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幻想星勇伝  作者: 五三竜
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第8話 回想part2

 それから数日が経過して、教室である出来事が起きた。


「あなたがここにいると不愉快なのよ!」


「「「そうよそうよ!」」」


 ベネットの声に賛同した女の子達がそう叫ぶ。そして、その声が向けられる先には女の子がへたりこんでいた。


「またやってるね」


 シエロがカスミの後ろでそう言う。


「飽きないよな」


「助けてあげないのかい?」


「助けたい気持ちは山々だが、俺が行けば悪化させるだけだ。それに、シエロの話だと俺はこのクラスでかなり地位が低い」


「「「あはは……それは……ねぇ」」」


 シエロとユリウスはそう言って顔を見合せた。


「否定しろよ」


「まぁ、ほら、ね?」


「否定は……ちょっと……出来ませんわ」


 2人は気まずそうにそう言う。そのせいでカスミはとっても不快な気持ちになった。


「不快だ。憂さ晴らししてやる」


 カスミはそう言ってベネットの元まで向かった。そんなカスミをユリウスとシエロは見て微笑む。カスミはそんなことは気にせずベネットの背後に立ち、髪の毛を鷲掴みにした。


「いだだだだだ!だ、誰なの!?止めなさいよ!」


「うっせぇカス。俺の前でダセェ真似すんなよ」


 カスミはそう言ってベネットを全力で睨んだ。すると、ベネットの怒りは頂点まで達する。カスミの束縛を振りほどき、指を指して言った。


「覚えておきなさいよ!ただじゃ済まさないわ!」


 そう言って泣きながら教室から出ていった。それを見ていた女の子達はカスミに少し脅える。


 カスミはそんなことを気にすることも無く虐められていた女の子の元まで向かった。そして、そこで初めてあることに気がつく。


「え?お前男なの?」


 カスミはそう言って胸と股に目をやった。


 ━━その日の放課後……


「あ、あの、今日はありがとうございます!」


「ん?あぁ、さっきの……別にお礼なんて言わなくても良かったのに」


 男の娘がカスミの元までお礼を言いに来た。そんな男の娘にカスミは冷たくそう言う。しかし、男の娘はそんなカスミの事など気にせず言った。


「あの、私はミリア・ネム・ヴィクトリアと言います!あ、あの……」


「まさか!君はあの、魔法の名門ヴィクトリア家の長男か!?あまり表に出ないと聞いていたが、まさかここで会えるとは……」


「あ、そ、それは、表に出ないんじゃなくて、私が女装してるから気づかれてないだけです」


「「「……」」」


 3人は無言になった。


「そ、そんなことより!カスミ様!結婚してください!」


「「「っ!?」」」


 ミリアから放たれた言葉は驚きのものだった。カスミはその言葉を聞いて放心する。シエロはミリアに殺気を放つ。ユリウスは暖かい目でカスミを見るなど、3人それぞれの反応を示した。


「何故だ?男同士だぞ」


「そ、それは禁句です!あ、あと……さっき助けてもらえて……その、か、カッコよくて……」


「ダメよ。カスミ様は私のモノ。あなたにあげないわ」


「そ、そんな事言わないでください!私だってカスミ様を愛してるのです!」


「それは私も同じよ!もう席は埋まってるの。だから諦めなさい」


 シエロとミリアはバチバチに火花を散らせる。カスミはそんな二人を見ながらため息をついてユリウスを見つめた。


「アホくさ。ユリウス、なんか言ってやれ」


「そうだね。2人は何か勘違いしてるみたいだけど、別に君達が喧嘩をする必要なんてないんだよ」


 ユリウスは何か考えがあったのか、楽しそうに微笑みながら2人に話しかけた。シエロとミリアは少し不思議そうにユリウスに聞く。


「なぜそんなことを言うの?」


「ま、まさか、他にいるのですか!?」


「いやまさか、カスミにいると思うかい?」


「「「じゃあなんで!?」」」


「だって、妻が1人だけってのは可笑しいでしょ?別に、二人居たって良いじゃないか」


 ユリウスの言葉を聞いたシエロとミリアは、希望の光を当てられたかのように目を煌めかせ、唐突に仲良くなった。


 そして、その話を聞いていたカスミは目を丸くさせてため息を着くと、ゆっくりと窓の外を見つめた。


「……名前通り、霞になって消えたい……」


 カスミはそう呟いた。


 ━━更にそれから月日は経った。そして、学期末となりテストが行われる。その内容は実践訓練だった。


 カスミ達のクラスでは筆記テストの他に実力テストも兼ねて実践訓練が行われる。その実践訓練の内容は先生によって変わってくるが、今回カスミ達が行うのは陣取り合戦のようなものだった。


