表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の勇者、宵闇に堕ちる。  作者: 篁 香槻
旅程一章 集い来る光

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/25

勇者と射手の夜

 雪が深々と降っている。酒場を二階に上がったところに小さなラウンジがあり、そこに点々と置かれた椅子の一つにオラトリオの姿があった。何をするでもなく夜着の姿でぼんやりと窓の外の雪を眺めている。階下からはガヤガヤと盛況な声が響いている。ソラリアの森が浄化されたため、街に出入りする行商や旅人らしき人の数も目に見えて増えているようで、階下では自分たちが成した功績を讃える会話もされているようだが、遠い世界の祭りの音声でも聞いているようだった。

 外には結晶が目に見そうなくらいの大粒の雪が静かに音もなく地面に落ちていく。魔物討伐の前日と違って風もなく、穏やかな降雪の夜。ここは階下とは切り取られた空間かと錯覚するくらい静かだ。椅子にかけていると遠くの騒めきに思考が過去を思い出す。ここ数日を思い出してみたり、それ以前を思い出してみたりと様々な景色が目の前を流れていく。

 ふとした思考の隙間に、視線が現実に戻り窓に映る自分の顔と目が合う。窓枠には雪が積もり白い額縁みたいで綺麗だとオラトリオは思う。綺麗な真白の額縁の中に、金の髪、青い瞳の自分が映っている。その青い瞳の中に、もう一人自分が写っているのがかろうじて見える。半年、重ねてきた日々、テイルバレイから旅に出たあの時よりは少しでも強くなれたのだろうか、剣の腕も、この心も、勇者と呼ばれるに値する自分に近づけているのだろうか。仲間たちに助けられてばかりで、討伐のための知識も、作戦もみんなに頼りきりで、皆の犠牲や決死の上に自分は魔物討伐を果たしただけだ。仲間たちに傷を負わせず、危険な目に合わせずに討伐できなかったのだろうかと、あれからずっと考えている。自分は勇者としてどうなのだろうか。居た堪れなくなり、ぎゅっと夜着の胸の辺りを掴んでみる。


 あれから、ソラリアの森の魔物を倒してから、三日の時間が経った。フーガの飛ばした鷹おかげで、守護団からの助けもすぐに来てくれ、皆を素早く町まで運ぶことができた。鷹を経由し守護団から町医者に先に話を通してくれてもいたため、借りていた酒場の二階の部屋を使わせてもらい、すぐに五人とも治療を受けることもできた。医師の治療や守護団のメンバーの助けがあったことに加え、ロンドとバラッドにはワルツがすぐ解毒していたこともあり、回復は滞りなく済んだ。しかし、負ったダメージも大きかったらしく、中々体力が戻りきらないバラッド、ワルツの二名は未だ眠ったままだ。体力が回復すればすぐに目を覚ますとは言われていたものの心配は募る。ロンドは流石の精神力と丈夫さで、今日の昼に意識が戻り、オラトリオも言葉を交わした。


 今から遡ること数時間前、その日の昼。オラトリオはまだ目覚めないのかと心配しつつ、ロンドの部屋のベッド側に椅子を置き、その寝顔に苦痛が浮かんでやしないか、何かできることはないかと彼を見つめていた。ロンドに限ったことではなく、帰ってきてから数日バラッドやワルツの部屋にも赴いては眠ったままの彼らの様子を伺っていた。その時、ふとロンドの眉根が動いた。その後、右腕で目を豪快にゴシゴシと擦るとうっすら目を開けて、側にいるオラトリオの気配を察知し、首をこちらへ向けて話しかけてくる。

