婚約破棄された令嬢、筋肉で全てをねじ伏せる
侯爵家の長女、クリスティーナ・ヴァルフォートは、婚約者である第一王子、ラルフ・セレスタイン殿下の口から放たれる言葉を、無言のまま受け止めていた。
「お前との婚約は破棄する!」
凍てついた湖面を踏み砕くように、冷たい声。部屋の空気すら凍りつかせる。
殿下の隣には、金色の巻き髪をふんわりと揺らす少女――アンリエッタが、まるで何もかもが当然であるかのように微笑んでいた。
「お姉様、ごめんなさい。でも……殿下は、私のことを選んでくださったの」
可憐で、愛らしく、無邪気な薔薇のような笑顔。幼い頃から天使と呼ばれた妹は、今日も変わらずその輝きを放っていた。
けれど、クリスティーナの心は驚くほど静かだった。感情という名の海は、すでに何年も前から干上がっていたのかもしれない。
「……了解いたしました。では、必要な書類の手配をいたします」
静かな声でそれだけを返す。
彼女の心はもう、とうの昔に死んでいた。悲しみも怒りも、胸の内には何一つ湧いてこない。
それは、幼い日の積み重ねの果てだった。
***
クリスティーナが物心ついた頃、屋敷の空気はすでに決まっていた。誰もが妹――アンリエッタに夢中だった。
陽だまりのように明るい金髪、宝石のように透きとおる碧眼。雪肌に薔薇色の頬。まるで神がこの世に遣わせた小さな天使のように、妹は生まれながらにして人々の心を掴んだ。
対する姉、クリスティーナは――黒髪に黒い瞳に、慎ましく控えめな顔立ち。誰もが振り返るような華やかさは、そこにはなかった。
妹が一言でも声を上げれば、母は笑みを浮かべ、召使いたちは我先にと駆け寄り、父は目を細めて頷いた。
その傍らで、クリスティーナはひとり黙々と学び続けていた。
「お前は殿下の婚約者なのだ。いずれ王妃として国を支えるのだから、弱音など不要だ」
その言葉が初めて向けられたのは、まだ七歳の時だった。王家との政略的な合意のもと、生後間もなくして第一王子ラルフ殿下の婚約者に決められた少女に、自由は許されなかった。
父は三人もの家庭教師をつけ、朝から晩まで、王妃としての素養を詰め込んだ。歴史、政務、言語、舞踏、外交――幼い頭には到底理解できぬほどの知識が次々と押し込まれる。間違えば叱責され、泣けば「感情に流されるな」と声を荒らげられた。
褒めてほしかった。甘えたかった。ただ一言、「よく頑張った」と言ってほしかった。
きっと、いつか認められるはずだ。
そう信じて、ひたすら努力した。だが……
あれは、クリスティーナが7歳だった頃。
母が妹を連れて出かけようとしていた朝。扉の前で、着飾った二人の姿を見て、クリスティーナは小さな声で尋ねた。
「お母様、今日はどちらへ行くの?」
母は鏡の前で真紅の口紅を引きながら、軽く答えた。
「アンリエッタを連れて、伯爵夫人のお茶会へ行くのよ」
妹は真新しいピンクのドレスを着て、楽しげにくるくると回っていた。
その光景に、クリスティーナの小さな胸はぎゅっと締めつけられた。
「……わたくしも、一緒に行ってもいい?」
クリスティーナが、思い切って言葉にしたその瞬間。母の手が止まった。
鏡越しにこちらを見て、眉ひとつ動かさずに言う。
「勉強があるでしょう、クリスティーナ。あなたは将来、この国の王妃になるのよ。遊んでいる暇はありません」
その声には一片の優しさもなかった。妹の手を取り、母が扉を閉じて去っていった。
その日から、より一層、クリスティーナは必死に学んだ。次期王妃として、両親に認めてもらおうと必死だった。
自分には、それしか価値がないと思い知ってしまったから。
けれど努力しても、誰も褒めてくれなかった。
父もいつも冷たい目で言う。
