第2話 旅のイベント
━━あの日から数年が経ち、今もまだカスミ達の旅は続いている。しかし、今のカスミ達の旅はほとんど遊びの旅みたいなものとなってしまった。
海に行けば、ラミィがはしゃぎ、山に行けば、ラミィがはしゃぐ。とにかく遊んでばっかりなのだ。
因みに、ラミィと言うのは少女の名前のことだ。あの日カスミが少女を連れて行った日につけた名前である。本人もかなり気に入っているようで、名前を呼ぶとかなり喜んでくれている。
「あにあに〜、さかなさかな」
ラミィはそう言って大量の魚を指さす。カスミはその内の3匹を串に刺した。そして、予め作っておいた焚き火に魔法で火をつける。
「まほうまほう〜!」
ラミィはカスミの作り出す発動式を見てはしゃぐ。因みに、発動式と言うのは『魔法陣』と『魔法式』を掛け合わせたものの事だ。ラミィはその発動式なら放たれた炎によって、焚き火にボッとつく火を見てさらにはしゃいだ。
「そんなにはしゃぐと危ないぞ」
カスミはそう言って魚を焚き火にセットした。そして、ラミィを自分の近くまで呼び寄せ、あぐらをかいている上に載せる。
「まだ〜?」
「今焼いたばかりだろ?」
「え〜、あにあにのケチ」
「なんでそうなるんだよ」
カスミは吹き出して笑いながらラミィにそう言った。そして、小さな発動式を描き少しだけ魚を炙る。すると、魚からとてもいい匂いが漂ってきた。
「ほわぁ〜」
「いい匂いか?」
カスミの問いかけにラミィはブンブンと縦に首を縦に降った。
「ま、多分大丈夫だろ」
カスミはそう言って魚を2つ手に取る。そして、1つをラミィに与え、もう1つを食べ始めた。
食事をしている間、カスミは周りを少しだけ確認しながら何かを地面に描いていた。その間ラミィはむしゃむしゃと魚を食べている。
「ラミィ、ちょっとこっちに来てくれ」
カスミはそう言ってラミィを自分の近くに寄せ、守るように片腕で抱きしめた。すると、カスミの前に人が現れる。どうやら森の中を抜けてきたらしい。
「旅の者か?」
現れた人が聞いてきた。どうやら男2人と女1人のスリーマンセルのパーティらしい。カスミはその問いかけに答える。
「そんなものさ」
「なんか訳ありみたいだな」
男がそう言ってきた。カスミはその言葉を聞いて少しだけ苦笑いをうかべる。
「まぁな。その理由は聞かないでくれ」
「分かってるさ。それよりさ、ここで何してんの?この森はモンスターとかも出て危ないだろ?近くに街があるんだからそっちに行けば良いのに」
「はは……、コイツがちょっとお転婆でね。周りに迷惑をかけたくないからあえてこっちに来てるんだ」
「へぇ。その子ね……可愛い子ね」
女がそう言った。そして、何故か3人は顔を見合せ合図のようなものを出す。
「なぁ、あんたら知ってるか?近くの街の付近に問題が起きたってことを?」
「問題?さぁ、知らないな」
「だろうな。なんせ、その問題は極秘だからな」
男はそう言ってカスミの顔を見た。そして、女がゆっくり立ち上がってニヤリと笑う。
「あんたには特別に極秘任務のことを教えてるのよ?」
女のその言葉を聞いた男二人はおもむろに立ち上がってカスミから距離をとる。
「極秘任務ね。回りくどい奴らだなぁ」
カスミは1つため息をついた。どうやらラミィも何かを察したようで、ブルブルと震えて威嚇している。
「なっ……!?やっぱりお前らかよ……!」
男はラミィの目を見て汗を垂らした。なんと、ラミィは両目に時間眼を浮かべていたのだ。どうやら感情が変動すると抑えきれずに出て来てしまうらしい。
これまでにも何回か時間眼が現れることは多くあった。怒った時や泣いた時、興奮している時はほとんど出てきてしまっている。
「それで、お前達は俺達をどうするつもりだ?」
「は?殺すに決まってるだろ?お前達みたいな世界のゴミが生きてると、俺らの運気まで下げられちまうんだよ!」
「そうよ!気持ち悪いのよ!あんたらが街の近くを歩いたってだけで虫唾が走るわ」
「よく生きてられるな。早く死ねよ」
男達はそう言ってカスミを嘲笑う。そして、殺気を向けてきた。
その殺気にラミィが反応してさらに威嚇をする。しかし、そんなラミィを見た男達は笑うだけだった。
「あにあにを笑う人は許さない!」
「あぁ?クソチビごときが何ができんだよ!」
ラミィの言葉に男はそう言って怒鳴りあげる。すると、ラミィは少しびくついて萎縮してしまった。
「……はぁ、こんな小さな子をいじめて恥ずかしいと思わないのかね」
「人じゃないやつをいじめて恥ずかしいなんて思わないわ。それに、あなただってゴミを踏んでも何も思わないでしょ?」
「それは同感だな」
「そういうことよ」
女はカスミにそう言って武器をかまえる。男二人も武器をかまえ、いつでも発動式をかけるようにした。
「それじゃあ、死んでもらおうかね」
男がそう言った瞬間、カスミはラミィを抱き抱えその場から離れる。そのすきに男達は発動式を描き、呪文を唱え始めた。
「”天を覆う暗い影を切り裂きし白い光よ””雷球”」