「ん……。お……オラトリオかおはよう。」

何もなかったかのように、普通の朝の挨拶を交わすロンドは寝転がったまま、ぐぅっと声を漏らし伸びをし、よっこいせと上体を起こした。

「だぁ〜……久々とんでもなく良く寝た感じするなぁ。あれから何日だ?」

「おはようございます。ロンドさん。三日、経ちました。どこか痛いところや違和感のあるところはありませんか。」

体の感覚を確かめるようにロンドが肩を回したり足を曲げ伸ばすなどしてベッドの上で少し動かす。

「問題ねぇな。オラトリオありがとな、心配かけてすまん。」

「いえ。こちらこそ、なんだか皆さんのお陰様でどうにかなったから良いものの、勇者の素質を持っていても全然皆さんを守ることもできなくて……」

「……他の奴らは?」

「フーガさんは軽症だったので、すでに業務に戻られています。鷹を飛ばして守護団本部とのやり取りなど報告業務をされていました。ロンドさんやワルツさんが目覚めた時、少しでもゆっくりできるようにしたいって……。ワルツさんとバラッドは体力が戻らずまだ眠っていますが、体力が戻ったらすぐ目を覚ますと思いますとお医者さんが話していました。特に後遺症も残らないそうです。」

「オラトリオ!十分だ!!」

とても大きな声で、言われてオラトリオは一瞬ビクッとした。

「規格外の魔物を前にして初陣で誰も犠牲者を出してねぇんだ!それ以上はお前、だいぶ高望みだぞ!俺らがいたとは言え、守護団の中でもたった半年でそこまでやるやつはいねぇんだから!もっと胸張ってろ!」

ワルツはオラトリオの肩に手をばんと置き、笑んで見せた。

「でも、皆さんに頼ってばかりで、作戦も知識も……」

「ごちゃごちゃ考えんな!ついでに、全部お前にやられたら一緒に来た俺らの面子丸潰れだろうが。それでなくても勇者の力は特別に授かるもんなんだから、ちょっとくらい俺らにもカッコつけさせろよ!勇者ってのは一人で何でもなす奴の事じゃねぇだろ?うっすら記憶が残ってるが、お前の最後の一閃、かなりかっこよかったじゃねか!!俺が思う勇者は、オラトリオ、お前みたいに優しくて、誰も無碍にできない、で、それを勇気でもって示していく。そんな奴のことを言うんだと思ってる。初めから完璧な奴なんぞいねぇし。だから全部背負い込むなって!皆自分で了承して、覚悟決めてやったことだ。嫌ならあの凶悪女王花を見た瞬間にゾッとして作戦から降りて街に帰ってる。」

「はい……。」

「なぁ、オラトリオ?俺にも目標があるんだ。幼い頃、俺の住んでたところをめちゃくちゃに壊して、家族全員目の前で奪って行きやがったでかい獣の魔物がいるんだ。守護団の情報だと、そいつはまだ狩られてねぇ。どっかで今日も誰かの命を奪ってやがるんだと思う。だから、一緒に魔王討伐の旅に出たら、そいつをお前の力を借りて倒したい。そこで旅は終わらねぇけど、道中絶対に俺のやらないといけねぇことの一つなんだ。もう復讐とかそういうんじゃねぇんだけど、あの日の、弱くて何もできなかったガキの自分と決別するための目標だ。」

「ロンドさんにもそんな……。」

「俺が完全無欠の豪傑に見えたか?それはそれで嬉しいけど、俺だって全部は守れやしねぇんだ。一人だったらな。ベラドンナの見せてくる幻にもまざまざ見せつけられたが、喪ったものも多い。まぁ……何が言いたいかっていうと、お前のその優しい心を、力を、必要としてて、それで救える命がお前の訪れを待ってる。だから、下とか後ろばっかり見てねぇで前を向け。必要としてるやつの所に行けるようにな!」


 昼のやりとりを思い出して、夜着を掴んでいた手を下ろしオラトリオはブンブンと頭を振り、顔を両手でべちんと挟み込んだ。

「ロンドさん……。そうですよね、見るべきは後ろじゃない。前を向いて、少しでもたくさんの人を守らないと。……もっと皆んなのことも信頼して、大丈夫だって……」

独り言を拾うように静かな声が響く。

「そうだ。オラトリオ。君を一人で勇者になんてさせないからな。」

フーガが長い紺の髪を結いあげながら歩んできて、オラトリオの正面の席に腰掛ける。もう片手に器用に二つ持ったマグカップから優しい花の香りがする。

「カモミールのお茶、もらってきた。落ち着くし、体も温まる。香りは独特だが、飲んでみると悪くない。」

「フーガさん。ありがとう。いただきます。」

小テーブルの上に差し出されたマグカップを両手で包み、口へと運ぶと、爽やかな香りに体も温まり気持ちもほぐれていくようだった。フーガは髪をキュッと結び終えると先ほどの言葉を続けるように話し出す。

