一話 仕事
_1946年、イヴェイルという他生物の特徴を発現できる人間が発生。
人間自体の戦闘能力の上昇に伴って犯罪が急増した。
死と犯罪に対する意識が高くなりほとんどの刑罰が重くなった為、イヴェイルの現行犯は場合によって現地処刑が許可される_
僕は今の仕事が嫌いだ。
給料はかなり高いし、学生だけど学校から許可も得て自由にやれてる。
上司はまぁ…ちょっとあれだけど悪い人ではない。
環境も良い、今時は普通だろうが職場は綺麗だし福利厚生もしっかりしている。
だが嫌いだ、なぜなら…
___6月後半 東京
男1「居たぞ!こっちだ!」
男2「急げ急げ!追い込むんだ!」
暗い路地裏で3人の男が追いかけっこをしていた。一人が逃げ、他の二人に追いかけられてる状況だ。
??「まだ追って来る…めんどくさ…」
追いかけられている男、もとい青年は持っていたナイフを追いかけてくる二人の足元に投げ刺した。
男1「ハハッ!はずれてんぞガキンチョ!」
青年「あっそ」
青年が手で銃のようなポーズを取ると、突き出した人差し指から強い電撃が走り、ナイフに当たり、地面を伝って辺りに広がり男二人に直撃した。
男1・2「ギャアアアアアアアアアア!!」
軽く焦げた二人はバタッ…と倒れ、一度ピクリと痙攣した後動かなくなった。
それを見ていた青年はため息をつき、電話を取り出した。
青年「もしもし、命田です。はい、追手の事なんですが…そうです。ええ、了解しました。では後ほど。…ふぅ…。」
僕がこの仕事が嫌いな理由、それは自他共に命の危険があるからだ。
追いかけられる直前だって、拳銃を乱射されたし、ナイフで切りかかられたし。
このご時世じゃなければとっくに辞職してる位大変だ。
まぁ、そんなことより今は…
命田「”これ”持ってかないとな…」
___2日後 東京 SDLF本部
ここは僕が所属している「SDLF」、通称「梟」と呼ばれる組織の本部だ。
梟とは何をする組織なのか、それを知る為には今の世界の状況を知らなければならない。
2007年未明、日本のどこかで特殊な子供が生まれた。
その子は皮膚に既に薄く毛を持ち、肌色が濃く皺があり、まるで野生の猿のような姿をしていた。
出産後、その特殊な子供は弱って死んでしまったが、その日を皮切りに次々といろんな生物の特徴を持った子供が生まれていき、「イヴェイル」と呼ばれるようになった。
これらの事件は現在「ニンブスの落とし子事件」として「SDLF」が資料管理している。
2034年現在は人類の総人口の1/200がイヴェイルであり、遺伝子的な有用性と強靭な肉体・特性、そして存在そのものの影響力を世界に知らしめている。
近年ではナチュラル(ただの人間)として生まれた後に他生物の特徴が表れイヴェイルとなる「変異型」も確認されている。
SDLFとは、強い肉体と特性を手に入れたイヴェイルが犯罪を犯した場合に捕獲及び討伐する為の武装組織であり、全ての生物の安全と幸福を守る為の保安組織でもあるのだ。
さて、ただ近代の歴史を思い出す為にここに来たわけではない。
早く先日の報告を…
??「君にしちゃあ随分時間かかったんじゃなぁい?命田くぅん」
後ろからゆったりと気だるげな声と共にタバコの匂いがした。
命田「…いい加減タバコ辞めないと本部追い出されますよ」
??「やだねぇ、そんなこと言わないでくれよ…いやぁ今回はかなぁり報酬良かったよぉ!なんと捕獲数4で40万!まさか潜入囮調査がバレて君が追われる羽目になるとは思わなかったけどねぇ…」
命田「そうですか、で、もう全部僕の所に入れたんですか?家倉準一等?」
家倉「いやぁ流石に”今回は”疑われたくないからさ、封筒に現金で持ってきたよ。ほいこれね。」
命田「…ええ、丁度30万いただきました。また”前のように”数字が減ってなくて良かったです。ホントなんだったんでしょうねェ…?」
家倉「ハッハッハホントナンダッタンダロウネ」
彼女は家倉岬、僕の上司だ。直属なので給料は彼女伝いで届くのだが、今までに何回か報酬金額が少しばかり減っていてなんだろうかと思っていると、彼女の仕事用デスクの上に酒とたばこが増えていた事があった。いやーほんと何だったんだろうねーーー!!!