 各班7人で組み、それぞれアイテムが渡される。それを壊されると敗北、そして脱落となる。訓練は3日間行われ、3日目の12時に強制的に校庭に戻らさせられる。そのため、その時間まで生き残っていたものは当然高得点だ。


「それでは、各々班を組んでください」


 先生が合図をした。すると、クラスは大騒ぎしながら班を組んでいく。中には班を組めずぼっちな人も居る。


 そして、カスミは当然ぼっち……ではなく既に決まっていた。


「完璧だね」


 ユリウスがそう言う。


「そうね。私とコイツが一緒なのは気に入らないけど、バランスは良いわ」


 なんと、ベネットがそう言った。


「これでお互いの弱点を補えますわね」


 シエロがそう言った。


「が、頑張ろう!」


 ミリアがそう言った。そんな様子を見ていたカスミが言う。


「すごい班員だな。ま、俺は誰でもよかったけど、1番安定してるんじゃないか?」


 カスミはそう言って少しだけ……ほんの少しだけ微笑んだ。そんな様子を見ていたユリウスも微笑んだ。


「あ、いいことを思いつきましたわ。折角ですので、この機会にこのメンバーでお出かけに行きませんか?テストは来週ですので、まだ時間は十分にありますわ」


 唐突にシエロがそんなことを言ってきた。その言葉にカスミを除いた班員の全てが反応する。


「良いね。このメンバー内の仲を深めるのにも丁度よさそうだしね」


「わ、私もそうもいます」


「フン、構わないわ」


 それぞれ色々な意見を言うが、かなり乗り気なようだ。しかし、カスミは一切反応しなかった。ボーッと外を眺めるだけで、あまり乗り気では無さそうだ。


「嫌……ですか?」


 シエロは少しだけ悲しそうな顔を見せカスミの顔を覗き込み聞いた。すると、カスミはシエロに気づき反応する。


「ん?あぁ、ごめん。考え事してた。お出かけだっけ?いいんじゃないかな?」


 カスミはいつもとは違った表情でそう言った。すると、他の皆は驚いた表情を見せる。


「か、カスミ様ってそんな顔するんだ……」


「カッコイイですわ!」


「なんだか意外ね」


 各々勝手なことを言ってくる。カスミはそんな言葉を聞いてため息をつくと、当たり前かのように言った。


「俺だって人間だぞ?そりゃ楽しみな事だってあるよ」


 カスミはそう言う。すると、ユリウスが言った。


「カスミってお出かけするタイプなんだな。家に引きこもって魔法の研究とかしてそうだけどね」


「してねぇよ。ゲームはしてるけどな。あと工作とかもな」


 カスミはそう言って軽くツッコミを入れる。すると、その場の雰囲気が少しだけ明るくなった。


「ハハハ……ま、家なんかないけどね……」


「え?何か言いました?」


「ん?何も言ってないよ」


 カスミはそう言って優しく笑う。その時、教室にチャイムの音が鳴り響いた。どうやら授業が終わったらしい。時計を見ると確かに終了の時間になっていた。


 チャイムの音と共に先生の話が始まる。丁度最後の授業の担当教員が担任であったことからそのままホームルームとなった。


 ホームルームでは先生が連絡を行った後に少しだけためになる話をしてくれる。魔法の研究についての話であったり、剣術の訓練方法であったりと内容は様々だ。


 そして、その日の話は実技テストの話だった。班を組んだため、班員の仲を深めておいた方がいいとの事。その話を聞いたカスミの班員は笑顔で顔を見合せた。その中にはもちろんカスミ含まれていた。


(なんだか……良い感じだな)


