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暁の勇者、宵闇に堕ちる。  作者: 篁 香槻
旅程一章 集い来る光

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11/25

帰路に棚引く不穏

「おい!どこいきやがった?探せ!!」

「餓鬼のくせに手こずらせやがって!面倒くせぇ!!」

 野蛮で下品な掠れた声がする。今晩も夜の闇に乗じて人攫いがやってくる。帰る家がない私たちはただ走って、隠れて、息を殺す。通りに落ちる奴らの影が、荒い息の音が過ぎ去って行くまで。


 馬車が大きめの石に乗り上げガタンと激しく揺れたことで、ワルツは微睡から覚醒する。あぁ、眠ってしまっていたのかとそこで気づいた。今回の任務中、絶えず気を張っていた事と、魔法を多く使用したため疲れが出たのかもしれない。あまり居眠りしないのに珍しいなとワルツは他人事のように思った。

 先程まで、とても懐かしい若かりし日々の思い出を夢に見ていた気がする。もう十年以上前の話だ。守護団に入るまでは無力で、自分が持つ力を使いこなすこともできなくて、後悔や不安ばかりが記憶として山積している。


 ワルツは基本的にロンド以外の他者とは明確な一線を引いて生きてきた。

それは幼い頃に育ってきた環境からくるものだとワルツ自身にも自覚があり、理由は大きく二つ。大切にしていても明日も一緒に笑っていられるか分からない誰かと親密になるのは辛かったという感情の問題と、無闇に人を信じることが死に直結する理不尽な現実にあったからだ。

 あの頃は何も持たず、薄暗い路地裏で常に迫り来る多くの脅威に怯え、命や尊厳の何一つも奪われないようにと必死に生きることだけにしがみついていた。

 そんな、とても狭い世界。それがあの頃のワルツの世界の全てだった。

 そして、その狭い世界の中から手を引いて連れ出してくれたのがロンドだった。


 意識が覚醒してまず、木製の荷台の床が目に入り、次に数名の話し声が耳に入る。同行者が二人増えたことで、往路では同じ馬車に乗り合わせた守護団メンバーとは馬車を分けての復路となり、顔を上げるとロンドが新たに加わった同行者二名、オラトリオ、バラッドと和やかに話しているところだった。

 知り合ったばかりの目の前の青年達に、どこか昔の自分を見ている気がする。具体的に何が似ているかと問われると説明は難しいが、理不尽な目にあったことや、気質、思いの方向といったものだろうか。あの頃の夢を見たのは、彼らとの出会いが原因だろう。眠りに落ちる前にぼんやりと、あの時ロンドが助けてくれなければ……と考えていた。


「王都についたらまず、お前らの身元は守護団で保護して、ある程度の聴取をさせてもらうことになる。あんな事があった後で、また話すのはきついと思うが、すまない、協力してくれ。その後どう過ごすかはお前ら次第ってところだが、オラトリオは剣技を習いたいんだよな?」

「はい、僕、テイルバレイで見た惨劇を少しでも事前に防ぎたいんです。あの時はがむしゃらに戦ってどうにかなりましたが、次同じことがあった時に誰かどころか自分の身すら守れる確証がないのが恐いんです。だから、もし可能なのであれば、少し守護団に留めていただき、剣技を教えていただきたいです。それで、せめて自分の身を守れるようになったら、魔王城を目指して旅に出るつもりです。全ての魔物を生み出す魔王自体を倒さなければ、また悲劇が繰り返すでしょう。僕でどうにかできるかは分かりません。憎しみから突発的に生み出された、すごく荒唐無稽な気持ちや目標かもしれません。だけれど、授けられた力があるのに、このまま何もせずにはいられないんです。」

「そうか……。なぁ、否定はしないが一つだけ言わせてくれ。気持ちはわかるが、力に選ばれたからって、道は一つじゃねぇ。授けられたからって、必ず勇者にならないといけない道理もねぇよ。魔王が生まれてから長い歴史の中ずっと変わらず君臨し続けてるんだ。恐怖心だって、誰にだってあって当たり前だ。答えを急がなくても、ゆっくり考えればいいんだぞ。」

