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暁の勇者、宵闇に堕ちる。  作者: 篁 香槻
旅程一章 集い来る光

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深閑、雪煙の苦戦

 ロンドの目の前には、いるはずのない両親と幼い弟が佇んで、

「こちらにおいで。」

「立派になったな。」

「兄ちゃんおかえり。」

と微笑んでいる。そんなことはありえない。十になる歳に、両親も弟も魔物に殺された。小さな村の領主だった父母と弟は巨大な野犬の魔物に食い殺されたんだ。俺を庇って、俺の目の前で。他にも村の奴らがたくさん食われたのを見た。あの光景を、あの獣の遠吠えを、忘れることなんぞできるものか。と理性は吠える。

 さらに家族の後ろに、昔仲良くしていた守護団の連中が見える。あいつは、昔一緒に盗賊を捕らえに行って闇討ちを喰らい死んだ。あいつは、王都連続殺人を追っていた時に殺された。あいつは、あいつは、あいつも、もう、皆そこにはいるはずのない命だ。

 昨日の作戦会議でバラッドの言ったことが頭によぎる。これがベラドンナの毒の幻覚作用。人を不快にさせやがっていい加減にしろよと心が喚く。冷静にその事実を捉える頭はあるのに、視界が回り、現実と幻覚の境界が少しずつ無い混ぜになる感覚がする。気持ちが悪い、吐きそうだ。これは過去への懺悔からか、視界の回転からか、はたまた毒そのものの影響からか……。ブツンと何かが切れる音がして、自分が膝をついた感触があった。まるで、水槽の中から聞くように自分のものでは無い感覚のまま、ワルツに問われたことへ返答したのを最後に視界がブラックアウトして感覚の全てが失われた。

 どのくらい気をやっていた?次にロンドの意識が浮上し、まず戻ってきたのは聴覚、絶え間なく何かとぶつかる金属音を捉え、唯一外気に触れている皮膚である頬の辺りに熱風を感じる。真暗な視界の中で少しずつ五感が戻ってきて、現状を認識し、ロンドは根性で意識を浮上させ、気合いで目をこじ開ける。その視覚にまず飛び込んだのは、五メートルほどの距離に迫り明確な殺意を宿した昏い銀光。それが、漆黒の魔物のものと認識して、すぐ周囲の状況を見渡した。

 自分の隣には片手で必死に解毒治癒をしながら、もう片手でオラトリオの動きに合わせて死角からの攻撃を防ぐシールドを張っては割り、張っては割りと次々来る攻撃のフォローをするワルツの姿がある。かなり目まぐるしい攻撃と守備を先読みしながらの回復は、とてつもない集中力と精神力を要する。半年前に解毒魔法にはかなりの集中を要すため、シールドとは併用不可と言っていた気がするが、無理をおして実行している。その証拠に、気温はかなり冷え込んでいるのにその額には汗が滲み、吐く息も荒い、かなり消耗していると分かり、治癒に向けていたワルツの片手を掴み下げさせる。

「ワルツ、もう大丈夫だ。すまん、ありがとな。」

決して強がりではなく、事実ロンドは既に前線に戻れるほどに毒から回復している。ワルツは無言で了承をし、防御魔法に全集中力を向ける。ワルツが一切目を離さず見ている先では、オラトリオをはじめ、皆が奮闘している。オラトリオに力を温存させたかったが、一番前線を死守してくれており、そうもいかなそうな状況だ。


 オラトリオはロンドが毒にやられた後、とにかく核を壊さなくてはと真っ先に花に斬りかかっていった。しかし巨大な葉が左右から猛攻を仕掛け、花への攻撃をことごとく阻んでくる。結果、一番花に近いところにはいるが、オラトリオは左右から叩きつけてくる巨大な葉を剣の腹で受け流し続ける一方的な防勢を強いられていた。人二人くらいなら簡単に打ち飛ばすことができるような大きさと勢いで葉はオラトリオを打ち据える。少し後方のバラッドがオラトリオへ向かって叫ぶ。

「オラトリオ!直接葉を触るな!ベラドンナの葉は触っただけでも皮膚が爛れる!魔物化してさらに毒性が増している可能性が高い!気をつけろ!!」

「わかった!……ひ……っ!!」

と言ったそばからブオンと音を立てて葉がオラトリオに迫るの数センチの距離でかわす。

「……!っ危ない……!……ッ!」

次に来た攻撃はすんでのところで剣を盾のようにし前に構えながら流すも、すぐに次が来る。咄嗟に後ろに飛び退き葉を避けるが避けきれない。一撃喰らう覚悟で身構えたが、想定していた衝撃が来ない。見るとワルツの防御魔法がオラトリオの目の前で展開され守られており、目の前に葉が迫った状態で膠着している。折角作ってもらったこの隙にと、体勢を変え剣を振るうが、葉は素早く引き、そのは刃があと少しの距離届かず、せっかくワルツの作ってくれる機会をうまく活かすことができない。

 どうにか隙をついて攻勢に転じ、葉に斬撃を入れ、花本体を叩きたいが、葉が襲ってきた後を追うように、重たいほどの風圧が飛散した雪塊とともにオラトリオを打ち据えることもあり、体勢を立て直すのがやっとだった。葉に触れずに戦うとなると、間合いもうまく取れない。警戒心から必要以上におよび腰になる。オラトリオにはそれが酷くもどかしかった。倒すべき対象が目の前にいて、急所は見えているのに、打開できない、打開するための間合いにうまく入れない、タイミングを掴めない。半年、守護団の中でたくさん稽古をつけてもらって、魔物討伐にも何度か出向いた。しかし、この花の魔物は今まで相対したことのない特殊個体だ。自分の経験の少なさが悔しい。