 カスミはふとそんなことを思ってしまった。あまりそんなことを口に出すのも良くなければ、思うこともはばかられる。そんなことを不意に思ってしまった。


「……このまま続けば……ね」


 カスミは誰にも聞こえないようにそう呟いてまた空を眺め始めたのだった。


 ━━そして、実技テストの前日……


 カスミは街の広場に立っていた。そこには大きな噴水があり、その街のシンボルとなっている。


「早いね。何時間待った?」


 そこにユリウスが来た。


「そんなに待ってねぇよ」


 カスミはそう答える。


「それは残念だな。君のことだから3日前から待ってるかと思ったよ」


「馬鹿か?昨日まで一緒の教室で一緒に授業受けてたろ?しかも、お前は俺の隣の席だ」


「あはは、そうだったね。ただ、嘘は良くないな。君は窓の外ばっか見ていて授業を受けてないだろ?」


「丁度いいから窓の外に習っている発動式を想像で試し描きしてんだよ」


「ホントか?」


「ホントだよ」


「へぇ」


 2人はそんな会話をしてじゃれ合う。2人がそんなことをしていると、シエロとミリアが来た。


「あら?お早いですわね。まさか3日前からお待ちしていらしたのではないでしょうか?」


「ほんと早いです。カスミ様のことだから3日前くらいから待ってそうですね」


 2人はそんなことを言いながら向かってきていた。


「だ!か!ら!同じ教室にいて、同じ授業を受けただろ!」


「あら?そうでございまして?いつも窓の外を覗いておられるもので、忘れてましたわ」


「カスミ様って、いつ見ても窓の外見てるからいるのかいないのか分からないんですよね」


 2人はそんなことを言ってくる。


「……俺ってそんなに窓の外見てんの?」


「まぁ、そうだね。授業が始まったら大体見てる。ほら、挨拶するじゃん。起立、気をつけ、礼ってやつ。あれして座った瞬間から窓の外見てる」


 ユリウスはニコニコとしながらそう言ってきた。カスミはそんなユリウスの言葉を聞いて少しだけ戸惑う。すると、シエロがカスミの隣に来て言った。


「違いますわ。挨拶する前から既に見てますわ。横向きながら挨拶してますわ」


 シエロはそう言って微笑む。カスミは口を開いて呆れてしまった。


「ま、待ってください。カスミ様は学校に来た時からもう窓の外を見てますよ」


 遂にミリアがそう言い放ってしまった。何故かカスミイメージが3人の頭の中で膨大に膨れ上がってしまっている。そんな3人を見てカスミは顎が外れそうなほど口を開けて呆れてしまった。


「普通にヤベェやつじゃん。そんなに窓の外ばっか見てねぇってば。ノートだってちゃんと取ってるよ」


「ホントか?」


「俺を誰だと思ってる?横向きながらでも字は書けるんだよ」


「結局窓の外見てるではありませんの?」


「あ……」


 カスミは自分で言ったことに気がついて声を上げる。そして、その時初めて自分が授業をろくに聞いていなかったことに気がついた。


「まさか、授業を聞いてないのに聞いてるって勘違いしてたなんて……」


 流石のシエロもそんなカスミには呆れてしまった。


「……あ、てかさ、なんかお前ら今日の服は凄いあれだな。フフ、え?貴族?」


 カスミは吹き出し笑いをしながら尋ねた。すると、シエロが少しだけ笑って言った。


「私、たとえ子供でも貴族でありますわ。何時どこで見られてるか分かりません故、常に外へお出かけする場合は正装と決めておりますわ。私からしてみれば、カスミ様の方が不思議な服でありまして。それは戦闘服ですか?」


「まぁね。着る服がなかったからこれ着るしかなかったんだ」


 カスミは少しだけ笑いながらそう言った。


「戦闘服って、誰でも不思議だよ。てか、可笑しいし」


 ユリウスはそう言って楽しそうに笑った。カスミはそんなユリウスを見ながら少しムッとした。しかし、確かに自分が場違いなくらいにおかしいことに気がつき、空を見つめることしか出来なくなった。


「あら?皆さんお早いこと。3日前から待っていたのですか?」


 そんな声が聞こえる。


「だァァァ!もう!お前ら殴られたいのか!?」


 そう言って声がした方向を見ると、そこにはベネットがいた。


「……お前か。なら仕方ないな」


 カスミはそう言って急に冷静になる。すると、逆にベネットが怒って言った。


「何よ!あなた私の事なんだと思ってるのよ!?」


「……人間?」


「当たり前でしょ!」


 2人はそんな会話をする。どうやらこの2人はどこに行っても同じようなことをするらしい。しかし、やはり貴族だからなのか礼儀や態度は完璧だ。しかも、直ぐに戦いを吹っ掛けてこない。


「珍しい」


 カスミはそう言って珍しいものを見る顔をした。


「にしても、お前らマジで洒落た服してんな」


 カスミはちょっと笑いながらそう言う。すると、ベネットが冷静に言った。


「あなたが変な服着てるだけでしょ?」


「……」


 カスミはその言葉を受け落ち込んでしまった。しかし、誰一人として違うとは言わなかった。


「丁度いいですわ。まず最初はカスミ様の服から決めますわ。私行きつけの服屋さんに向かいますわ」


 シエロは扇子で口元を隠しながらそう言う。


「そ、そうだね。そうしよう」


 すると、ミリアがそう言った。カスミは少しだけ考えてシエロについて行くことにした。


「……ふふ、面白くなりそうだ」


 ユリウスはそんなカスミを見てそう呟いた。そして、ゆっくりと皆の後ろを歩いていく。その足取りはいつもよりも少しだけ速かった。そして、弾んでいた。

読んでいただきありがとうございます。

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