魔法科学
俺は熊本で行われている魔法技術の進行具合を報告した。
「魔法銃は二つの機能が実装可能なところまで進んでいる。ひとつは銃が使用者を限定あるいは選別すること。もうひとつは連射機能の追加。燃焼剤の代わりとなる高速魔法で、兵器を大混乱前と同じ程度には威力を発揮させる。基礎研究はかなり進んでいる」
銃が想定外の第三者の手に渡った場合、発砲できないようにする仕様にしないと怖い。奪われて使用される危険はおかせない。
しかし、自衛官同士では銃の交換ができなくてはならない。
すでに装備させてしまった魔法銃は交換改修させる予定だ。
ここで魔力認証というものがでてくる。
サリーの元で魔法と魔力を研究するチームが、魔力は個人により異なる形をしていることを突き止めつつある。指紋のように個人を特定できそうだと。
また魔力の流れは電磁波に似た性質がありそうだとの予測もでている。
レーダー、通信機、暗視装置などに転用できる。携帯用レーダーを兵士に持たせることも夢ではない。
「さらに魔物から得られる魔石には、PCのHDのように記憶媒体としての機能を持たせることができる。魔法技術の発展が『希望』となるのはそのためだ。魔法と科学の融合、『魔法科学』ともいえる」
現実に魔法と魔石によるHDDは俺が開発済みだ。
「弾丸に榴弾機能を持たせれば、ミサイルや大砲弾として威力のある兵器になる。そうなれば空と海の巨大な魔物にも対抗できる」
「戦闘機に搭載できるのか?」
「佐伯空将、空自戦闘機だけではなく海自の艦船にも可能だ。海中の魔物を寄せ付けない障壁も」
「……すごいが、開発には時間はかかるだろう?」
「俺の中に基礎理論はある。情報解析も開発できているから、今後の研究開発にはそう時間がかからない。だが、俺ひとりでは確かに時間がかかるな。必要な頭、研究者や技術者をサリーのところに送り込みたい」
「防衛装備庁か。だが文官が主だな」
「いや。今の彼らは冷や飯を食わされている。取り込むこともできるだろう」
「そうするといかに秘密裏に取り込むかが今後の課題か」
「俺が早急に行うべきと考えているのは、熊本を中心として九州に予算と人員、物資、生産拠点を集約することだ。財源は新半導体Ver2.0を生産して当てる。今回は製造方法を公開しない。他にも魔物素材、魔法素材も市場にだす。これも自衛隊が独占する」
「財源はあるということか」
「ブラックホークが使えたように、F―35Bと大型輸送機を改修する。それで輸送網をつくる。九州を魔法工業地帯とし、それを経済基盤として財源にあてる」
「……時間と手間をかけてでも陸路で人員を移動させよう」
「自衛官はもちろんだが、航空業界、造船業界などにもあたろう」
「大学校だけではなく、教育機関、各種製造業もだな」
みんなそれぞれ思案しだしたな。さてもう一個爆弾だ。
「今この時も、健軍駐屯地では魔術師が育っている」
「はぁ?」
「俺のように魔法で戦える自衛官、いわば魔法自衛隊だな。芦田准将は陸上自衛隊特殊魔術師群を構想しているが、規模が大きくなれば魔法自衛隊になるな」
「?」
「宇宙軍を創設したアメリカみたいに魔法軍ってとこだ。陸自、海自、空自、宙自、魔自。……ゴロがあんまよくないか。魔法科学が発展すれば宇宙への進出も夢じゃない」
転移魔法はなぁ……。どう試しても失敗した。物理学者が協力してくれれば、可能か? 宇宙空間への転移がいければ?
「魔法自衛隊は魔物に対抗できるのか?」
「いずれは。今はまだだな。熊本を離れる際に教練が始まったばかりで、何人かは魔法が使えるようになった程度だ。俺は魔術師を教育した経験がある。機動偵察隊は全員が魔法を使えるようになった。実戦ができる魔術師の部隊を編成することは可能だ」
「魔法自衛隊か……戦闘機を操縦しながら魔法は使えるのか?」
「いずれは。理論的には可能です、佐伯空将」
実際に魔法での実戦を見なければ納得できないか。
「魔法には大きな可能性がある。大混乱後の魔物戦争を生き残れれば、未来は明るく豊かなものになるだろう」
俺は席を立って、カーテン前に立つ黒スーツに向かって歩いていく。目標とされた黒スーツはクッと微かに、本当に微かに、背をのばした。
「君らは、護衛官なのかな?」
俺に見つめられても、視線を動かさず返答しない。
「指揮官は侍衛か? ここで話されていることは国家機密だ。理解しているな。この部屋から漏れれば、日本は内乱、内戦となる。了解しているか? 返答はうなずきだけでよい」
部屋にいる黒スーツ全員がうなずいた。
「結構。次に話し合うべきは情報の取り扱いについてかな」
俺はみんなを見渡して告げた。
「計画のマイルストーンを作り込みましょう。最重要は機密情報の保護。敵対する情報機関の動向監視が必要となる。内閣情報調査室、公安、警視庁、警察庁。国内に取り残された外国情報機関の残滓。情報本部に働いてもらう」
「了解した。……あわせて自衛隊の統合と再編も急務だが」
米澤統合幕僚長が統合作戦司令部司令官にうなずく。
「それには時間がかかる。で、ちょっとした案があるのですがね」
「ケント少佐に名案があるのであれば聞こう」
「では……」
「ケントは人が悪いのう」
「悪辣というか、なんというか」
「いやいや、面白いではないか」
「ははは、ヤツラの顔を見たいものだ」
全員で大笑いして、散会となった。
うん、その時は式神くんに活躍してもらい鑑賞会を開こうっと。
今まで沈黙したままだった黒スーツの一人がカーテンの中に呼ばれ、出てくるなり全員に話しかけた。
「和御魂トラメ様、米澤統合幕僚長、ケント少佐、お残りください。他の方は退室願います。控えの部屋をご用意いたします」
黒崎中尉に機動偵察隊は控室で待つように伝える。
個人面談か。
「わたくしは、ケント少佐のお話しに大変興味を持ちました」
カーテンが開けられ、椅子に座る姿が明らかになった。
うん、知っている方だ。お歳を召され白髪が増えたな。染めるのは許されないのかな。
「わたくしは非公式でこの場にいます。配慮はいりません。ケント少佐、本当に日本は魔物に滅ぼされるのでしょうか?」
「魔物にと言いましたが、現在確認されている魔物は兵士だと認識しています。その後ろには将の存在があります。ハズラック王国世界ではその将を束ねるのは魔帝シミオンでしたが、私が討伐しました。残る将、魔王たちが湧き穴を通って侵攻してくる可能性が大きいです。さらにその後ろには、星神様に対抗する、邪神ともいうべき存在もいます」
「……世の中は大混乱で、本当に変わってしまったのですね」
「はい。列強諸国に備えたように、富国強兵をしなければなりません。そのためには、これまでそうだったと同じく、旗印が必要なのです」
「和御魂様はどう思われます?」
「全ては星神様の御心のままに、じゃな。我ら須比智之会はこれまでと変わらず、これからも陰ながら日の本を支えていきますじゃ」
「……必要なのですね。わたくしも考えることとしましょう。何よりも重要なのは国民の安寧。生き残ることですね。ケント少佐、あなたのその働きに期待します。必要ならば詔を用意しましょう。和御魂様、わたくしが良い決定ができるよう相談にのっていただけますか?」
「もちろんじゃ。それが太古からの、わらわの役目じゃからの」
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