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暁の勇者、宵闇に堕ちる。  作者: 篁 香槻
旅程一章 集い来る光

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深森に漆黒の女王は散る

皆がフーガから聞いた作戦は正直あまりにも捨て身で賭け要素の強い危険なものだった。しかし、全滅か賭けに出るかと問われれば、最早賭ける以外に選択肢はない。


全員が呼吸を合わせ、フーガが風で編んだ鷹を飛ばしたのを合図に行動を開始する。

「いくぞ!」

という合図とともにまず動き出したのは、フーガ自身とバラッドだ。

「バラッド、頼む!」

「あぁ!!」

フーガが三本の矢を番え、その先端にバラッドが炎を灯す。周りを取り囲む根を避けるように曲射し、炎の灯った矢を花めがけて立て続けに三回放つ。

二射分は葉で遮られたが、最後の一射が花へ届き巨大な花の端に炎が灯る。葉に遮られた二射分も炎が葉に引火し、同じく燃え上がる。巨大なベラドンナの花は生存本能からか炎を消すために後ずさり、雪の中に頭を垂れるように風雪を上げて倒れ込む。その間僅か数秒。


その隙をついて次の行動をとるため、ロンドが叫ぶ。

「次!!来い!!行くぞ!!オラトリオ!!」

「はい!!」

それに合わせてロンドが目の前の根を殴り道を切り開く、オラトリオは息を止め、口と鼻をローブで抑えながらロンドの後に続き走る。

一方ロンドは毒にも構わず、ひたすらにその進路を切り拓き続ける。上下左右、迫り来る根を次々と殴り千切り、根の回復速度を上回る速さで立ち回る。頭上から来たものを気配のみで察知し、右拳を振り上げ殴り、左腕は左右同時に襲い来るものを裏拳で殴り千切る。足元のものは走る勢いに任せて蹴り上げ、攻撃を終えた右手を振り下ろし殴り落とす。全ては毒を吸わせずにオラトリオを花の前に通すためだ。

「残念だが、この程度で俺を止められると思うなよ……!オラァッ!!」

後ろを走るオラトリオは思わず、その技と無駄のない攻撃と速度に目を奪われそうになったが、ぼんやり眺めている場合では無い。フーガに指定された位置へ、ロンドの拓いてくれた道を走る。


「燃えろ……!……っう……ぁ!」

後方のバラッドは、ロンドとオラトリオの行く方向以外、左右や後方の根を焼き、漆黒のベラドンナの注意を引きながら根を殲滅し続ける。燃える根から、予想通り毒が空気中に漂いはじめているらしく、散瞳の症状が出始め視界が定まらない、胃から何かが迫り上がる嫌な感覚もするが、止まらず燃やし続ける。その視界の先に、目眩の中にブレずにハッキリと愛おしく懐かしい姿を見る。これはただの幻、幻なのだが、その全てを守り抜きたいと、願ってしまう。

「オラ……トリオ……。お前は、わ……しが……。とも……。」

思わずバラッドの口から目の前の幻想に向けた言葉が何言か漏れる。

「バラッド……!しっかりしてください!!すみませんが……!どうかもう少しだけ耐えてください!」

ハッとした後、バラッドは勢いよく炎を行使する。

「……ッ……燃えろぉぉぉぉ!!」

バラッドは蠢く根と、見えた何かを燃やし尽くすように更に炎の勢いを強めて攻撃し続けた。

程なくして、根の再生にかなり遅れが見え、追いつかなくなって来たところで、呼吸を最小限に抑えつつ根からの防御壁を張っていたワルツが防御壁を解除し、

「……よし!!!今が好機です!!行きましょう!!フーガ!バラッド、後で必ず助けますから!」

毒に耐性のあるフーガとともに、ロンドが拓いた道を前線へ駆けあがる。

バラッドは根の再生が一旦無くなり、二人が前線へ上がったことを見届けると、口元を抑え、四つん這いにその場に崩れる。前線へ皆が上がったのを見届けると、

「皆……あとは……たのむ……。……オラトリオを……」

どさりと燃え盛る根に囲まれ、その場に倒れ伏した。


前線ではロンドが満身創痍の状態で、花と葉の前にオラトリオを導いていた。

「オラトリオすまん……たぶん、ここが俺の限界だ……。もう少し戦いたかったが……っくそっ!!なっ!?……ッ!!ぐぁっ……!!」

と続けて何かを言おうとしていたが、花と葉の消火を終え、がはりと起き上がったベラドンナの葉に思い切り叩き飛ばされ、咄嗟に防御の構えをとったが、近くの立木に背中を強かに打ちつけ、そのまま項垂れるように座り込んだ。咄嗟に防御の為に差し出した両の腕が焼けるように痛い。もう限界らしい、そんな痛みも様々な感覚とともに遠ざかっていく。

