第7話 回想part1
━━それから少しして再びカスミ達は会議を始めた。
「で、さっき話が途切れてしまったが、禁忌持ちの男が持っていったというフラグメントレリックが少し気になるね。そこまで欲しかったのならカスミよりも先に見つければよかっただけの話だ。それにもかかわらずカスミ達が見つけるのを待って、そして襲って奪った……」
ユリウスはそう言って悩ましげな表情を見せる。しかし、カスミはそこまで不思議には思っていなかった。
「簡単な話だ。見つけられなかったんだよ。魔法が使えないしな」
「だけど、聞いた話だと見つけたのはラミィだったそうじゃないか。だったら……」
「魔法が使えなくても見つけることは可能……って言いたいのか?」
カスミはそう言った。すると、ユリウスは少しだけ驚き頷く。
「ま、言いたいことはわかるよ。お前の考えてることもね。そこら辺はよく分からないけど、少なからず見つけられなかったってのはあると思うよ。まぁ、そのほかの理由ってなってくると、俺とラミィを仲間にしたかったくらいしか思いつかないからね」
カスミは少しだけ悩みながらそう言った。
「仲間に?どういうことだ?まさか、禁忌持ちがどこかの国の使いとでも言うのか?」
ルミアが聞いてきた。
「まさか、禁忌持ちがそんなことになるわけないだろ。俺が特別なだけだ。ただ、俺を殺したくないと言ってたからな。ただの敵なら容赦なく殺すはずなのにだ。それに、何故か俺の事を知っていた。だから、少なくとも敵対したいという訳ではなさそうなんだよな」
カスミはそう言った。そして、目の前に置かれているコップを手に取る。中には何も注がれていないのに、何故かめちゃくちゃ大きな角砂糖が1つ入っていた。その様子は、まるで今のカスミ達のようだ。
何かの要素やら情報は存在するのに、それを補うものや、その話の芯を捉える内容は無い。
「大事な内容が……」
「待て、それ以上言った場合殴り殺すぞ」
ルミアはそう言った。カスミはそんなルミアを見て微笑む。
「……無いようだ……っ!?」
そして、ルミアの鉄拳がカスミの脳天に突き刺さった。
「はぁ、またか。まったく、なんで君達はそんなに迷惑をかけるんだ?話が進まないじゃないか」
「仕方がないだろ?この男がくだらないことを言うからだ」
「まぁ、否めなくは無いけど……それにしても、フラグメントレリックに次元眼……まるで、何か大きなものが動き出したような感覚だな。3年前と同じように……」
ユリウスはそう言ってカスミ見つめる。先程ルミアに殴られ気絶しているカスミを見ていると、不意に昔のことが思い出されてきた。
「……あの時から……僕とカスミは仲良くなった……」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……6年前……
カスミはある学校に通っていた。それは、魔術や剣術、陰陽術などの様々な力を学ぶ小学校的な場所。
カスミがちょうど最上級生となる時、カスミはそこである人物と遭遇した。髪の毛は銀髪で少し長い。そして、やけに自信家のような目付きをしており、背中から溢れ出るオーラは神々しい人だった。
カスミはその人を初めて見た時
「俺とは真逆の存在」
と言った。そして、なるべくその人に関わらないことを決めた。
また、その男はカスミ初めて見た時
「似てるな」
と言った。そして、カスミになるべく関わることを決めたのだった。
それが、カスミとユリウスが初めて出会った日だ。そして、運命の歯車が大きく動きだした、最初の日だった。
━━数日後……
カスミはいつものように教室で机を並べてその上に寝転がり昼寝をしていた。その時間は魔法訓練が行われているため、教室には誰もいない。
外からは魔法が放たれる音や失敗する音が聞こえてくる。どうやら真面目に頑張っているらしい。カスミはそんな同級生達を窓から見つめながら小さく呟く。
「まったく……最上級生にもなって魔法訓練って、皆熱心だな。少しはサボれよ。せっかく上の階に行けたんだから」
そう言って欠伸をした。そして、窓の下を見下ろす。そこはかなり高い場所だった。
