プロローグ
ここは魔法が全ての世界。魔法を使えるものは優遇され、使えないものには厳しい罰が待っている。それは、口に出すのもおぞましいくらいの罰が。
しかし、このことに口出しする者は誰一人としていなかった。なんせ、それが世界のルールだから。1つの町という小さなコミュニティから、政府や国といった大きなコミュニティまでが魔法が全てという共通の認識を持って生きてきたのだ。
だからこそ魔法を使えないものを匿うと言った犯罪は絶えることは無かった。そして、匿った者も含め、厳しい罰を受けることとなる。そのような話や噂は無限大の広がりを見せて言ったのだ。
しかし、この魔法が全てという認識にはいくつかの例外があった。それは、希少種に対する偏見や差別だ。
それこそ魔法が全てなのだから無さそうに見えなくもない。だが、現実というものは時として辛いものとなる。誰も持ってないような、また、誰にも真似出来ないような強力でかつ難しい魔法を扱える者はかなり優遇された。
それ故に、弱者に待っていた仕打ちは酷いものだった。冷遇されたどころの話では無い。まだ、差別や嘲笑、軽蔑、その程度なら許せただろう。しかし、弱者に待っていたのは体罰や犯罪行為などの肉体的な苦痛だった。常にカースト上位の人が集団で弱者を痛めつけ、時には性奴隷にされるものも出てきた。
しかし、これはそういう共通の認識故に、やられる側でさえ自分が悪いと思う他なかったのだ。
そして、例外はまだ他にある。今まで述べてきたことに当てはまらない例外が……。
「……」
「……」
「……」
男が目の前の少女を見つめて立っていた。目の前の少女は服を着ておらず、両手足に風が着いている。首には首輪をかけられており、身体中に鞭のようなもので叩かれた跡がある。
「……」
男はその少女を見て驚き言葉を失ってしまっていた。
「……」
少女は男を見つめる。その目は、どこか泣きそうな感じをしているが、何か期待に満ちた目にも見える。そして、男に対して何かシンパシーのようなものを感じているのか、興味津々だ。
「この世界の例外……か」
男はやっと声を上げる。小さな小さなその声は、目の前の少女にすら聞こえたのか怪しい。しかし、男はそんなことは気にしない。ただ、目の前の少女を見つめて少しだけ悲しそうな目をする。
「……お前も来るか?」
男は小さな声で聞いた。すると少女はこくりと頷く。だから、男は少女に手を差し出した。少女はその手をギュッと掴んだ。
「じゃ、行くか」
男はその少女の手を強く握りしめ、話さないようにする。そして、男と少女の旅が始まった。
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