 団の中で漆黒の魔物についても教わりはしてきた。過去、漆黒の魔物の複数個体が融合した例があったと。また、そういった魔物の変貌は、巨大化、力の強大化などが挙げられると。そのため、今回の魔物はおそらく、土地の侵蝕後、魔物化したベラドンナの花が融合するなどして巨大化、その分毒性も凝縮し増幅しているのだろうと分かる。分かるが、戦いながら打開策が見つけられない。このままでは、ただこちらが消耗して押し負ける。退路も根で絶たれている。倒さなくては死が待つのみだ。

 オラトリオが思考をしている間も葉の猛攻は止まらない。ガン、カンと剣で受け流して、横へ飛へ飛んで、もう一度隙を伺うが、ワルツの助力があっても自分の反応速度が追いつかず、隙を見つけられない。焦りと無力感に胸の奥に嫌な重みが募っていく。テイルバレイで発揮したあの力を発揮できれば……と思ってもみるが、勇者の力もこちらの斬撃が届かなければ意味がない。魔物の特殊個体の強力さの前には無力な自分を思い知らされるばかりだ。このままではいけないと、どうにか倒さねばならぬ理由を心に灯し必死に奮い立たせる。街の人や、消息を経った人でもまだ助けられる可能性があるかもしれない、それにあんなにたくさんの歓声や期待を背負ったのだと。

顔をあげて、その凶悪な花を見据え、剣を握る手に再度力を込めた。


 一方、オラトリオの少し後方では、じわじわと迫ってくる根をバラッドが魔法で燃やし、仲間に毒が行き届かぬようフーガが風魔法で巧みに飛ばす連携攻撃をかけている。さっきまで、根をおさえてくれていたワルツがロンドの回復とオラトリオのフォローにまわっているため、根への防御ができなくなったためだ。しかし、根をいくら燃やそうともキリがない。燃やして灰に飛ばしたそばから、地面を割って無尽蔵に漆黒の根が湧いてくる。おまけに少しでも気を抜こうものなら、じわじわとこちらに詰め寄り、こちらを絞めあげ捕まえようという動きを取ってくる。巨大な蛇かミミズを思わせるその動きにバラッドはゾワっと背筋を冷たいものが這ったが、おちおち気を抜いてもいられない。前方で孤軍奮闘しているオラトリオのことも心配だ。どうにかこの状況を打破しなくては。そこにフーガからの声が飛んで来る。

「バラッド!さっきロンドが喰らったことから想定して、これ以上根に近づくと僕らも毒をもらうことになる!体力的にきついかもしれないが、その距離以上に奴を入れないよう燃やし続けろ!この距離なら毒はどうにかうまく飛ばして見せる!」

「フーガさん!了解!……だが、このままじゃ消耗戦だぞ!長引けば長引くほどまずい!見てると、こいつの根は無尽蔵だ!多分、あの核を壊さない限り根はいくらでも回復する!」

「あぁ、やはりお前もそう思うか……。少し状況を見て策を練る……。ロンドも回復したか……が、この状態だと格闘攻撃は下手に動けないよな……。一斉にやるしかないが、全員無傷では済まないな……。」

フーガが呟いた言葉を聞き逃さなかったバラッドが拾い上げる。

「フーガさん!それでも!こいつに全員殺されるよりマシだ!俺も負傷喰らい覚悟できてる!俺もオラトリオも、守護団に世話になると決めたあの時からその覚悟でいるし、これから魔王を倒すって目的を持ってるんだ!甘い気持ちで戦っていない!フーガさん!何か策があるなら共有してくれ!」

「わかった!だが、死ぬほどの無茶はさせたくない!無茶を言うが、無茶はするな……!」

「難しい指示だな……。了解だ!」

バラッドの了承を聞いてフーガが全員に向けて指示を飛ばす。

「皆、僕に策がある!少し耳を貸してくれ!」

その言葉に全員の意識がフーガに向く。

「全員!ワルツそばまで退避!ワルツは全員が収まる半径二メートルほどの硬めの防御壁をすぐ張ってくれ!」

「わかりました!!はぁッ!!!!」

ワルツの防御壁ができるが早いか、全員が攻撃の隙間を縫い見事にワルツの防御壁内におさまった。フーガが続けて皆に話す。

「相手に隙がなさすぎて、これ以上の策が思いつかなかった……。皆に負傷もしくは、服毒してくれと頼むようなものだが、のんでくれるか?」

「はい、僕は覚悟できています。」

「俺はさっき言った通り、問題ない。」

「俺も気にしねぇ。日常茶飯事だ、腹は括ってる。」

「もちろん、任務に怪我や病気はつきものですので。皆さんの分は私が回復しますから。」

「ありがとう……じゃあ……」

フーガが皆に策を伝える間も、ワルツの防御壁を根がきりぎりと締め付け、葉が打ち据えてくる。猛攻を一人防ぎ続けながらも策に耳を傾けるワルツには疲れが見えていたが、魔物を前に一切引かない姿勢で壁を維持し続ける。

全てを話し終わったフーガの策に皆が声を揃え同意を示す。

「「「「了解!」」」」

言って、皆己がが武器を握り直し、魔法を手に宿し、巨大で醜悪な漆黒の花を睨みつけ、

「よろしく頼む。」

と告げたフーガの言葉で一斉に、昏き銀光を湛えたの花と対峙する構えを取り直した。

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