家倉「そいでさ、今回持っていた案件がこれまたかなりでっかくて、おまけにかなり都合のいい案件なんだよねぇ。ほい資料。」
命田「都合がいい?なんですかその不穏な響きは」
家倉「君んとこの学校の生徒の調査だね。「兎崎結花」っていう女生徒で、おそらくウサギのイヴェイル。凶悪犯罪組織である「黒薔薇」に関わっている可能性があるらしいからその調査。要は現地尋問だね。」
命田「黒薔薇かぁ…面倒な相手じゃないですか」
家倉「ね~」
渡された5枚程の紙の資料には黒薔薇についての文章もあったが、今はそんなことより「兎崎結花」にどうやって近づくかが問題だ。
同じ学校の同じ学級だったが、一切話した事が無い。何なら誰だコイツ…知らん…
家倉「まぁ君ならすぐ終わるだろうし、ちゃっちゃと終わらせてね~。」
命田「いや待ってください、今回バディとかいないんですか?黒薔薇関係なんですよね?」
家倉「そうだよ?いないよ?どしたのぉ?」
命田「僕まだ三等討伐官ですよ?黒薔薇との対峙が許可される階級じゃありません」
家倉はポカンとした顔のまま
家倉「え、だって上層部が君に行けって言ったんだし、君三等として扱うには強すぎるんだからいいんじゃない?時々私の仕事君に投げてたけど問題なかったし…あ」
命田「あんた…まじでさァ…」
家倉「いやいや待ってくれよ、今はそれよりも目の前の仕事だろう?まぁなんかあったら私を頼っても良いからさ、何とかやってくれたまえよ。」
命田「…」
家倉「そ、そんな睨まなくても…あ、南ぃ!」
家倉は近くを通った同僚にひっつく様にして消えていった
全く…なんでまた厄介な事ばっかするんだあの人は…。
命田「しっかし黒薔薇かぁ、あの人一回殴ろうかなぁ…」
___次の日 東京都立永世工業高校
クラスメイト1「おっす!おはよーマイスター君!」
マイスター君は学校での僕のあだ名だ、専門職レベルの物をどんどん作ってたらいつの間にかこう呼ばれていた。
命田「おはよう、朝からホント元気だね」
クラスメイト1「まぁな!なんてったって、今日は転校生が来る日だぜ?にしても2年目に専門学校に転校って珍しいよなぁ、どんな奴なんだろーな!もしかしたらイヴェイルかもしんねーぜ!めっちゃ楽しみだわ!」
命田「ウン…ソッカ…タノシミダネ…」
クラスメイト1「お?どした?なんか元気ねぇな、朝飯食えなかったのか?」
命田「いや、ただの寝不足だから心配しないで。」
実際寝不足ではある、昨日は夜11時辺りまでパトロールの業務をしていたから結局床についたのは日付を越えた後だった。
転校生がどうとかという話があった事を忘れる位には頭がやられている様だ。
クラスメイト1「うーむ…んじゃこれやるよ!」
彼から手のひら大サイズの三角の包みを渡された
命田「え、なにこれ」
クラスメイト1「おにぎりだ、俺特製のな!具は唐揚げだ!」
命田「いやいや流石にこれ貰うのは悪いよ…なんかでかいし…食いきれるのか?これ…。」
クラスメイト1「いーや貰ってくれ!でないとむしろ俺が授業中に食べて怒られかねんからな。」
命田「我慢しろよ!」
クラスメイト1「嫌だね!我慢できるもんか、こんな旨そうなんだぞ?」
命田「見えねぇよ、アルミホイルで。アルミホイルが旨そうなのか?」
クラスメイト1「え?」
命田「え?」
クラスメイト1「まぁなんでもいいや、貰ってくれたまえ。ところで1時間目の集会まで時間無いけど、場所どこだっけ?」
命田「えぇ…ほらあっち、行くぞ~。」
クラスメイト1「うーい」
___30分後 体育館
校長先生「えー急な集会でしたが、皆さんしっかり集まっていただいて~…~…~…」
集会が始まると同時に長ったらしい校長の挨拶も始まった、これ程つまらないものはネットのレスバ位なものだ。
クラスメイト1「なぁ、この集会さ、転校生の話以外なんかあると思うか?」
命田「無いと思う」
クラスメイト2「おい二人とも、転校生がどんな奴か当てようぜ。」
クラスメイト1「ゴリマッチョ」
命田「まぁ男子だろうけど…明るいやつかなぁ」
クラスメイト2「じゃあ二人の真反対で」
クラスメイト1「ほーう…無理な願望だな」
命田「同意」
クラスメイト2「ンでだよ!いいじゃん夢見たってさ!」
なんてコソコソ話をしていると校長先生の話が終わり、周りが騒いでいる転校生の話になった。
生徒主任「では続きまして、今月から一人、第二学年に仲間が増えます。インテリア科に所属する兎崎結花さんです。皆さん、盛大な拍手でお迎えしましょう。」
壇上に表れて生徒集団へお辞儀をする華奢な少女を目の当たりにし、辺りは待ってましたと言わんばかりにお手本の様な盛大な拍手をした。