男達の発動式が光を放ち始める。そして、そこから1つの雷の弾丸が飛ばされた。すると、発動式は光を失い消える。また、その弾丸はかなりの大きさで、人1人なら簡単に殺してしまいそうな大きさだった。
「……」
カスミはそれを見て無言で先程描いた発動式に手をつく。すると、その発動式が光を放ち、小さな土の山を作り出した。そして、雷の弾丸がその土の山に衝突し小爆発する。
「なっ!?無詠唱だと!?」
「しかも俺たちの技を防いだだと……!」
男達は言葉を失う。すると、男の1人が剣を持って襲いかかって来た。カスミはそれを見て一切動揺しない。冷静に見極め防ぐ。
「なっ!?」
なんと、カスミは服の右手の袖に針のようなものを忍ばせており、それを使うことで男の一振を防いだのだった。
「暗器か……!」
男はすぐさま離れる。そして、カスミが攻撃してくることを警戒し防御の構えをとった。そして、奥にいた女が声を上げる。
「どきなさい!”雷を食らいし猛虎はその雷を纏い大地を穿つ””雷牙”」
カスミは女が描いた発動式が光を放っているのを見てすぐさま立ち上がる。そして、ラミィを抱き抱えて後ろに飛んだ。
すると、先程までカスミがいた場所に雷の牙が襲いかかる。カスミはそれを見ながら少しだけ周りを確認した。すると、雷の牙が向かってきているのが見える。
「……」
女が作り出した雷の牙が更にカスミを連続で襲う。カスミはそれを見て即座に発動式を描いた。すると、その発動式が光を放ち火球が飛び出してくる。
カスミが作り出した火球は雷の牙にぶつかり小爆発をおこす。そして、2つの力が均衡し相殺される。
「っ!?無詠唱!?嘘でしょ!?」
女はそう言って驚きを隠せずにいる。男2人もカスミの実力に少し汗を流した。そして、男の1人が言った。
「やはり、あの噂は本当だったのか……?」
「噂だと?」
「何よそれ?そんなの知らないわ」
2人はそう言う。すると、男は説明を始めた。
「俺も本当だとは思っていない。ただ、あいつのあの実力を見てそうだと思ったんだよ」
「それで、噂の内容はなんなんだ!?」
男は少し焦りながら聞いた。すると、男は少しだけ震えながら言う。
「噂とは……あのクソ野郎が軍の王直属の暗殺部隊に所属していたというものだ」
「「「っ!?」」」
男の放った言葉にその場の2人は硬直する。なんせ、軍と言えばこの国で最も大きな勢力を持つ機関であるからだ。しかも、王直属となれば話は変わってくる。更に言うなら、暗殺部隊ともなれば、そこら辺の冒険者では太刀打ちできない実力の保持者となるだろう。
男の知る噂ではカスミはそこに所属していたというのだ。
「な!?じゃ、じゃあ今すぐ逃げなきゃじゃない!」
女はそう言った。確かにそうなのである。基本的に軍の王直属の部隊となれば、何かしらの異名持ちが多い。恐らく暗殺部隊も同じだろう。
そして、そんな異名持ちを相手するのは愚かな行為である。これは、軍とか冒険者とか関係なく、どこでもそうだ。
「ど、どうするよ……!?」
「……に、逃げましょ……」
「逃がさないよ」
「「「っ!?」」」
カスミは男達の前に忽然と現れた。男達はそれに驚き体を硬直させる。
「悪いね。襲ってきた以上逃がすつもりは無いよ」
カスミはそう言って3つの発動式をほぼ同時にかつ、瞬時に描いた。そして、すぐに放つ。
「”炎羅”」
発動式が光を放った。そして、そこから強力な火炎が放たれる。その火炎は男達を焼き尽くすべく襲いかかる。
「「「ぐぁぁぁぁぁ!!!」」」
男達がその烈火に悶え苦しむ。しかし、どうやら女を守ったらしく、女は泣きながらその場にへたり混んでいた。
カスミはそれを見て発動式から出る火を止めた。そして、ラミィを抱き抱えたまま近寄る。
「あ、あんた何者なの!?」
「知ってるだろ?」
「っ!?じゃあやっぱり……!む、無詠唱で魔法を唱えるなんて反則よ!」
「無詠唱?……あぁ、あの土と火か。あれはそもそも魔法じゃないよ。俺が適当に作った術式だ」
「っ!?」
女はカスミの言葉を聞いて言葉を失った。確かに発動式さえ書ければ魔法は作れる。しかし、そのように作った魔法は基本的に失敗に終わるのだ。カスミはそれを平然とやってのけた。それだけでかなりの実力者だと分かる。
女は近寄ってくるカスミを見ながら恐怖に耐えられなくなり失禁した。何日も貯めたのかと思うほどの量を流しながら涙も流す。
そんな女を見たカスミは少し目を瞑り目線を合わせた。そして、ゆっくりと開き『幻影眼』を両目にうかべる。そして、その目で女の目を見た。
「っ!?」
その瞬間女は幻の世界に捕われる。永遠に見ることの無い現実に別れを告げることも無く幻の世界に送り込まれてしまう。
そして、カスミは目を閉じ普通の目に戻った。その後立ち上がり、ラミィをゆっくり地面に下ろすとクルッと振り返る。その背後には、永遠の幻のせいで精神を犯され壊された女がへたり込んでいた。
「あにあに?今日は目は潰さないの?」
「今日はいいんだよ。特別にね」
カスミ達はそう言ってその場から去っていった。
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