「ここ寒くないか?体冷えないか?部屋の方があったかいだろうに。」

「ここ、結構落ち着くんです。今は部屋にいると静かすぎて落ち着かなくて。多少でも下の雑談とか歓談の声が聞こえてると落ち着くんです。」

「そうか、その気持ち、何となく気持ちわかるよ。まだ二人は起きてこないし、余計に心配とか色んなものが勝るんだろ?どうしようもなかったとは言え、あの作戦は僕のたてたものだから、僕もどうにか起きた後の皆に負担をかけない方法を模索してる……正直申し訳なくて居ても立っても居られないくてな……何をしてもうまく罪悪感を消しきれないでいる。皆が起きてくると気にするなと言われるんだろうが……まぁ、すでにロンドには辛気臭い顔すんな、いい作戦だったじゃねぇか!と言われてしまったしなぁ……。」

「僕もです。頼りにしてると、皆作戦については承認しているのだから気にすんな!前を向け!と言われてしまいました。」

「ロンドはなぁ……団の中でもかなり強い奴だなと見ていたが、あそこまでいくと精神力が巨石なんじゃないかと思うことすらあるよ。」

「確かに、巨石ですね。それも溶岩石みたいにガチガチに固まっている感じですよね。羨ましい限りです。ちょっとやそっとじゃ割れないし、砕けない。」

小さく二人で微笑み合い、何でもない会話であったが少し心に溜まっていたものが軽くなった気がした。精神面で頼れる者がいるじゃないか、弱音を吐いても快活な音を返してくれる頼れる兄貴がいる。二人の気持ちが同じところに落ち着いて謎に共犯者めいた気持ちになる。

「あんまり考えすぎても、皆に失礼か。よし、やめだ!やめ!辛気臭い話はやめ!!」

「そうですね。起きてきた皆と祝杯があげられるように、今はとりあえず片付けられる仕事をしましょう。フーガさん、他に残っている書類や報告は?」

「残念、全部処理済みだ。僕、結構優秀な団員なんだよ。」

「おぉ!ありがとうございます!優秀なのは行動や言動からよく分かってましたよ。」

「お?嬉しいね。これからも、ご期待に応えてみせますよ。勇者オラトリオ。」

「えっ?」

「今回、一緒に行動して思ってたんだ。君たちと一緒に行きたいと。この後、ある程度守護団で過ごしたら、魔王を倒しにいくんだろ?一緒に旅に連れて行ってくれないか?君の志に応えられるよう、僕自身ももっと強くなると誓う。さっき行っただろ?君一人で勇者になんかさせないって。」

「さっきの……そういう意味だったんですね……いいんですか?……きっと大変な旅になります……帰ってこられるかも……。」

「でも、それでもオラトリオはいくんだろ?気持ちも覚悟も一緒だ。連れて行ってくれると嬉しい。君は変なとこぼんやりしてるくせに、変に考えこみすぎるところがあるだろ?そんなオラトリオの若干でもいいから助けになりたい。後、オラトリオの力に身惚れたってのもある。あの深森でみた勇者の力、美しい光だった。それに、仲間にはまだ遠距離攻撃要員もたりてないと見える。だから、役に立てると思う。今はまだ詳しく言えないが、僕にも守りたいものがあるんだ。」

「何だか色々と言っていただいて、どこからどう返していいのか分かりませんが……僕はフーガさんが一緒に来てくれるととても嬉しいです!ありがとうございます!よろしくお願いします!皆が起きたら真っ先に報告しましょう!」

「こちらこそありがとう。さて、もういい時間だし、皆が起きるのに備えて、僕らも一度しっかり眠らないか?雪も綺麗だが、皆で祝杯をあげながら見る方が乙だろう?」

「確かに、そうですね。」

流れでカモミールティーのカップを乾杯して飲み干した。窓の外はまだ雪が降り続く、茶は先ほどより少し冷めていたが、体に溶け込む優しい花の香りとともに心の奥に頼もしい花が咲いたように思えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