あぁ、家族が見える、もう会えない団員たちが座り込むロンドを見下ろして悲しい顔をしている。ベラドンナの毒のせいで走馬灯のようで気分が悪い。

「大丈夫だ……って、そんな顔すんな。俺達にはもう勇者がついてるんだ……。だからもう、お前らみたいに悲しい結末は向かえさせねぇよ……。当分、そっちにも行きたくねぇ……し…….なぁ……」

言いつつ、ロンドは意識を失っていた。


オラトリオは右手側に飛ばされたロンドを見る。恐らく叩き飛ばされなくても毒で限界が来ていたであろう、かつ、葉に直接触れたロンドの安否や怪我の具合は酷く心配ではあったし、後ろで燃える根の炎の中にバラッドがいることもひどく怖かった。

それでも、オラトリオは目の前の花を見据えて逸らさない。この作戦が終わるまで、気を散らしてはいけない。全員で無事に帰るために。この戦いで誰一人失わないために歩みを止めて時間を浪費してはいけないんだと自分に言い聞かせる。


そこに、ワルツとフーガが駆け寄ってくる。ワルツは右側の木へ飛ばされたロンドを一瞥して、

「攻撃はギリギリで見えたのですが、防御が間に合いませんでした……ここまでは……ロンドが計画より深傷を追っていますが、事は計算通りに運んでいますね……。フーガ!後を、オラトリオをどうか頼みます!」

呟き確認するようにそう言うと、オラトリオとフーガに防御壁を張り、自身は巨大な葉の前へ飛び出して行く。

「さぁ、今度の相手は私です。かかって来なさい。」

葉の攻撃は先程オラトリオが戦っていた時よりは弱って鈍っているものの、左右から容赦無く叩きつけて来る。二人の防御壁を張った状態で、ひたすらにワルツは自身も防御する。ただの防戦に見えるが、これも立派な一手だ。漆黒のベラドンナは自身の一部を燃やされ、根を焼き尽くされ、消滅の危機に女王がヒステリーを起こしたように、一部が焦げた葉で、必死にこちらを叩いてくる。そう時間がかからず、攻撃が一切届かないことにごうを煮やし、漆黒のベラドンナの葉は左右両方で一気にこちらを攻め立てて来た。

「やはりそう来ましたね……!残念でした。私たちの勝利です!……ッ!!」

ワルツはそのタイミングで自分とオラトリオ、フーガに張っていた防御壁を全て解除し、左右から自身の身体を挟み込んできた葉ごと防御壁で囲い込み、葉の動きを自分ごと完全に封じる。ぎりぎりと体が潰されるような圧迫感とじわじわと皮膚を焼くような痛みが服越しにでも襲い来る。顔や肩が挟まれていないのが唯一の救いだが、葉に浮いている油分に毒があるのだから衣類で完全には防ぎきれないだろうことは分かっていた。それでも、皮膚の爛れるような痛みは想像以上で、自身の防衛本能が今すぐ楽になりたくて防御壁を無意識に解除しそうになるのを堪え、押し潰れさた肺で息を吸って必死に叫ぶ。

「っぅ……フーガァ!!今です!!ッオラトリオを!!」


それを合図に後ろで風魔法を練っていたフーガが、凝縮した風の塊にオラトリオを乗せて高く飛び上がらせる。

「ハァッ!!行け!オラトリオ!!!」

ぶわっと音を立て、風と氷の欠片とオラトリオが舞い上がる。その姿、その剣閃に眩いほどの暁色の光を宿し、一緒に舞い上がった氷が光を反射し美しく輝き、森に射す一筋の暁光のように輝いた。