「表情が暗い。陰気な娘だ」
そして今、自分の存在価値だと思っていたもの――殿下との婚約すらも、あっさりと奪われようとしている。
***
ラルフ殿下との婚約が正式に解消された後――、
応接間の空気は冷たく、張り詰めた沈黙の中で、父が静かに口を開いた。
「ラルフ殿下の婚約者はアンリエッタに変更になった。お前には領地でしばらく静養してもらう」
その言葉に、クリスティーナは驚きさえしなかった。
そう、すべては最初から決まっていたのだ。愛されるのは、妹。役割を果たすのは、姉。だが今や、その役割すらも、もはや必要とされていなかった。
彼女はゆっくりと立ち上がる。
その姿に、父はまるで家具でも見ているかのような目を向けた。
「支度を整え、明日には出立するように」
父の声は変わらず冷たく、クリスティーナはその命令に、ただ頷くだけだった。
***
領地での暮らしは静かだった。誰も彼女に用はなく、屋敷の使用人たちも距離を取った。
クリスティーナにとって、それがむしろ有難かった。長年の目標を失った今、ただ毎日をぼんやりと過ごすだけ。
ある午後のことだった。
窓の外、裏庭で動く人影にふと目がとまった。黒いシャツを脱いだ庭師の男が、鉄の棒を担ぎ上げていた。腕が膨らみ、背中の筋肉が波打つ。額に汗を浮かべながら、無言で、ただ黙々と鉄を持ち上げる。
――なに、それ……?
雷が落ちたような衝撃だった。
その瞬間、彼女のなかで何かが弾けた。喉の奥が熱く、掌が震える。思わず庭に降りて、声をかけていた。
「それ……何をしているの?」
庭師の男は驚いたように振り返り、短く答えた。
「筋トレですよ、お嬢様」
「筋トレ……?」
「ええ。筋肉を鍛える運動です。負荷をかけて繰り返すことで、少しずつ体が変わっていくんですよ」
「何のために……?」
その問いは、彼女にも不思議だった。けれど、質問せずにいられなかった。
男は鉄をそっと地面に置き、首の汗をぬぐいながら言った。
「誰かに強制されたわけじゃありません。俺が、そうしたいからやってるんです。……好きなんですよ。鍛えるのが。筋肉って、ちゃんと応えてくれるんです。やればやった分、確かに育つ。わかりやすくて、裏切らない」
「好き、で……?」
クリスティーナは思わず聞き返した。何かを好きだから努力するという感覚が、どこか遠いもののように感じられた。
男はにかっと歯を見せて笑い、言った。
「俺の筋肉は、俺だけのものですから」
その言葉が、胸に刺さった。
それは、誰にも奪えない。誰にも踏みにじられない。誰かに認められずとも、誰かに愛されずとも、自分が自分であるための強さ。
胸の奥で、炎がくすぶっている。失われた自尊心を取り返さなければ――そんな焦燥にも似た感情が、身体を突き動かしていた。
その翌朝から、クリスティーナは夜明けとともに起きた。眠い目をこすりながら、外に出る。ランニングから始めた。息が切れて、足が震えて、それでも止まらなかった。
午後は、庭師に頼み込んでダンベルを借りた。
筋肉痛に泣きながら、生卵を呑み込んだ。料理長は最初呆れていたが、次第に彼女の目の真剣さに押され、タンパク質中心の食事を用意してくれるようになった。
時は静かに過ぎていった。
皮膚の下で筋肉が膨らみ、かつての華奢な体は、次第に屈強な肉体へと変貌していった。肩幅は広くなり、腕は丸太のように太く、腰は締まり、背筋は美しく弓なりに伸びている。
鏡の前で、クリスティーナは静かに微笑んだ。
「……悪くないわね」
過去の傷跡は消えない。けれど、筋肉がそれを覆い隠してくれる。否定され続けた人生の上に、自ら積み上げた力の証。
鍛え上げられた肉体は、クリスティーナの傷ついた自尊心を蘇らせた。