「ありがとうございます。だけれど、今はまた、あの光景を見るのが何より恐いんです……。」

「そうか……。まぁ、その気持ちも当たり前だよな。一旦はその目標を聞き入れておくが、無理はするな。今の話を聞いたのはここにいるやつだけだ。気が変わっても誰も咎めはしない、覚えておけよ。」

「はい、心しておきます。」

「で、バラッド、お前はどうしたい?」

「俺はオラトリオの行く道を一緒に進み、守りたい。」

「じゃあ、お前も事が落ち着いたら訓練コースか?お前は炎の魔法の適性があるんだったよな。独学か?」

「独学……というより、物心ついた時には習得していました。燃やしたいと思えば、燃えたって感じです。でも、もっと上手く使えるようにはなりたい。」

「なるほど、生まれつきの才能があったのかもな。団内には魔法に長けたやつも多いし、向上心あるやつも多いから、皆、手合わせしてくれって話なら喜んで受けてくれると思うぞ。」


 そんな会話を聞きながら、流れていく後ろの風景をぼんやりと眺め、ワルツは少しばかり疲れが取れた頭で今後のことを考える。

 二人からテイルバレイの件の聴取しても、災害当時二人は村の中心から少し離れた場所にいて、かつ魔物に村が襲われる前後のタイミングで魔物に襲われ、二人とも意識がない状態だった。あの時、村で何が起こって暗躍していたのかは結局、闇の中だ。

 だけれど、埋葬した村人の様子や状態、不自然なまでに急に起こった襲撃。燃えた家々など村内の様子。滞在している間にテイルバレイを見て回った結果、状況的に自分の中では仮説が立っていた。

 彼らが魔物に襲われる少し前のタイミングで、魔物ではない何者か……おそらく先日の自分たちにも襲いかかってきた襲撃者の一団が村を襲撃。どこからどう得た情報かは知らないが、あらかじめ狙いをつけていた村の守護者を殺害。命を手当たり次第狩ろうと狙ってくる魔物の習性につけ込み魔物を引き寄せたか、あらかじめ捕縛しておいた魔物を村を放ち、作為的に村に火をつけ、壊滅させた。経験則だが、あの大規模な燃え方はたまたま魔物が襲ってきて起こった火事の規模ではないように思えた。……こう考えると嫌な仮説だ。最早、魔物災害というより意図して引き起こされた人災に近い。だけど何より重要な相手の「目的」が分からない。ついでに、あの場所で自分たちが襲われた理由も分からない。少なくとも、襲撃者の裏で糸をを引く者たちは正体を隠匿したいという強固な意志を持っていたのに、なぜ白昼堂々自分たちを襲ってきたのか?怪しまれるだけではないか?

 そして、あの魔法はかなり腕のある魔法使いのもの……だとすると、守護団にもこの仮説の報告は伏せるべきかも知れない。現時点で何の証拠はないが、個人でこっそり探りを入れる方が動きやすく、身の安全も保証されているような気がした。そう幼い頃に培った勘が言っている。何も知らない一兵隊のフリをしてこの件は探るべきだと自分の中で結論づける。申し訳ないが、ロンドには情報を共有し、巻き込ませてもらうつもりでいる。どうせ隠したって、彼にはすぐにバレてしまうだろうと心の中で言い訳をした。

 そして、何より、今のオラトリオやバラッドの耳にこの話が入ってしまい、余計に傷つけることも避けたかった。少なくとも彼らが笑顔を取り戻し、健やかに前を向けるその時までは……。


 馬車の幌から見える風景に家が増え、街道も整備されたものへと変わり、次第に揺れも小さく穏やかになってくる。

そこから程なくして、石畳の上をスムーズに車輪が転がる感覚があり、王都が近くなってきたことを知らせる。

 出て行った時からたった1週間ほどだったが、ひどく長かったように感じ、また自分を取り巻く状況や感覚が大きく変わった気もしていた。不意にずきりと痛んだ右腕を押さえる。上官に鷹で報告をしたが、傷口は治療したと誤魔化そう。これからの日々、誰がどう敵となりうるかを考えて慎重に動くべきだ。

 まず、守護団の中でも王都生活の上でも、彼らを守ってやらねばと、改めて勇者の素質を授かってしまった青年と、甲斐甲斐しくも彼を守ろうとするもう一人の青年の姿を見遣った。

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