ただ僕は違った。
なるほど、聞き覚えも見覚えも無いのは当然だった。まさか任務の対象が、今学校で最もスポットライトを浴びている転校生という立場の人間だったとは…
命田「…厄介な…」
クラスメイト1「ん?どった、なんか言ったか?」
命田「いや何も」
クラスメイト1「そか、ンなことより早く教室戻ろうぜ!次は実習だぞ!」
命田「うーい」
クラスメイト2「あーあー実習めんどっちぃなぁ…」
兎崎結花はインテリア科だとさっき言ってたな…近づく口実があんまりないんだよなぁ…
こういう時は少し待ってから動かないと妙な誤解を生んでしまう、慎重に行動しないと後が面倒になる。どうしたものか…
___6時間後 手芸部部室
ここは僕の所属する手芸部の部室なのだが、今は誰もいないし少し暗い。
部室の四方の壁際には主に僕が作った人形やら家具やらがずらりと並んでいる。どれも売り物の様な出来に仕上がっており、正直周りに自慢したいくらいにはどれにも満足している。
暫くぼーっとしていると、部室のドアが軽くノックされ、外から人が二人入ってきた。
校長先生「やぁ命田君、調子はどうだい?」
命田「あぁ校長先生!調子はまずまずですね。どうしたんです?こんなとこに来るなんて珍しいですね。」
校長先生「いや私ではなくこの子が用があってね。ほら転校生の子だよ、この学校に転校したばかりだから部活動に入っていなくてね。」
彼女と目が合った、まだかなり緊張気味だが、周りへの好奇心を感じられる心地よい眼差しだ。
命田「えーと、そしたら部活動見学って事か。命田です、よろしく兎崎さん。」
兎崎「よ、よろしく、お願いいたします…」
とてもギクシャクしている、こちらを知っているというのは考えすぎだとしても、余程人とのコミュニケーションをしてこなかったのだろうか。
校長先生「うんうん。それじゃあ命田君、もう既に兎崎さんはここへの入部を決めたいそうなんだけど、大丈夫そうかな?何かあったりする?」
命田「いえ!何も問題ないですね、大丈夫です。強いて言えばもうちょーーと部費を…ね…?」
校長先生「ふふ、なるほどね?もちろんいいよ!じゃあ生徒会の方にはこっちから予算出しておくから、兎崎さんの事よろしくね!」
命田「了解です!」
校長先生が部屋から出ていき、僕と兎崎さんの2人が残った。
兎崎さんは少し警戒するようにこちらを見ている、ただただ不安げなだけの様だ。
命田「じゃあ、まず部活動の説明と今何をしてるのかとか、色々説明するね。」
兎崎「はい、お願いします…!」
30分程部活動と互いの基本的な情報をやり取りした。
転校して来た理由はわからなかったが、僕と同じで手芸が好きだという事はわかった。
最初の部活動という事で、フェルト人形を作ることにした。
僕は蛇の人形を、兎崎さんは兎の人形を作った。兎崎さんはなかなか手先が器用でとても良くできていた、作り終えた時に兎崎さんは柔らかく微笑んでいた。
そんな具合に淡々と、しかし僅かに安心感のある穏やかな時間を過ごした。
___同日6時半 帰路
命田「それにしても奇遇ですね、帰り道ほぼ同じで家もかなり近いって。」
兎崎「ほんとだね!でも最初に出来たお友達だし、丁度良かったよ。」
命田「(まぁ、別の意味でも丁度良くはあるか…)」
兎崎「あと出来ればさ、敬語…無くしてくれるとありがたいんだけど…」
命田「ん、わかった。それで良いならこうするよ。」
兎崎「うん…ありがと。あ、そういえばさ_」
??「…おい」
命田・兎崎「?」
突然、赤いフードとマントを着た見知らぬ人物に呼び止められた。
よく見てみると目が赤い気がする…
命田「えっとどちら様でしょうか?」
??「赤兎…お前なんでそいつ殺してねぇんだよ、手筈はどうした?」
兎崎「…ッ!」
唐突に兎崎が逆方向に走り出した
??「逃げんなテメェ!」
命田「(チャンスだな)」
僕と謎の人物も兎崎と同じ方向へ走り出した。全員なかなか足が速く、たまにぶつかるゴミ箱が宙を舞い、目まぐるしく変わる景色の中、元の目的地から遠く離れていった。
取り敢えず今は二人を落ち着かせる事が重要だ、一旦このよくわからない人から先に話を聞こう。
命田「ところで貴方誰です?流石に友達を全力疾走でストーカーする人をそのままにするわけにはいかないので、まずは落ち着いてもらえると。」
??「黙れ!どっか行け!」
激しく走りながら叫んだせいかフードがとれた。
露わになった頭部にはふわふわの赤毛、ピンと尖った耳が生えており、目は妖しく赤に光っていた。それはまるで狐の様だった。
イヴェイルだ、しかもコイツはただのイヴェイルでは無い、指名手配犯だ…ここで捕まえなければ!
