面談要請
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この先は、思わぬ人との邂逅と降りかかる難問、玉杵名市への帰還と続く予定です。
仙台市へは一体いつ行けるのか、とあせるケントです。
機動隊との顛末を話すと、黒崎中尉と井堀少尉が顔を見合わせて大きなため息をついた。
「元は隣のやつらですね。小競り合いになったことがあります」
「黒崎中尉、小競り合いではすみません。あれは知事の内乱」
「井堀少尉!」
「……都と警視庁か」
「はい。元々は隣に市ヶ谷警察総合庁舎や車両基地、宿舎があったのですが。大混乱からの復興移転問題で対立しました」
「……」
「我々が新宿湧き穴に対処している間に、東京都が警備の名目で都庁周辺を収用、警察機能集約を名目に都庁に移りました。防衛省が湧き穴への協力を依頼したのですが、拒否されました」
「都民を食わせるのが先ってか」
「それなら納得もします! ですが……都内の治安維持を謳って内閣、国会と都の議員たち、大口納税の大企業だけに便宜を図っています! 自衛隊が魔物相手に戦闘になった時には協力がありませんでした。一部の自衛官と警官が衝突したため険悪な関係になってます」
「……だとすると、あの壁は自衛隊が作ったのか?」
「最初はそうでした。地下街にできた湧き穴、人員が少ないながらも自衛官たちの手作業で陣地構築、通路と地上口の閉鎖をしました。そのうちに新半導体の製法が伝えられて、大企業が生産を始め全てが変わりました。原料確保に新宿湧き穴の所有権を東京都に主張させたのです。重機用が優先され歌舞伎町一帯が取り壊されて壁が作られ、今は内閣と東京都の共同管理になっています」
溜めていたのだろうか、黒崎中尉が早口で一気に説明してくれた。
「……それがこれか」
「はい?」
「いや、こっちのことだ。……可能か? 黒崎中尉と井堀少尉は俺の副官、もう機動偵察隊隊員だな。空挺徽章があるようだが暗視装置での夜間行動の経験はあるか?」
「はい、幹部レンジャー訓練で経験しました」
「私もあります。大混乱でレンジャー課程が中断し、徽章は授与されていません」
「ふむ。……ドローンを先行させるとして……偵察するしないにかかわらず、全員での訓練は必要か。個人無線装置を機動偵察隊に配備できるか?」
「数の確保が難しいので確実にできるとは言えません。確認してみます」
「頼む」
だが既存の無線機では通信傍受の恐れがあるな。
サリーの魔力研究はどこまで進んだかな。電波ではなく魔力を使った無線機が開発できたら傍受されないんじゃないか?
「合わせて地下射撃レンジの使用許可も頼む」
「了」
「……都庁と警視庁か。集める情報に現在の政府、各省の活動に都庁、知事の動きも追加してくれ。できれば全国の動きもだな。自治体に犯罪発生率や各県警、暴力団、ヤクザ、半グレ、反社会的勢力の動きも知りたい」
「了」
「それと宗教団体。神道、仏教、キリスト教、イスラム教、カルトも含めて情報を集めておいて欲しい」
「宗教もですか?」
「ああ、信仰心とは厄介なものだからな」
本当は順次についての情報が欲しいんだが、私的なことに情報本部を使うわけにもいかない。調査を頼める組織、探偵が必要か?
