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暁の勇者、宵闇に堕ちる。  作者: 篁 香槻
旅程一章 集い来る光

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16/25

前途のための日々

 翌朝、今日も今日とて快晴で、眩しいばかりの光射す大きな硝子窓のついた守護団の食堂にて。

まだ眠そうに目を擦るオラトリオ、その隣で自分でバランス良く盛り付けた朝食を黙々と食べているバラッド、その前には目を赤くしてワルツの様子を気遣わしげにチラチラ見つめるロンド。そんなロンドの隣には少し顔色は悪くも温かい食事にほっと息をつくワルツ。

 四者四様の四人がけテーブルは周囲の団員から見ると異様な光景だった。知らない顔が二人に、いつもどっしりと構えるロンドのそわそわした様子と明らかに昨夜泣いた雰囲気のある腫れた瞼、少しやつれた様子のワルツ。

 テーブルとしては食堂の端を陣取っていたが食堂に入って来るものの関心を引くには十分な情報量がそこにはあった。団員たちは皆平然を装いつつも、何を話しているのか、何があったのかと雑談をしつつも耳を傾けている。四者がそれぞれあまり会話もせずに食事を摂ったり、ぼんやりしたりしていたため周囲の者はヤキモキしていた。 その沈黙を割るように、一通り食事を済ませたワルツが周囲の聞き耳を警戒しつつも静かに話し出す。

「あの、皆さん、昨晩は本当にご心配とご迷惑をおかけいたしました。バラッド、お陰様でかなり楽になりました。実際、あの方の魔法に侵食されてしまうと防御魔法も破られてしまい……どうしようもありませんでした……国の中でも上から数えた方が早い実力者とは言え……己の実力不足と思慮の足りなさで……あのような状態に……お恥ずかしい限りです。その点、バラッド、あなたの炎魔法はかなり強力なものと思われますが、あなたは一体どこでそのような力を身につけられたのですか?あの方と互角もしくはそれ以上の実力があると見受けられました。鍛練は必要ないのでは?」

「あぁ、俺、昔の記憶がないんだ……。生まれてから数年間の記憶がない……。気がついたらテイルバレイの近くの山の中で倒れていて、何が起こってそこにいたのかも分からなくて……。そこから、山中を彷徨ってテイルバレイに辿り着いた。……魔法は気付けば使いこなせてた……。感覚で備わっていることも分かったし、燃えろと思えば対象は燃えたし、昨日のみたいな使い道も調整も感覚でできる。でも、対魔物とか、そういう戦闘用に使ったことがないから、そこはちゃんとやりたい。」

「なるほど……もしかしたら家系が魔法の才能に秀でた家系だったのかもしれませんね……。こういうことを伺うのは失礼かもしれませんが、バラッドは生まれてからの記憶、取り戻したいと思わないのですか?ご自身の出自やご家族のことなど……」

「別に大丈夫だ。はじめに記憶なくてが倒れていた時はどうにか取り戻したいと思っていたんだが、今は不思議とあまり興味がないんだ。たぶん、テイルバレイに行き着いてからはオラトリオとも会えたし、村のみんなが自分の子どもみたいに大切にしてくれたから。だから寂しさはなかった……。」

バラッドのに悲痛な影が落ちる。その言葉尻を拾うようにロンドが気遣わしげに話し出す。

「すまなかったな。守護団もテイルバレイは完全にノーマークだった。あそこには守護術師がいて、漆黒の魔物が入ってこられない特殊な結界が常に張ってあったんだ。お前らも村にいた時は魔物に出くわさなかっただろ?」

「はい、そうでした。まさかそんな方がいたなんて……僕知らなくて……ここは平和だなってあまり深くは考えず過ごしていました……。」

「オラトリオ、普通はそれでいいのですよ。守護の方に危険が及ばぬように、守護がいると知っていたのは守護団員や国の要人のみで、一般の方には隠された存在でした。それに、具体的に誰がその役割を担っていたかを知っているのは本当に限られた上層の人間のみだったのですから。」

「そうなんですが……。もっと何かできなかったかなって……。」

「俺もそう思ってる。俺にとって家族だった……大切な村の皆を守りたかったって……。あれからそんなに経ってないけど、悲しむ暇もないくらい色んなことがあって……。今、少し落ちついたから、たくさん思い出して考えてる……。」

「僕……もう取り返しはつかないって理解しようとするんだけど、こうしていれば、ああしていればって後悔ばかりが心の中にいるんだ……。だから、もうこれ以上は後悔したくなくて……。ロンドさん、ワルツさん。僕、強くなりたいです。頂いた力をちゃんと自分のものにして、戦うべきものと戦いたい。それに、できればワルツさんが追おうとしてる今回の黒幕の存在も知りたい。」

「私は……その件にお二人を巻き込みたくない気持ちは変わりませんが、お二人には知る権利とその首謀者を裁く権利があるとは思っています。ですが、制裁は上の企みに気づけなかった私たちが下すべき……いいえ、まわりくどい言い方になるのも良くありませんね。真実が分かったとしても、その罪を裁くための司法機関は首謀者の息がかかり、仕事をしないと思われます。真実が明るみになっても私刑を下すしかないと思われるので、その手を汚すのは私だけで良いと思っています……。」

「おい、お前……!!」

ロンドの怒りを受け、ワルツはいつもより幾分素直に言葉を訂正をする。昨日のことがだいぶ堪えているらしい。

「あ、すみません。つい……。申し訳ないですが、ロンドの手は借りようと思います。ただ、お二人の手は汚させたくありません。その事実がきっとお二人を、そして勇者の名を傷つけてしまう。だから、真実を知ったとしても、この件は私とロンドの戦いとさせてください。」