命田「…準二級指名手配犯「赤狐」、私はSDLF…「梟」の命田鎖三等討伐官だ。大人しく静止して投降しろ、そもなくば討つ!」
そう言いながら持っていたナイフを取り出した。
どこにそんな物を隠していたかというと、元々うちの学校は私服制なので丈が足首まであるコートを着ていても何も言われない、つまり思っているよりも色々隠し持つ事ができるのだ。
赤狐「は!?なんで学生なんかが梟なんだよッ!」
僕も知りたい
兎崎「え!?どういう事!?何がどうして…!?」
ほんとね…
命田「まぁなんでもいいから止まってくんない?出来れば武力行使したくないんだけど」
赤狐「あーそーかい、だったら大人しく私に殺されな!」
赤狐はその場で急に止まり90度曲がって蹴りをしてきた。
マントも脱ぎ捨て、十分動いたその身体から放たれる蹴りは重く、受けた左腕から僅かに軋む音がした…様な気がする。
受けたその体勢のまま左腕を足に絡ませ、一気に引っ張り動かした。
赤狐「痛ってッ…!」
赤狐は左足の股関節が外れた。
そのまま地面に突っ伏しているがまだ動けるらしく、モゾモゾと芋虫のようにのたうっていた。
兎崎「命田君!」
命田「兎崎さんは下がってて!危険だから!」
兎崎「その人関節戻せる!逃げて!」
命田「ゑ!?」
兎崎の方へ視線を向けている間に本当に赤狐は外れた関節を戻し、再度蹴りかかってきていた。
蹴りは受けた右腕ごと僕を吹っ飛ばし、そのままの勢いで壁に背中から激突した。
命田「ぐ…あ…んだコイツ…」
本当は自身のイヴェイルとしての力を使えばすぐ決着がつくのだが、殺さず生け捕りとなると使うのに躊躇がいる。しかしこのままだとナイフで流血させる戦い方になる…どうすれば…
次の行動を考えていると、赤狐と僕の間に兎崎が割って入ってきた。
命田「ちょっと兎崎!?危ないって…」
兎崎「分かってる!でもこれ、私のせいだから…私がなんとかするよ。」
赤狐はジッとしていたが、兎崎の言葉を受け、鼻で笑った後すぐに睨んだ。
赤狐「へぇアンタがなんとかねぇ?出来んのか?”なんとか”サ!臆病で任された任務も出来ねぇアンタに…余程そいつが気に入ったんだねぇ…尚更殺さねぇとな…なぁ?赤兎!」
兎崎「うっさい!黙ってよバ…ババァ!」
赤狐・命田「!?」
赤狐「な、な、何だとこのガキがァ!!あたしゃまだ26だこのチビが!がああああああ!!!」
命田「兎崎…それは流石に言いすぎじゃないかな…?凄いキレたよあの人…」
兎崎「…」
兎崎は緊張とやっちゃった感で赤面通り過ぎて若干青くなりかけたが、深呼吸し、覚悟を決めたかのような顔つきになった後に姿が変化し始めた。
身体のあちこちから白い細やかな毛が生えてきて、同じような毛を生やしながら耳は薄く長く伸び、足の筋肉と目が少し赤く変色した。
兎崎結花は情報通り兎のイヴェイルだった。
兎崎「やってやる…あんたは私が…やっつける!」
初めての小説投稿なので、何か不備があったらご指摘いただけると幸いです!
もし二話以降を更新できる程の読者様がいましたら、以降は後書きを人物紹介やアイテム説明の枠にします。
ではまた!