隅田川
再開です。うーん、台湾台南市の料理、味がボケたものに変わっていた。ザンネン。
台北も高雄もかな。今度はどうしようか思案中です。
隅田川、浅草寺路地のあの焼鳥屋さん、地下街の立ち食いそば屋、まだあるかな。
俺はみんなの待つ応接室に追い払われ、トラメの着替えを待つことになった。
老婆から若々しい素晴らしい姿に変身。あれはまことに眼福。
着替えたトラメはジャージにサイズの合わない男物の白いYシャツを羽織っている。
一番ガタイの良い衛士に借りたか?
「こんなものしかなくてのぉ」
「合うお着替えを用意できず申し訳ありません」
「良い良い。わしもこうなるとは思わぬかったからの」
頭を下げる柴坂に、着丈の長いシャツをヒラヒラと振りながらニコニコと話すトラメ。
その動きが、かえって胸部装甲を強調して……ゴホッゴホッ。
「ほほほっ。婆の姿になって、もう千年は過ぎたからのぉ。新しい装いが楽しみじゃ。……小角が最後じゃったが、そなた、ケントが次なのだな」
「……次?」
次ってなんだ? いやその前、千年って。
「その翼。これで確実になったのう」
「和御魂様、本当にこの外国人がそうなのですか?」
「ケントは日本人じゃぞ。人であれば日本人でも外つ国人でも関係ない。大事なのは星神様に認められているか、じゃ」
「……お話しが見えないのですが」
「ふむ。だが今はまだ説明はできぬ。与えられた御力に慣れねばならぬ。星神様も『しばし時が必要』と言うておったであろう?」
なにか、もやもやするが仕方ないか。
「ケントは力を授けられても変わらぬのぅ。力が漲るとかはないのか? ミズキ、ケントの霊力に変わりはないか?」
「……トラメ様ほどは……ありません。ですが何かこう、感じられるもの? 色? 何かが変わった気はします」
「さもあろうて。さて、こうなったからには……やらねばならぬことが出来たのう。唐突ではあるが、今日はここまでとする。すぐにまた会ってもらうことになろうて」
「は、はい」
「お送りしなさい」
再び田中が市ヶ谷まで送ってくれた。
着いてすぐに、黒崎中尉に米澤統合幕僚長に報告に行ってもらう。
部屋でトラメが言っていた「翼」に考えをめぐらした。念のため鏡で胸を確認したが、それらしいものはない。黒崎中尉、井堀少尉、ルル軍曹の三人も「翼」が見えなかった。
「ケント少佐、米澤統合幕僚長からの伝言です。統合幕僚長執務室までご同道ください」
伝令の二等陸曹が俺を呼びにきた。
「ケント少佐、須比智之会とかなり深い関係にあるのか?」
「向こうが勝手に訪ねてきて、面談を願われただけですが」
「……明日の作戦会議の前に少佐の作戦私案を検討したいと思ったんだが、須比智之会に呼び出されたのなら、事情が変わる」
作戦会議の前に根回ししたいってことか? まあ重要ではある。
「私案そのものに不安要素や問題があるわけじゃない。だが足りていないものがあるな」
「ええ……それをはっきりさせると、どんな問題が起きるかは詰めていないので記載していません」
「……要検討が必要なところもあるが、概ねあの案で構わない。実行できるだろう。だが少なくとも幕僚長と副長、先任間では意思統一が必要な事柄が残されている。そこを確認しておきたい。実現できるかもしれんからな。わざわざ明記しなかったことは何だ?」
「……いいでしょう。お話しましょう」
私案には書かなかったが、本当は一番重要なことを米澤統合幕僚長に語った。
「夜明け前ってことだな」
「必要でしょう」
「うむ。となるとやはり須比智之会か」
「俺は政治の力関係をわかっていない。情報不足です。彼女ら須比智之会がどこに当てはまるピースなのかも」
「……決定は難しい。……トラメ様とも調整する。明日は順延とし、関係幕僚長にはオレの方から連絡を回しておく。急な日程になるかもしれん。ケント少佐、所在を明らかにしておくように」
「了」
次の日。機動偵察隊がそろった朝食の席で、今日の行動予定を伝えた。
「昨夜話した通り会議は順延になったから俺は外出する。私用なので副官の同道は不要だ。黒崎中尉、偵察隊の魔術訓練を任せる」
「了。私も訓練します」
「魔法を使いこなすのは必須だからな。攻撃魔法が使えずとも、魔力操作は全自衛官がすべきなんだ。教わる立場になるが、よろしく頼む」
「了」
俺は私服である場所に向かう。
神津組二代目江島トオル組長から、浅草のテキ屋を紹介してもらっている。
大混乱を生き延びたが、祭礼が行われず、副業の解体業がメインとなっているそうだ。自身は高齢なので跡目を譲り、浅草あたりの相談役になっている方だ。
テキ屋は神事で暴力団との繋がりがある。「媒酌人」としての繋がりだ。だがテキ屋自体は反社会的勢力ではない。
浅草寺近くの隅田川沿い、路地入口に強面の若い衆がふたり、所在なげに立っている。一見所在なげだが、通る人間に素早く目を配っている。
近づいていくと警戒の度合いが一段あがった。
「お兄さん、この先は何にもねぇよ」
「ああ、だが教えられたのは『煎餅屋』の看板がある路地だ。ここだろうな」
「教えられた? てめえはどこのどいつだ?」
「この先に倉田チューヤ翁がいらっしゃると聞いてきたんだ。俺は浅野ケントってんだ」
「……どいつから聞いた」
情報源を明らかにするのはちょっと不安だが、このふたりが納得してくれないと通れそうにないな。
「このあたりの出身で、今は九州にいる江島トオルって友達に聞いてきたんだ。倉田チューヤ翁には、俺が訪ねることは連絡してくれている」
「……浅野ケント、だな。聞いている」
「ア、アニィ! こいつ外国人ですぜ!」
「おまえも聞いてただろうが。浅野ケントってデカい男が来るってな。この御仁は只者じゃねぇ。倉田ジイに『見えられやした』っていってこい」
「で、でもアニィ」
「でももへったくれもねぇ! サブ! いってこい!」
「へぇ!」
「浅野さん、すまねえな。アイツが戻るまで待ってくれ」
「了解した」
少しは警戒心が解けたようだ。
このあたりは昭和には民家が小さなビル街に変わり、味気なくなっていた。大混乱後に建てられたバラックが、昭和戦後の雰囲気に近づけているのは皮肉なことだ。
齧り割る「バキッ!」って音が、煎餅が割れたのか歯が折れたのかわからないあれ、げんこつ煎餅が大好きだった。
「アニィ、お通ししろって!」
若い衆がかけてきてアニィに伝えた。
案内されたバラックにいた倉田チューヤ翁は浴衣をぞろりと着た、しわくちゃジジイだった。
「お前さんが浅野か。トオル坊から聞いた通りだな。坊がだいぶ世話になったようだ。礼をいう」
シワの中からギロリと鋭い目がのぞいた。
お読みいただき、ありがとうございます。
以下は押しつけがましくて本当は嫌なのですが、評価はいらないと思われるんだとか。
客観的に見れていない部分もあり、ご感想、ご意見などお送りいただけると感謝感激です。
誤字脱字もお知らせいただければ、さらに感謝です。
★★★★★評価、ブックマーク、よろしくお願いいたします。