カスミが通う学校は王国でもトップクラスの学校であり、それ故にかなり大きい。しかも、学年が上がる事に上の階へと上がっていき、さらに、優秀な生徒は上の階へと上がることになる。
カスミはその中でも最も優秀なクラスに在籍しているため、最上階の教室となっている。
「……」
「授業は受けなくて良いのかい?」
唐突に誰もいない教室に声が響き渡った。カスミは少しだけ首を後ろに向け、そこにいる人を確認する。
「……?」
そこに居たのはユリウスだった。どうやらユリウスも授業を抜け出して来ていたらしい。
「こんなところでサボってて良いのかい?」
「良いだろ。別に、俺は強くなりたい訳じゃない。少し魔法が使えて、少し剣が使えればそれでいい」
「僕はそれじゃ良くないな。君も早く来なよ」
「お前には関係の無いことだろ?それに、授業時間もあと少ししかないだろ?」
「問題ないよ。今日は2時間連続だからね。この2限の時間は残り30分しかないけど、3限の時間も合わせれば120分だ。十分あるよ」
ユリウスは勝ち誇った顔でそう言った。
「チッ」
カスミは舌打ちをしてゆっくり起き上がると、机の上から降りて立ち上がった。
「ほら、行くよ」
「じゃーねーな」
カスミはユリウスに連れられ授業が行われているグラウンドへと向かい始めた。そして、最上階にある転移門をくぐって一瞬でグラウンドまで移動する。
「あ!あいつが来たぞ!」
「え!?珍しい!雨が降るわ!」
「えぇぇ!?カスミくん!?授業に出てくれる気になったの!?」
カスミがグラウンドに着くと、そこにいた人達が全員声を上げて驚く。先生に至っては感極まって泣き始めてしまった。
「ありがとうユリウスくん!君のおかげで、私の教師生活が薔薇色だわ!」
先生はユリウスにそう言って泣きながら抱きついていた。カスミはそんな先生を横目に誰もいない場所に向かって歩き出した。
「待ちなさい!ここに来たってことは、私と勝負するってことでしょ!?」
そう言ってカスミ前に3人の女の子が立ちはだかる。1人は腕を組み仁王立ちをして自信満々の笑みを浮かべている。もう1人は意地悪そうな顔で笑っている。もう1人も同様だ。
「しねぇよ。少しはゆっくりさせろよ」
カスミは少しだるそうに応える。
「逃げる気?やっぱりあんたは弱いわね!」
女の子はそう言って自慢げに笑を零した。
「お前ごときに逃げるわけないだろ。それに、どんだけ俺が勝ったと思っている?」
「728戦728敗よ!そしてこれが記念すべき729戦目!」
カスミの問いかけに高々と答える。どうやら全て覚えていたらしい。
「全部覚えているとはキモイ女だ。それに、記念でもなんでもないだろ?悪いことは言わないが、文字書きのお勉強からし直した方がいい」
「うるさいわ!そんなことより、早く勝負よ!」
「無駄なことを。どうせ早撃ちだろ?」
「えぇそうよ」
女の子はそう言って隣にいた2人に的の用意をてもらう。そんなことをしていると、ユリウスがニヤニヤとしながら近寄ってきた。
「勝負かい?」
「まぁね」
「勝てる?」
「さぁね。それはやってみないと分からないな」
カスミとユリウスはそんな会話をして離れる。そして、挑んできた女の子とカスミが横一列に並んだ。
「合図があったら魔法を放つ。それで良いわね?」
「良いよ」
2人はそう話して合図を待つ。その間、少しだけ沈黙が流れてきた。
「……」
「……」
「……」
「……」
「始め!」
女の子の取り巻きの1人が合図した。それと同時に2人は手を挙げる。
「「「”大気に眠る雷の妖精よ……今ここに力を示せ”」」」
2人は同時にそう唱える。さらに、それと同時に発動式を描いていた。
「詠唱は同時……あとは速く描いた方が勝ち」
ユリウスはそう呟く。そして、カスミ見て微笑んだ。
「……」
「……」
少しだけ沈黙が流れる。そして、2人の発動式が出来上がっていく。そして、遂に魔法が放たれる時が来た。
「”雷球”」
カスミ魔法が放たれた。
「”雷球”」
そして、遅れて女の子が魔法を放った。2人が放った雷の球は真っ直ぐと進んでいき、カスミ、女の子の順で的を射抜いた。
「俺の勝ち」
カスミはそう言って振り返ると、それ以外に何も言わずにどこかに向かっていく。すると、女の子が大声で泣きながら言ってきた。