「人は裏切るけど、筋肉は裏切らない」
そう、努力をかけた分だけ、必ず応えてくれる。
ダンベルを胸の上に掲げて、腕を伸ばす。
全身が悲鳴を上げるように軋むたび、心はむしろ静まり返った。痛みは現実。痛みは証拠。私は生きている。
***
その夜、王都の大広間は華やぎとざわめきに包まれていた。
大理石の床は無数の燭光を映し、天蓋から垂れるクリスタルのシャンデリアが輝いている。
金と銀で織られた貴族の衣装が煌めき、花々のように着飾った令嬢たちは香水の香りを身にまとい、笑い声を交わしながら舞踏の輪を描いていた。
だが、その中心に、突如として"異物"が現れた。
広間の扉が重々しく開かれた、その瞬間。
ざわめきは止み、沈黙が落ちた。
入ってきたのはのは、一人の令嬢。いや、誰も彼女を「令嬢」とは認識できなかった。
全身を包むドレスは、引き裂けそうなほど筋肉に張り詰めている。
広がった肩のラインはまるで甲冑。背筋は大理石像のように伸び、二の腕の隆起は袖を歪ませる。
胸元の布は、鍛え上げられた大胸筋に自然と持ち上げられ、ただの豊かさではなく“力”の象徴としてそこにあった。
歩むたびにスカートの下で動く大腿の筋肉。彼女が一歩踏み出すたび、床が微かに軋んだ。
「……だ、誰……?」
貴婦人たちが扇で口元を覆いながらささやく。
「まさか、騎士が女装でもしているのか……?」
誰もが彼女だと気が付かない。
最も衝撃を受けたのは、アンリエッタだった。
血の気を引かせて、彼女は殿下の腕にすがりつく。かつての勝ち誇った微笑みは消え去り、震える声で叫んだ。
「いやぁっ、こわいっ!だれ、この人っ!」
その声に、ラルフ殿下はすぐに前に出た。腰の剣を引き抜き、守るようにアンリエッタの前に立ちはだかる。
「なんという無礼な乱入者だ!貴族の宴に侵入し、アンリエッタを脅かすとは何者だ、この化け物!」
騒然とする会場の中、ただ一人、当の本人だけが涼しい顔をしていた。
彼女は静かに前へ進み、殿下を見下ろすように立ち止まる。
――見下ろす、というのは、まさに文字通りだった。
鍛え上げられた脚の筋肉はヒールを穿たずとも殿下より高く、胸板は男の鎧よりも分厚い。
そして彼女は、低く、静かに告げた。
「失礼しちゃうわ。私はクリスティーナよ」
ラルフの目が見開かれる。
「……ククク、クリスティーナ……?」
唖然としたまま、剣を構えた手が微かに震える。
だがすぐに怒りに飲まれ、彼は怒鳴った。
「お久しぶりです。元婚約者様」
「貴様、逆恨みで、そんな……化け物じみた姿で、アンリエッタを傷つける気か!」
殿下の声は怒気に震えながらも、どこか怯えていた。
「……はあ、まったく。私がいつ、あなたのアンリエッタに触れたというの?」
クリスティーナは半ば呆れ、肩をすくめて嘆息した――その一瞬を、殿下は逃さなかった。
剣を高く掲げ、怒りと恐怖を混ぜた咆哮と共に、正面から斬りかかったのだ。
会場中の視線が彼に集中する。誰もが止める暇もなかった。
だが――次の瞬間。
「甘い」
その一言と共に、クリスティーナは微動だにせず、ラルフの剣を受け止める。
鋭く響く金属音。
剣が止まった。彼女の人差し指一本によって。
会場の空気が凍った。
「おいたは駄目よ。仮にも令嬢に刃を向けるなんて許されないわ」
言葉と共に、クリスティーナはラルフの剣ごと彼の身体を持ち上げた。
ドレスの肩口が裂け、隆起した筋肉がそれを押し破る。
そして、間髪を入れず 、まるで槍投げのようなフォームで――
「さようなら、ラルフ殿下」
――彼女は、ラルフ殿下を空高くへと放り投げた。
「う、うわあああああああああああ!!」
殿下の悲鳴が遠ざかる。