オラトリオとバラッドは沈黙しつつ、それぞれに何かを考え込んでいるようだった。先に口を開いたのはバラッドだった。

「ワルツさん。俺は約束はできない。頭の中で分かっていても、あのテイルバレイを思い出すと大人しくしていられるか分からない。だけど、俺もオラトリオにはやらせたくない。」

「……。僕……も許せる自信がないです……。後悔する可能性はあっても、衝動的に復讐のため行動を起こすことだってあるかもしれない。僕は聖人じゃない……ただのオラトリオなんです……。」

そこでオラトリオは少し下を向いて考え込んでから言葉を続けた。

「僕……勇者の素質が自分にあったことすら……知らなくて、ずっと村にいたから、勇者ってどんな存在なのか、どんな存在であるべきなのか、正直よく分からないんです。史学で聞かされるように、人々の希望と呼ばれる人なら、清廉潔白で、人のお手本になるような人でいるべき……なんでしょうか?」

「理想はそうかもしれません。世界の脅威である漆黒の魔物から人々を守る存在、さらにその産みの親である魔王を唯一打倒できる可能性のある力を持った存在。漆黒の魔物を倒すことはできても、勇者の力なくして魔王に傷をつけることすら出来ませんから、必然的に大きな期待がかかり、その人格にもこうあるべきという理想が求められます。そして、その名は風が運ぶように世界に希望の代名詞として広がります。」

ワルツがため息を一つ溢す。

「ですが、実際、勇者と言っても色んな方がいます。人格のできた方ももちろんいますが、他の勇者への対抗心から他者を害そうとする方や、力にあぐらをかく方もいると聞いてはいます。」

バラッドは話を聞きつつ静かに瞼を伏せ、その瞳に長いまつ毛の影がかかる。オラトリオは真っ直ぐにワルツを見据え話に耳を傾けていた。オラトリオとバラッド、両者の様子を見てからワルツは静かに言葉を続ける。

「だから、これは私個人の希望でもあり、バラッド……あなたも同じ気持ちでしょうか……。オラトリオの名が勇者として轟く時、悪名やいらぬ肩書きをその名に乗せたくない。貴方の名に罪を背負わせ、傷つけたくないのです。これは私のエゴです。オラトリオ、あなたを……できればバラッドも、これ以上お二人が何か重いものを背負わないようにしたい。我儘で恐縮ですが、それだけは覚えていてください。」

「はい、ありがとうございます。今はの僕には、大それたことも勇者の器もないかもしれない、けれど、せめて、ワルツさんの優しさに、応えられる人でいたいと思っています。」

ロンドは言葉を拾って続ける。

「気を使わせてすまないな。だが、この件に関しては、できればこいつの我儘を聞いてやってくれると俺も嬉しい。後、隠すことでもねぇし、先に伝えておく。俺とワルツはお前らが旅立つ時に、その勇者としての旅に同行するつもりだ。」

オラトリオとバラッドは弾かれたようにロンドとワルツと見る、二人の瞳には一切の迷いもなかった。

「えっ!?そんな、僕としてはとても心強くて、すごく嬉しいですけど……。でも、お二人には守護団でのお勤めがあって、危険な旅になるとも思うので、それでなくてもお世話になっていて、これ以上ご迷惑は……。」

「おい、折角の一世一代の告白なんだ、振ってくれるなよ。別に簡単に考えてるわけでもねぇよ。今後、俺らも上に楯突くことになる。守護団に在籍したままだと、ここの奴らにも迷惑がかかる。知らねぇやつももちろんいるが、長いことここにいたからな。守護団の奴らのことも家族みたいに俺らは思ってる。だから迷惑はかけたくねぇ。ここを抜ける良い口実にもなるんだ。だからお前らの大切なものを奪った奴らは見えるところで俺がぶん殴ってやれるから。お前らはできれば溜飲を下げて、俺らのやることを見ててくれよ。もちろん約束はしなくても良い。お前らにも首謀者を許さない権利はある。」

「それに、あの日。テイルバレイでの貴方の誓いを見たときに、私たちは貴方にこの命を預けたいと、そう思ったのです。理屈ではなく、私たちの希望です。」

少しの間、オラトリオは言葉の意味合いを噛み締めるように、ロンドとワルツの顔を見つめていたが、やがてポツポツと言葉を綴り出す。

「ありがとうございます。僕は、まだ、備わった力以外の何も持っていなくて……きっと、この先たくさんご迷惑をおかけしますし、危険な目にもあわせてしまいます。それでも……。それでも、お二人が一緒に来てくださる事、力を貸してくださること…。本当に嬉しく思います。どうか、よろしくお願いいたします。」

「えぇ、むしろこちらからお願いするところです。よろしくお願いいたします。」

「ありがとうな。改めてよろしく!」

差し出された二人の手をとって穏やかに微笑む。バラッドもその様子を優しく見守り。

「よろしくお願いします。」

と微笑んだ。


 その後、日々は半年ほど重なり、守護団内でオラトリオとバラッドは訓練を積み、守護団に滞在している間は団の仕事も受けることとなった二人は、魔物の討伐や、王都の警邏、盗人他の犯罪者の捕縛業務などもこなすようになった。その実力は順調に伸びていき、守護団でも名声が上がると同時に、ロンド・ワルツ両名の退団の噂もまことしやかに囁かれることとなった。

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