波立つ心
「くるよ!」
「一、二、三。三匹来ます!」
モナミさんの叫びに続いて、僕が数えて報告した。
「モナミ候補生、ジロー候補生。攻撃をまかせられるか?」
「了!」
迷彩服3型が凛々しいモナミさんと一緒に、湧き穴前に陣取る。僕も凛々しく見えるかな。
「ジローちゃん、氷槍でいくと?」
「……モナミさん、氷弾の連射でいきましょう」
「了!」
「タイミング、合わせます。カウントダウン、どうぞ!」
「了! ……三、二、一! 氷弾!」
「氷弾!」
パパパパ、パンッ!
湧き穴から出たばかりの三匹のゴブリンが、全身を氷の弾丸に貫かれ、奇妙なダンスを踊った。
「三匹撃破! 後続は無し! 警戒を解かず、死亡を確認せよ!」
「やるごつなったな」
「ああ、もうからかえんな」
「今ん氷やろ? 火ん弾も出来るらしいぞ」
「仕返しされたらたまらん。オレも魔法が使ゆるごつがまだす(※1)か」
「そうばい」
槍でつついても、ゴブリンたちはピクリとも動かない。完全に息の根を止められた。
ふたりで三匹のゴブリン撃破。少しでもケントさんに近づけたかな?
「芦田准将、統合幕僚監部から連絡が入っています。米澤統合幕僚長です」
「了」
くぅ、陸自とTSME、県との調整だけでも胃が痛いってのに。今度は何だ。
「芦田です」
『米澤だ。早速だがこの前の報告を読んだ。深川陸将の件なんだが』
「はっ」
『彼には市ヶ谷に戻ってもらうことにした。直接彼にも連絡が行ってる頃だろう。副官の柏木三佐を伴って、三日以内に健軍駐屯地を発つよう命じた』
「はっ」
『そこで君を陸将にして、西部方面総監の任に当てる』
「へっ?」
しまった! うっかり間抜けな返答をしてしまった。
『クククッ。これは極秘だがケント少佐が引っ掻き回してくれてな、自衛隊のあり方を考えることとなった。三幕僚長でな』
「こ、この回線は一般回線ですが」
『そこまで極秘情報ではないよ。金に汚い、もとい、経済観念に優れた人材が必要となったまでだ』
「……」
『芦田陸将、いや、芦田中将。西部方面隊を任せる。好きにやってくれ。特殊防衛連隊も兼務だ。諏訪少佐を大佐まで昇進させても構わんぞ。必要ならその上でもな。人事も好きにしてよい。詳細はケント少佐が持って、そっちに帰ることになっている。明日には発ってもらう予定だ』
「……了」
なんか嫌な予感が……。いまさらか。まあ、朝昼晩の「まだ帰ってこないアルか!」サリー攻撃が無くなるのなら、良しとするか。
「金丸巡査部長、お電話が入っとると」
「おう、だれや?」
「そっが同期生ん島田しゃんて言いなはる方ばい」
「島田? どこん島田やろう?」
『金丸か? 東京の島田だ。久しぶり』
「……島田、島田久蔵……警視監?」
『おお、オレだ。しっかし驚いたぜ。警視正が巡査部長になってるなんてな』
「ああ、そう望んだんや」
『何かやらかす奴じゃないから懲戒処分じゃないとわかっているが、みんなが驚いてる』
「まあ好き勝手やっとるだけばい」
『勿体ない』
「わかるばってん、譲れんこともある。お巡りさんの方がみんなん役に立つ」
『さる筋からは相当煙たがられてると聞いてたが。東大法学部出身のお巡りさんとはな』
「ほっとけ」
『でだ、話は変わるが、お前には昇進してもらう』
「はぁ?」
『いずれは管区警察局だな』
「……何無茶なこつ言いよる」
『詳細は後ほどな。その心づもりでいてくれ』
「なんば」
『特使が行くから話しを聞け。元気でやれよ。じゃあな』
「おい、ちょっと待て! 待てって! クソッ切りやがった!」
「金丸巡査部長、どうした?」
「うんにゃ、なんでんなか。昔ん友人がおっこいついた(※2)電話ば掛けてきただけばい」
島田久蔵。アイツはやるて言うたらやるやつやった。冗談やなかとか?