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

飛び上がったオラトリオは漆黒ほベラドンナの花の上で体勢を翻し、剣先を下へ、花の中心に光る鈍い銀色の核へ差し出し、重力と自重をのせ、落下の勢いのまま核を貫いた。

「ぁぁぁぁぁぁぁー!!!!」

核の上に降り立ち、貫いた刃をグッと両手で持ち、核から花弁へ、花弁から太い茎へと斬り下げて、地面へ降り立ち、そのままの流れで刃を頭上に薙ぎ、ワルツを拘束している葉をバサリと切り落とした。

ベラドンナはジタバタと最後の抵抗とばかりに暴れ、まるで頭を抱え懊悩するように、切り刻まれたその花を、茎を、焼け焦げて短く少なくなった根を振り回す。が、それを目の前に立つオラトリオは一切動じない。

切り落とされた葉から拘束が解けたワルツはどさり地面に落とされると、痛みで震える体を気力で押さえ膝をつき立ち上がり、すぐさま右手に倒れているロンドと、フーガが同じ場所まで運んできたバラッドに覚束無い足取りながら駆け寄り、膝をついて解毒と回復を同時にはじめる。

「……バラッド……!!ロンド……!!どうか……。どうか……間に合ってください……!!」

回復魔法を展開しながらも、自身も今にも倒れそうなワルツを傍らでフーガが支える。


その後ろでは、先程まで暴れていた漆黒のベラドンナが暁の光に溶けるように霧散していく。

それを見届けると、オラトリオは天に剣を翳し、深い森の中、薄い太陽の光を吸収するように掲げたあと、場違いなほど光が並々と宿った剣を漆黒のベラドンナが消えた漆黒の地面に深く突き立てた。そこからザアッと風が行き渡るように森の中の空気が変わっていく。大半が雪の下に埋もれた地面だったが、浄化されたのだとフーガには感じ取れた。この森にもう漆黒の魔物は居ない。

「あれが、勇者の……。」

オラトリオの成す事に場違いな感銘を受け、気を取られていたフーガは、隣で支えていたワルツの体から力が抜け、自分の方に倒れて来たことで我に返った。

「ワルツ!……息は……してるな……。」

次にバラッドとロンドを見ると、ワルツがかなり回復させたらしい、ロンドの細かい傷は残っているが、二人とも呼吸音が正常はことから毒は解毒されているらしいし、重症になりうる大きな傷も全て消えている。

今回の任務、オラトリオとフーガはほぼ無傷で済んでいるが、自分の策のせいで三人にはかなり無理を強いた。申し訳ない気持ちに苛まれながら、助けを待つ。

先程、戦闘前に諜報の鷹を飛ばしたため、間もなく三人を街まで運ぶのを手伝ってくれる近くの諜報団員が来るはずだ、一刻も早く三人を街の医者の所へ連れて行きたい。本当は皆無事に苦しませずに任務を遂行したかった。今回、はじめて顔を合わせ、任務に出たはずなのに、皆を護りたいと思い始めている。


浄化が終わったオラトリオが、皆の容態を確かめようと焦って駆け寄ってくる。

「フーガさん!皆は?」

「大丈夫だ、誰も死んではいない。救援は呼んである。ワルツができる所まで回復してくれたから、あとは街の医者に連れていきたい。とりあえず、二人で運べるところまで皆を運ぼう。」

「……はい……。」

皆の様子を見て歯切れの悪い返事をしながら、自分より身長の高い仲間達を担ぎ上げてオラトリオは話し出す。

「僕に勇者の力がなければ、皆の傷も苦しみも、僕が肩代わりできたのかもしれませんね……。」

オラトリオは自分の成した事の凄さより、皆が傷つくことの方が数倍心に残るようだった。

「……すまないな。これ以外方法が思い浮かば無かった。毒に多少耐性のある僕と、討伐後の浄化に必ず必要になる勇者の力……。優先する他無かった。皆を無傷で戦わせたかったが、これは僕の至らなさだ……。オラトリオが苦しむことじゃない。君は十分にやってくれた。だから仲間は誰も死んでいない。君は君の働きを誇りに思って欲しい。」

「……ありがとうございます……弱音……でしたね……すみません。どうか、フーガさんも気に病まないで下さい。僕たちに今できることを、早く皆を街に連れて帰って休ませて上げましょう。」

「あぁ。」

そう答え、フーガは諜報の鷹を一羽飛ばす。その行き先を見つめる瞳はオラトリオには酷く悲しく映っていた。

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