「待ちなさいよ!勝ち逃げは許さないわ!まだ勝負は終わってないわ!」
「終わってるよ。また今度ね」
カスミは振り返りそう言う。すると、女の子は顔を真っ赤にしてぷいっとそっぽを向いた。
「優しいね。君は」
「なぜそう思う?」
「手、抜いてたでしょ?」
「……」
「否定しないのかい?」
「……フッ、買い被りすぎさ」
カスミはそう言って少しだけ笑うと日陰に向かって歩き始めた。すると、唐突に女の子がカスミに抱きついてきた。
「カスミ様!今日もステキです!」
女の子はそう言ってカスミの腕を強く抱く。
「ん?君のファンか?」
ユリウスは聞いた。
「そうです!私はカスミ様のフィアンセとなる者です!」
「っ!?」
ユリウスはその言葉を聞いて目を丸くする。そして、楽しそうにカスミ聞いた。
「そうなのかい?」
「知らん。こいつが勝手に言ってる事だ」
「もぉー、照れないでくださいよ〜」
女の子はそう言ってカスミに向かって人差し指をつんつんする。
「あはは、君は大変だな。勝負を挑まれてしかもモテモテとは。あはははは!」
「笑うなよ」
「ごめんごめん。あ、そう言えば、彼女も君も名前を聞いてなかったね。カスミ、紹介してくれるかな?」
ユリウスは上手く話を逸らしてカスミ抱きつく女の子を見た。
「コイツは良いけどあいつは無理だな。名前を知らない」
「え?まさか、弱者は興味無いとか?」
「単に聞いてないだけだ。俺らのクラスは珍しく、クラスの自己紹介がなかっただろ?だから、仲良いヤツらの集団ができてあまり他の人たちの名前を知らないんだよ。お前が結構レアなケースだぞ。教えたつもりもないし、話したこともないのに俺の名前を知ってるってのはな」
「まぁ、話しかける時は名前くらい調べるだろ?」
「そんなもんか」
カスミは少し納得いってなそうに返事を返す。
「それで、君はなんて言うの?」
「ん?あぁ、忘れてた。コイツは……」
「自分で自己紹介しますわ。わざわざカスミ様のお手を煩わせるのも愚かな行為ですもの。私はシエロ・ミラ・フォーカスと言いますわ。以後お見知り置き下さいまし」
シエロと名乗った女性は急に雰囲気を変えお辞儀をした。先程まではただのファンだったのに、今では一流のお嬢様である。その変化にユリウスは驚き声も出ない。
「あら?何かおかしなことでもありましたか?」
「い、いや、急にお嬢様になったから驚いちゃって……」
「素はこれですわ。ただ、カスミ様にこの態度では嫌われてしまうかと思いまして、あの様に気軽に話しかけれる恋人のような口調をしておりましたわ」
「なるほど……」
ユリウスは苦笑いを浮かべるしか無かった。シエロはそんなユリウスに礼儀良くお辞儀をした後、直ぐに態度を戻してカスミにベッタリと抱きつく。
「あ、で、彼女の名前は何だい?」
「いや、だから知らねぇって。シエロは知ってるか?」
「えぇ、クラスメイトの名前は全て把握しておりますわ。それ故、カスミ様が貴族では無いことも、ユリウスさんが少し特殊な家柄だということも承知してますわ」
「「「っ!?」」」
シエロの言葉を聞いた2人は同時に驚き言葉を失う。そして、ユリウスは少しだけシエロに興味を示した。また、カスミはシエロの言葉を聞いて少しだけ汗を流した。
「それで、彼女の名前はベネット・テレム・シュライダーと言いますわ」
「へぇ、君もだけどかなり名門の貴族なんだね」
ユリウスは直ぐに落ち着き笑顔でそう言った。
「えぇ、そうですわ。そもそも、このクラス自体が名門貴族で構成されたみたいなクラスですから、当然と言えば当然ですわ」
シエロはそう言ってベネットに目をやった。そして、少しだけ笑うとカスミを見つめてデレる。カスミはそんなシエロを見ながら呟いた。
「剣の名門に、魔法の名門……か」
「名門と言えど、実力があるかどうかは分かりませんわ。今のところ、カスミ様と対等に戦えるものなど1人しかおりません」
「1人……」
カスミはシエロの言葉を聞いてユリウスを見つめた。ユリウスは当然通った顔で笑っている。
「手加減って、大切だな」
カスミはそう呟いて天を仰いだ。
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