宙を舞った殿下は宮殿の天井をぶち抜き、音もなく夜空に消えていった。……幸い近くの噴水に落ちて軽傷で済んだという。
「びえええええっん……!殿下あ~~~っ!」
泣きじゃくる声は、まるで壊れた笛のように上擦り、耳障りなほどに響いている。
アリエッタは、膝をついてしゃくりあげるただの子どもに成り下った。
恐れと驚愕の入り混じった視線が、一斉にクリスティーナへと注がれる。だが、彼女は意にも介さぬ様子で、指先についた埃を払うように軽くドレスの裾を揺らした。
その時だった。
重厚な足音が、赤絨毯の向こうから響く。
「おお……これは……」
重い外套をなびかせ、長身の男が進み出る。
角ばった顎、日に焼けた肌、鋼鉄のような眼差し。そして腰に吊るした剣と、重戦馬の蹄音を思わせる歩み。
「辺境伯……レオンハルト様だわ……!」
誰かの囁きが会場を走る。
王国最北端を魔獣の群れから守る、戦場に生きる獣のごとき領主。――レオンハルト・アイゼンベルク、その人だった。
だが今、彼の瞳は戦ではなく、ただ一人の女の筋肉に吸い寄せられていた。
その彼が、歩を止めたのは、筋肉の女神の前だった。
「その体躯、その眼差し、その矜持。まさしく、我が理想の姫だ!」
そう言うなり、彼は片膝をつき、頭を垂れた。
まるで、聖戦士が女神に忠誠を誓うかのように。
「クリスティーナ=ヴァルフォート嬢。貴女を、我が辺境の妻として迎えたい。共に魔獣を屠り、城を守り、肉を食らおう!」
その声音は、力強く、そして誠実だった。
飾り気も芝居じみた誇張もない、真心の響きをもっていた。
その言葉に、クリスティーナの胸の奥が、わずかにざわついた。
「私には分かる……あなたは、剣を取らずとも強い。誰にも媚びず、ただ自分と向き合って鍛え上げた、意志の肉体だ。私は、それに敬意を表する。……できることなら、隣に立たせてほしい」
クリスティーナは困惑した。
彼女の胸に宿る鋼のような筋肉が、わずかに震える。
簡単に人は裏切る。
彼女はそれを身をもって知っていた。
けれど、彼の筋肉は違った。いや、筋肉が彼という人間を物語っていた。
その大腿四頭筋――余分な脂肪ひとつない、張りと厚み。
ふくらはぎに刻まれた腓腹筋のラインはしなやかで、しかししっかりと引き締まり、まるで熟練の走者のよう。
そして、その腕に力強く抱きしめられたいと願ってしまいそうになる、自然に盛り上がった上腕二頭筋。
厚みと張りを兼ね備えた胸板は、まさしく鎧のようで――その中に閉じ込められるなら、それもまた幸福だと錯覚してしまうだろう。
その身体は、日々の正しい姿勢、的確な運動、そして意識的な鍛錬なくしては作り得なかった。
――なんと、誠実な筋肉か。
それはまぎれもなく、レオンハルトという男が、強い意志と自律をもって生きてきた証。
筋肉は嘘をつかない。鍛えられた肉体こそが、誠実さと継続の証明だった。
彼の誠実が、熱が、信念が――すべて、筋肉を通して彼女に伝わってくる。
「……立って。レオンハルト」
その名を静かに呼んだ瞬間、彼の瞳が、かすかに驚きを浮かべて揺れる。
彼はゆっくりと立ち上がり、ふたりは正面から向き合った。
肩と肩が並ぶ。
厚い胸板と胸板が、風の中でぴたりと重なる。
微動だにせぬ二人のあいだを、沈黙だけが支配する。
だが、その沈黙は空虚ではなかった。
言葉は交わさずとも――筋肉と筋肉で、ふたりはすでに語り合っていたのだ。
筋肉は、裏切らない。
そしてクリスティーナは、このとき、確信する。
――この男もまた、裏切らない。
その確信が、胸の奥のどこかに、そっと灯をともした。
+++
あれから1年。
剣を振るうクリスティーナ=アイゼンベルク。
