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「ナイア」

「はい? なんっす」


 最後まで言葉を続けられずに、ナイアの小作りな顔が宙を舞う。

 首が刎ねられたのだ。刎ねたのは、先程ナイアの名前を呼んだスクナ。

 レースの隙間から僅かに見えなくもない、黒と白のオッドアイが厭わしいものを見る目で、血が吹き出し、ゆっくりと倒れ伏したナイアの身体と頭を見下げる。

 その瞬間、常軌を逸した驚くべき狂気と残虐さが忍び寄る、燦々たる陽光すらも喰らう空気があたりに漂う。

 常人であれば鼓動が、本能が逃げろ、希望など絶無だという空気を前にして、うっとりと魅了されて微笑むのはヨグと胸の前で恋する乙女のごとく指を組んだシュブだ。


「何たる暗澹、何たる恐怖、何たる絶望。素敵です、我らが父よ」

「我らが父よ、やっぱり子作りなさらない?」


 そんな熱に浮かされた二人の言葉を無視して、見下げながらスクナは続ける。


「お前が発狂させるから、ぼくの召喚だけ不完全だったじゃないか。おかげですぐに帰れない、どうしてくれるんだ」


 不愉快といわんばかりに、眉をしかめて吐き捨てるスクナ。

 その眼下では、身体と頭がどろりどろりと溶け始めている。離れた所に落ちた、頭部であった粘着質な泥のような何かが身体であったものに近寄ってきて、一つに混ざる。

 大きくうねりを得て揉み込むようにぐちゃぐちゃとおぞましい音を立ててうごめく。やがて色がつき、一つの肉塊と化したそれに一本、浅黒い肌の腕が生えたかと思うと、また一本生えてくる。

 そうして長い黒髪の頭と顔、首が生え、上半身が生え、腕が繋がり、小さくなった肉塊が下半身の形を取る。裸で座り込んだ、エキゾチックな美少女……ナイアが笑う。


「えー、そうだったんすか? こいつぶち殺して供物にすればなんとかないっすかね」

「なるわけないだろ馬鹿」

「ひどいっす!」


 へらへら笑い……嗤いながら続けられた言葉に、スクナが否を返す。

 肩を落とすナイアに「とりあえず服を着ろ」というと、ナイアは予備スリットの入った白いTシャツと、これまた大胆にスリットが入ったサロペットへと着替え始める。皆、着替えを眺める趣味はないため、各々好きに過ごすことにした。

 シュブはソファーの上に座り、自分で用意した紅茶をすすり。ヨグはおどろおどろしい空気を引っ込め、近くに落ちていた召喚術の本を拾い眺めているスクナに従い。スクナはスクナでつまらなそうに、拾って軽く一読した本をゴミ箱に放り投げた。こんなものがあるからいけないのだといわんばかりに。


「うち、復活っす!」

「もうちょっと時間がかかれば静かで良かったのに」

「我らが父ひどいっす!」


 早速服を着てなんだかよくわからない決めポーズを取ったかと思うと、ひどいひどいと吠えてくるナイアをうっとおしそうに、スクナは近くに落ちていたスマホを拾う。

 ナイアのことは無視して白い手袋をしたままスマホをいじくるスクナに、不満そうに頬を膨らませたナイアだったが、それでも興味を引けないと悟ると話しかける対象を変えた。

 ヨグとシュブを見て、にたぁ、唇が裂けんばかりに愉悦と嘲笑につり上がる。垂れた目がさらに下がる。


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