地域貢献って名目はあるが、ちょっと気が引けるからな。
「探偵って生き残っているのかな?」
「探偵ですか?」
「ああ、興信所か探偵事務所か……人探しを頼めないかと思ってな」
「聞いてみます」
「頼む。だがこれはプライベートな案件なんだ。自衛隊の公務ではないからな」
「……了」
部屋の電話がなる。井堀少尉が出てくれる。ああ、そうだなもう階級呼びはいいかな。堅苦しくっていけない。キョウコとハルカでいいか。
「ケント少佐、フロントからです。お客様が見えているそうです」
「客? 誰だろう?」
「……賀茂ミズキさんの使いだそうです」
「ミズキの? 柴坂さんかな。ロビーに降りていくと伝えてくれ」
「了」
柴坂ナナカさんではなく、田中と名乗った年配で姿勢の良い男性だった。ミズキの衛士たちと同じ黒スーツ姿だった。
彼から須比智之会での面談要請を受けた。
日時はこちらの要望に合わせてくれるが、場所は千代田区の霞が関ビルディングで、とのことだった。
米澤統合幕僚長たちとの会議は明後日。明日午前ならなんとかなるか。
「では、明日朝にお迎えに上がります」
「了解した。よろしく頼む」
夜間隠密偵察は一人で今夜中にいっておくか。朝までに少しは寝れるだろう。
翌朝、黒スーツ姿の田中がお馴染みになった黒いレンジローバ―で迎えにきた。
俺に随行するのは、黒崎中尉、井堀少尉、ルル軍曹の三名。
そういえばミズキたちもこの車種だった。和歌山ナンバーだったけど。今朝のは品川ナンバー、同じ車種を指定して使っているのか? なにか理由があるんだろうか。
皇居側の三年坂から一方通行を通る。霞ヶ関ビルの車寄せに入るのに左折して敷地に入ったところで、粘りつくような膜をムニュンと抜けた感覚があった。
初めての感覚だ。結界?
車は地階の車寄せで停車する。ドアマンが開けてくれたので降車したが、思わず辺りの地面を確認する。下から魔力? ここに来るまでは道路やビル群から魔力を感じなかった。
ついで見上げてしまう。天井が見えるだけだがその先ずっと上、たぶん高層階から強大な魔力を感じる。
「ケント少佐? どうされました?」
先に降りた黒崎中尉が声をかけてくる。ルル軍曹が辺りをキョロキョロしている。
「……すごいな」
「湧き穴、ではありませんね」
「だな。ルルも感じるか……」
「はっきりしませんが」
「ケント少佐、ご案内いたします。こちらへどうぞ」
田中たちは俺たちの様子をうかがっていたが、声をかけてきた。
エレベーターホールに入ると一番近い「PRIVATE ONLY」の柵があるエレベーターに案内された。
乗り込んだかご、階数表示器の階数ボタンが少ない。操作ボタン以外には、階数が表示されていないものが五つほどだ。36階建てくらいだったかな、このビル。
田中が一番上のボタンを押して上昇していく。
数十秒でかごが止まる。開いた扉の向こうには、巫女装束姿のミズキと柴坂に白衣と袴姿の衛士たちが待ち構えていた。
「ようこそ、ケント少佐。和御魂様と大宮司がお待ちです。ご案内します」
案内されたのは応接セットが置かれた部屋だが、隣室に続くと思われるところには六曲一双の銀屏風が置かれている。
「この先はケント少佐お一人が入れます。他の方はここでお待ち下さい」
柴坂に促され、屏風の間を抜けると両開きの扉があった。ミズキだけに案内されて部屋に入る。
家具のない広い部屋。
四方の壁には天井から床まで深い赤色のビロードが垂らされ、床一面に緋毛氈のカーペットが敷かれている。
中央に車椅子に乗り、文字が描かれた紗を頭から被っている人影。脇にはミズキや柴坂よりも厳かに見える巫女装束姿の高齢女性。
魔力は車椅子の方が多いのか。
「大宮司様、自衛隊の淺野ケント少佐をお連れしました」
立っている高齢女性は俺を見つめて、訝しげな顔をした。
「ミズキ、この者は普通の男子ではないか! おまけに外国人! 何の力も持たぬ者に用はない!」
静かだが、怒りのこもった言葉がミズキに投げつけられた。ミズキが平伏する。
「お、お言葉ですが、九州の霊力は確かにこの方のものでした」
「この男子に霊力など微塵も感ぜぬ! 霊力が少なくなってしまったお前は最早『霊力の巫女』ではなくなったのか!」
なんだろこの会話。ああ、そういうことか。
「いえ、たしかにこの方、ケント少佐様がそうです! あ! 大宮司様、ケント少佐は霊力、いえ魔力を抑える方法をご存知なのです。教えていただきました」
「抑えるだと?」
「失礼。挨拶を交わしてもいないが、説明したほうが良さそうだ。俺は魔力、あんたたちの言う霊力を外に出さないようにできる。抑えるのをやめれば、こんな風だ」
魔力を全開放する。
「おおっ!」
今度は高齢巫女さん、大宮司が膝をついた。
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