その背には陽の光が差し、引き締まった筋肉が鋼のように輝いていた。かつて王宮の夜会で“化け物”と囁かれたその身体は、今や“鋼鉄の姫君”として、領民の尊敬と畏敬を一身に集めている。
傍らで剣を振るレオンハルトがふと目を細め、微笑んで言った。
「相変わらず、惚れ惚れとする筋肉だ。この地に、お前の筋肉を称えぬ者などいないだろう」
クリスティーナは表情を崩さなかったが、頬を僅かに朱色に染めた。
彼の言葉はお世辞ではない。北の領民は、真摯に鍛え抜かれた者を尊び、努力の果てに手にした力を讃える。クリスティーナの鍛錬も指導も、一切の軽蔑なく受け入れられ、やがて彼女は、レオンハルトと並ぶ“共治者”として認められていった。
レオンハルトと共に城の執務室に座り、民の訴えに耳を傾け、時に鍛錬場で共に汗を流し、戦の策を立てる彼女の姿に、誰もが自然と膝を折った。
クリスティーナが語る言葉には重みがあり、その眼差しには揺るぎなき信念があった。
あの日、否応なく手放さねばならなかった“王子の婚約者”という立場。
だが今の彼女には、それ以上のものがあった。
信頼される統治者としての責任。隣に立つにふさわしい、誇り高き男との絆。
そして、自分自身が鍛え上げた、裏切らない筋肉。
――私は、ようやく自分の居場所を得たのだ。
そして、季節が巡る中で執り行われた二人の婚儀は、まさに神話の一幕のようだった。
雪の残る大地に建つ北の神殿。
澄み切った冬空の下、戦神の像の前で膝をつくレオンハルトと、静かに立つクリスティーナ。
彼らは剣を捧げ合い、互いの名を呼び、互いの筋肉に誓いを立てた。
「あなたの力と誠を信じる。共に戦い、共に歩もう」
その誓いは、装飾も虚飾もない。
ただまっすぐに交わされた信頼の宣言。だが、だからこそ、領民たちは目を伏せ、祈るようにその姿を見守った。
「武神と女神が並び立った」と、人々は語った。
こうして、クリスティーナとレオンハルトの治める北の地は、今や“堅牢の境”と呼ばれている。
魔獣すら寄りつかぬ堅牢な守り。
愚かな陰口や中傷が通じぬ、筋肉によって築かれた信頼の城壁。
北の地――“堅牢の境”は、
国随一の栄光の地として、その名を高らかに轟かせた。
一方で、あの夜会から一年が経った王都では――
第一王子ラルフ殿下とその新たな婚約者となった令嬢アリエッタが、貴族たちの間で笑い話の種として語られていた。
確かに、彼らは結ばれた。だが、あの夜会の場でのあまりにも無様な姿――丸腰の令嬢に刀を向け、逆に返り討ちにあい投げ飛ばされたラルフの姿。ただ、子供のように泣きじゃくるしかなかったアリエッタの姿は、王都の者たちの記憶に深く刻まれていた。
彼らの支持は見る間に失われていき、ラルフの王位継承は危ぶまれるどころか、ほとんど絶望視されていた。
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かくして、妹に婚約者を奪われ、無様に婚約破棄された令嬢は、
涙の代わりに鉄を握り、嘲笑の代わりに筋肉を手に入れた。
愛にすがるのではなく鍛錬に身を投じ、
彼女を“鋼鉄の姫君”へと変え、北を守る砦としたのだ。
クリスティーナとレオンハルトが治める北の地には、
言葉よりも雄弁な筋肉があった。
信頼を語る広い背中があり、未来を切り拓く腕があった。
彼女は、誰よりも強く、美しく、そして誇り高く立っている。
「人は裏切るけど、筋肉は裏切らない」というフレーズを使いたかった。ダンベルはいつでも側に寄り添ってくれる頼もしい存在。
面白いと思っていただけたら、☆マークから評価・お気に入り登録をしていただけると嬉しいです。
また連載中の『悪役令嬢のダイエット革命!〜前世の知識で健康美を手に入れてざまぁします!~』もよろしくお願いします~