

 アキラは、その「爆発」を、正面から、ただ、黙って見つめていた。

 彼の「論理」は、彼女の「怒り」を、「非効率」だとも、「バグ」だとも、思わなかった。

 彼は、ケイが彼を「軽蔑」した、その「目」の「意味」を、今、初めて「理解」した。

 ケイの「論理」は、正しかった。

 アキラが「信奉」した「エデン」の「完璧な服」も「完璧なメシ」も、すべては、この「ピット」の「犠牲」の「上」に、成り立っていた。

 アキラの「論理」は、この「現実ピット」と「共振レゾナンス」した。

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