原宿でクレープ!
原宿にて。
ここまでスクナの……というよりアザトースの技である〈暗澹からの囁き〉を使って一気に渡ってきたスクナ一行。この技は影から影を移動するものであり、今回は『毎食でもクレープ』の店の影に渡ってきたのである。
ちょうど店の裏側だったため、誰もいなかったのが幸いして大きな騒ぎにはならなかったが、ちょっとした騒ぎにはなっていた。
格好が特殊すぎたためだ、特にヨグ。
近くにダンジョンがあるため、スクナに関しては回復役だからなのかな? ですまされたし、シュブは幼い子だから可愛いね、ナイアはお色気担当か……鼻の下を伸ばした男がデート相手にビンタされていた。最後の地面につきそうなほど、前も後ろもなんなら横も長いヴェールを被っている執事服。意味がわからなすぎる。
そんなわけで少し騒がれたが、ここは原宿、そしてダンジョンの中でも極々小規模で職員や探索者で安全性を確保して観光資源としている場所。あの格好にもなにか意味があるのだろうと、クレープの列に並んで順番が来るまでには見物客は散っていった。
「我らが父は激盛りシリーズのメインは何にしたんっすか?」
「ん、抹茶といちご。一口食べる?」
「いいんっすか!? じゃあうちのも! うちはブルーベリーとレアチーズっす」
「へえ、いいじゃん」
「えへー」
店員から受け取り、少し離れるとさっそく! とばかりにクレープを頬張っているスクナに、ナイアが声を掛ける。
互いに一口ずつ交換していると、すねた声が割って入った。
「ナイア、ずるいわぁ。わたくしはチョコバナナにしたのよ、我らが父もいかが?」
「私はパンプキンとミルクです」
四人分のクレープの会計を済ませて、スクナのもとへとやってきたシュブとヨグ。シュブはただメニュー表を見ていただけだが、支払いをしていたのはヨグである。
もちろんこの世界の金銭など持っているわけもないため、召喚者(発狂中)の金だ。召喚したのだから、食事やその他経費を出すのは当然の義務。
まだ口をつけていないクレープを「どうぞ」と差し出されて、スクナは不思議そうに首を傾げる。
「お前たちも食べたかったんじゃないの?」
そんなスクナの後ろでにたぁ、唇をつり上げて煽るナイア。目線が、口元に当てた手が、存在自体が煽っているとしか思えない所業に苛つきながらも、シュブとヨグはスクナに。
「クレープも美味しいですが、本音を言えば我らが父と共にいたくて来ました。それに私が口にしたものを我らが父に献上するなど、冒涜です」
「わたくしもぉ」
「えー、お前たちかわいいね。最後は意味わかんないし冒涜でもなんでもないけど、せっかくだからもらうよ、ありがとね」
二人のクレープを一口ずつもらってから、スクナが頭を撫でると嬉しそうに笑みがこぼれていた。そのまま振り返ったら、ナイアがなぜか血涙を流さんばかりに悔しそうな顔をしていたのが、スクナには解せなかった。
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