第3話 目的地へ
━━数日後……
カスミとラミィは新しい町に来ていた。そこは至る所に星のようなキラキラと光るものが浮いている町だった。カスミとラミィはその町の中心部へと向かって歩いていた。
「あにあに〜。ここには何しに来たの?」
「ここにか?ここにはな〜、まぁ、あれだ。ほら、なんか、前に話しただろ?」
「……?」
「いや、あれだ。ほら、忘れた訳じゃないぞ。ただちょっと思い出したくないだけだ。まぁ、なんかしようとしたんだ。結構大事なことなんだけど、思い出さないだけだ」
「……忘れたの?」
必死に思い出そうとする……ではなく、必死に忘れようとするカスミをラミィは純粋な目で見つめる。そんな目を見たカスミは言葉が何も出なくなってしまう。
「そんな目で俺を見ないでくれ……!」
カスミはそんなことを言ってラミィから顔を背けた。すると、ラミィかにっこりしながら言ってくる。
「おにおにとねえねえの頼み事の事だよね?ほら、ゆうしゃ?がなんたらかんたらって言ってたやつ」
ラミィにそう言われた瞬間、カスミ脳内に情報が流れ込んでくる。
「……うをぁ……。忘れていた記憶が蘇ってきてしまった。今からまた忘れることは出来ないのだろうか……」
「なんで忘れるの!?早く終わらせておにおにとねえねえに会いに行くよ!」
ラミィはそう言ってカスミの手を引っ張る。カスミはそんなラミィを見て少しだけため息を着くと、引っ張られながら町立図書館へと向かった。
━━5分後……
「……」
「あにあに?どうしたの?」
1つの本を読んでいたカスミが急にだまりこでしまったことでラミィは首を傾げる。そして、小さな声で聞いてくる。しかし、カスミは答えない。ただ、なんでか辛そうな顔をするだけだ。
「'勇者の残し物'……'フラグメントレリック'……また黒い勇者の話か……」
「ゆうしゃ?くろい?」
「……ん?あぁ、悪い。気にしないでくれ。それで、どうした?」
「ううん。あにあにが辛そうだったから……」
ラミィは心配そうな顔でカスミの顔を覗き込む。カスミはそんなラミィを見て少しだけ驚いたような表情を見せると、直ぐに鏡を取りだし自分の顔を見る。
「そうか?そんな辛そうだったか?いつものイケてる俺の顔だけどな」
そんな冗談を言って真顔に戻る。そして、その時初めて自分が辛い顔をしていたことに気がついた。
「……」
「あにあに?大丈夫?」
ラミィがもう一度聞いてくる。カスミは、今度は優しい笑顔を見せて答えた。
「ごめんごめん、大丈夫だよ。そんなことより目的地が決まったから行こ」
カスミはそう言ってラミィに笑顔を見せた。ラミィもその笑顔を見てにっこりと笑う。その時、ラミィのお腹がなる音がした。
「あ……」
「腹がすいたな。どっか食ってから行くか」
カスミはそう言ってラミィを連れて図書館の外に出た。外に出ると、昼時になったためかなりの人だかりが出来ていた。そして、その人だかりは料理店にかなり多くある。
ラミィはグーグーなるお腹を押えて元気がなさそうな顔をした。どうやらラミィはこだわりは無いがとにかくお腹がすいたらしい。それに対してカスミは、特にお腹はすいてないが、図書館を出た瞬間に目に付いたラーメン店に行きたくたまらない。
「……なぁ、ラーメンは……」
「やーだ!今日はその気分じゃない!」
ラミィはそう言ってプクっと頬を膨らませ、ぷいっとそっぽを向いた。
どうやらこだわりがないというのは違ったらしい。こだわり《《しか》》無かったようだ。
「……はぁ、仕方がない。そこにドーナツ屋があるからそこに行こう」
カスミ達はそう言ってドーナツ屋へ向かった。そして、中に入ってドーナツを頼む。
「おいち!」
ラミィはそんなことを言ってにっこりと笑う。カスミはそんな笑顔を見ながらドーナツを食べ、先程見た本の内容を思い返した。
「”フラグメントレリック”……物語の中の話だと思ってたんだけどな」
「どうしたの?」
「いや、何でもないよ」
カスミはラミィにそう言ってドーナツをほおばった。
それから数分が経過して……
カスミ達は目的地に向けて移動していた。
「あにあに〜目的地はまだ?」
ラミィはカスミの腕を引っ張りながらそんなことを聞いてくる。カスミはそんなラミィの質問ににっこりと笑って答えない。
「……?」
ラミィはそんなカスミを見て不思議に思った。
実際のところ、カスミ自身も目的地がどこかあまり理解していなかったのだ。図書館で読んだ本には地名だけが書かれていたのだが、どうやら神話時代の地名らしく今は無いらしい。
町で少し話を聞いたが、実際に現地に赴いたところでその地域が残っているかどうかも怪しいとか。また、その町にいる人も中々立ち寄ることがない場所らしく、9割以上の人が見たことがないと言っていた。
「……ま、そんな辺境の地に足を踏み入れようとしているんだってことを覚えておけば、意外と何とかなると思ったんだけどな」
そう呟いてコンパスを取り出す。
「……東西南北はちゃんとしてる。じゃあ、どっかで道を間違えたか?だとしたら、コンパスが指す方向が違うはずなんだが……」
カスミはそんなことを言いながら周りを見渡す。そして、ラミィの姿を確認した。そこにはラミィはいた。どうやらずっと手を繋いできたことが功を奏したらしい。
「あにあに〜、まだ?」
「わからんな〜。嫌な予感はするんだけど、全く道がわからん」
カスミはそう言ってさらに先に進む。ラミィもいつまで歩くのか分からず、疲れてきてしまったようだ。
「……ラミィ、抱っこだ」
カスミはそう言ってラミィを抱き抱えた。
「あにあに?」
ラミィはカスミの少しだけピリついた空気を感じとり、少し強くカスミの服をにぎりしめる。
「ラミィも気づいたか?どうやら俺達は既に目的地に着いていたらしい。ただ、そのせいで変なのまで出てきてしまったようだ」
カスミはそう言って戦闘態勢に入った。そして、そんなカスミ達の前にキマイラのようなモンスターが現れた。
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