「お、おやっさん、け、検事が来た!」
「あわてるな。どの件だ? お通ししろ」
「お初にお目にかかります、江島トオルさん。神津組二代目組長、江島トオルさんですね。私は熊本地方検察庁検事正の殿山です」
「初めましてだな」
「はい。お時間をいただきありがとうございます。早速ですが用件をお伝えします」
「……逮捕起訴されるのか?」
「いえいえ、そのようなことはありません。東京の高等検察庁を通じて、あなたにある依頼をしたいという役所があるのです」
「役所だぁ?」
「まあ、一応そういう扱いではあるのですが……健軍の芦田さんをご存知ですね」
「お、おお、知っている」
「映画好きの同好の士、飲み仲間だと伺っています。そのスジですね。依頼内容は……」
「……なんだと!」
依頼を聞いて、魂消た。
絶対ケントだな! オレはヤクザだぞ。なに考えてんだあの野郎! ヤクザと司法をまとめろだなんて、ほんと何考えていやがる! オレにそんな頭はねぇ!
おまけに英豪会錦戸順也が協力するとか。
……まてよ、順也は京大出のヤクザ。頭がいい。あいつにぶん投げちまおう!
天草の湧き穴討伐、当番が済んだので健軍駐屯地の自衛隊宿舎に帰ります。
今の私は、柏木モナミ自衛隊魔術師候補生です。ここに作られた魔術師の「学校」で学んでいます。
ジローちゃんと萩のおじさんも一緒です。
「モナミ候補生、解散後も体力練成に励め。毎日の間稽古は確認するからな!」
「了!」
間稽古は朝礼前に行われる運動の時間です。何とか訓練についていけるようになりました。
ジローちゃんと萩のおじさんには負けます。ジローちゃんは背が伸びた、と喜んで体力練成をしています。
萩のおじさん、最初はしんどそうでしたが、この間は「腹筋が割れた!」と笑顔で叫んでいました。
ケントさんが言っていました。
毎日走って体を鍛えなさい。体力がなければ魔力は増やせない。増えれば増えれほど強い魔法が使える。
座学もありますが、魔法の訓練が一日の大半を占めます。魔力が少なくなれば格闘訓練をすることもあります。
私、柏木モナミは、いつかケントさんの隣で戦えるような魔術師になります。
「サブ兄ちゃん! ニンジャってすげぇの?」
「おお! ニンジャはすげーゾ! パッと消えるんだ!」
おいらのあたまがわるいのは、わかっている。
ケントのアニさんは「あたまはわるくないだろう。ガクがないだけだ。勉強するチャンスがなかったからだ」っていってくれたけど。
「面白そうと思ったらなんでもやってみろ。この魔石をやる。魔物の体にあったやつだ。握って魔力を入れたり吸取ったりする練習をしろ」
おいらもニンジャになりてぇていったときのことだぜ。おいらのからだにも魔力があることをおしえてくれた。
ケントアニさんのすすめで、人をエサにしねぇような、ちいさな湧き穴で自警団に交じることにもなりやがったからよぅ。
やるぜぇ! おいら、ニンジャになる!
※1 がまだす:熊本県を含む有明海近辺の方言。「がんばる」の意。
※2 おっこいついた:熊本県の方言。「ふざけた」の意。
お読みいただき、ありがとうございます。
以下は押しつけがましくて本当は嫌なのですが、評価はいらないと思われるんだとか。
客観的に見れていない部分もあり、ご感想、ご意見などお送りいただけると感謝感激です。
誤字脱字もお知らせいただければ、さらに感謝です。
★★★★★評価、ブックマーク、よろしくお願いいたします。




